22. 枯山水で鬼ごっこ
園と呼ばれているところは、庭園と公園をあわせたような場所だった。
整備された草花や木々、芝生のちょっとした広場、よく見ると白詰草やタンポポっぽい草の区画もある。なだらかに丘陵を書いている区画もあり、ベンチや街灯のようなものが置かれている場所もある。中心には噴水があり、小川が流れている区画もあった。
小川はそれほど深くなく、周りを砂利っぽいので舗装されていた。さらに、5x7m程度の枯山水のような区画もあった。
周りを石と芝生で囲い、中には白砂が敷き詰められ、波のような模様が描かれている。白砂の上には人が立てるぐらいの大きさの石が点在しており、大人の歩幅なら石を渡って向こう側に渡れるようになっていた。
すごーい、きれーい、と幹都と文葉は興奮して駆け回っていた。色んな場所に駆け寄っては観察している。アーシェラもそれを追ってあちこち駆け回る。
「あれ? アーシェラ、その子達ヒューマンだよね? 捨て子?」
木々が林立している方から、青年らしき声がした。幹都と文葉はアーシェラの近くに戻り、声のした方を見やる。
のんびりと1人のハイエルフがアーシェラの方に歩み寄ってきていた。
「ちょっと何言ってるの! 聖母様のお子様よ、聖母様!」
「……聖母様?」
「スーヴェラ、もしかして寝てた?」
「あぁ、さっきまで病院のベッドで。ちょっと前に起きて周辺を一通り散歩してた、見張り兼ねて」
スーヴェラと呼ばれた青年が皆の近くで止まり笑顔を向ける。
何やってんのよ、とアーシェラがグーでスーヴェラと呼ばれた青年の肩を殴った。
「……傷、大丈夫なの?」
「うん、ガルディミアのおかげで。アーシェラも、なんか疲れてるみたいだし魔力も弱いけど、大丈夫?」
「うん! もう私は大丈夫。もう少し休んだら、魔力も回復するだろうし。ミキト様、フミハ様、この子はスーヴェラと言って、私の双子の弟なんですよ」
「こんにちは、ミキト、フミハ。ハイエルフでね、双子って珍しいんだよー。結構似てるでしょ?」
オールバック気味にまとめて後ろでくくっていた髪を解いて、アーシェラと同じくサイドポニーにまとめる。
アーシェラと並んで肩を抱き、2人に笑顔を向ける。背も体型もほぼ同じで、確かに顔も良く似ていた。
「……うん、そっくり! あ、幹都です」
と言ってぺこりと頭を下げる。
「ふみはです! ふみははね、ちょっとちがうとおもう。あのね、アーシェラはね、もっとおんなのこできれいなの」
「私はぷー子ですわ。よろしくお願いいたしますわ」
文葉もぺこりと頭を下げる。ぷー子も文葉の肩の上でぺこりとお辞儀する。
スーヴェラは、隣にいる姉からデレッとした空気を感じたがスルーした。
「あれ? 人形のゴーレム? かわいいねー。で、みんなここで何してたの?」
「聖母様が今、大館で重傷者の治療を行ってるの。お二人には楽しいところじゃないだろうから、私と一緒にお散歩してるところ」
「え? 何者なの、その人。ヒューマンじゃないの?」
「ヒューマンよ、聖母様。私たちの恩人よ」
「どういうこと?」
ふふーん、とアーシェラは幹都と文葉の間にしゃがむと肩をぎゅっと抱きしめ、スーヴェラに優しく微笑んだ。
スーヴェラはやれやれ、という風に肩をすくめると、幹都と文葉に目を向けた。
「よーし、追いかけっこしようか! にいちゃんは石の上だけで、2人は好きに逃げていいぞ。その代わり、この線の中だけな」
そういってスーヴェラは枯山水の中に入り、白砂の上に足で線を引く。
「入っていいの?!」
幹都が驚いて声を上げる。文葉が喜んで飛び降りそうだったので、腕をつかんで止めた。
