第1話 目覚め
瞼の裏に強い光を感じ、俺は目を覚ました。
目を開けると同時に、強烈な日の光が射し込んできたので、思わず手を翳し影をつくる。チカチカした視力が回復していくと同時に、翳した手に何か白い者が巻かれているのに気づく。
手に巻かれていたのは、包帯だった。
(………包帯?)
何故包帯が巻かれているのだろう…。考えてみるも、頭がぼ~っとしていて、上手く考えることができない。しばらくぼ~っと包帯を巻かれた腕を眺めていたが、次第に腕が疲れてきたので下ろすことにした。腕を下ろすと、今度は木製の天井が見える。知らない天井…ではない? ああ、何か思い出してきた。あんまり記憶にないけど、何度か目を覚ましては、この天井を見ていた気がする。
ここはどこだろう。さぁぁっと風が吹き、カーテンが舞う。
何かデジャブ。どこかでこんなふうにカーテンが舞うのを見ただろうか? う~ん。今一思い出せない。頭がボンヤリする。まるで霧がかかっているようだ。
頭上にある窓からのぞく景色は、綺麗な青空と、空を泳ぐ真っ白な雲。優しい冷たい風が入り込む。
視界に移る前髪が風に遊ばれる。色は黒。……黒? …………何故だろう、頭がズキリと痛んだ。
体を起こそうと少し動くと、背中に鋭い痛みが走る。何とか起き上がり、ベットボードに背中を預ける。何でこんなに痛むのか。それを確かめるため、着ている服を捲る。
(……………うわぁ~…………)
服を捲り、さらけ出された俺の体は、グルグルと包帯で巻かれていた。まるでミイラみたいだ。頭が覚めてきたからか、だんだんと体のあちこちからジンジンと痛みが伝わってきた。痛い。
布団から両腕を出してみると、やはりこちらも包帯を巻かれていた。ただ、さっき見た右腕ほど、左手は酷くはないようで、包帯の数も少なく、素肌が右手よりも覗いていた。ただまぁ、その肌は内出血か青くなっているんだが。
そして包帯は頭にも巻かれていた。頭に巻かれている包帯を適当に触っていると、ハラリと取れてしまった。………ま、いっか。
ぐるっと部屋を見渡す。それなりに広い部屋だった。だが、置いてある家具が俺が寝ているベットだけだったので、どこか寂しい。窓から鳥の鳴く声が聞こえた。
体で唯一、下半身は余り痛みがない。ハラリと布団を捲ると、湿布のようなものが巻かれているところが数か所。それだけで包帯も巻かれていなければ、青痣もあまり見られない。普通の子供の小さな足があった。
おお、足はあんまり怪我してない。良かった、良かった。ほっと小さく息を吐く。だが、ふと違和感に気づく。
(………俺の足…小さすぎないか?)
そう、今しがた目にした足は、まるで子供のようなふっくらとした足で。とてもとても十………? あれ、俺いくつだっけ?
何かがおかしい。そういえば、今更だが手も見慣れものではなかった。包帯を巻いていたが、どう考えてもサイズが小さかった。
何が…どうなっているんだ? ずきっと頭が痛む。
そもそも、どうして俺はこんな怪我を負っているんだ? ここはどこだ? どうして俺はこんなところで寝てるんだ? 俺の体に何が起こった? 俺は少なくとも……? あれ? 大学生ってなんだ? ……………………あれ………?
――俺は、誰だ?
◇
怖い。頭が真っ白だ。
ここはどこだ? 何でこんな怪我してる? そして、俺は一体誰なんだ。分からない。何にも! 分からない!
怖い。怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
俺は自分の体を抱きしめる。まるで寒さに震えるように、体が震える。
足を折り曲げ、さながら体育座りをしているように、丸くなる。頭を膝で挟むように埋める。
一体どれだけの時間、そのままでいただろうか。短かったかもしれないし、長かったかもしれない。でも、少なくとも時間は過ぎていて、誰かが、来た。
コツコツコツ。足音だ。今はまだ遠い。心なしか、近づいてきている気がする。こ、怖い。誰が来るんだ? 頼む、こっちに来るな!
そう願うも、その足音は一向に遠ざかる気配はない。寧ろどんどん近づいてくる。
時間にして、数秒。しかし俺にはひどく長く感じた。まるで、処刑台にでもいるかのようだ。
コンコン。ノックがした。俺は慌てて毛布をかき集め、覆いかぶさる。本当は寝たふりでもしてやり過ごそうと思ったのだが、背中の痛みにすぐに動けず、そうしているうちに、ノックが響いたのだ。
ガチャ、とドアが開く。俺はびくっとなって、きつく目を瞑る。
「……あら?」
その声は、俺の恐怖何て吹き飛ばすような、優しい声だった。震えが少し収まる。どうやら怖い人でも、変な人でも無いようだった。
……………?
無音。な、何だろう。どうしてこんなに静かなんだ? 俺はそろりと布団を下ろし、目だけを出してドア付近を伺う。
そして、1人の女性と、目が合った。
「……っ! 目が、覚めたのね!」
そう言って、す~っと涙を流したのは、金髪碧眼の美人さん。そしてやたらと、耳が長い。
どうしてだろう。何だかこの人を見たことがある気がする。一体いつだったか………、あ。………あ? …あんまり覚えてないけど、何回か起きたときに、何か食べさせてくれた人? そんな気がする。
部屋の入ったところで静かに泣いていた女性は、目元を指で拭うと、ゆっくりと部屋に入ってきた。そしてベットの傍まで来て、ベットに腰掛ける。
「おはよう。目が覚めてよかったね!」
優しく微笑みながら、女性はそう言った。
……日本語じゃあ、なかった。俺の知らない言葉。一度も聞いたことのない言葉。正直、日本語か何かもよく分かっていないけれど…全く、聞いたことのない言葉…なはずなのに、意味が分かった。
「…え、……あ…う………っ」
うまく言葉が出なかった。何て言えばいいんだろう。そもそも、ここはどこだ? この人は、誰だ?
そんな俺の想いを見透かしたように、女性はまたニコリと笑った。
「ここはね、小国レフリアの王都、カザルムにある、カザルム王立孤児院。君のことはミウから少しだけ聞いてるわ。ゴブリンからミウを助けてくれて、本当にありがとう」
そう言って、女性は深く頭を下げた。
しかし、俺は今それどころではなかった。
(この人は…何を言っているんだ? 小国? 王都? 孤児院? ゴ、ゴブリン!? それにミウって誰だ!?)
レフリア? カザルム? 俺は今得た情報を一生懸命整理していると、廊下から、女の子の声が聞こえてきた。
「せんちぇ~? エフィルせんちぇ~?」
この声は…聴いたことがある。
ドアの端から、ヒョイっと、一人の5歳ぐらいの女の子が、覗くように顔を出した。
俺は、あの子を知っている。白髪に綺麗なルビーの瞳。そして、頭にちょこちょことある、猫のような獣の耳。
何故か、彼女のことはしっかり覚えてる。たぶん一番始めに目を覚ましたとき、俺の顔を覗き込んでいた子だ。俺と目が合って「起きたー!」って叫んでた、あの子だ。
目が合う。
女の子はびっくりしたのか、その大きな目をさらに大きくして、そして――
「おきたーーーーー!!!!!」
想像通りにそう叫んで、満面の笑顔を向けた後、ダッシュで俺を目指して部屋の中に入ってきた。
少し最後の方がうまく書けなかったので、たぶん後ほど編集します。