2. 大人と一緒に行動しよう
本日2回目の投稿です。
雅花は登志枝に手を貸し、車から地面に降り立つのを補助する。
着地の瞬間、胸の双丘が大きく揺れた。それを見て、雅花は少し気持ちが落ち着いた。
としえさんありがとう、と胸に向かって拍手を打つと、登志枝から冷たい目でにらまれた。その顔は明らかに青い。
二人は改めて手を繋ぎ、先ほどのまだ生存しているっぽい人のところまで駆け寄る。ちなみに雅花35歳、登志枝42歳。二児の父と母だが、まだまだラブラブである。
「……あれ? この人耳が……」
「うん、エルフっぽいよね。まぁ、そこらへんはおいおい考えるとして、つーか出来ればこの人から事情が聞ければいいんだけど…… とにかく! 俺、ちょっと他にも生きてる人がいないか見てくるから、ごめんやけどとしえさんはこの人見といて。傷口は縛ったから特にこれ以上することはないと思うけど、目が覚めたり何かして欲しそうだったら対応してあげて」
現場について、恐る恐る雅花の後ろから怪我人を覗き込んだ登志枝が、すぐに耳に気付いた。
それに、雅花が一気にまくしたてる。
「……わかった。目が覚めた時、言葉が通じればいいんだけど……」
「あー、最近の流行だと通じる系だけど、○家の紋章タイプだったら通じないね。出来るだけすぐ帰ってくるから。あと、一応何かされないように、手の届かないとこらへんにいてね」
そういうと、雅花は放置したままだった他の寝てる人たちのところに駆けて行った。
流行って何? と突っ込む余裕は登志枝に無かった。
結論から言うと、もう一人生きているっぽい人が見つかった。他の二体はダメだった。
ダメだった人の服を裂いて、雅花が一人目を見つけた時と同じように紐を作る。もう一人の服はそのまま剥いだ。
まだ生きているっぽい人は足首から先がどっちもなくなっており、腹も大きく切り裂かれて何かが見えていたというかこぼれていた。剥ぎ取った服越しに何かをお腹につめ、そのまま締めつけるように巻く。長さが足りなかったので一重だけなため、あまりしばる効果は見込めていない。
紐の方で、両足の付け根を縛る。残念ながら腹にまわすほどの長さは無かった。
そのままお姫様だっこで登志枝の方に連れて行く。
雅花、なんかもう血はなれたようだ。
(……なんか、思ったより軽いな)
などと、例によってどうでもいいことに思考を向ける。
ちなみに、お姫様だっこで運んでいるがこっちは男のようだった。体というか骨格の感じが。確かめたわけではない。
とすると最初の方は女性かなー、と雅花は意識を別にやって傷口を見ないようにしていた。
「ただいま。この人もまだ生きてる」
「おかえりなさい。……気付いたんだけど血は止まっては無いけど、余り流れてないみたい。もしかしたら助かるんじゃないかな」
「……そういえば、こっちの人もあまり血は出てない気がするな? 足首から先が無いってことは、確実に動脈切れてるよね? もっとドクドク血が出るような? ……それとも、もう血が足りないのかな?」
あっ、と登志枝が声を上げる。そっちの可能性は思いついていなかったようだ。流れる血が無いんだとすると、どちらももう手遅れなのかもしれない。
「……としえさん、こういう時って水とかお茶飲ませていいのかな?」
「わからない。した方がいいのかな?」
「お茶はあるよね。……傷薬って持ってきてたっけ? いや、さすがにこれはつけるだけ無駄か」
「父っ!!」
その時、幹都の声が聞こえた。
車の方を見ると、幹都が車の窓から顔を出して手招きしている。
ちなみに、片山一家はお父さんを父、お母さんを母、と呼ぶ。幹都がしゃべれるようになる前から見ていた、某光の国の巨人のお話の影響である。文葉も一緒である。これは幹都が小学5年生、文葉が小学1年生になっても続いていた。
登志枝に目配せすると、雅花が車に駆け寄る。
「幹都っ! あんま大きな声出したらあかん! もしかしたら他からなんか危ないのが寄って来るかもしれんねんからっ!」
雅花、思わずお国の言葉が出ていた。あと、雅花の声も十分大きい。
ちなみに、雅花は普段は標準語で話す。本人曰く、仕事の都合で標準語圏に長くいたせいで、標準語が移ったそうだ。本人に使い分けている自覚は無い。
「ごめんなさい、でも、向こうから声が聞こえて……」
「え、どっちから?!」
あっち、と幹都は車の正面左側を指差す。丁度車を挟んで生存者の逆側だ。
よく見るとそちらから何かが出てきたような後がある。もしかしたら、この獣とエルフ達はそっちから来たのかもしれない。
「あっ、今も呼んでる。父は聞こえる? 文葉は聞こえないって言う」
「……え? いや、父も聞こえんけど…… マジで?」
「……うん、聞こえる。誰か、って呼んでるみたい。すごい弱弱しくて聞こえづらいけど……」
「……わかった、父が見てくる」
「僕も行く。僕も行った方がよさそうだし、来て欲しそうだから」
雅花は少し驚いた。幹都はどちらかと言うと大人しいタイプだ。あと危険な橋は渡らない。
食べ物も、新しいものには挑戦せず、食べたことのあるものだけ注文するタイプだ。片山家は食べに行った時は一口ずつ他の家族にも食べさせる。その時にレパートリーを増やすのだ。
正直、危ないから連れて行きたくない。でも、息子が自分から行くといっているのだ、父親としてこんな感動することは無い。
「危ないぞ、大丈夫か?」
幹都がコクンとうなづく。
ふみはもいく、と文葉も小さな声で言ってきた。手は幹都の服をしっかりと握っている。
「いや、さすがにおふみは危ない。母呼んでくるから、二人でお留守番してて?」
一人が怖かっただけなのだろう、そういうと文葉はあっさりうなづいた。
二人を車に残して登志枝を呼びに行く。生存者の二人は、雅花がお姫様だっこで車の後方近くに運んでおいた。
ちなみに、車は獣の上に綺麗に着地したみたいで、後方には獣の後ろ脚とお尻と尻尾がデロンと伸びている。そこから少し離れたところに寝かしておく。何か変化があったら登志枝がすぐに気付くように。残念ながら、運んでいる最中はなんの反応も無かった。
雅花が生存者を運んでいる間に、登志枝は後ろ足の方から獣の体を上って、車の後部座席に乗った。入れ替わりに幹都が降りてくる。
「じゃ、ちょっと見てくる。おふみ頼んだね」
「うん、幹都とまさはなくんも気をつけて」
「みきと。ぷースケは?」
文葉が、ハイっと15cmぐらいの小さなクマのぬいぐるみを幹都に渡そうとする。二人のお気に入りの人形たちの一つだ。幹都が小さい時に登志枝の姉がくれた物で、文葉にも色違いの同じ人形を送っている。そちらはぷー子。文葉が反対の手で抱っこしている。
「持って行って落としたら大変だから、文葉が預かっといて」
「あい!」
幹都が首を振りながらそう答えると、文葉が2匹、いや2人をぎゅっと抱きしめながら返事した。
ちなみに。文葉のその姿に、雅花は天使がいるなとうなづき、登志枝は携帯で写真を撮りまくっていた。
いってらっしゃいと、登志枝と文葉が二人に手を振る。
雅花と幹都はそれに手を振り返し、幹都が指し示す森の中に入っていった。