11. 灰エルフってなんですか?
神獣、片山一家、ハイエルフの面々は合流後、とりあえず蘇生についての説明を受けていた。
まず、欠損の再生は可能だそうだ。ただし、登志枝が心配していた通り、対象の記憶や意思みたいなものの助けを借りないと、前と同じものになることはないそうだ。なので、欠損してから時間が経ち過ぎるとやはり上手くいかないらしい。もちろん、適当に再生することは可能なので、最悪無いよりは前と違っても有るほうを選ぶだろうとのことだった。しかし、そもそも欠損の再生は相当な魔力と才能を必要とするので、普通はほいほい出来るものではないらしい。
よって、死亡状態からの蘇生でついでに欠損の再生も行う場合は、間違いなく微妙に違った感じになるだろうとの話だった。パーツをかき集めて蘇生したのは正しかったのである。神獣曰く、蘇生は再生以上に魔力を必要とし、ヒューマンが蘇生と再生を同時に実施した例は神獣も知らないらしい。もちろん、本調子ならば神獣は出来るそうだが、蘇生と同時に前と同じ四肢の再生は神獣でも無理だろうとのことだった。
以上から、大きく欠損した状態での蘇生は無理との話だった。例えば頭が無い場合は無理、重要な内蔵器官が欠損している場合も無理だろうとのことだ。心臓をえぐられてたり、体に大穴が開いているなどである。まぁ、心臓だけなら上手く血管つなげればいけなくも無いかもしれないがのお、とのことだったが、そうそう試す機会など無いであろう。
よって、下半身が無い、上半身が無い、肩口からあばらや腰骨付近まで食われていたなどの死体も蘇生は無理だった。
また、魂との接続(登志枝が魂的な魔法的な、と言っていたやつ)が切れているのは死体が綺麗でも無理だそうだ。
魂を呼び寄せる術が無いわけではないそうだが、それはもう人の領域ではなく神でも許されることではないらしい。魂との接続が切れている体を無理に蘇生すると、何が憑依してくるかわからず、本人のフリをした別の悪意ある何かが入ってくる可能性もあるため、絶対にすべきではない、と釘を刺していた。
よって、残念ながらハイエルフ全員が助けられたわけではなかった。
それでも0が7になったのだ。登志枝はハイエルフたちから崇められかねない勢いで感謝されていた。
神獣も登志枝にありがとう、と頭を下げ、ハイエルフたちにすまない、と頭を下げ、登志枝やハイエルフを慌てさせていた。
特にハイエルフ達は、恐れ多いだの神獣様が生きていて良かっただの、皆に泣かれ縋りつかれ、とされていた。
その光景を見て、雅花はハンカチで目じりをぬぐい、登志枝はボロボロ泣きながら良かったねと呟き、幹都は涙目で鼻をすすり、文葉は神獣の背に抱きついて泣いていた。片山一家、少々涙もろい。
(しかし、ポノサマって結構慕われてるんだなー)
雅花は一息ついてから、かなり失礼なことを考えていた。考えるだけで声には出していないので、一応彼なりに空気は読んでいる。
「まぁ、ポレノー大森林の守護者たる神獣じゃからの」
ビクッと雅花の体が動いた。誤魔化すように、髪をかきあげ頬や口を両手でまさぐり、決まり悪そうに声を返す。
「……えーっと、顔に出てました?」
「神獣じゃからの」
神獣が雅花の方を振り返り、にやっと笑って見せた。顔は熊なのに。
未だ泣きはらしていた登志枝は良くわからず首を傾げた。子供たちも良くわかっていないようだが、笑顔を浮かべていた。
ハイエルフたちも一連のやり取りが良くわかっていないようだが、泣くのは一旦落ち着いてきたようだ。
色々と、丁度良いタイミングだったようだ。
「……はーっ。あっ、そうだ、ポノサマ。灰エルフの皆さんのことなのですが」
登志枝が涙をハンカチでぬぐい、一息ついてから神獣に問いかける。が、
「「灰エルフ?」」
「「「……ポノサマ?」」」
神獣と雅花が声をそろえて首を傾げ、ハイエルフ達は神獣への呼びかけの言葉に首を傾げていた。
「はい、灰エルフの方達の体力がどうも戻らないようなのですが、何か理由があるのでしょうか? 何か私に出来る事はありますか?」
「あー、それはの。蘇生や再生した後は体がそれを維持しようとするのじゃ。やはりかなり体に無理をさせるからの。どうしても体の全ての機能を使ってしまうのじゃ。必然的に、やはり1日、2日は体の調子は悪いままじゃが、時間が来れば元に戻る。案ずる必要は無い、休息が必要なだけじゃ」
