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36. 川遊び

 片山一家は今、里から少し離れたところの小川で水遊びをしていた。


「せーの、それっ!」


 雅花の掛け声で手ぬぐいと言うには大きすぎる木綿の布の端を持ち上げる。

 布の中には何匹かの魚が泳いでいた。


「すごーい、おさかなさんがいる!」

「ポノサマ、これ食べれるの?」


 魚ごと布を持ち上げ川辺に移動する。

 ちなみに布を持っているのは雅花、幹都、スーヴェラの3人である。


「うむ、そこの魚は毒とかは無いの。全部食べれると思うぞ」

「んー、なんか鮎っぽいね。もうちょっと大きいかな?」

「……ホントに食べるんですか?」


 ピローテスが若干引いている。雅花が布を持ったままいい笑顔で親指を立ててみせる。

 神獣と会った時、一度巣に帰り休養と状況の報告、あと情報収集を頼んでみるとのことだった。

 数日したらまた里に来るので、それまで待っていて欲しいということだ。

 1人で大丈夫か? という質問は鼻で笑われて返された。

 なら、道中で魚が取れるような川は無いかと雅花が聞いてみた。

 少しそれるがあるということなので、そこまで一緒に行ってそこで改めて別れることにした。

 まぁ、着いた後も休憩がてら神獣はそこに居てくれているのだが。

 ちなみにお供は片山一家以外にはスーヴェラとピローテスである。アーシェラも来たがったが、さすがに7人は車内が厳しそうなので留守番にしてもらった。仕方が無いので、その間に出発前に大急ぎで採寸してもらった靴の作成を進めておくそうだ。

 というか、靴を見に行ったら採寸されたのでびっくりした。基本、全部その場で採寸してのオーダーメードだそうだ。

 この人数で既製品作っても仕方ないわな、とは思った。


「ピローテスとスーヴェラは匂いもダメだろうし、食事中は離れといていいよ。なんか申し訳ないけど。ポノサマはどうします?」

「そうじゃのお。見てるのも忍びないし、我も2人と一緒にあちらで食べるわ」

「はーい、じゃ、食べる分以外は逃がそうか。……あ、ちょっと待ってね」


 雅花がウィリアムの方に顔を向ける。


「ウィルー、そういえば、トランクに入れた荷物の時間経過ってどうなってるの?」


 川原の石を利用して立てかけといたスマホから、ウィリアムの声が再生された。


「すいません、どういうことでしょうか?」

「えーっとね、入れた時の時間で固定されて時間経過しないか、それとも普通に時間が経過しているのか、ってこと」

「まさはなくん、何を言ってるの?」


 ハイエルフ達も何を言ってるんだ? 的な顔をしている。小説の読みすぎかな、と雅花も冷静に考えて馬鹿な質問してるな、と思いなおした。


「いや、そういうお話が――」

「どうとでもなるぞ?」

「ふぁっ!?」


 神獣が当然といった感じで答えた。雅花から変な声が出る。


「もちろん、時間を多めに経過させることは無理じゃが、取り出すときにいつのものを取り出したいのか考えながら取り出せばいけるはずじゃぞ? 入れてすぐの状態の時のを取り出したいのか、それとも取り出す時まで時間がたった時のを取り出したいのか。というか、今まではどうやっておったのじゃ?」

「特に意識はしていおりませんでしたが、入れた時の状態のヤツをそのまま出してました」

「ということは、数秒しか時間は経過しておらぬはずじゃ」

「えーっと、ごめんなさい、よくわからないです」

「ん? そんなに難しいことかの?」

「としえさん、考えるんじゃない、水のようになるんだ」

「まさはなくん、それ混じってる。イラッとするから止めて」


 登志枝、結構ファンなのである。他にも、色んな香港映画が好きである。


「まぁ、とりあえず魔法もある世界なんだし、便利でいいやん」


 べんりなの? と文葉が聞いて来たので、便利なんだよー、と返した。確かに、と登志枝も思った。

 ということで、全部焼いて食べきれない分は置いておくことにしようか、と提案したが、包むものが無いことに気が付き、やっぱり止める事にした。入れるときは一度トランクに入れるので、焼き魚をそのままトランクに置くのはどうか、となったのである。


