55. あまりシリアスぶっこまれても……
「えーっと、初めまして、マッサナと申します。ポノサマ、こちらの神獣様の関係者の方ですか?」
「おう、ポレノーのと違って守護する場所はねーがな。なんつーかな、神界の方で書物に関わることをやってる。まぁ、書物の、とでも読んでくれ」
「はい、わかりました。ショモツノ様」
「……なんか、ちょっと違う気がするがまぁいい。で、他の奴等も紹介してくれんだろ? まぁ、すでに知ってはいるがな」
あぁ、これは失礼しました、と雅花が家族を紹介する。最後にウィリアムを紹介した時、これがそうか、とこけしもどきがすべるようにウィリアムの方に近づき、宙に浮いてウィリアムの周りを漂いだした。
「ウィリアムです。よろしくお願いします、ショモツノ様」
ウィリアムが丁寧に挨拶する。あぁ、と生返事を返し、書物の神はぐるぐると周りを回っている。表情が無いので良くはわからないが、何やら興味深そうだ。
「ところで、ショモツノ様はポノサマを迎えに来られたかなんかですか? それとも、心配して訪ねてきたとか?」
「まてまて。まだ我の話が終わってないぞ」
「え? 何がですか?」
「じゃから、謝罪をじゃな」
「ポノサマ、謝罪は最初にしていただきましたよ?」
「言葉だけではないか。けじめとして、わかりやすい形でだな」
「ポノサマ。わかりました、まずは詳細について教えてください。話はそれからです。ですが、私たちは恨んでも怒ってもいません。それだけは理解してください」
登志枝が少し声を大きくして神獣に告げた。
「そうだな。俺が来たのも、ポレノーのじゃわからないところを詳しく説明するためでもあるしな」
書物の神はウィリアムから離れ神獣の横に来ると、皆に説明を始めた。
曰く、主神様が異世界との繋がりを察知し、慌てて処理を施したそうだ。力の残滓から、発端はポレノー大森林の神獣でまず間違いないであろうとの話であったらしい。幸いにも異次元側の神も力の動きを察知していたそうで、すばやく処理に当たってくれたらしい。そのおかげで大事には至らなかったが、片山一家がこちらに飛んでくるのを止めるのには間に合わなかったらしい。とっさに、地球側の神が、何かを施したらしく、片山一家には神の力が宿っているとの事であった。
こちらの主神様は、そのまま詫びを入れるために、地球側に飛んでいってまだ帰っていないらしい。定時連絡は入っているので、どうやら時間の流れが違うようだ、とのことである。ちなみに、救援にポレノー大森林に神界から誰か来れなかったのか、という雅花の質問は、色々と複雑なルールがあってダメとのことだ。ややこしそうなので、それで納得した。
片山一家が向こうに帰れるかどうかだが、地球側の状況や事情などもあるので、すぐにはわからないそうだ。そこも含め、主神様が対応してくれているらしい。
「ふーん、じゃ、もうちょっとのんびりしてていいってことですね」
「そうね。でも長引きそうなら、勉強もしとかないとね」
「「えー」」
「なんつーか、おめーらもうちょっとこう、なんかねーのか? ポレノーのじゃねーが、手違いでさらわれたみたいなもんなんだぞ?」
「いや、別に実害ないですし。 ……あ、経過時間によっては会社首になってるかもしれないか。それはちょっと困るな」
「あー、家族も心配はしてるかも。万が一だけど、親を看取れなかったら申し訳ないかな」
「「まぁ、でもなんとかなるでしょうし」」
「それですますのかよっ、すげーな、おめーらっ!」
家族一緒でよかったねー、と片山一家は顔を見合わせて笑顔であった。
「……本当に本心なのかえ? 魔獣を生み出したのも、そなたたちをこちらにさらってしまったのも、子がいなくなったのも、全て我の不徳の致すところ。脚や首を差し出すのも覚悟の上じゃったと言うのに……」
「なんか不穏な言葉が聞こえましたけどっ!?」
「ポノサマ、とりあえず落ち着いてください!」
「ほら、二人も!」
「ポノサマ、大丈夫?」
「ポノサマー、ぎゅー」
慌てて家族で神獣の下へ駆け寄り抱きしめる。雅花が周りをちらりと見回すと、ピローテスは泣きそうな顔をしており、こけしもどきの表情は読めなかった。
「ポノサマ、悩みすぎです。やっぱり元気なかったんじゃないですか、頼って下さいよ」
「「「ポノサマ……」」」
「……ポレノーのはな、本来なら不覚を取るようなやつじゃねーんだよ。産後をな、狙われたんだよ。なんでかはわかんねーけどな。仲、良かったのにな」
書物の神の声が聞こえた。雅花、登志枝、幹都はより一層強い力で神獣に抱きついた。文葉はわかっているか微妙だった。
*****
「よし、じゃ、ポノサマに罰を与えましょう」
長い抱擁の後、雅花が神獣から離れて、そう声をあげた。
皆が何か言葉を発する前に、再度雅花が声をあげる。
「今後、ポノサマは正式にポノサマと名乗ってください。あ、神界は今まで通りで構いません。なんか向こうでは名前があるんですよね。こちらの世界では、今後ずーっとポノサマはポノサマとなるということです。この名前は私たちが付けた名前ですし、私たちのことをずーっと忘れられなくなる、ということですね。さらに、今回の事件もずーっと忘れられなくなります。……なんか、相当ひどい罰な気がしてきた。でもまぁ、罰だから仕方ないですよね」
皆、きょとんという顔をしていた。
「はい、じゃピローテス、ポノサマって呼んでみて」
「えっ? 私ですか?」
「うん」
皆の視線がピローテスに集まる。皆、少し笑顔になっていた。
「あー、……ぽ、ポノサマ?」
「はい、じゃ、ショモツノ様も。 ……あ、ショモツノ様が様付けするのはおかしいか。じゃ、ポノ、かな?」
「いや、名として名乗るなら全部で行こう。それはそれで罰だろうしな。な、ポノサマ」
書物の神は、神獣、ポノサマの周りを浮かびながら「ポノサマ」、と複数回繰り返していた。
ポノサマの雰囲気がやわらかくなったのを感じた。
「……わかった、我の罪として、この罰を受けよう。そして、必ずこの罪を償い、恩に報いると誓おう」
「まずは、体調を戻してくださいね」
登志枝と幹都が優しくポノサマの体を撫で上げる。
「えーっと、じゃ、今日はこんなところですかね? とりあえず、もう少し現状維持ですか。ポノサマの体調が戻ったら、ポノサマは正式に神界に戻って、主神様の帰還待ちとかそんな感じですか?」
「帰る帰らないの話しはそうだな。だが、今日の用事はまだ終わってないぜ。そんだけなら、俺が来た意味がねーしな」
「ん? といいますと?」
「お前らの力を正確に見に来た。向こうの神も咄嗟の事でどこまで出来たのかわからねーんだとよ。正確な力の分析と、お前らが今どんな感じなのか。そこらへんを、見て伝えるためだな」
聞いた限りでは、かなり重要な役割でこちらに来たようだ。