「いいのいいの。この模様、にいちゃんが描いてるからね。またあとでぱぱっと描き直すから」
笑いながらスーヴェラは足で陣地を引き終えていた。
「あ、私もする。最初のドラゴンはスーヴェラね!」
「え? ドラゴンって?」
「捕まえる役のことですよ。捕まったら食べられちゃうから逃げないとダメですよー」
アーシェラが両手を広げ、がーっと言いながら幹都と文葉に近寄ってくる。
文葉はキャーと笑顔で後ろに逃げ、幹都も笑いながら横に逃げる。
「あはは! 僕たちは鬼って言ってます」
「オニ? どんなやつ?」
スーヴェラの問いに、えーっと、大きくて角があってー、といいながら幹都が白砂の上に絵を描いていく。
小学生らしい技術は無いが可愛らしい絵だ。角や牙も生やす。
悪い鬼は人を食べたり困らせたりするけど、良い鬼は人を助けるの、と説明しながら。
「オーガみたいな感じかな? 面白いな。じゃ、今回はオニで行こう!」
そういって、枯山水内での鬼ごっこが始まった。
いつの間にかぷー子も参加していた。ぷー子は風魔法を使って、宙に浮かんでいた。自由に飛び回っているとあまりにも捕まらないので、ぷー子は文葉の胸の高さだけで上下には移動出来ない、というルールになった。
アーシェラとスーヴェラは、2人が鬼の時か幹都か文葉が鬼の時だけ、石の上限定、という制限が課せられた。たまに捕まえ損なったり避け損なって石から落ち、皆で笑いあった。
キャーキャー言いながら遊んでいると、何人かのハイエルフが通りかかったり見学したりしていた。
何人かはそのまま通り過ぎたり、鬼ごっこに混ざったりしていた。
「みんな、結構長いこと遊んでるけど、一旦休んで水分補給したら?」
幹都と文葉は見たことない、と思うハイエルフがお盆に水差しとコップを載せて持ってきてくれた。もしかしたら、さっき通りかかったハイエルフの1人かもしれない。飲み物を持ってきてくれたのだろう。
あー、疲れた、と言ってスーヴェラとアーシェラがそのハイエルフの近くによってコップを受け取り座り込む。
幹都と文葉も近くに行くと、ハイ、とそのハイエルフがコップを渡してくれた。
ありがとうございます、と2人ともお礼を言ってからごくごくとコップの中身を飲む。コップの中身は花の香りがする甘い飲み物だった。甘いがさっぱりしてて、2人はあっという間に飲み干した。
「おかわりいる?」
「「うん!」」
ハイエルフが笑顔で2人のコップに追加を注いでやった。
「これはね、ネリューという花の蜜を水で少し薄めたものなの。甘くて美味しいでしょ、疲れた時は元気も出るのよ」
二杯目を飲み終わると、ごちそうさま、とコップをお盆に載せた。休憩ーと言って、芝生の上に座り込んだり寝転んだりする。
「幹都ー、文葉ー!」
と、登志枝が手を振りながら2人に近づいてきた。後ろにはクルンディも一緒に付いてきている。
文葉が立ち上がり、登志枝に駆け寄って抱きついた。
「お待たせー」
登志枝も笑顔で抱きしめ、幹都にも笑顔を向けた。
幹都も笑顔で、いっぱい遊んでもらった、と報告した。
*****
ガルディミアは疲れで倒れただけだった。二人が治ったのを見て、気が緩んだのだろう。
さすがに疲労は治せないので、男性陣にベッドに運んでもらった。その後、建物内の怪我人の治療を一通り行った。
残念ながら、もう手遅れだった人達の繋がりは切れていたので、蘇生は出来なかった。魔道具で広場と里が繋がれば、向こうで一緒に見送りを行うらしい。
サーサリが準備が終わったと伝えてきたので、すぐに広場に戻る予定だ。
怪我人の治療に休み無しでこれから車の運転。聖母無双は続いていた。いや、運転は勘弁して欲しいと思ってはいるようだが。




