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15. おはようございます二日目です

 少しの眩しさを感じ、雅花は目を覚ました。思ったよりもすっきりと目が覚めた、寝心地は相当良かったようだ。

 雅花が番を買って出た後、小一時間ほどしてからぷースケとぷー子が見張りと番を交代してくれた。この二人は特に寝る必要が無いので。

 深夜に交代する予定だったハイエルフの方にもすでに伝えたとのことだった。なら最初から番をしてくれればいいのに、と言いたいところだが、文葉と幹都が二人と一緒に寝るので、寝付くまでは側にいたのだろう。

 ちなみに皆が寝ているところには、神獣とハイエルフに教えてもらって、ぷー子が魔法で『結界』のようなものを張った。このため、地面から熱を奪われることも無く一定の温度に保ってくれるらしい。夜露とかもある程度ははじいてくれるので、濡れる心配も無いし服に汚れがつくこともないそうだ。

 ただし、魔力にもよるが雨風を防げる程ではなく、シースルーであり、虫や動物の侵入も防げそうに無いところが微妙なところではある。

 ビニールシートを張る魔法かな、と片山一家は理解した。とりえあず、これでどこでも食事が可能である。

 現在は、魔獣の影響で周囲に虫も含めて生物はほぼいないそうだ。木々も大分弱っており、パッと見わからないが内部が枯れたり腐ったりしている木もあるそうだ。手遅れの木もあるが、今は『浄化』のおかげで問題ないらしい。

 ということで、心地よい眠りについて、雅花の体調はすこぶる良かった。

 大きく伸びをして、パチッと目を開ける。


「あ、まさはなくん起きた?」


 登志枝が車の方から歩いてきて声をかける。飲む?と水筒を手渡してくる。


「さっきぷー子が入れなおしてくれたから大丈夫よ」


 ぷー子は魔法で飲み水を出すことが出来た。登志枝も出来るのだが、ぷー子の方が出る量が多く質も良いらしい。神獣曰く、適正や熟練度によって変わってくるらしい。水、風、火、土魔法については、片山一家の中ではぷー子が一番適正が高いとのことだ。聖魔法はダントツで登志枝だそうだ。ちなみに、幹都も出せる。文葉は出来るはずだが、出せていない。はみごは雅花とぷースケだけである。


 ありがとう、と上半身を起こし座った状態で受け取って周りを見る。まだ寝てたのは雅花と子供二人だけのようで、皆すでに周りにいなかった。


「……何してんの、あれ?」

「日向ぼっこ、かなー?」


 神獣は車の隣にいた。大分気に入っているようだ。

 そしてハイエルフ達だが、光が差し込んでいるところで直立し、半目で少しうつむいた状態で微動だにしていなかった。


「……寝てるの?」

「さぁ? 邪魔しちゃ悪いかな、と思って近寄ってない。ポノサマは、普通のことだから気にしなくて良いって言ってた。陽の光に当たるのが好きで、午前は大体ああしてるんだって」

「……光合成かな?」

「意外にそうなんじゃないかと私も思ってる」


 陽の光に照らされてたたずむハイエルフ達は何かの彫像みたいで、大変美しかった。

 しかし、知り合いが皆微動だにせずに突っ立ている光景というのは、正直微妙だった。

 綺麗より先に怖いが来る。見慣れたら平気かもしれないが。


「とりあえず、朝ごはん食べる? 子供たちも起こそうか」


 腕時計を見る。子供たちは12時間は寝ている計算だ。雅花も10時間以上は寝ていた計算になる。


「そういえば、時間とか日付とか特に聞いてなかったね。見た感じ、同じみたいだけど」

「今度聞いてみよっか。でも、同じって不思議ね」

「鑑定では間違いなくヒューマンだ、ってポノサマも言ってたし、パラレルワールド的な感じなのかもね。基本同じ進化で同じ星で、ちょっとずつ違うだけなのかもねー」

「おもしろいし素敵ねー。とりあえず安全そうだし、色んなところを見て回りたいね」

「としえさん、花とか自然とか好きだもんね。虫も、常識レベルの大きさなら綺麗なのいそうだから見てみたいけど、こういうところの定番ってデカイヤツなんだよなー」

「おっきいのは私も勘弁してもらいたいかな」


 ふふっと二人とも笑ってから、雅花が登志枝に手招きして正面に座らせる。改めて雅花がおはよう、と言って登志枝を抱きしめると、登志枝もおはよ、と抱きしめ返しポンポンと背中を軽く叩いてから離れ立ち上がる。


