81. 自己紹介、ってあんまり進んでないなー
『あ、そういえば、青い雷ってことは、青い稲妻?』
『ゲッチュー?』
『え? ○カチュー?』
『ふみ、違うよ。ゲッチューだよ』
『あー、なんだ、ふみは、○カチューだとおもった』
文葉がえへへとはにかんだ。違うよ、と幹都は呆れた表情で見ている。
雅花と登志枝はネタがちょっと古かったな、とよくわからない反省をしていた。そもそもいきなり何を言い出しているのやら。
「なになに、あたしの話題? 疑問や質問なら聞いてくれていいんだよ、あたしは優しい良いドラゴンだからなんでも言って言って。ほら、さっきの反省もあるし」
「えーっとね、しぇー、しぇーら? しぇーりごー?」
「あー、おしいなー。青雷、せいらいだよー。青雷豪雨」
「せーらり? せーらりごーふ?」
「ふみ、せーらいごーうだよ」
「あー、うん、それもなんかちょっと違う気がするなー。えーっと、そういえばあんまりちっさい子と絡んだことないからこういう時どうすればいいかわからないや」
「発音しづらければ発音しやすい名前で呼んでもらえばいいんちゃう? うちらも本名崩してるし。そういうのもダメ?」
「あぁ、愛称って言うやつ? えー、そういうのは愛する竜とやりたかったけど、幼馴染とかとやる例も聞いたことあるしー。でもそういう幼馴染も後で恋愛に発展したりするのよねー。そう考えるとちょっと愛称で呼ばれるのはどうかなーって思うけど、まぁ、あたしもさっきの誠意をみせてもいいかもしれないし、そういえば幼生言葉というか、下っ足らずで愛称っぽくなってそれをそのまま2人の時も使って好感度アップ的なお話もあるし、ヒューマンの子供ならまぁ練習と思えばいいかな、あたし心広いし」
「なんか一気に俗っぽくなったな!」
「というか、その話は誰から聞いたのかすごい気になる。そしてちょっと詳細聞いてみたい」
でへへ、とブルードラゴンがくねくねと体を揺らしながら照れて?いた。
ハイエルブズはまったく理解していないようだ。まぁ、この方達に恋愛の機微とか無いので。
「じゃ、またおふみか幹都が名前つける?」
「いや、名前は良くないんちゃう? 愛称レベルじゃないと」
「父、何が違うの?」
「……うーん、説明が難しいというか、感覚的なお話だからあってるかどうかわかんないけど。愛称は名前とか外見とかをベースにその人らしい感じ、かなー? 『あおこ』とか『あおあお』とか? 改めて名前付けるのは、名前に拘りあるみたいだしよくないかなー、と」
「んー、ふみ、アオアオのがすきー」
「アオコとアオアオって、あたしの愛称の話? どういう意味?」
「アオってのは、うちらの言葉で青のことです。コは女の子につける一般的な言葉で、アオアオというか繰り返しは幼児とかちっちゃい子がよくいう奴、でいいかなー?」
「んー、ざっくりそんな感じでいいんじゃないかな?」
「それなら響き的にはあたしもフミハと一緒でアオアオのが好きかな。そっちの言葉ってのもいいね、友好の証的に。じゃ、フミハとミキトはアオアオでいいよ。あ、そっちのヒューマンは大人なんだからちゃんと呼んでね」
「あぁ、そういえば自己紹介まだだったな。私がマッサナ、こちらがトッシェ。トッシェの夫で幹都と文葉の父親です」
「こんにちは、トッシェです。よろしくお願いします、青雷豪雨の青姫様」
「マッサナとトッシェね。ちょっと待って。こっちも正式に挨拶する」
そういうと青姫は伏せの体勢から体を起こし、姿勢を正すと2、3歩後ろに下がった。
それと同時に、ハイエルブズも青姫の正面に集まる。横に控えていたガルディミアとピローテスもこちらに来ていた。
「青天青轟の青龍の血縁、青雷豪雨の青姫です。青天青轟の青龍の使いとして、ポレノーの神獣様へお目通りしたく存じます」
「ポレノーの神獣様の側仕えのピローテスと申します。青雷豪雨の青姫様の申し出承りました。申し訳ありませんが、神獣様は現在神界に戻っておられます故、お待ち願うことになります」
「えっ、そうなの? お婆様からは、きっとまだ神気が戻らないだろうからって龍の秘薬を持って来たんだけど」
「あぁ、そちらはこの方たちにも関わってくるね。というか、先に自己紹介をするんじゃなかったのかな? 神獣様に会うことに話が移ってしまってるけど」
「あ、ごめんなさい、挨拶したらついでにお会いする話を進めなきゃって思っちゃった」
アグリンディアが仕切りなおそうとしている隙に、雅花はトントンと近くにいたアーシェラの肩を叩いた。
「ちょっと聞きたいんだけど、龍と竜って一緒なの?」
「位や役職みたいなものですね。龍と名乗れるのは神と化した方と神から引退した方だけです」
「あ、そうなんだ。うちの方では龍と竜で形が違うからさー。というか、竜と龍って訳すから変に感じるだけかな?」
ごにょごにょとやってうちに、アグリンディアから自己紹介が始まった。
「ハイエルフの里で老をやっています、アグリンディアです」
「同じく、老のガルディミアです」
「ポレノーの神獣様の側仕えをしています、ピローテスです」
「先代側仕えのルィンルルーです」
「ハイエルフの里の一員、イルダリオンです」
「同じく、アーシェラです」
「同じく、スーヴェラです」
「青雷豪雨の青姫です。……えーっと、ごめんなさい、もう一度いいですか?」
若干数が多いからか、何回か発音しながら確認していた。
「よし、覚えました。で、そっちの…… 結局ヒューマンでいいの? あ、それはあとでいいや。とりあえず小さい2人がミキトとフミハね。大きい2人はなんだったっけ?」
「マッサナでこちらがトッシェ」
「マッサナ、トッシェね、わかった」
「あと、この2人がぷー子とぷースケ、こっちのがウィリアムね。ウィルって呼んで」
「こんにちは、ぷー子ですわ」
「ぷースケだぜ、よろしく」
「ウィリアムです。よろしくお願いします」
「よろしくね、えーっと、ごめん、もう一度お願い。プー、何と何? ウィリアムは覚えた」
「ぷー子、ですわ」
「ぷースケ、だぜ」
「コとスケ、ね。あ、コってさっき言ってた女の子の一般的なってやつ?」
「その通りですわ!」
「うん、わかったありがとう。でも、すごい精密なゴーレムね。ウィリアムの方は何ゴーレムになるの?」
「やっぱりゴーレムって扱いになるのか、うちらの感覚的には『付喪』なんだけどね」
「ツクモ?」
「マッサナ様、そこらへんの話は長くなるよね? いつまでも立ち話も疲れるから、一度場所を変えてゆっくり話さないかい?」
「いいけど、さっきの雨でここら一帯、どこも濡れてない?」
「そこの大樹の枝ならまだいけますよ」
やっと自己紹介が終わり、それぞれについて話をきくことになった。やっとである。




