お嬢様が量子力学によって復活したマクスウェルの悪魔にたらしこまれた単元
それはある日のこと。
「なにをなさっているのですか、お嬢様?」
お嬢様が、水槽に向かって、何やら手を出し入れしている。
「あ、先生。これはね、永久機関なの」
また胡散臭いことを言い出したよこの娘は。
「で、誰から聞いたことをどうやっているんですか?」
「昨日夢にね、悪魔が出てきたの。それでね、この装置を教えてくれたの。実験が成功すればノーベル賞ものだって。やった! 私は賢い子」
その装置は、水槽の間に仕切りがあり、赤い金魚と黒い出目金が何匹かずつ泳いでいる。
「それでね先生、赤い金魚は熱血漢で、黒い出目金は冷え症なの。だから、ここで私が見張って、赤い金魚が左に行きたそうにしたらそこで仕切りを開けて移動させてあげるの。逆に、黒い出目金が右に行きたそうにしたら、やっぱり仕切りを開けて、黒い出目金を右に移動させるの。そうすると、最後には左が赤い金魚だけ、右が黒い出目金だけになるの。すると、左は熱血漢しかいないから温度が上がって、右は冷え症しかいないから温度が下がるの。エネルギー保存状態で熱差ができるの。 熱力学第二法則全否定なの」
「はい、よくできました。そこまで覚えられただけでも、私はお嬢様を賢い子だと自慢に思います。ところでお嬢様、そろそろお腹がすきませんか?」
「そうね、ちょっと疲れたし、のども渇いたわ」
「それではお昼にしましょう」
「わかったわ先生。今日のお昼はパスタがいいなあ」
お嬢様のお腹がすいてご飯を食べたくなった時点で、永久機関としては崩壊しています。
他の突っ込みどころも、馬鹿らしすぎて放置です。
ちなみにお嬢様、仮に熱差ができたとして、それをどうするんだというところで考えをやめた模様。
水槽の中では熱血漢の赤い金魚と冷え症の黒い出目金が、今日も一緒にのんきに泳いでいます。