25. あとは親しい者だけで
まさに轟々といった感じの、すごい風音が響き渡る。
魔法の竜巻が魔獣だったものを包み、その色が黒になり赤が混じる。
皆がじっとそれを見つめる。登志枝や幹都、文葉も見つめている。少し遠目なので、恐怖も無いようだ。
雅花はちらっと周りのハイエルフ達の顔色をうかがった。誰も怒りや恨み憎しみなどの表情を浮かべていないのがちょっと気になった。無表情か、わずかの悲しみを浮かべているか。雅花は不思議に思ったが、思うだけに留め、改めて魔獣に、魔獣だったものに目を向けた。
先ほどと比べ音が落ち着いてきた。それとともに、風の勢いも落ち着いてきて、黒く赤い風が地面に吸い込まれるように消えていく。
神獣がその場所に近づいていくと、何やら祝詞を唱える。
魔法、というより、祝詞な気がしたのだ。
場が清められた気がした。そして、地面からボール程度の大きさの赤黒い塊がいくつか浮いてきた。
それはぐるぐると回っているようだ。
神獣の祝詞が終わると、ボールも全て急に消えてなくなった。
魔獣は、神界に無事送られたようだ。
里のハイエルフ達が来た後、神獣はこの後のスケジュールについて説明した。
まずは、神獣が魔獣を滅して神界に送る。危険だから近寄らないように、とのことだった。
その後、『見送り』を行う。こちらはハイエルフ達が主体で行い、神獣はサポートを行う。
遅くなることが予想されるので、その後は一度里に帰って、明日後片付けと後夜祭をやるとの話だった。
次は、『見送り』である。
「聖母様方はどうされますか?」
いつの間にか側に来ていたクルンディに聞かれ、登志枝と雅花は顔を見合わせる。
少し考えるそぶりを見せて、雅花は顔を振った。
一応といった感じで、登志枝が確認した。
「……なんで?」
「やっぱり、うちらは部外者だと思う。御目出度い時ならまだしも、こういう別れの時は、親しい人だけで過ごさせてあげるのが一番だと思う」
「……うん、そうね。私がそういう立場でも、そっちの方がいいもん」
「クルンディ、うちらはウィルの中で休んどくわ。遠慮なく、別れを済ませてきて」
「……わかりました。そうですね。こういう時、里の者以外がいたことは無いのでちょっとわかりませんが、いつもどおりがいいのかもしれませんね。お気遣い、感謝します」
そういってクルンディがぺこりと頭を下げ、では、と皆の元に歩いていく。
「……じゃ、うちらは車の、ウィルの中で待ってようか。そういえば、2人は里で遊んでもらってたんだって?」
「うん、スーヴェラっておにいちゃんがね、追いかけっこしたり絵を描いてくれたりしたんだ」
「ふみは、スーヴェラおにいちゃんすき。かっこいい」
そうかー、詳しく聞かないとなー、と笑いながら車の座席に座りドアを閉める。
しばらく車の中で片山一家は談笑していた。それぞれが今日経験したことを話していた。
と、業火があがった。いつの間にか夜空が見えていた。先ほどまで木々の枝が視線をさえぎっていたはずなのに。
その穴を縫うように、炎の柱が立ち上った。程なく炎の柱は治まり、風が渦巻き何かを巻き上げたようだ。
風がうねり何かをまとめ、また元の場所、ハイエルフ達が車座になっている中心の穴の中に降り注ぐ。そして雨が降った。
雨は穴の中だけに降り注いでいるようで、周りのハイエルフ達が濡れている様子は無い。雨が止むと、地響きのようなものが聞こえたが、それが何かはわからなかった。
片山一家は無言でそちらを見つめていたが、また、世間話に戻った。
それからまだ少し時間が必要だった。お腹すいたねー、と話したところ、幹都が「あっ」と声を上げ、ウェストポーチから袋を取り出した。中にはプルーンやブドウ、ベリー系などのドライフルーツが入っていた。
