6話:小さな少女VS俺 (前編)
ある日突然、
いつも仕事で忙しい父が家に居て、いきなり俺の婚約者を発表した。
しかも、その相手は俺より8個も下のまだ8歳の子供である。
「元春、お前にもそろそろ結婚して、うちの血筋をひくものを産んでもらわなくては困る。そこで、私は家の血筋に恥じん人を探した。そして、見つけた。その相手は────」
「…ちょっ、待てよ!いきなり過ぎんだろっ!」
そんな俺の言葉に父は耳を向けず、話しを続け、遂には当の本人まで登場させた。
「どうも、こんにちは。平野舞花と申します。以後お見知りおきを。」
「そんな固くならないていいよ、舞花ちゃん。」
「ですが、おじさま。私は、家の代表のようなものでございますわ。なので、家に恥じぬように努めなければいけないのでございます。結果、私のこの話し方をお認めになってくださいまし。」
何だか、平野舞花という少女は、話が一々くどかった────
というか、何だか聞き手が話を聞くのを面倒くさがり、自分の意見を了承させるような話し方であった。
(めんどくさそうな女だ。)
それが俺の率直な平野舞花に対する第一印象である。
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「まあ、こちらが元春様がお世話になっておられる『学校』というものなのですね。」
「…ああ。っていうかさ、その喋り方俺と2人の時は止めてくれないか?」
「はて?理由を聞いても?」
「…いやぁ、そのっ、なんつーかさ…。」
「さっさ、言えや。」
ボソッと何やら目の前のお嬢様には不釣り合いの言葉が聞こえたような気がする。
「いやっ、何かあんたの喋り方ってさ、くどい気がすんだよ。それに俺がそれに合わせようとしちまう…まあ、ズバリめんどくさい!以上の理由からあんたの喋り方を改善して欲しいのだが?」
目の前のお嬢様の口元から笑みがこぼれる。
「ああ、やっぱり?(笑)うちもメンドー思ってたんだよな、こん喋り方…でも、あんたがうちのこの喋り方許してくれてちょい息抜きできるわ。」
(あれー?何だろう?この目の前にいる方言ベラベラのお嬢様はどちら様?)
俺の表情筋が強ばる────
つまりうまく笑えない。
「なあ、もうちょい他に喋り方無いの?」
「なんや?あんたがいい言うたんやろが。」
「いや、それはそうなんですけど、ね。」
するとそこに俺のボディーガードである佐倉花菜が来る。
「ご主人、すみません。色々あって、ご主人のとこに顔出せませんでした…ところでそちらの方は?」
すると、今までの方言ベラベラ喋っていたのが嘘だと思うくらい変わり身が早かった。
「すみません。申し遅れました。一宮元春様の婚約者となった平野舞花と申します。以後お見知りおきを。」
「ハア。ご主人には不釣り合いな丁寧で可愛らしいお嬢様ですね。」
────おいっ、佐倉花菜騙されるな!
コイツは、すっげー方言ベラベラの猫かぶり女だぞっ!
俺の一番苦手なタイプの!
「いえいえ、そんなっ!一宮様は、とても優しい方なので自分ももっと見つめ直さなければと常々反省しているとこです。」
俺は、嘘でもそんなに褒められると照れてしまう。
俺の頬が赤く染まり俯く。
佐倉花菜は、面白くなさそうに俺のスネをヒールで思いっきり蹴った。
ゴッという鈍い音がその場に響く。
「いってぇっ?!何すんだよっ!」
「そーですよ!一宮様になんてことなさるんですかっ?!」
嘘でも庇ってくれる俺の婚約者────
何か、嘘でもいいやと思ってしまう自分が情けない(泣)
「すみません。足が滑ってしまいました。最近、私の老化現象が激しいのですよ。」
────何っ、言っちゃってんの、この子?!
「あっ、そうだったんですか。」
────で、何信じちゃってんの、俺の婚約者?!
「おいっ、お前らもう俺授業受けないといけない時間だから、行くぞ!花菜も急いで行かないと遅れちまうぞ!」
「あっ、はい!」
「一宮様待ってください!」
俺は、すっかり平野舞花がこの学校の学生でないことを思い出す。
「あっ、そういえばお前、どうする?」
「是非、一宮様の学生生活を間近で見させていただきたいですっ!」
「…分かった。校長に取り次ごう。」
「ありがとうございます。」
「…ってことらしいから、花菜スマンな。」
「いえっ、別に。」
佐倉花菜は何が面白くないのかブスっとふてくされた顔をして、ヒールの音を高く響かせて去っていった。
────俺、何か不味いことしたかな?
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「…というわけで、今日1日だけ彼女がこの学校にいること許してもらえませんか?校長。」
場所は、変わって校長室。
許可を取るには、校長に取り次がなくてはいけないからな。
校長は、相変わらずすました顔をしていたが、平野舞花の本性を一発で見抜いてやがった。
怖い女だ。
どうやって見抜いたかは知らないがな。
「まあ、1日くらいならいいんじゃないかな。それに十傑のNo.6の一宮元春の頼みだしね。」
「ありがとうございます。」
俺は、やや引きつった顔をしながらも頭を下げる。
校長にカリをつくる事はあまり進んでやりたいことではない。
後で何を要求されるか分からないからな。
「ありがとうございます、今日1日お世話になります。」
そう言って、嘘の作り笑いをする平野舞花を校長は、冷たい視線で見つめていた。
「ああ。私は、生徒である一宮元春の頼みを聞いただけです。そんなにかしこまらなくていいですよ、お嬢さん。それにお嬢さんの演技はもうちょっと練習した方がいいですよ。」
そんなふうにアドバイスまでする校長は、凄く怖かった。
「────っ、何のことでしょうか?」
一瞬たじろいだが、作り笑いを崩さないこのお嬢様を俺は、すげえと思う反面、何が彼女にここまでさせてるのか凄く興味を持った。
「「失礼しました。」」
校長室から出た後、俺は教室に向かいながら平野舞花に聞く。
「なあ、なんでお前そんなに本当の自分を他人に見せようとしないんだ?」
「…何のことか分かんないんだけど。」
そう睨んできた平野舞花にその後俺は、何も言えなかった────
というか何も言ってはいけない、
聞いてもいけない気がしたんだ。
だけど俺は、これだけは言っておこうと思っていた事を平野舞花に言う。
「助けが欲しい時は、言えよ。いつでも助けてやる。」
その言葉を聞いた時、平野舞花の瞳は涙で潤んだ。
「…ありがとう。」