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錆喰いの古刀(ラスト・イーター)  作者: 赤紫


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拒絶する魂と継承される意志

混迷の四重奏カルテット

1. 肉の壁と鉄の杭

「殺せ! 殺せ! 殺せぇぇぇ!!」 【青龍】ハルアキの絶叫と共に、赤く変色した式神ドローンが嵐のように吹き荒れる。 それに対し、最初に動いたのは意外な勢力だった。

「聖域を穢す悪魔どもを許すな! 我らの血肉を持って、オリジンを守るのです!」

教祖サヤの声に応え、暗がりから湧き出したのは、およそ百人に及ぶ『回帰の土』の信者たちだった。 彼らは鉄パイプやなたを振りかざし、恐れを知らぬ叫び声を上げ、【白虎】弁慶の巨体へと殺到した。

「ぬんッ!」 ドォォォォン!!

弁慶が音響金棒『トドロキ』を大地に叩きつける。 指向性の超音波衝撃波が炸裂し、先頭にいた十数人の信者が吹き飛ぶ。だが、後続の信者たちは止まらない。死体を踏み越え、弁慶の重装甲にへばりつき、関節部を鉄パイプで殴打し続ける。

「鬱陶しい羽虫どもめ……!」 「そいつらは羽虫じゃねぇ……人間の『怒り』だッ!!」

信者の波を割って、源蔵が飛び出した。 右腕に装着された建設機械改造の**「パイルバンカー」**が唸りを上げる。

「ぬぅッ!?」

弁慶が金棒で迎撃しようとするが、信者たちが彼の腕に絡みついて動きを鈍らせている。 源蔵はその隙を見逃さず、懐に飛び込んだ。

「食らいやがれ! 物理アナログの鉄拳をぉ!!」 ドガァァァン!!

炸裂するタングステンの杭。 金剛障壁バリアがガラスのように砕け散り、弁慶の巨体が数メートル後退して瓦礫の山に激突した。

2. 堕ちる天女と冷ややかな救助

「あははは! ゴミが群れてる! まとめて消毒してあげるわ!」

上空からは、【朱雀】狐火イズナが緑色のスラスターで宙を舞い、自律ビット『管狐クダギツネ』を展開していた。 彼女の指先一つで、高出力レーザーの雨が降り注ぎ、信者や源蔵たちを焼き払おうとする。

「させないわよ! タキ、熱源探知サーモは生きてる!?」 「ああ。……スコープに捉えた。冷却不足の粗悪なドローンだ、よく燃えるぞ」

瓦礫の陰から、タキがミナ特製の**「電磁投射ライフル(レール・クロスボウ)」**を構える。 タキが引き金を引くと、音もなく鉄骨の破片(矢弾)が射出された。

ヒュンッ! パリーン!

「えっ!?」

イズナの周囲を飛んでいた『管狐』の一つが、空中で粉砕された。 タキは表情一つ変えず、次弾を装填する。

「うそ、どこから!? 私のセンサーに反応がないなんて!」 「ここだよ、バ~カ!」

動揺して高度を下げたイズナに、瓦礫の山頂からミナが跳躍した。 その両腕には、回転ノコギリと高電圧スタンユニットを接合した**「近接戦闘用アーム・改」**。

「食らえっ!!」 「きゃあぁぁっ!?」

ギュイイイィィン!!

ミナの回転ノコギリがイズナの防御フィールドを削り取る。火花と共にイズナが弾き飛ばされ、空中の優位性が崩れた。 彼女が瓦礫の山へ激突する――その寸前。

シュパッ!

暗闇から伸びた黒いワイヤーが、イズナの腰を絡め取った。 彼女の体は振り子のように軌道を変え、安全な鉄骨の上へと引き上げられる。

「……ッ! 痛ぁ……」 「相変わらずだな、イズナ。センサーに頼りすぎだ」

イズナを受け止めたのは、天井の梁から逆さにぶら下がった影――【玄武】烏丸ヨイチだった。

「うるっさいわね! 助けるのが遅いのよ、陰キャ!」 「礼も言えないなら次は落とすぞ」

ヨイチは淡々と告げると、再び闇へと身を翻した。

3. 影の狙撃手と白銀の盾

ヨイチが移動したその一瞬、彼はすでに次の獲物を捉えていた。 戦場の混乱の中、彼が狙うのはただ一人。この場の最大の脅威となりうる「黒い刀」を持つ少年、ジンだ。

「必中」

ヨイチが背負った複合弓型のレールガンから、呪詛弾『黒羽クロハ』が放たれる。 矢は生き物のように軌道を変え、瓦礫を避け、ジンの心臓へと吸い込まれていく。

「ジン、危ない!」

レイナが叫ぶが、間に合わない。 だが、黒い矢がジンの胸に突き刺さる寸前――

キィィィィィン!!