ぷー子が水筒に水を出し、ドライフルーツを食べ、無理な体勢にちょっと首が疲れたなー、などと話していると、神獣が近づいてきた。片山一家は皆、車の外に出た。
「……待たせたの、終わったぞ」
「「お疲れ様でした」」
「「「「おつかれさまでした(ですわ)」」」」
「いや、長い間すまんかったの。腹は減っておらぬか? 気付かなくてすまんかった」
「大丈夫ですよ、幹都がドライフルーツを出してくれたので。ハイエルフの誰かが、里から移動してくる時にくれたそうです」
「そうか、それはよかった。まぁ、どちらにしろ、一度里に戻って何か食料をわけてもらえばよい」
「やったー! サトだー」
「おふみ、もう遅いから里に行ってもすぐに寝ないとダメよ?」
文葉がばんざーい、と喜んだが登志枝に窘められる。こっそり、幹都も喜んでいた。
この2人は、里に帰ってもなかなか寝ないかもしれない。
「そういえばポノサマ。あの魔道具、ポノサマ通れるんですか?」
「いや、我は無理じゃの。今から魔道具を片付けるのも骨じゃし、ハイエルフとそなた達で里に帰るが良い。我は、いや、我だけではないな。我とウィルはここに残ろう。明日の朝、片付けが終わった後、里に向かうつもりじゃ」
「あ、そうなんですか? とすると、ポノサマ今晩1人ですか? いや、ウィルもいますが。寂しくないですか?」
雅花の質問に、神獣はあからさまに呆れています、という顔を雅花に向ける。
「そなたは何を言うておるのじゃ。ウィルもいれば森の木々達もいるのに寂しいわけがなかろう。それよりも、ゆっくり体を休めることが出来るので喜んでおるわい。いつもは1人か獣達と一緒じゃからの。こんなにもハイエルフやヒューマンに囲まれ過ごすのは初めての経験じゃ」
「ふーん」
「そなた、ちゃんと聞いておるか?」
雅花が生返事を返す。そして、じっと神獣を見つめる。神獣は少し嫌そな表情で首を傾げた。
「……よし、みんな、父はポノサマと一緒にー、いや、違うな。うん、みんな、今日もポノサマと一緒にここで寝ようか。里は明日からにしよう?」
「えー、ふみは、サトがよかったなー」
「でも、それだとポノサマ1人になっちゃうから、さみしいって」
「いや、言うとらんわ。ちゃんと聞いておったか? オフミもミキトも、気にせず里でゆっくり休むが良い」
「いやいや、今日は一緒にいましょう。里は明日でいいんでしょう? それに、結構な数のハイエルフが亡くなっています。私たちが里に行くと、気を使うと思うんですよ。今日ぐらいは、彼らだけにしてあげたいかな、と」
「そんな気遣いの必要は無いと思うぞ?」
「……ううん、ポノサマ。私もまさはなくんに賛成です。一緒に寝させてもらえませんか? 幹都、文葉、今日はポノサマと一緒に寝て、明日からハイエルフのみんなのところで寝よ?」
子供2人は「えー」っと発言してはいたが、あっさりわかったとうなづいて、今日も一緒に寝よ、と神獣に抱きついた。
「……まったく。仕方ない、そなたらに頼まれて無下にするのも心苦しいしの。では、ハイエルフ達にもそのように伝えてくるわ」
呆れたように首を振り、神獣がのっしのっしとハイエルフ達の方に歩いていった。
「なんか、俺の時と反応違う気がするなー」
雅花が首を傾げながら独り言ちるが、みんな気にせず今日はウィルも呼んでお話しようか、などと相談している。
正直、雅花も一応突っ込んだだけなので、特に追求することも気にすることも無く、「いいね!」とウィルの話題に参加しにいった。
明日から、試験的に更新を13:00にしてみたいと思います。 m(_ _)m
いえ、閑話をあげた時、今までの3倍程度のアクセスになったので、一度実験的に試してみようかな、と。
ちなみに、昨日は閑話の時の半分になりました。




