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世界図書館副館長  作者: 灰出崇文
1話 転移したってことでいいのかな
4/5

遅いわ。

軽微なグロ表現があります

 返り血が、俺を染めている。


 鎧の上を滑り、服に染み込み、虹色に染める。しんしんと冷える。冷える。指先から、足先から、憂鬱と苦悩が染みてくる。筋に刃を入れる。押さえた死骸の血管から、凝固し始めた血が飛び出す。


『これが、殺すということだよ』


 脳裏にそう囁く声がある。


 そうか、これが……。



 時は十数分ほど前に遡る。


「やった……のか……?」


 ソレが体液を吹き出して動かなくなったとき、俺も同時に膝をついた。怪我はない。残念ながら、くっ……魔力が……的なあれでもない。


 想像してみてほしい。


 帰宅部で、握力で女子に負け、持久走はクラス最下位。カラオケのために鍛えた腹筋と背筋しか取り柄がないこの俺が、鎧を着込み、歌を歌いながら、鉄の棒を振り回した後にピンピンしていられるだろうか。(いや、ない。)


 レザーアーマーは敏捷にマイナスがつかないからお薦めだとか言ったやつ、出てこい。着せてやるから。マフラー、手袋、コート→学ラン→カーディガン→ベスト→カッターシャツ→肌着→腹巻きの真冬コンボより重いから。なんならそこに剣道の胴もつけていいくらいだ。流石に言いすぎだ。一人ツッコミひとりボケは疲れた心に染み入る哀しさかな。


革鎧(レザーアーマー)は全然軽い方だよ』


 無視しないでください。全然軽い、だなんて中学生みたいな言葉遣いをするんだな。


『まあね。……そうだ』


 なんだ?


『魔法に興味はない?』


 うーん、唐突だな。あれか、僕と契約して〜ってやつか?


『契約すると魔法が使えるの?』


 ……忘れてくれ。忘れてくれ。


『まあいいや、こいつの頭の中には核がある。それに触ると魔法が使えるようになるんだ』


 へえ。それは面白そうだな。


『それは良かった……解体、頑張れよ』


 えっ?





 というわけで冒頭に戻るのだ。


 うん、端折るのは良くないな。簡単に言うと、ヨレヨレの体で死体をかっさばき、魔法の核を探している。


 切れない包丁で牛の筋を切ったときくらい辛い。手応えは消しゴムだが。俺魚もおろせないのに……まあこいつ骨ないけど……


 ああ、由美ちゃん、肉切るのの下手だなって笑ってごめん。幼馴染といえど、言っていいことと悪いことがあったよ。『けっ、リア充かよ』そんなこと言っちゃいけません。


 そういえば、筋肉だけっていうのも気持ち悪いな。皮に手応えがあるし、これは外殻か? 貧弱だな。外殻と筋肉って蟹みたいだ。いや蟹は違ったか? 海老か? わかんないや。『うるさい』うるさいって言う方がうるさいんだぞ。


 えっと、開放血管系か閉鎖血管系か……うーん、これは果たして生物だろうか。めっちゃ虹色だし。なんで混ざってるのにこんなに虹色なんだ? あれ、三原色ってなんだっけ『赤と青と緑』それは光だ……


 心の中で延々とつぶやきながら探していると、何か固い手応え。おや、と思って手を伸ばす。


 肉をかき分けると、握りこぶしぐらいの無色透明な水晶のような石の中に、ゆらゆらと火が燃えている。綺麗だ。虹色の血にまみれても汚されることなく輝いている。俺は魔法のことも何もかも全て忘れて、その冷たい表面に指を伸ばした。


『まだ触っちゃだめだ!』


 遅いわ。


 われは石のうへに(俺の手は既に石に)手を置き(触れていて)


 石のうへに意識はなく(俺は意識を失った)


 目の前が真っ暗になった。

2018/03/03 改稿しました

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