白銀の閃光が、矢を消滅させた。 ジンの前に立っていたのは、皇太子ヤマトだった。彼の手にある聖剣**『天叢雲アメノムラクモ』**が、霧のような白い光を放ち、呪いを浄化したのだ。

「……退しりきなさい」

ヤマトが静かに、しかし王者の威圧を持って告げる。

「その汚らわしい矢で、私の『友』を射抜くことは許しません」

『天叢雲』が輝きを増し、ヨイチの隠れていた闇を照らし出す。 ヨイチが初めて動揺を見せ、次の矢をつがえる手が止まった。

4. 第四勢力の乱入と無視された真実

戦況が膠着しかけたその時。 地下空洞の壁面が、凄まじい轟音と共に爆破された。

ズドォォォォォン!!

爆煙の中から現れたのは、白と緑の塗装が施された、てん国軍の多脚戦車だった。 続いて、強化外骨格を纏った治安維持部隊の精鋭、約30名が雪崩れ込んでくる。

「目標多数! 京国部隊、東国逃亡者、および武装カルト集団を確認!」 「司令部より入電! 『平和を乱す者は全て排除せよ』! 撃てぇぇぇッ!!」

ダダダダダダダダッ!!

多脚戦車のガトリング砲が火を噴き、治安維持部隊のアサルトライフルが一斉掃射を開始した。 それは敵味方を区別しない、無慈悲な弾幕だった。

「お待ちなさい! 撃ってはなりません!」

その惨状に、教祖サヤが悲鳴を上げて前に出た。彼女は白銀の剣を持つ少年を指し示し、喉が裂けんばかりに叫んだ。

「あのお方をどなたと心得る! 東国より逃れし正統なる血筋……皇太子殿下・ヤマト様であらせられますぞ!」

その声は、銃声の合間を縫って兵士たちの耳に届いた。 「皇太子?」 「ヤマト殿下だと? まさか、あの少年が……?」

最前線の兵士たちの指が止まりかける。だが、その迷いを打ち消すように、司令官の冷酷な通信が全部隊のヘルメットに響いた。

『騙されるな! それは敵の欺瞞ぎまん工作だ! 皇太子がこのような汚らわしい地下にいるはずがない!』 『全員、テロリストだ! 一人残らず殲滅しろ!』

「くっ……司令部め、知っていて揉み消す気か!」

レイナが歯噛みする。 天国軍にとって、皇太子の存在は政治的に厄介すぎる爆弾だ。ならば「テロリストの流れ弾で死んだ」ことにする方が都合がいい――そんな狂った判断が下されたのだ。

「撃てぇぇぇ!!」 再開される銃撃。戦場は、四つの勢力が入り乱れるカオスの坩堝るつぼと化した。

5. 鉄塊の咆哮

「今だ……!」

混乱の極みにある戦場で、俺は走り出した。 天国軍の弾幕と、四柱の呪術が交差する死地。 だが、ハルアキの意識が天国軍と皇太子に向いている今こそが、唯一の勝機。

「ジン!?」 「援護しろ! あいつの首を取る!」

レイナが鋼の刀で流れ弾を弾き、タキが正確な射撃でハルアキの護衛ビットを撃ち落とす。 俺は瓦礫を蹴り、最短距離でハルアキへと突っ込んだ。 手にあるのは、動かない「ゼロ号」。 ただの重く、錆びついた鉄の塊。

「小僧ぉぉぉッ!!」

俺に気づいたハルアキが、憎悪に歪んだ顔を向ける。

「貴様さえいなければ……! 死ね! 呪言コマンド強制終了キル!!」

ハルアキが呪文を詠唱し、致死性のハッキングコードを乗せた衝撃波を放つ。 生身の人間なら神経を焼き切られて即死する攻撃。 だが。

「……知るかよ、そんなオカルトッ!!」

俺は「ゼロ号」をフルスイングした。 エネルギー吸収能力はない。だが、この刀は「オリジンの器」として作られた、規格外の質量を持つ鉄塊だ。

ゴウッ!!

ただの物理的な質量と速度。 それだけで、ハルアキの放った不可視の呪術波を強引に叩き割った。

「なっ、馬鹿な!? 術式を物理で!?」

驚愕に目を見開くハルアキ。その整った顔が恐怖に歪むのを、俺は至近距離で睨みつけた。

御託ごたくは聞き飽きた……。テメェのその『雅』なんざ……俺の『意地』で叩き潰す!!」

俺は全身のバネを使い、動かない相棒をハルアキの鳩尾みぞおち目掛けて突き出した。

折れた鉄とあかの祈り

1. 虚構の崩壊

「おおおおぉッ!! 潰れろぉぉぉッ!!」

俺は全身全霊を込め、ハルアキの鳩尾みぞおちめがけて「ゼロ号」を突き出した。 エネルギー吸収能力も、身体強化もない。頼れるのは、この刀が持つ圧倒的な質量と、俺自身の意地だけ。 物理的な鉄塊の一撃が、ハルアキの展開した薄い障壁に突き刺さる。

ガィィィィン……ッ!!

