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44. ハイエルフ装備取得中

 しばらくすると、登志枝とアーシェラも服の木のところに合流した。

 幹は思ったよりは綺麗に剥げていた。これならちゃんと生地に加工できるんじゃないか、ということだった。

 幹都と文葉はうれしそうだった。


 その後、剥いだ幹を持って作業場の方に行った。ゴーレムが受け取り、何かの液体で満たされた長方形の木桶の中にゆっくりと剥いだ幹を沈めていった。

 一度こうやって汚れを取りなじませるそうだ。

 そのまま、服の木の加工の流れや、木綿や絹の作成について見学した。

 ちなみに、ここは毎日稼動しているわけではないらしい。必要に応じて動かすとのことだった。

 今日は、片山一家のためにいくつかの生地を使うので、その補填分を作成しているとのことだった。あと、折角だから見学していかないか、ということだったらしい。

 基本、ゴーレムや魔道具、あとは魔法とハイエルフの職人技で作成していく流れは見てて大変楽しかった。

 元々片山一家は、工場見学などが好きな方だ。

 最初は○ッザニア程度だったのだが、子供が大きくなるにつれ、元々登志枝もそういうのが好きなタイプだったので、お菓子工場や魚市場、鉄道、伝統工芸と幅を広げていった。

 中世と現代と魔法が融合したような一連の流れは大変興味深かったし、ところどころ幻想的な光景は、子供たちも大喜びだった。

 ちなみに、昆虫館などに行くのも好きだったため、片山一家、虫にも強い。触れといえば別の話ではあるが。

 見るだけならば、実は雅花が一番苦手な方である。蝶類などの鱗粉系や脚が多い系、実は甲虫類も苦手である。なので、知っているやつよりも大きめの蚕蛾や、絹と同じように使用する、糸用の蜘蛛などを見て食傷気味であった。

 ただ、蜘蛛は綺麗な銀色をしていたため、眉をひそめながらじーっと長いこと見ていた。苦手ではあるが、嫌いではないらしい。ややこしい。

 子供達は蚕蛾に触ったりもしていた。雅花は遠慮していた。


「……そういえば、動物系の匂いが苦手だって話だったけど、虫は大丈夫なの?」

「食べるわけではないですし。動物も愛でるのは好きですよ」

「私、爬虫類飼育してますよ」

「はちゅうるい、って?」

「トカゲとか、ワニとか?」

「そうですね、ちっさなトカゲとかヘビとかドラゴンの類とかですね。今度見ます?」

「うん! 触れる?」

「ふみはもヨシヨシってするー!」

「では、今日の夕方前に向かいますか?」


 楽しい見学が終わった後、ハエルミアとイルダリオンに一声かけて挨拶してから、工房を後にした。



  *****



「どこか痛いところとかひっかかるところとかありますぅ?」

「ううん、全然! 私ちょっと外反母趾だから、こんなに履き心地のいい靴って久しぶり!」

「聖母様にご満足いただけてうれしいです!」

「うん、歩きやすい!」

「ふみはもこれでいいとおもいます!」


 服の工房を見学に行った後、お昼を食べて一休みして今度は靴を受け取りに来ていた。

 今は、靴の採寸をした工房の方で、出来た靴を履いてうろちょろしている最中だ。


「おー、ホント気持ちいいね。俺、靴のオーダーメードって初めてだわー。幹都はちっちゃい時にシューフィッターさんに選んでもらってお直しとかしてもらったことあるけど、でもあれも既製品を選んでもらっただけだもんなー」

「あのシューフィッターさんは良かったねー。あの人が辞めたあとの人があんまり良くなかったから、もうやめちゃったのよねー」

「あの靴、何故かおふみも喜んで履いてたよなー?」

「? ふみはしらないよ?」

「おふみが1歳とか2歳になる前ぐらいの頃だからねー。次のフィッターさんに選んでもらった靴は、前のより高かったのに二人とも嫌がって履かなかったよねー」

「シューフィッターさんって大事よねー。私もお世話になってた人がいたけど、やっぱりその人が独立して遠くに行ってから行かなくなったもん。どうしても値段も高くなるしねー」

「その時に色々と教えてもらったって言ってたっけ? まぁでも、靴って大事ねー。ホント、ありがとうございます」


 雅花が、ラーヴェノアに向かってぺこりと頭を下げる。


「そんなに気に入ってもらえて、あたしもうれしいです! 頑張った甲斐がありました」


 と、ラーヴェノアもニコニコと返す。


「木靴って、こんな軽くて履き心地も滑らかなんねー。で、履いてて全然足が滑らない気がする。しっかりホールドされてる感じ」

「中に入ってるソールがいいんじゃないかなー? これはコルク?」

「クーカスという木があって、その樹皮を細かくして加工すると、このように弾力があって通気性もよく、水を通さない性質のものになるんです。それを、緩衝材として使用してるんです」

「へー、やっぱりコルクみたいなもんかな? ……そういえばさ、服の木って名前無いの?」

「服の木ですか? ありますよ、忘れましたけど」

「……なんだったっけ?」

「そういえば、忘れたー。サーサリ辺りが知ってるんじゃなーい?」

「聞いてきましょうか?」

「いや、そこまで知りたいわけじゃないからいらないです。なんとなく、服の木だけ呼び方が違ったから気になっただけ」


 まぁそういうこともあるよね、ということで。

 ちなみにそれぞれの靴だが、漆のようなもので黒く塗られており、赤や青で模様が描かれていた。。

 話を聞くと、木の樹液と墨や花、石、実などで色をつけたものを加工して作っているらしい。

 ますます漆っぽいな、と思った。


「……漆って、こんなすぐに乾くもんなん?」

「まさか。魔法かなんかじゃないの? それか、漆じゃない何かなんじゃない?」


 雅花と登志枝が靴の表面を触りながら話していた。手触りも大分良い。


「しかしすごいね。これ、剥げたりしない?」

「大丈夫ですよ、切り傷や重量物にも強いですし、丈夫ですよー」

「ホントに、そんな良いものいただいていいのかな? 代わりに何か出来る事ない?」


 片山一家、もちろんこっちの通貨などは持っていないし、貴金属も特に無い。

 そもそも、ハイエルフの里では通貨という概念は無かったが。もちろん、知識としては知っている。


「聖母様、マッサナ様。何度でも言いますが、私たちは私を含め皆を救ってくれた皆様に心から感謝しております。このくらい、安いもんなんです。ご不満なら、私がラーヴェノアに何か物を渡すなり奉仕するなりいたします」

「いや、それだとラーヴェノアからアーシェラに感謝の行き先が変わるだけで何も変わらないよ?」

「いえいえ、私もみなさんには感謝してますから、何もいりませんよ。それに、このくらいでご恩返し出来たとも思っていませんし! どうせなら、ありがとう、と受け取ってくれた方がうれしいです」


 あまり遠慮するのも失礼だと言う事だ。それならば、と片山一家は横に並び、


「本当にいい靴を」

「「「「ありがとうございました」」」」


 と、笑顔で頭を下げた。

 ハイエルフ達も笑顔であった。

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