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70. 出発

……あれ?

四月はどこに行きました?


 里の入り口。

 そこに今の時点で里にいる全員が集まっていた。

 朝の少し冷たい空気と小鳥のさえずりが聞こえる中、出発組みも見送り組みも笑顔でお互いに挨拶を送っている。

 昨日、出発組みの面子が決まり、その次の朝にもう出発となった。こういうことは早いほうが良いだろうということだそうだ。

 出発組みは、片山一家以外ではアグリンディアとガルディミア、ピローテス、アーシェラとスーヴェラの双子コンビにイルダリオンの6名だった。ウィリアムに乗り込めるギリギリの人数ということでこうなった。

 そのウィリアムだが、窓は開けっ放しになり、左側のドアから車内を通って右側のドアへと綱を通し屋根で結ぶ、というような状態で綱が渡されていた。実際はもう少ししっかりとくくりつけられているが。

 この状態で車の屋根に4人のハイエルフがつかまり、車内には片山一家+ハイエルフが二人の予定である。文葉はハイエルフの膝の上で。

 風がうるさくないのか、と雅花が聞いたが、風魔法の中に風の守護を身に纏う事により、そういう影響を無くすものがあるとのことであった。ちゃんと周囲の音も聞こえるし、こちらの音を抑えることも出来るらしい。

 強化魔法で身体能力を上げた状態で、そのまま森の中を動き回ると音もうるさいし視野も狭くなるとの話だ。なので、同時にその魔法で対応するそうだ。

 色々と疑問はあったが、まぁ魔法だしな、と雅花は納得した。

 ちなみに、前日の実験でギルロントにウィリアムの屋根の上に紐や綱など無しで座ってもらった状態で走ったところ、なんの問題も無い、とのことだった。雅花は運転しているので見えなかったが、他のハイエルフやウィリアムが問題無しと判断した。

 ただし、車の振動は来るので、一応綱などを渡し、クッションか何かを固定して過ごしやすくしよう、と言うことになっていた。

 出発時の室内にはアグリンディアとアーシェラがいることになっている。

 なので、他の4人はそれぞれお気に入りのラグやクッションをウィリアムの屋根の上に固定し水筒やちょっとつまむものなどを準備していた。アグリンディアとアーシェラの荷物はトランクの中である。

 ちなみに、屋根にはぷースケも一緒にいることになっている。

 一応車内と屋根上に声は届くのだがそこそこ大きな声がいるし、即時の対応などを考えて『念話』が使える二人が分かれていた方が良いだろう、ということで。


「2人とも、目的を履き違えないようにね」


 そろそろ出発しようかというタイミングで、ハエルミアがアグリンディアとガルディミアにそう告げた。微笑んではいるが目は真剣だった、というか少し心配しているようだった。

 ハエルミアのそんな態度に、2人は少し不満そうに大丈夫と返していた。


「立場的にも、本来は私が一緒に行くべきなのですが」

「いやいや、赤ちゃんもいるし、そもそも村長がそんなホイホイ外でたらあかんのちゃう?」

「就任の連絡とか理由をつけて」

「今まで連絡とかしてきたの? してたとしても、その頃生きてた人はもういないんじゃないかしら?」


 クルンディが赤ん坊を抱きながら片山夫妻に話しかけて、2人がそう返す。

 赤ん坊は相変わらず身動き一つせずにジッと雅花と登志枝を見つめていた。

 幹都と文葉は少し離れたところから赤ん坊を見ていた。


「準備と荷物の積み込み終わりましたよー」


 スーヴェラが若い衆を引き連れて来た。三人娘や少し上の男衆が荷物の詰め込みやヒューマンとの交換材料となる物資の運び込みを手伝っており、それも無事終わったので報告に来たようだ。


「ありがとう! よっし、じゃ、出発しますか」

「マッサナ様、次は私たちも連れて行ってくださいね!」

「僕たちもお願いします」

「ちゃんとマッサナさん方を守れる腕が付いたらね。その前に、ヒューマン次第かな」


 雅花が若い衆6人に囲まれたので、アグリンディアが助け舟を出しつつまとめに掛かる。

 居残り組みの皆に見送られながら、出発組みの皆がウィリアムに乗り込んでいく。

 車の屋根組みもそれなりに安定して座っているようだ。

 ちなみに、後部座席には左から登志枝、アーシェラ+文葉、幹都で座っている。

 基本、村までまっすぐなのだが、一応道案内券見張りとして、助手席はハイエルフが座ることになった。

 雅花が車のエンジンをかける。ウィリアムも魔法を唱えて森の木々にお願いをしたようだ。

 しばらくして、里の入り口からまっすぐに森が開けていった。先の方を見るに、ゆるやかに左側にカーブしているようだ。


「それじゃ、行って来るねー」

「「「「いってきまーす」」」」

「「「「いってらっしゃい」」」」


 雅花がアクセルを踏み、ゆっくりとスピードを上げていった。登志枝と幹都が開いた窓から後ろに手を振っている。

 文葉も振り返ってリアガラス越しに手を振り、アーシェラが微妙な体勢になっていた。

 里のハイエルフ達も手を振り返す。それはゆるやかなカーブで里の入り口が木々に隠れるまでずっと続いた。



  *****



「1時間ぐらい走ったけど、実際のところ上の感じはどお?」

「たまに揺れますが、基本は問題ありません、十分快適でした」

「アタシたちが走るより大分速いね。最初は驚いたけど、慣れると気持ち良いし快適だね」


 一同は例の広場、召還されて最初にいた広場で休憩を取っていた。

 ウィリアムが気づいたので、少し道をそれて休憩がてら寄って行くことにしたのだ。ハイエルフ達は特に何も口には出さなかった。広場で休憩しませんか、という言葉にも、わかりました、と短く了解の意を伝えただけだった。

 広場はあくまで送った場所で、遺灰は里に戻ってきているから特にあの場所に意味は無くなったのかな?、と雅花はなんとなく思った。真相はわからない。

 車を停めてすぐ、一同はハイエルフ達を送った場所で黙祷を捧げた。

 その後、少し離れてビニールシート魔法をかけてから座り込んでゆっくりとしている。

 子供達は双子や登志枝達と走り回っている。先ほどまで雅花とガルディミアも参加していたが疲れたので戻ってきた。

 ピローテスから渡されたコップに入った果汁を飲み干してから、雅花が旅の様子に付いて訊ねたのだ。


「そっか、もう少しスピード上げても大丈夫かな? 時速100ぐらいまで挑戦してみようかなー、と」

「数値については良くわかりませんが、大丈夫だと思います。最悪落ちてもなんとかなるかと」

「そうならないよう祈っておきます」

「うん、さすがに大丈夫だったとしてもびっくりするから、危なそうだったらすぐに言ってね」


 そんな話をしていると、さすがに疲れたのか子供組が戻ってきた。

 飲み物と軽食ドライフルーツを取った後、今後の予定について軽く打ち合わせた。

 ここまで進んできた感じだと、思ったよりも遠くまで行けそうなので、昼食は少し広めの沢で取る予定だったが湖まで頑張ってみようかという話になった。

 方向と場所を教えてもらい、ウィリアムが木々に告げてそこまで道を伸ばしてもらう。あっさりと道は繋がったようだ。


「よーしっ! じゃ、行きますか」


 ぐっと伸びをしてから雅花が立ち上がる。

 それにあわせて皆も立ち上がり、車に乗り込んだ。

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