甲高い金属音が地下空洞に響き渡った。 ハルアキの障壁に亀裂が走り、彼の顔が恐怖に引きつる。あと数ミリ。あと少し押し込めば、障壁を砕いてその心臓を貫ける。 だが――。

「……!」

俺の手首に、激痛が走った。 刀が、止まったのだ。 これまでの戦闘なら、ここで刀が「飢え」を発動し、障壁のエネルギーを喰らい尽くして突破していたはずだ。しかし、今の「ゼロ号」は冷たく沈黙したまま。 ただの錆びついた鉄は、最新鋭の軍事用呪術障壁シールドを貫通するには、あまりに脆かった。

「……は、はは……?」

ハルアキが、引きつった笑みを漏らす。 彼は恐る恐る自分の腹部を見下ろし、そこに突き立てられた刀が、障壁の表面で止まっていることを確認した。

「……何も起きない。何も吸われない……!」

ハルアキの表情が、恐怖から安堵へ、そして爆発的な「侮蔑」へと歪んでいく。

「何だそれは! ただの鉄屑ではないか! 貴様、ハッタリか! 余を……この【青龍】を、そんなゴミで愚弄したのかァァァ!!」

「しまっ……」

「消えろォォォッ!!」

ドォォォォォォン!!

ハルアキの扇子から至近距離で衝撃波が放たれた。 俺の体は枯れ葉のように吹き飛ばされ、瓦礫の山へと叩きつけられた。全身の骨がきしむ音が聞こえる。

「ガハッ……!」 「ジン!」

レイナが駆け寄ろうとするが、それを遮るように緑色のレーザーが降り注いだ。

2. 四柱の狂乱

「騙された! 騙された騙されたぁぁぁ! 怖がって損したじゃない!」

上空から【朱雀】イズナが絶叫する。 彼女は恐怖から解放された反動で、完全に歯止めが効かなくなっていた。無数のビット『管狐』が乱舞し、地下全域を無差別に焼き払い始める。

「殺す! 殺す! みんな灰になっちゃえ!」

「ぬんッ!!」

地上では【白虎】弁慶が、再起動した金剛障壁を身にまとい、戦車のような勢いで源蔵たちを薙ぎ払う。パイルバンカーの杭が弾かれ、源蔵が血を吐いて吹き飛ぶ。

「ぐぅ……ッ! 物理攻撃が通じねぇ……出力が戻ってやがる!」 「ジンが抑え込んでいた『吸われる恐怖』が消えて、奴らの士気が跳ね上がったんだ!」

タキがレールガンを連射するが、自信を取り戻した四柱の連携コンボは強固だった。 呪術のハルアキ、火力のイズナ、防御の弁慶。そして影から狙うヨイチ。 「ゼロ号」というジョーカーを失った俺たちに、彼らを止める術はなかった。

3. 王の躊躇と信徒の特攻

一方、戦場のもう一つの極点。 皇太子ヤマトは、白銀に輝く聖剣『天叢雲アメノムラクモ』を掲げ、押し寄せるてん国・治安維持部隊の前に立ちはだかっていた。

「撃ち方やめ! 私はヤマトだ! 君たちと争うつもりはない!」

ヤマトの声は、銃声にかき消される。 司令部の命令を受けた兵士たちは、彼を「皇太子の名を騙るテロリスト」と認識し、容赦ない弾幕を浴びせてくる。

「殿下! 反撃なさいませ! その剣の力ならば、彼らを払いのけられます!」

背後でサヤが叫ぶ。 確かに、『天叢雲』のオリジン制御能力を使えば、兵士たちの武装を無力化し、あるいは彼らごと消し飛ばすことも可能だろう。 だが、ヤマトの手が震えた。

「できません……! 彼らもまた、この国の民だ……! 私が守るべき人々を、この手で殺すことなど……!」

優しすぎる王。 その一瞬の迷いは、戦場においては致命的な隙となる。 多脚戦車のガトリング砲が回転し、ヤマトを狙って火を噴いた。

ダダダダダダダダッ!!

「殿下をお守りしろぉぉぉッ!!」

ヤマトが目を瞑った瞬間、彼の視界を覆ったのは、ボロボロの法衣を纏った背中だった。 『回帰の土』の信者たちが、人間バリケードとなってヤマトの前に飛び出したのだ。

ドシュッ! グチャッ! バシュッ!

