自分探しの道~受付番号を取って座ってお待ち下さい~
はい、というわけで建物に入ったわけなんですがね……。わかっているとは思いますが答え合わせ。
皆さんっ! ギルドですよっ! ギルドっ!! まぁ、こういう世界ではおなじみですね。はっきり言うと半分以上ほんとにそうなのか賭けの部分もあったんだけども。
内装を見てみるとモンスターの頭らしきはく製やちょっといい感じの剣などが飾られていかにもな風貌をしていらっしゃいます。
周りをきょろきょろ見すぎて田舎者扱いされるのも嫌なのでそそくさと受付らしきところへと歩を進める。
いかにもお役所仕事してますよっていうような受付で少し元いた世界を思い出す。書類を持っていったらそれはあちらの課に行ってください、これはこちらでは専門外なのであちらの課にってたらいまわしにされた記憶がよみがえる。
うん、今は忘れよう。せっかくやる気になっているのに自分でモチベーションを下げるのもよくないだろう。
そんな中、先ほど目にした街のがや達が出口に向かうためにこちらへ歩いてくる。
「いやぁ、すんごいもんみちまったなっ!」と何やらあった気配ではあるがこちらを見ても何も反応がないのが少しイラッと来たのでこちらからわざわざ聞くのはやめにする。
ふと、端に目を向けると興奮さめやまぬといった具合に二人の冒険者風の男が談笑している。
「いやぁ、それにしても。すごかったな……全素質特S級オーバーって初めてみたよ、さすがは勇者様だな……やっぱりああいう人が魔王を倒すんだろうな」
「当たり前だろう? なんせそのために召喚されたんだから」
「そうだよな、いきなりステータスの確認の後に館長室に呼ばれたんだから、あの頑固な館長がだぜ?」
そう言いあうとがっはっはと二人で笑いながらギルド会館から出てゆく。もう、祐樹がここにきて異世界召喚恒例のステータス確認での素質どやぁをやってしまったらしい……。
それにしても、あのガングロとはいえ一応女神の加護らしきものは貰っていたのか……。解せぬ。
しかし、俺もあいつを追い抜いて最強の勇者になると誓った手前で引けるわけもなく。加護も持たない自分がステータスを見ても平凡であろうことが理解できていながらもそれでもという決意で受け付けカウンターへと向かっていく。
「こんにちは、ようこそ魔物討伐業務委託斡旋会館へ」
訂正、ギルド会館じゃありませんでした……。自信満々で【そう、皆さんご存知の】とか心の中でドヤってた自分が恥ずかしいっ!! 誰かうめてっ!!
「あ、あのえっと、その仕事を斡旋してほしいのですが……」
「っ?、はい、承りました。初めての方ですよね? それではステータス確認の後に最低斡旋基準を満たしているかの試験の後に試用級の免許が配布されますので、あちらの試験課で試験を受けてきていただけますか?」
どうやら俺の内心の恥ずかしさは初めて来た会館で右往左往する初心者と受け取られたらしい。にしても、ここでもやっぱりたらいまわしですか……話を聞く感じ元の世界ほどぐるぐるはしてないみたいだけれど。
受付のお姉さんに手を振られ「頑張ってくださいねぇ」とか言われてあまり悪い気がしないまま試験課へと短い距離を歩く。
うん、これ分かれてる意味あるのかな? まぁ、意味でいえばたぶん作業負担の分割とかいろいろあるんだろうけれど。
受付前に行くとこれまた、美人なお姉さんが受付で待っていた。なんなの? ここって美人しか受付できない社則でもあるの?
「ステータスの確認と試験への受付ですね? それではこの反映盤の上に手を置いて目を閉じて集中していただけますか? それでステータスと名前等の基本情報も表示されますので」
なるほど、そうやって書類等を書かなくても済むようになっているのか……便利だなぁ。
言われるがままに目の前の石板の上に手をのせ、目をつむり集中する。石板をはさんでお姉さんが何やらうんうん唸っているが、もしかしたら異世界から来たら無条件で高ステータスになるとかっていうおいしい設定だったりっ!? とか期待してしまう。
「こんなステータス初めて見ました……すさまじいです……」
その言葉に自身の先ほどの期待が現実味を帯びていくのを感じ期待し胸躍る。
そうして美人受付お姉さんは一言つぶやく。
「全素質オールF……全部最低の素質です……」
世界にそんなうまい話なんてなく、むしろ世界は俺に絶望をたたきつけてきました。
「マジですか……」
「残念ながら、マジです……あの、申し上げにくいのですがここまでくると町から出ずに一生露店を経営する位しか……最弱のスライムもどきにすら勝てるかどうか……」
「マジッすか……」
いや、もうマジっすかとしか言いようがないよね、遠まわしにあんた町から出ると確実に死ぬぜ? って言われたもんですし……しかし、ここであきらめるほど俺は根性もろくないわけで。むしろ最弱から最強になるって浪漫でしょ? 少年漫画の王道でしょっ!!
もはや、俺の覇道を何人も止められない勢いで残念そうな何かを見る目のお姉さんに一言。
「それじゃ、試験の説明をお願いできますか」と告げる。
「えっと、あの、その」
と言葉に詰まるお姉さんを俺はまっすぐと固い決意で見つめる。何やら一瞬赤い顔で目線をそらされたような気もするが、そのあとすぐに俺の決意が変わらない事を察したのか淡々とした口調で試験の説明をし始めた。
「試験の内容はいたってシンプルですこのボックスの町から南西部分にある夕凪の神殿に祭られている神水を瓶ですくい持ち帰ってくというものです。ですが、その道中にはスライムもどきとゴブリンの群れが縄張りを敷いているのでそれを倒すか見つからずに通り過ぎるかでやり過ごしてください。期限は一週間になります」
その眼にはうっすらと涙がにじんでいるが、なにかわかりあった気がした俺とお姉さんはグッと親指を立ててにこやかにわかれた。
「ねぇ、あの人……死んじゃうんじゃ……大丈夫なの?」
「えぇ、きっとたぶん、生きては帰ってくるんじゃないかな……なんて」
「あんたって昔からそこそこ顔のいい男に流されやすいわよね……」
「だってぇ、あんな決意の目で見られたら……ねぇ?」
「はぁ、なんでそうなっちゃったかなぁ……あんたも昔はそのいい男だったのに……」
「私はいい男になりたいんじゃなくていい男に抱かれたいだけですもの」
「さいですか」
俺の唯一の幸運はその事実を知ることがなかったことかも知れない。