 少し離れて、それぞれ食事となった。片山一家は風下である。

 魚に枝を刺し、ぷー子に火を起こしてもらった火の周りに串を置いて、塩をかけてしばし待つ。

 ちなみに、塩は里にちゃんとあった。どっかの場所でとれるそうである。

 果物だけだと塩分不足するはずということで、聞いて見たらあっさりあった。

 どうやら、ハイエルフは塩分もそれほど必要ない感じであったが、果汁や飲み水に少し混ぜたりすることはあるそうだ。

 あと、味付け代わりに果物にかけることももちろんあるらしい。人によってはサラダのようにある程度細かく切ってから塩やハーブなんかをかけて食べる人もいるらしい。アーシェラやスーヴェラはそのまま派であったが。

 塩をもらうついでにハエルミアに色々と聞いてわかったことだった。あと、火を使うこともあるらしい。保存用として、ジャムやコンポートを作る時に使うらしい。

 焼けたみたいなので魚を家族に回して行った。ハエルミアがライムのような柑橘類を持っていたので、それも絞ってかけてみた。

 魚の味は鮎に良く似ていて美味だった。

 米や味噌汁なんかも欲しかったが、まぁ仕方がない。そのうち、キノコや食べられる草の類も見つけてスープも飲みたいねー、と話し合った。



  *****



「では、我はそろそろ行くの」

「はい、ポノサマ、気をつけて」

「よろしくお願いしますねー」

「「ポノサマ、いってらっしゃい! はやくかえってきてね」」

「「神獣様、いってらっしゃい(ですわ)」」


 片山一家がそれぞれ神獣に別れを告げる。ピローテスは一応巣まで一緒に行くらしい。

 スーヴェラはすでに挨拶を済ませていたので、一歩下がって頭を下げている。


「うむ、出来るだけ早く戻る。神界に直接行くのはもうちょっと回復した後じゃが、とりあえず交信ぐらいは出来るはずじゃからの。次に里に行く時には、もう少し色々がわかっておると思うぞ」

「すいませんがよろしくお願いいたします」

「「「よろしくおねがいします」」」

「では、それまで気をつけての。ハイエルフ達がいるから問題ないとは思うがの」

「はい、お任せください」


 スーヴェラが頭を下げる。


「ではの」

「ではマッサナ様、また後ほど」


 そう言って神獣とピローテスは森の中に消えて行った。残った者は、2人が見えなくなるまで手を振っていた。


(後ほどっていうのは、あのことだろうなー)


 ピローテスとは、今晩夕飯を一緒にすることと、その後のことを約束していた。


「じゃ、どうしようか。予定していた靴の件も終わってるし、もうちょっと遊んでから帰ろっか?」

「「ハーイ!」」


 子供達が元気に返事した。

 それからもうしばらく遊んでいると、アーシェラが姿を現した。

 遅いので心配になったそうだ。とはいえ、まだお昼を過ぎて少しである。

 子供達は喜んで遊んでいるが、雅花と登志枝は若干心配になった。依存しすぎてないかなー、と。


「……まぁ、それだけ気にしてくれてるということだし」

「……そうね。なんだかんだで、例のことがショックだったのかもしれないし、もしかしたらまだ1人が怖いのかもしれないね」

「里のみんな、いるけどね」


 雅花と登志枝は小さな声でそう話していた。心のケアも必要かな、余計かな? と。

 川の方を見ると、4人+ぷースケとぷー子で楽しそうに遊んでいた。

 皆、いい笑顔だったので、まぁいいか、ということになった。


私の旧正月休みw は終わったので、明日からは、13:00の予約投稿に戻ります。

えぇ、私に午前投稿は早すぎました。あの時間帯は魔境ですw

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