生身の肉体が、大口径の弾丸によって次々と弾け飛ぶ。 悲鳴を上げる間もなく、十数人の信者が血肉の塊となって崩れ落ちた。

「な……ッ!?」

ヤマトが目を見開く。 その間にも、次の信者たちが「オリジン万歳!」「聖域を守れ!」と叫びながら、次々と銃火の前へ身を投げていく。 彼らは武器を持たない。ただ死ぬためだけに、ヤマトの盾となり、その屍の山を築いていく。

「やめろ……やめてくれ! 私のために死ぬな!」

ヤマトの絶叫も虚しく、目の前で命が消費されていく。 鉄の暴風雨の前では、人の命などあまりに軽かった。

4. 聖女の最期

「そこだ! 指揮官を狙え!」

天国軍の分隊長が叫び、強化外骨格兵が擲弾筒グレネードを構えた。 狙いは、ヤマトではなく、その背後で指揮を執る教祖サヤ。

ポンッ!

放たれた炸裂弾が放物線を描く。 ヤマトは信者たちの屍に足を取られ、動けない。

「サヤ殿!!」

ヤマトが手を伸ばした、その時。 サヤは静かに微笑み、ヤマトを突き飛ばした。

ズドォォォォォォォン!!

爆炎がサヤを飲み込んだ。 舞い上がる土煙。そして、ボロ布のように吹き飛ばされる細い体。 彼女は瓦礫の山に叩きつけられ、力なく崩れ落ちた。その腹部は赤く染まり、致命傷であることは誰の目にも明らかだった。

「あ……ああ……」

ヤマトが這うようにして駆け寄る。 サヤは震える手で、ヤマトの頬に触れた。

「……お嘆き……めさるな……」 「サヤ殿! なぜ……私なんかのために……!」 「貴方様は……希望……。この穢れた地上を……再び繋ぐ……光……」

サヤの口から、どす黒い血が溢れる。 彼女は霞む目で、天井の岩盤――その奥にある「星の怒り」を見つめた。

「……どうか……オリジンを……静めて……」

ガクリ。 サヤの手が落ち、その瞳から光が消えた。 地下のスラムで、文明に見捨てられた人々に寄り添い続けた聖女の、あまりにあっけない最期だった。

5. 絶望の底で

「ウソだろ……」

俺は瓦礫の中で、その光景を呆然と見ていた。 源蔵は倒れ、タキは弾切れ、ミナは片腕をもがれて泣き叫んでいる。 ヤマトはサヤの遺体を抱いて動かない。 そして、ハルアキが高笑いしながら、ゆっくりと俺に近づいてくる。

「ホッホッホ。見ろ、この無様な結末を」

ハルアキが扇子で、死屍累々となった戦場を指し示す。

「力なき正義、力なき意地。……結果はこのザマだ。貴様がその刀に見限られたせいで、こいつらは無駄死にしたのだよ」

ハルアキの嘲笑が突き刺さる。 奴には、俺が拒絶したことなど分からない。ただ、土壇場で刀が沈黙し、俺が力を引き出せなかったという「無能さ」だけを笑っているのだ。 だが、その言葉は事実以上に俺の心を抉った。 俺が……「人間としての自我」に固執したせいで、サヤが死に、仲間たちが死にかけている。

『……見ろ……』

沈黙していたはずの「ゼロ号」から、微かな、しかし冷徹な声が響いた。

『……これが……お前の選んだ「人間らしさ」の末路だ……』

俺は震える手で、動かない鉄塊を握りしめた。 涙も出ない。あるのは、自身の無力さへの絶望と、焼き尽くすような後悔だけだった。

あかき隈取と肉の鞘

1. 覚醒する災厄

「あ……うあぁ……」

ヤマトは、物言わぬ肉塊となったサヤを抱きしめたまま、獣のような慟哭を漏らした。 その瞳には無数の毛細血管が浮き上がり、溢れ出した血の涙が頬の汚れと混じり合って、まるで歌舞伎役者の**隈取くまどり**のような凄惨な模様を描き出していた。 優しかった少年の顔は消え失せ、そこにあるのは憤怒の形相をした「鬼」そのものだった。

ズズズズズズ……ッ!!

地下空洞が悲鳴を上げる。 ヤマトの感情に呼応するように、地下を走る「龍脈エネルギーライン」が暴走を始めたのだ。地面が赤熱し、亀裂からはシューッという音と共に高温の蒸気が噴き出し始める。

「……かてが……」

ヤマトの口が動いた。だが、その声は彼のものではない。 もっと低く、重く、地底の底から響くような金属的な響き。

「……糧が……足りぬ……」

彼の手にある聖剣『天叢雲アメノムラクモ』が変貌を遂げる。 白銀の輝きは失われ、禍々しい**紅蓮ぐれんの色へと染まっていく。清浄だった「白い霧」は、鉄錆の臭いを漂わせる「血色の霧」**へと変わり、ヤマトの全身を包み込んだ。

「な、なんだあの光は……!?」

ムラマサが戦慄する。 「いかん……! 『循環』の許容量を超えた! オリジンが小僧の怒りに反応して、彼自身を『神の力』を振るうための**『肉の鞘』**に作り変えようとしておる!」

