可愛い子は・・・
「流してみろ!ってよく言うよねー。」
「はー。」
突然意味の分からない事を言い出す兄に、若干あきれ顔の次男河童。末っ子河童は栽培しているキュウリに水をやりに行ってるようだ。
「だーかーらー、可愛い河童は流してみろっていう先人たちの教えがあるじゃない。」
正確には可愛い子には旅をさせよ、である。可愛いからと言って甘やかしまくってちゃダメやでー、という意味だ。
「まぁ、聞いたことはあるがいきなりどうした。」
「いやさ、うちの可愛い弟君は河童だってのに泳げないじゃない。」
「そうだな。泳げはしないけど、水中呼吸はできるから溺れ死んだりはしないけどな。」
「河童に生まれてソレは損だと思いませんかねー!」
荒らぶる長男河童!!
「知らん、それは当の本人に聞いてくれ。今丁度帰ってきたみたいだから。」
次男は軽く受け流した!!
後ろを見てみれば、確かに末っ子河童がほくほくした顔で帰ってくる。
「あ、聞いてよ兄さんたち!もうすぐキュウリが食べれるようになるんだよ。」
嬉しそうにジョウロをぶんぶん振り回しながらスキップで駆けよってくる末っ子河童。兄たちも自ら可愛い弟の元へ歩み寄ってやる。
「そうかいそうかい、ソレは結構なことだね!ところで可愛い弟よ、君ってば泳げないんだってねー?」
「やぁ兄さん。いきなりどうしたのさ?・・・まぁ、泳げないけど。」
「まぁ、大人の事情ってやつなのさ。僕が泳ぎってやつを教えてあげるよ。」
「・・・大丈夫なのか?兄さんに教えさせて。」
「何言ってるんだい、可愛い次男坊!こんなに真面目な僕がひどいことスルワケナイジャナイカ」
「・・・そうかい。」
そんな風に騒ぎつつ、河童たちは弟の手を引いて上流へと辿り着いた。
「・・・こんなに流れが急な所で大丈夫なの?」
「大丈夫だってー」
「なんか、嫌な予感しかしないのは・・・」
「木の妖精さんの仕業だってー」
「・・・それで、どうやって教えてくれる・・・」
「体で覚えるのが一番です」
ぺイッ・・・バシャーーーーンッ
なかなか勢いのある川の水の中に投げ捨てられる末っ子河童。
「ア゛------!!」
どんどん岸から引き離されていく末っ子を見送る兄ニ匹。
「・・・流されてるぞ、泳ぎを教えるんじゃなかったのか。」
「僕は先人の教えに従ったまでよー?これがホントの河童の川流れ!」
「やれやれ・・・」
その後、末っ子河童は中流にて無事に回収された。そして、二度と長男河童に泳ぎを教わらない事を心に決めたのだった。
さらにその後・・・
「はい、そこでバタ足。」
末っ子河童は自分たちの住む流れの無い穏やかな川で、次男に泳ぎを教わり、ある程度泳げるようになった所で再び長男に上流で流されたそうだ。