「よーし、幹都、おふみ、朝よー。起きて起きて。とりあえず、顔を洗ってご飯食べよう」

「幹都-、おふみー、朝よー」


 雅花も立ち上がって二人に声をかける。登志枝は二人の間にしゃがみこみ、抱きしめながら声をかけた。

 文葉がパッチリと目を開けて、登志枝にぎゅーっと言いながら抱きつき返す。幹都は、んー、といいながら伸びをするが目はまだ開かない。

 雅花が果物を入れているエコバッグの中を見やると、昨日の晩と比べそこそこ減っているようだった。


「あ、みんな起きなかったから、先に食べてもらったよ?」

「いいよー。みんな食欲出てきたんだね、よかったよかった」


 エコバッグごと果物を持ってくる。ぷー子がいないので、登志枝に水を出してもらってプルーンやりんごを洗ってそれぞれ食べる。

 登志枝は先に食べていたので、座って皆と話だけしていた。

 ある程度口に入れたところで、神獣が車から離れ近寄ってきた。


「ポノサマ、おはようございます」

「「おはようございます」」

「おはよう。トッシェからは野宿は初めての経験だと聞いたが、休めたかの?」

「予想以上に快適でした。ポノサマも体調はどうですか?」

「まだまだじゃが、昨日に比べると大分マシじゃの。ところで、マッサナよ、ちょっと手伝って欲しいのじゃが」

「はぁ、なんでしょう?」


 のっしのっしと近寄ってきた神獣が雅花の近くまで来てちょこんと座る。改めてみると相当でかいなー、と雅花は神獣を見上げた。

「そろそろ魔獣のヤツを葬ろうと思う。もう死んでおり『浄化』も済んでおるが、死体をあのままには出来んからの」

「えーっと、穴掘りとかですか?」

「穴も掘るが魔法でやるし、それはぷー子かトッシェに手伝ってもらうわ。そなたには、牙と爪を剥ぎ取ってもらいたい」


 剥ぎ取りデスカ?と雅花は首を傾げる。若干口調がおかしい。


「うむ。討伐の証がいるし、牙と爪には力が宿っておる。……素材としてなら内臓なども貴重なのだろうが、大分傷んでおるし、出来れば全て無に返したいのじゃ。そういう意味では牙と爪も消し去りたいところじゃが…… まぁ、何かの役にはたつじゃろう」

「いえ、それ以前に私が剥ぎ取るんですか? やったことないんですけど……」

「我の手では出来ぬからの。まだそこまでの力は戻っておらぬ。完全に消し去るのなら簡単なのじゃが、剥ぎ取るとなるとなかなか繊細な作業が必要なのでの。ハイエルフ達も、まだそこまでの力仕事は出来ぬであろう」

「えーっと、向こうの世界では剥ぎ取りとか一般的でないので、普通は出来ないものなのですが」

「大丈夫じゃ、我が教えてやるから言うとおりにすれば良い。そこにハイエルフの剣が転がっとるじゃろ? それを使えば良い。許可は取っておる」

「一応、グロいの苦手なんですけど……」

「何を言うておる。ハイエルフ達の遺体を集めたり処理したりしてくれたんじゃろ? あぁ、そうじゃ。後でハイエルフ達の遺体を焼くのも手伝ってくれ」

「え、火を起こすのですか?」

「それは魔法でやってもらうわ。いいからいくぞ。大丈夫、大した苦労ではないわ」


 そういって神獣はのっしのっしと魔獣の方に歩いていった。雅花も立ちあがり、剣を取って後を追う。と、ピタっと止まって振り返った。


「一緒に来る?」


 三人とも皆首を振り、いってらっしゃい、と手を振った。

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