2. 天国軍の壊滅

「ひっ、化け物だ! 退却! 総員退却せよ!」

異様な気配に恐れをなしたてん国・治安維持部隊の隊長が叫ぶ。 多脚戦車がバックし、強化外骨格兵たちが我先にと逃げ出そうとした。だが、遅かった。

『……にえを……寄越せ……』

『天叢雲』がヤマトの声帯を使って命じると、血色の霧が生き物のように膨張し、兵士たちに襲いかかった。

「ぎゃあぁぁぁっ!?」 「体が……熱い! 血が沸騰するぅぅ!」

霧に触れた瞬間、強固な装甲服の中身が干からびていく。 生命力そのものを吸い取られた兵士たちは、ミイラのように枯れ果て、次々と倒れていった。多脚戦車の乗組員も例外ではない。分厚い装甲を透過した霧が、中の人間だけを喰らい尽くし、鉄の塊だけが残された。

「……まさか、あれが『天叢雲』の真の力だというのか……」

ジンは震えが止まらなかった。 俺が拒絶した「神の力」。それを受け入れてしまったヤマトは、もはや人間ではない。ただの破壊のシステムだ。

3. 四柱の崩壊――弁慶の死

「おのれ……! このハルアキ様の前で、好き勝手を!」

ハルアキが扇子を掲げ、残った全ての式神を特攻させる。 イズナがレーザーを放ち、ヨイチが呪詛弾を撃ち込む。四柱による最大火力の集中砲火。 だが、紅蓮に染まったヤマトには傷一つつかない。血色の霧が自動防御となり、全ての攻撃を無に帰していく。

『……邪魔だ……』

ヤマトが一歩踏み出すだけで、衝撃波が走り、ハルアキが吹き飛ばされた。 絶対的な死が、ハルアキに迫る。

「ハルアキ様!!」

その時、【白虎】弁慶が動いた。 彼は自慢の金剛障壁バリアを捨て、身一つでヤマトに突進した。

「ぬんッ!!」

弁慶はヤマトの細い体を、その巨体で背後から羽交い締めにした。 超重量のサイボーグボディによる拘束。さしもの神の力も、物理的な質量差で一瞬動きが止まる。

「ぐぅぅぅッ! ハルアキ様、今です!!」

弁慶が軋む装甲の音と共に叫んだ。

「私ごと、最大出力の呪言コマンド強制終了キルでこいつを焼き切ってください! 今なら間に合います!」

「な……ッ!?」

ハルアキが目を見開く。 弁慶ごとヤマトを破壊すれば、自分たちは助かる。任務の失敗も、「未知の兵器の破壊」として報告すれば言い訳が立つかもしれない。 合理的で、冷徹な判断。いつもの彼なら迷わず実行していただろう。

だが。

「……できぬ」

ハルアキの手が震え、構えた扇子が下がる。

「……私には……仲間に向けて攻撃など……!」

「ハルアキ様!?」

「嫌だ……もう誰も失いたくない……! 私は……!」

ハルアキはその場に膝をついた。 エリートの仮面の下にあったのは、部下を捨て駒にできない弱く脆い人間性だった。

『……不要……』

無慈悲な声と共に、ヤマトの体から紅蓮のとげが噴出した。 それは弁慶の装甲を内側から貫き、彼の生命エネルギーを一瞬で啜り尽くした。

「ガ……ハ……ッ。……ハルアキ……さ、ま……ご武運、を……」

巨岩のような僧兵の体が、砂上の楼閣のように崩れ落ちた。 センサーの光が消え、ただの鉄屑となった弁慶の屍。ヤマトはそれを無造作に踏み越え、絶望に打ちひしがれるハルアキへと歩み寄る。

4. 凶弾と献身――ヨイチの死

「あ……ああ……」

ハルアキは動けなかった。 目の前で最大の忠臣を失い、さらに自分に向かって振り上げられる紅色の凶刃。死の恐怖よりも、自分の弱さが招いた結果への絶望が彼を縛り付けていた。

「やめろぉぉぉッ!!」

ヨイチの制止を振り切り、イズナが飛び出した。

「よくも……よくもベンケイを! ハルアキ様をいじめるなァァァ!!」

彼女の背後に残っていた最後の一基の『管狐クダギツネ』が、捨て身の特攻を仕掛ける。 だが、神となったヤマトにとって、それは羽虫の羽ばたきにも等しかった。

ブォンッ!!

