スライムもどきもドッキドキ~みんなオラに食料を分けてくれっ!!~
ボックスの町を出てから数日目が立ちました……会館で初心者用の装備一式を貸し出していたのでそれを受け取り喜々として町を出たまではよかった。
わたくし、絶賛餓死寸前の大ピンチに陥っています。
「こ、こんなはずじゃ……」
森の中で這いつくばりながら彷徨いそんなことをぼやくけれども事態はもはやぼやきを許してくれるほど甘い状況ではない。MG5(マジで餓死する5秒前)である。
なぜこんな状況になっているかというと不詳わたくしが町を出てから半日がたった頃合いの出来事でした。
出発時の話を聞く限りこの世界はゲーム風に言うといわゆるドロップアイテム換金システム方式らしい。倒したモンスターの体の一部を付近の村や町に常備されている魔討斡会(魔物討伐業務委託斡旋会の略らしい)の分館で換金を受け付けているとのこと。
体の大きいモンスター等物理的にそこまでもっていくことが困難なモンスターは分館等で依頼を出すと無料で取りに行き、そののち鑑定されて現金がやっと支給されるという形をとっている。
まぁ、モンスターの討伐は一回が長期間の遠征になることがほとんどらしく。小さなモンスターも一回ずつ換金するのではなく一か所にすべて集めておいて後に取りに来てもらうというのが一般的らしいが……。
「銅貨3枚になります!」
「へっ?」
ほとんど形を成していない装備品を申し訳程度に体にくっつけながら晴れ上がった瞼でその金額に唖然とする。
「ですから、スライムもどきの断片を3つで銅貨3枚になります」
「いや、いや、どうしてですかっ!?」
食い気味にそう突っかかるも受付の眼鏡のお兄さんは眉一つ動かさずに淡々と対応してゆく。
「もともとスライムもどきは脅威度が比較的少ない魔物ですし、少し素質がある人ならだれでも倒せますからね……がんばれば子供でも倒せることもあります。素材の使用用途も揚げ物をした時に炎上した鍋の鎮火位しかありませんし……」
頭が真っ白になる……あれだけ苦労して倒したモンスターが……ほぼ1日かけて死に物狂いで倒したモンスターが……たったの銅貨三枚……。
その真っ白となった頭の中でふと走馬灯のように昨日の夜から今日の昼までにかけての死闘が……後ろから妙にむにゅっとした感覚を感じて振り向くといた三匹のスライム(もどき)に驚くも初めての戦闘にやる気になり、剣を構える。
奇襲はされたが、それでもたかがこの世界最弱のモンスター。いくら俺の素質がオールFだからとて、人間様の頭脳にかかれば……。
そう思いながら剣を振ること小一時間、少しかすったりする程度でスライム(もどき)に決定打を与えられずにこちらはいいのを5発ぐらい貰って装備はほぼ意味をなさないほどにボロボロだった、もう完全にあいつらなめプですわ。眼も口もないがこっちあおりながら笑ってるの丸わかりですわ。だって揺れてるもん、なんかスライムの表面に波立ってるもんっ!
「だらっしゃぁ!!」
何とかようやく1匹目を倒したのがそれから2時間後、それを皮切りに2匹目も何とか倒す。
問題は三匹目だった、仲間の二匹がやられて余裕がなくなったのか。そこから怒涛の攻防戦の始まりである。
結局、すべてが終わったのは今から2時間ほど前。ほど近い街に何とかたどり着き、持ち帰ったスライムの残骸を鑑定してもらった結果が今の俺だった。
「その、ステータスの確認だけでもしていきますか? さすがにスライムもどきでも3匹倒せばレベル1から2ぐらいには上がってるでしょうし……」
あぁ、クールに興味なさげに俺の対応をしていた受付のお兄さんがなんか同情のせいかすごい優しくなってる……。
「はい、お願いします……」
いたたまれなさにさいなまれながらもレベルが上がっているかもしれないという若干の期待に少し気力が回復する。目は死んだままだが。
「それでは、目をつむってください……ハッ!!」
そうすると額に何やら生暖かい感触が当てられる。終わりましたといわれて目を開くとお兄さんの指の先が額にピッとつけられていた。もしかして、俺どっかに瞬間移動させられるんですか?
「二回目以降のステータスはこうやってスキルを持った人が額に指をつければ勝手にこの魔道具がプリントしてくれるので……えっと……レベル1っ!?」
まったくもってレベル上がってませんでした……。
「戦闘的素質ナシ判定が出た人でもさすがにもどき2匹で1レベルは上がるのに……必要経験値は……」
どうやら、どこぞの世界の教会のように必要経験値も教えてくれるらしい。どうかこれ以上傷が増えませんように……。
「必要経験値……8万9千……これって普通の人ならレベル上限に達する際の総経験値…」
その瞬間、あれだけ厳しかったお兄さんの顔が急になにやら自愛に満ちた顔になっていた。
「その、気をしっかり持ってくださいね。生きる道は人それぞれですから」
それって当回しに無理って言ってるもんじゃないですかぁ、しかも俺からまだ何も言ってないのにっ!!
「うわぁぁぁぁぁっぁぁ」
俺は走った、そりゃもうダチョウもチーターも吃驚な速度で走った……眼から汗が止まらず、口からは咆哮がほとばしる……まじかぁ、まじなのかぁ。
いや、そういう声もでるでしょ? さすがにこれはないわぁ……。
「はぁ、はぁ」
ひとしきり泣き叫んだところで一つあることに気が付く……別段敵と戦わんでもよくない? と。
別に受付のお姉さん(ほんとはお兄さん)のいう神水をすくいにいくだけなら戦わなくてもよくないか? と、そう思ったらあとは一直線だった……すかさず今日の雀の涙ほどの報酬を使い、パンを3個買う。
そのあとわき目も振らずに一心に神水のあるという神殿へと駆け出す。
もうみなさんお気づきのことかと思いますが、わたくしこの時すでに正気を失って自暴自棄になっております。
その結果、二日ほどで食料が尽き。森に入れば何か見つかるかと入ってみればゴブリンの縄張りで逃げるしかなく、水もくむ暇もなく逃げ続けて早3日……無事餓死寸前まで追いやられたのでした。
いつになったらヒロインが主人公に合流するのかいまだに僕自身もわかりません。
ここまで試験を伸ばすつもりもなかったんだけれどなぁ……