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鍬は剣よりも強し~食育で目指せ最強の勇者~  作者: ツクツク法師
すばやさのタネ~何よりも速さがたりない?~
8/9

幕間~森の店長さん~

 静寂の中で女神は一人、自身が作り出した世界の中で内心焦りに震えていた。

 「まじ、べーっしょ……このままじゃ店長が帰ってきたらあーしも彼ぴっぴみたいにクビちょんぱ……そうなったらあーしの野望が……」

 そう小声でぶつぶつと額に冷や汗を浮かべひたすらに手にしたスマホを操作する。そこには彼女が彼ぴっぴと呼ぶ男神からのメッセージがめまいが起こるほどに届き、鳴り響いていた。

 なんとかして誤魔化さなければと呼び出した勇者もいまだ最初の町を抜け出してすらいなかった。そもそも、送り出してすぐ魔王を退治するなど無理なのだが自身の保身しか考えていない彼女は自身が送り出したその勇者へと見当違いな抗議を口にする。

「ほんと、この愚図は何してんの? さっさと魔王なんてシメてほしいんですけどぉ!」


 焦る彼女は行動に移すこともできずただひたすらスマホの画面をスライドさせる。

 その画面にはこう書かれていた……[GODGLE 検索……魔王システム止め方]と。

「女神見習のあーしが何でこんな目に……」

 そう、そもそも彼女は女神ではなくその見習いであった。

「店長に見つかったらあーしの神資格はく奪どころか天界追放なんですけどぉ!!!」

 涙目で叫ぶもことは何も変わらず、ただ無慈悲に時計の針は進んでゆく。

「や、やっと見つけたっしょ!! マニュアルには勇者を送り込んで倒してもらいましょうなんて書いてあったけどやっぱり抜け道で強制終了っぽいのあるんだってほらぁ」

 唯一の希望にすがるべく力を込めた指を下へとスライドさせる。

「えーと、なになに? 勇者を送り込んでも止まらない場合でも魔王システムの核である魔王が世界から何らかの要員で排除または消滅させられた場合に解除されます、その世界の誰かが魔王を倒してくれるのを神に祈りましょうwww……ふざけんなっつーのっ!!」

 盛大に腕を振り上げて地面にスマホをたたきつける。バリンっという音とともに割れたスマホは光の粒子となって天井をすり抜けてゆく。

「はぁ、はぁ、まじありんてぃー……これ、どうあがいても積みじゃん……まじないわぁー」

 今にも膝から崩れそうな体を何とか持ち直すがその青ざめた顔は一層色の濃さを増してゆく。


 その時だった、世界が一変する……。比喩でもなんでもない、物理的に世界そのものが作り替えられてゆく。

 青ざめていた女神見習の顔はもはや青さすら抜けきり灰色と呼べるものになっていた。

 世界の再構築が済ませれるとそこは広い森の中となった、木々が生い茂り風の音色が心地よくほほをなでるその世界で空がひときわ激しく光る。

「ただいま」

 そう、一言だけ聞こえると光る空の一部分が形を切り取られたかのように落ちてくる。落ちてきた光はゆっくりと形をなし、それは現れた。

「バイトちゃん? 私がいない間に‘何も‘なかったよね?」

 その一言にすべてを知っているぞという意味が込められていることを悟った女神見習は白目をむき泡を吹いて倒れる。それを少し上空で見下ろすそれは美女の形を成していた。

 

 手折られそうな心を何とか持ち直し、女神見習はその美女へと言葉を紡ぐ。

「い、いやぁ、店長ぉ。ず、ずいぶんお早いお帰りっしたねぇ? せっかくの親戚の集会なんだからもっとゆっくりして来ればいいのにぃ」

 ひきつる顔を何とか笑顔の形に保ちない頭で話をずらそうとする。

「いやね? あっちの世界で見習い神が未担当区域にいる生物を異世界に転移させたとかであっちの世界の主神であるお爺様が急に呼び出されてしまってね、集会がお流れになってしまったの」

 光の幕が消えてゆきふよふよと地に降りてゆく店長と呼ばれる美女の顔は笑顔であったがこめかみに青筋を浮かべていた。

 

もはや言い逃れはできないものと思ったのか女神見習は全力で土下座に走る。

「すみませんでしたっ!! いや、あーしも押す気はなかったんですけどぉ、つまずいた拍子にぽちっと……」

 そう、潔く土下座に走り。見苦しく言い訳を立てた。

「どうか、クビだけは、クビだけは勘弁してくださいっ!!」

 もういっそ、すがすがしいまでに己のことだけを考えて許しを請う。

「よいのですよ?」

 その言葉を聞き崩れる顔が。

「あなたが前々から主神になってあの頭の軽そうな男神と一緒になりたいという野望というか夢を持っていたのは知っています。片方はもうかなわなくなってしまいましたがもう片方は私の権限を使って実現させてあげましょう」

 真顔になり。

「いやぁ、二人仲良くヘルヘイム行きなんて私ってなんでこんなに慈悲深いんでしょうね?」

 絶望に染まった。

「あぁ、あっ、あぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」

 盛大に泣き叫ぶが目の前の少女の顔が笑顔から変わることはなかった。

 それでも、彼女は自身がいう通りに慈悲をかけたつもりであった。本来ならば神血をすべて抜き取り、神としての地位だけではなく神族であることすらはく奪されるようなことをした愚かな者たちをその程度の罰にとどめたのはひとえに美女の危険がすこぶるよかったからに過ぎない。それほどの大罪を犯したのだ。


 「それでは、また5000年もしたら会いましょうね? それまで二人で反省でもしてなさいな」

 少しだけ目を見開き天に手をかざす。すると空に残されていた光が三つほどの光の玉となり地上へ降りてくる。

 それは姿を変え、古の物語に出てくる天よりの使いの形をとると何も言わずに元女神見習の腕をつかみどこかへと消えてゆく。

 その場に残された美女はゆっくりと前に進みだす。

 深い森の中を歩き一つの青い輝きを放つオーブをつかみ取る。

 「ふふふ、感謝は一応しているのよ? あちらに行ったとき久しぶりに顔を見れると思っていたのにいないんですもの……一時はどうしてくれようかとも思いましたけど……こうして結果だけを見るとこれはこれでアリですものね」

 つかみ取られたオーブは一層強く輝きを放ち、その柔らかそうな手の中で形を変えてゆく。

 あるいは瓶に詰められた薬、あるいは小ぶりな木の実……そしてあるいはキノコへとその姿を自在に変えてゆくのだ。

「自分が気にかけていた彼の成長が少し見れただけでも感謝に値するわ」

 そうして微笑みを絶やさないその美女の口が角度をさらに上げると同時に手に持ったオーブは砕け、天へと光となって登ってゆく。

「見せてね? あなたがどんな者を育てるのかを……」

 そうつぶやくと美女の体は再度光に包まれその姿を変える。

 長身の女性であった彼女の姿は……年端もいかない少女の姿へと変わってゆく。

「さてっ、あっちの世界で買ってきたブルーレイを見なくちゃ! 今回の報復者達にはあのヒーローもでてくるしっ!!」

 どこにしまい込んであったのかもわからないカセットからディスクを取り出すと子供のような無邪気さでそれをこれまたどこからともなく取り出したポータブルプレイヤーで見始めた少女は……。

「期待してるわね、ヒーロー志望さん?」と小悪魔のように微笑んで見せるのであった。

メインヒロインよりも先に腹黒いほうのサブヒロインを出してしまいました。反省……

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