振り上げられた『天叢雲』の一振り。 ただの風圧だけで『管狐』は原子レベルに分解され、消滅した。 さらに、余波として放たれた血色の霧の刃が、回避不可能な速度でイズナへと迫る。

「あ……」

イズナは死を覚悟し、目を閉じた。 焼けるような熱と衝撃。 だが、いつまで経っても痛みは来なかった。

「……ッ、ぐぅ……!!」

代わりに聞こえたのは、押し殺したような男のうめき声。 イズナが目を開けると、そこには彼女を覆うようにして立ち、背中に深々とした裂傷を負ったヨイチの姿があった。

「ヨ、ヨイチ……!?」

影のように目立たず、常に安全圏から冷徹に狙撃していた男。 そんな彼が、一番危険な最前線で、自分の身を盾にしていた。

「……いつも、いつも……心配させやがる……」

ヨイチが膝から崩れ落ちる。 その口から、大量の血が溢れ出した。背中の傷は深く、内臓まで焼き切られているのは明らかだった。

「なんで……あんた、そんなキャラじゃ……」 「……へっ。計算違い、だな……」

ヨイチは震える手で、イズナの頭を不器用にポンと撫でた。

「イズナ……お前は生きろ。……決して、死ぬな……」

「ヨイチ! ねぇ、ヨイチ!!」

ヨイチの手が力なく滑り落ちた。 天国の地下で、影の狙撃手は二度と動かなくなった。

5. 終焉の足音

「うあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

イズナの絶叫が木霊する。 弁慶が死に、ヨイチが死んだ。 そしてハルアキは、抜け殻のように座り込んでいる。

かつて「四柱」として恐れられた最強の部隊は、たった一人の少年の覚醒によって、完膚なきまでに崩壊した。 紅蓮に染まったヤマトは、感情のない瞳で、残るハルアキとイズナを見下ろしている。 その切っ先が、ゆっくりとハルアキの首へと向けられた。

8. 餓狼ガロウの目覚め

1. 鋼の少女の咆哮

「……終わりだ」

ハルアキは、目前に迫る紅蓮の切っ先を見つめたまま、抵抗する意志すら失っていた。 最強の部隊「四柱」は壊滅した。忠実な弁慶も、影のように支えてくれたヨイチも、もういない。残されたのは、抜け殻のような自分と、泣き叫ぶイズナだけ。 ヤマト(天叢雲)が無慈悲に剣を振り下ろそうとした、その刹那。

ダダダダダダダダッ!!

乾いた銃声が、地下空洞の沈黙を切り裂いた。 ヤマトの肩口で、赤い霧が弾ける。ダメージはない。だが、その衝撃は「神」の注意を逸らすには十分だった。

「こっちよ! 化け物!!」

瓦礫の山の上で、銃を構えて仁王立ちしている少女がいた。神楽坂レイナだ。 彼女の手にあるのは愛用の刀ではない。足元に転がっていたてん国・治安維持部隊のアサルトライフルを拾い上げ、不慣れな手つきで乱射していたのだ。

「レ、レイナ……? なぜ……」

ジンは呆気にとられた。 彼女は満身創痍だった。爆風でセーラー服は破れ、額からは血が流れている。それでも彼女は、敵であるはずのハルアキとイズナを庇うように、ヤマトの射線上に立ちはだかっていた。

「ぼんやりしてんじゃないわよ、ハルアキ! 死にたくなきゃ立ちなさい!」

レイナが叫ぶ。 剣術使いの彼女が、プライドを捨てて泥臭い銃撃を行っている。その姿が、絶望していた俺の頬を張った気がした。

2. 蟷螂とうろうの斧

「そうだ……終わっちゃいねえ!」

レイナに続いたのは、瓦礫の陰で息を吹き返した源蔵たちだった。

「ミナ! 出力はどうだ!」 「もうアームは動かない! けど、バッテリー残量は全部タキのレールガンに回した!」 「上等だ! 食らえぇぇぇ!!」

タキがミナの背負うジェネレーターと直結した**「電磁投射ライフル」**を構え、最大出力で引き金を引く。

ズドォォォォン!!

放たれた鉄骨片が音速を超え、ヤマトの展開する「血色の霧」に着弾する。 凄まじい衝撃音。だが、霧は一瞬揺らいだだけで、物理的な弾頭を完全に溶かして無効化した。

「くそっ、これでも傷一つつかねぇのか!」

源蔵が悔しげに拳を叩きつける。 だが、彼らの決死の攻撃は無駄ではなかった。

『……羽虫……どもが……』

ヤマトの紅蓮に染まった瞳が揺らいだ。 目の前にいるハルアキ(高エネルギー反応)。 銃撃を浴びせるレイナ。 遠距離から攻撃する源蔵たち。 自我を喪った今のヤマトにとって、彼らは等しく排除すべき敵だ。だが、同時に複数箇所から攻撃を受けたことで、その単純化された破壊プログラムに一瞬の迷いが生じていた。

3. 鉄塊の呼び声

(今だ……!)

ジンは、その一瞬の隙を見逃さなかった。 俺もレイナに倣い、足元に転がっていた治安維持部隊のアサルトライフルへと手を伸ばした。 「ゼロ号」は動かない。なら、この鉄砲で少しでも時間を稼ぐしか――。

指先が、冷たいライフルのグリップに触れようとした瞬間だった。

ドクンッ!!