「あれ? でもポノサマは普通に歩いてましたよね? 幹都とおふみも乗せてましたし」
「これでも神獣じゃからの。体力は普通以上にあるわ。それに、我は蘇生じゃないからの。まぁ、我もまだまだ本調子ではないので、派手に動くことは出来んしスキルや魔法も今日は使いたくないのー」
登志枝と雅花の質問に、神獣が答える。
なるほどー、と雅花はうなづき、登志枝はほっと息を吐いた。
「ありがとうございます。いえ、灰エルフの皆さんはまだあまり動けなさそうなのに、ポノサマは大分元気になったように見えたので、何か失敗してしまったのかと」
「あー、トッシェよ、その灰エルフ、というのはなんのことじゃ?」
え? と登志枝が首を傾げる。
「……あれ? まさはなくん、さっき灰エルフって言ってなかった?」
「え、俺? いや、ハイエルフとは言ったけど…… って、あーあー! 『灰』と『ハイ』ね。日本語じゃないと違いわからんわ」
ちなみに、神遣語では『灰』と『ハイ』の発音はまったく違う。
「あっ、そういうこと?! ごめんなさい、ポノサマ、皆さん。私が勘違いして聞いてました。私たちの言葉だと発音が一緒だったもので」
「……あの、聖母様。ポノサマとはなんのことでしょうか?」
最初に蘇生したハイエルフが手を上げて少しためらいがちに登志枝に質問する。
(えーっと、右手と右脚が取れかけてた、ピローテスさんかー)
最初にピローテスの名前を聞いた時、雅花は惜しい!と思っていたがもちろん声には出さなかった。雅花もそのくらいの空気は読む。
透き通るように白い肌、全体にすらっとしたプロポーションというかペッタン。髪は長いが白髪でも金髪でもなく、薄い翠色。でも髪型や顔の感じはなんとなく似てるかも、と雅花はピローテスをじっと見つめた。
登志枝もピローテスも特に気付いていない。微妙に違うから、いっそ名前も違うのが逆にそれっぽいかなー、などと雅花は考えていた。
「ポノサマは神獣様のことです。愛称というか、夫がつけたのですが――」
「そういえば、としえさんは○ードス知らないんやっけ?」
「えっ、何の話?」
良くわからない話題で話をさえぎられ、登志枝が驚きで大きな目を更に見開いて雅花を見つめる。ちなみに、幹都と文葉も登志枝似で、クリクリと大きな目をしている。
「あっ、ごめんごめん。えーっと、ポノサマですが、ポレノー大森林の神獣様なので、縮めて。あと、うちらの国の昔の言葉で、領主様とか君主のことを『殿様』と言います。それとも引っ掛けています。尊敬と愛情を込めた愛称です」
「なるほど、深い意味があったのですね」
「……まぁ、好きに呼べば良いといったしの。我ももう慣れた」
神獣は若干微妙な顔をしているが、雅花はスルーした。
「ところで、休息が必要なのでしたら、もっと安らげるところに移動したほうがいいと思うのですが、ポノサマの住処とかハイエルフの皆さんのお家とかは近くじゃないんでしょうか?」
「ここからじゃと少し遠いのお。今の我らではたどり着くのは無理じゃろうな。ここで一晩過ごすほうが良いじゃろう」
「……えーっと、あの魔獣の死体とかどうしましょうか?」
「うむ、その始末もしていきたいしの。じゃが、するにしても明日じゃの、今の我の体調では無理じゃ。せっかくじゃから、その間にそなたらの話をじっくり聞きたいしの」
「そうですね。私も色々とこの世界のことを聞きたいですし」
正確な時間はさっぱりわからないが、こっちに来てから結構な時間が経っている。大分長い一日だった気がする。移動中に夜になるのも嫌だし、見晴らしも良い、神獣もいるしそういうならばここが安全なのだろう。
ということで、片山一家の野宿が決定したようだ。まぁ、車もあるし何とかなるだろう。
「一つ問題があるとすれば、なんですが」
「……ふむ、魔獣はもう大丈夫じゃぞ。『浄化』もしてもらっておるし我もおる。もう動いたりアンデッド化する心配も無い」
「あ、いえ、そっちではなく」
雅花が手と首を振り、辺りを見回す。
「食事、どうしましょう?」
なんとなくスイミーのCMを思い出してタイトルをつけたのですが、調べたらギターペイントだった驚き。
※「灰エルフの色はどんな色?」ってタイトルだったんですが、規約読み返したら替え歌もダメって出てたので、念のためタイトル変えました。
まぁ、このタイトルからギターペイントにはたどり着かないとは思うのですが、あとがきにしっかり書いてしまったので、念のため。すいません。




