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ブルペンから鐘が鳴る  作者: 宮瀬勝成
第3章  棒球の国より
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第3章16  【決意】

「ジーウェイやジェンフを始め、みんな良い状態に仕上がってきている。このまま開幕へ向かっていこう」


 リン監督が試合を振り返る。埼玉との練習試合が終わり、ロッカールームで鼓舞していた。3―4と破れはしたが、ジーウェイは3回無安打無失点とパーフェクト。ジェンフは3打数2安打2打点1四球。投打の柱はしっかりと力を出した結果となった。


 チームは明日、日本を離れて台湾へ戻る。そこでオープン戦のための2次キャンプを行って、3月下旬の開幕戦へと入る。


 普段なら試合の後にも練習があるのだが、今日はこれで打ち上げ、宿舎に戻ることになっている。そのためミーティングも軽く済まされ、夕食後にしっかりやると、説明された。


 解散となり、ユニホームからジャージに着替えたところでリン監督に呼び出された。他の選手はバスでホテルへ戻るが、その後、監督と一緒の車で帰るとミーリンから言われた。


 他の選手たちは気を遣ってくれ、早めにロッカールームを後にした。静まりかえった部屋にいるのは、俺とミーリン。そしてジーウェイの姿もあった。


「この2人が残されたということは、監督は決めたのかな」


 ジーウェイがパイプ椅子に腰掛ける。互いに実戦は1試合。どちらも悪くない結果だった。キャンプの練習からいろいろ見極めてきたのだろう。


「俺とジーウェイどっちかな」


「こればっかりは譲りたくないね」


 開幕投手。たかが年間120分の1と言ってしまえばそうだが、この日がどれだけ特別か。1年で1番最初にマウンドを託される。それだけチームの信頼を背負って投げるということだ。投手であれば何としてでも立ちたい場所だ。


「おまたせ」


 リン監督が遅れてロッカールームに入ってきた。上下チームのウェアを身にまとい、手には何も持っていない。


 俺とジーウェイは咄嗟に立ち上がったが、リン監督は手で座るよう促した。腰を下ろすのを見て、リン監督は口を開いた。


「開幕投手を決めた。本来ならもっと早く決めるべきなのだろうが、悩みに悩んでしまった。開幕まで3週間ほどだが、それぞれの役割を意識して調整を進めていって欲しい」


 リン監督の言葉にジーウェイが最初に首肯し、ミーリンの通訳を聞いてから、俺が反応する。言語が違うため、若干の時差が生じてしまう。


「じゃあ発表するよ。開幕投手は」


 ここまで話したところでリン監督は1度黙った。ミーリンの通訳を待ってくれているのであろう。目線をこちらへ向けている。ミーリンが訳し終えると、目を一瞬閉じ、一呼吸置いた。


「ジーウェイ」


 負けた。その悔しさが体内を占める。一方でジーウェイは表情を引き締め、闘志を燃やしている様子だ。


「本当に五分五分の争いだった。ベアーズとしてはエースが2枚あるのは心強い。が、広瀬には申し訳ないが五分で優先するのは台湾人だ。台湾球界を背負って立つジーウェイが万全なら、彼に投げさせない訳にはいかない。チームの士気的にも商業的にも。分かって欲しい。広瀬は裏カードの頭を担ってもらいたい。まずは前期の60試合はこのローテーションで回していきたい」


 改めて自分が外国人であることを痛感した。確かに納得がいかない話ではない。入団1年目の助っ人よりも、生え抜きの若手エースに託すのは日本でもそうだろう。


「迷ったのは本当だ。広瀬がいたからこそ、ジーウェイはここまで状態を上げられた。シーズンに入ってもこのまま良い関係で切磋琢磨していってほしい」


「分かりました。ジーウェイ、開幕戦でいきなり負けは許さないからな」


 ジーウェイに握手を求める。「任せろ」と差し出してきた右手はかなり大きかった。

この手にかかる台湾中の期待は計り知れない。それにどう応えていくのか、チームメートとしてそばで見ていきたいと思う。


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