心臓が、早鐘を打った。 銃ではない。背中の鞘にある「鉄塊」が、強烈な熱を帯びて俺の脊髄を焼いたのだ。

『……愚か者が……』

脳内に響く、冷徹な声。 それはいつもの「飢え」でも、以前のような「誘惑」でもない。焦燥を含んだ、明確な警告だった。

『……その筒で……何ができる……?』 『……あれは「死」の霧だ……触れれば貴様とて……一瞬で吸い尽くされるぞ……』

俺の手が止まる。 俺は顔を上げた。視線の先には、ヤマトが纏う圧倒的なオリジンの奔流――「血色の霧」がある。 天国軍の装甲服すら透過し、中の人間をミイラに変えた死の結界。生身の俺が銃を持って突っ込んだところで、引き金を引く前に干からびて終わりだ。

『……俺は……もう御免だ……』

刀の声が、低く唸るように響く。

『……ガラクタの山で……何百年も眠るのは……もう御免だ……』 『……貴様まで失えば……俺はまた……ただの鉄屑に戻る……』

こいつは……俺を心配しているんじゃない。 俺が死ぬことで、自分(刀)が再び「主」を失い、孤独な骨董品に戻ることを恐れているのだ。 だからこそ、拗ねていた意識を無理やり覚醒させ、俺に語りかけてきた。

(……へっ、現金なヤツだ)

俺はライフルのグリップから手を離し、背中の柄を掴んだ。 重い。相変わらず、ただの鉄塊だ。 だが、今の俺には伝わってくる。こいつの、「死にたくない」という強烈な生存本能が。

『……生き残りたくば……振るえ……!』 『……あの霧を……俺に喰わせろ……!』

「……ああ、分かってるよ。生きるも死ぬも、一蓮托生だ!」

「おおおおぉぉぉッ!!」

俺は咆哮と共に地面を蹴った。 狙うはハルアキでも、レイナの加勢でもない。 暴走する破壊神、ヤマトの懐だ。

「ジン! ダメよ、その霧に触れたら!」

レイナの悲鳴を背に、俺は紅蓮の嵐の中へと突っ込んだ。 死の霧が俺の皮膚を焼こうと迫る。 だが、俺が振りかぶった錆びついた鉄塊が、その霧をブラックホールのように引き寄せた。

「食らい尽くせぇぇぇ!! ゼロ号ォォォッ!!」

俺は渾身の力で、ヤマトの展開する絶対防御の霧ごと、その本体を叩き斬るように刀を振り抜いた。

3. 鉄塊の呼び声

(今だ……!)

ジンは、その一瞬の隙を見逃さなかった。 俺もレイナに倣い、足元に転がっていた治安維持部隊のアサルトライフルへと手を伸ばした。 「ゼロ号」は動かない。なら、この鉄砲で少しでも時間を稼ぐしか――。

指先が、冷たいライフルのグリップに触れようとした瞬間だった。

ドクンッ!!

心臓が、早鐘を打った。 銃ではない。背中の鞘にある「鉄塊」が、強烈な熱を帯びて俺の脊髄を焼いたのだ。

『……愚か者が……』

脳内に響く、冷徹な声。 それはいつもの「飢え」でも、以前のような「誘惑」でもない。焦燥を含んだ、明確な警告だった。

『……その筒で……何ができる……?』 『……あれは「死」の霧だ……触れれば貴様とて……一瞬で吸い尽くされるぞ……』

俺の手が止まる。 俺は顔を上げた。視線の先には、ヤマトが纏う圧倒的なオリジンの奔流――「血色の霧」がある。 天国軍の装甲服すら透過し、中の人間をミイラに変えた死の結界。生身の俺が銃を持って突っ込んだところで、引き金を引く前に干からびて終わりだ。

『……俺は……もう御免だ……』

刀の声が、低く唸るように響く。

『……ガラクタの山で……何百年も眠るのは……もう御免だ……』 『……貴様まで失えば……俺はまた……ただの鉄屑に戻る……』

こいつは……俺を心配しているんじゃない。 俺が死ぬことで、自分(刀)が再び「主」を失い、孤独な骨董品に戻ることを恐れているのだ。 だからこそ、拗ねていた意識を無理やり覚醒させ、俺に語りかけてきた。

(……へっ、現金なヤツだ)

俺はライフルのグリップから手を離し、背中の柄を掴んだ。 重い。相変わらず、ただの鉄塊だ。 だが、今の俺には伝わってくる。こいつの、「死にたくない」という強烈な生存本能が。

