自殺
私たちは夜の街に出た。
夜の街、大人の街。
酔っ払いに絡まれた。無視する。
弱い大人たち。哀れな大人たち。
私の父親と同じくらいの歳に見えた。
この人にも娘がいるかもしれない。
その娘はもしかして家出中かもしれない。
そう考えると、そのいるかもしれない娘に同情した。
うちの父親もいまごろお酒を飲んで、酔いつぶれているかもしれない。
公園の前を横切ると、ホームレスが私たちを変な目でじろじろと眺めた。
警察官が自転車で走ってきた。
二人で物陰に隠れる。
補導なんてされたら、と考えると恐ろしい。
また、あの残酷な日々に逆戻り。
そして親の厳しい監視下で大人になるんだ。
死ぬことも、生きることに喜びを見出すこともできずに。
警察官をやり過ごして歩いていると、煌々と照明をつけている、24時間営業のコンビニがあった。
店に入って、薬の棚に向かった。
なるべく多く入っているものを、一つだけ、買った。二つも買ったら怪しまれるから。
ホテルの部屋に帰って、洗面台でグラスに水を汲み、ビンの中の薬の粒を二等分して、「乾杯」と言って水とともに薬を全て飲んだ。
たくさんの死の粒が喉を下っていく。
グラスの水を飲み干した田中がこちらを見つめる。黒いまつげが濡れていた。
私たちは抱き合った。
全くセクシュアルな意味合いはなかった。
私は田中の耳元で囁いた。声が掠れた。
「さよなら」