24. 設営開始
魔道具の設置は、結構大掛かりだった。
ステージの設営にイメージが近いかもしれない、そこまで広いスペースではないが。
魔法を使い地面を慣らし、そこに魔道具だか魔道具のかけらなのか、それとも単なる補助材なのかはわからないがなにやらを組み立て、たまに魔法を使い、そのあとまた何かを配置したり補助材みたいなので補強してるのか固定しているのか。少なくとも、雅花が行っても邪魔だろうな、とは思った。
ハイエルフ達は8人全員集まってテキパキとそれぞれ作業を行っている。
たまに神獣も助言をしているようだ。
「……そういえば、なんか明らかにトランクに入る量じゃないんだけど、いつ準備したんだろ、あれ」
「え、今更? というか、気付いてなかったの? あれ全部持って来たのよ。ウィルのトランク、○次元○ケットみたいなもんなんだって」
「あぁ、そういえばアイテムボックス持ってるって言ってたな。トランクがそうなんだ」
「うん。ただ、一度トランクを閉めないと整理出来ないから、トランクに入る大きさまでじゃないとダメなんだって」
「いや、トランクって普通はだいたい入れれるんちゃう? そりゃ、ベッドとか馬車とか無理だろうけど」
「着替えとか食料とかなら大丈夫よね」
「人は入るな。ポノサマとかあの魔獣は無理か。あー、でも解体すれば入れれるのか。生きてるならトランクじゃなくて座席の方に入ってもらうしね」
「なんか物騒な話ねー」
ちなみに、現在は雅花が登志枝を膝枕して頭を撫でながらである。
ぷースケは登志枝のお腹の上で横になっている。
姿勢に反し、会話に花が無い。
「そういえば、どのくらい入るの? あの魔道具ぐらいは入るのはわかったけど」
「ウィルもわからないって言ってた。感覚的には、まだまだ余裕で入る、だって。トランク閉めても中身が残ったままだったら限界じゃないか、って」
「ふーん。 ……ガソリンいらなくて、トランクの大きさまでならいくらでも入る車か。宅配業が捗りそうやね」
「夢の車よねー」
「大事にしないとねー」
雅花が一つ大きな欠伸をする。登志枝にもうつり、口を手で押さえる。
(……あー、これは寝るな)
と雅花が素直に意識を手放そうとした時、何か大きなものが近づいてくる気配がした。
(いや、どう考えてもポノサマだよなー。じゃ、いいかー)
登志枝の反応も特に無い。運転でお疲れなのだ。寝てしまったのかもしれない。
「……トッシェはともかく。マッサナは明らかに気付いたであろうが」
「……ばれてましたか」
「神獣じゃからの」
雅花が目を開け神獣を見上げる。もうすぐそこまで来ていた。
まぁ、そのまま寝ててもよいのじゃが、と前置きをしてから、
「魔道具を起動させる準備が出来たぞ。ハイエルフどもはそのまま寝かしておけと言うておったが、起動するところを見てみたいのではないかと思っての。どうする?」
「ありがとうございます。それは絶対に見てみたいです」
パッと目を開け、ついでに登志枝も揺り起こす。少し寝ぼけていたが、魔道具が起動すると聞き、登志枝も目をあけて立ち上がった。
では行くかの、との声で魔道具の方に向かうが、不意に雅花が歩みを止めた。
「あ、二人とも先行ってて下さい。ウィルも連れてきます。きっと、見てみたいと思うんですよ」
「なるほどの。わかった、待っておるぞ」
「じゃ、鍵渡しとくね、ハイ」
しばらく後、魔道具周辺に皆が集合した。まだ夕暮れには少し早い時間だった。
ウィリアムは少し離れたところで停車させ、里から来たハイエルフの三人以外はウィリアムの少し手前辺りで並んでいる。
里から来たハイエルフは、今から魔力を通すため、魔道具の横にいた。
魔道具は、割と大きなアーチ状の門みたいな感じだった。周りに色々とデコレーションされている。
支えなのか、補助的な何かなのか、それともただの趣味なのか。
と、門前の3人の雰囲気が変わった。しばし後、装飾やゲート周りが光を放ちだす。白だったり、青だったり、藍だったり翠だったり。穏やかに光を放った後、落ち着きだす。
「繋がりましたよ」
アグリンディアが声をかける。案外、あっさりと成功したようだ。
「え、じゃぁ、もう里の方にいけるの?」
「えぇ。マッサナさん、空けてみますか?」
ということで、雅花は嬉々として魔道具の前に移動した。扉は引いてくれとのことだった。
「では、不肖ながら、開けさせていただきます!」
ドアノブに手を伸ばし、ひねろうとする。が、その手は宙を掴み、ドアは奥に引かれていった。
その隙間から文葉がひょこっと顔をのぞかせると、雅花に向かって「父ー」と叫びながら飛びついてきた。
ぎゅー、と言いながら雅花も抱きしめる。
魔道具から、アーシェラが2人出てきた。そのすぐ後から幹都も出てくる。
2人のアーシェラに雅花が驚いたが、その後ろにもハイエルフ達がいる気配がするので、文葉と幹都を連れて一旦後ろに下がり、登志枝たちと合流した。
「……思ったより少なめやね? 怪我人は来てなかったり、するのかな?」
魔道具からは、文葉と幹都、24名のハイエルフと、4体分の白い布に包まれた人型のものが運び込まれていた。
白い布に包まれた人型のものは、そのまま見送る人々のいるところに運び込まれる。
「いえ、これで里の者全員になります」
「えっ? 思ったより少ないんだけど、そんなに被害が……?」
「被害も大きかったですが、その前から里には51名しかおりませんでしたから。もし、聖母様が私たちを助けてくれてなければ、更に7名減ってたことになりましたね。そうなると、過半数がやられたことになるところでした」
クルンディが明るく説明してくれる。もしかして、ハイエルフジョークなのだろうか?
「その人数は、里として成り立つの? というか、今後大丈夫なの?」
「私たちは皆長命ですし、まだ大丈夫でしょう。特に不便を感じたことはありませんでしたし。が、さすがに人数が三分の二になってしまいましたから、しばらくは忙しくなるでしょうね」
もうちょっと突っ込んで聞いてみたいのだが、今はそれよりも見送りだろう、と判断する。
と、神獣がのそっと体を動かし、皆から見える場所に移動した。
「皆の者、聞いてくれ」
その表情は、何時にも増して真剣に見えた。