『……生き残りたくば……振るえ……!』 『……あの霧を……俺に喰わせろ……!』

「……ああ、分かってるよ。生きるも死ぬも、一蓮托生だ!」

「おおおおぉぉぉッ!!」

俺は咆哮と共に地面を蹴った。 狙うは暴走する破壊神、ヤマトの懐だ。

「ジン! ダメよ、その霧に触れたら!」

レイナの悲鳴を背に、俺は紅蓮の嵐の中へと突っ込んだ。 死の霧が俺の皮膚を焼こうと迫る。 だが、俺が振りかぶった錆びついた鉄塊が、その霧をブラックホールのように引き寄せた。

「食らい尽くせぇぇぇ!! ゼロ号ォォォッ!!」

俺は渾身の力で、ヤマトの展開する絶対防御の霧ごと、その本体を叩き斬るように刀を振り抜いた。

9. 空白の空、鋼鉄の翼

1. 悪食の晩餐

ズォォォォォォォッ!!

俺が振り抜いた「ゼロ号」は、ヤマトを中心に渦巻いていた紅蓮の霧を、まるで掃除機のように強引に吸い込んでいった。 触れれば即死するはずのオリジンの奔流。だが、俺の相棒はそれを咀嚼し、飲み込み、そしてゲップをするかのように黒い排気を吐き出した。

『……ペッ、不味い……』

脳内に、不満げな声が響く。

『……脂っこすぎる……やはり俺は、人工的な電気の味の方が好みだ……』

「……贅沢言うな。食あたりしなかっただけマシだろ」

俺が呟くと同時に、周囲を圧迫していた熱気が消滅した。 紅蓮の輝きを失った聖剣『天叢雲アメノムラクモ』が、カランと乾いた音を立てて地面に落ちる。その刀身は、元の清浄な白銀色に戻っていた。 そして、その持ち主である皇太子ヤマトもまた、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

「おい、ヤマト!」

俺は慌てて駆け寄り、その脈を確認した。 ……ある。弱いけれど、確かに脈打っている。 完全に刀に飲み込まれたわけではなかったようだ。ギリギリのところで、「ゼロ号」が過剰なエネルギーを吸い尽くしたおかげで、ヤマトの命までは燃え尽きずに済んだのだ。

「……よかった」

俺は全身の力が抜け、その場――瓦礫の山の上に大の字になって寝転がった。

2. 敗残者と生存者

視界の上には、四柱が突き破った天井の大穴がぽっかりと開いている。 そこから見えるのは、黒煙に汚れてはいるが、どこまでも青いてん国の空だった。

「……終わったな」

隣で同じように瓦礫に寝転がっていた源蔵が、深いため息をついた。 少し離れた場所では、もう一つの決着がついた光景があった。

「ひっ、うぅ……」

【朱雀】イズナが、放心状態で膝をついているハルアキを引きずり、こそこそと逃げ出そうとしていた。だが、その華奢な喉元に、冷ややかな切っ先が突きつけられる。

「どこへ行くつもり? キツネ娘」

レイナだ。 彼女はボロボロの制服姿で仁王立ちし、鋼の刀で退路を塞いでいた。

「逃げる気だたようだけれど? 悪いけど、アンタたちはここで捕虜になってもらうわ。……大暴れしたツケ、払ってもらうからね」

「うぅ……大暴れしたのはワタシたちだけじゃなくない……私の休日……人生……」

イズナが泣き崩れる。最強を誇った特務部隊の、あまりにあっけない幕切れのように思えた。

3. 到来する影

「……さて、と」

源蔵が体を起こし、痛む脇腹をさすりながら空を見上げた。

「すぐに天国特殊部隊の第二陣が来るぜ。あ~ぁ、お前ら(ジンとレイナ)をここに届けたら、南国でバカンスする予定だったのになー」

「……全くだ。これ以上の残業は、契約に含まれていない」

源蔵の隣で、タキが重くなった電磁投射ライフルを投げ捨て、ヒビの入ったバイザーを指で弾いた。

「バッテリーも弾切れだ」

タキは大きく息を吐き、瓦礫に背を預けた。常に冷静な彼も、今回ばかりは疲労の色を隠せないようだ。

「あはは、バカンスはお預けね」

ミナが瓦礫の陰から顔を出した。彼女は機械の腕が壊れて動かないため、器用に足を使って瓦礫を降りてくると、俺の顔を覗き込んだ。

「ねえジン! 天国特殊部隊の第二陣が来たら、もう一回バサッとやってよ! さっきのエネルギー吸収、データ取れなかったからさ!」

「勘弁してくれ……もう腕一本動かせねぇよ」

俺が苦笑すると、背後からしわがれた声が割り込んだ。

「おう、ワシも見たいな。あのデタラメな捕食機構、実に興味深い」

「うおっ!?」

俺は飛び起きそうになった。 いつの間にか、すぐ後ろの岩陰からムラマサがひょっこりと現れたのだ。この爺さん、あの激戦の中、傷一つ負っていない。

「なんだオッサン、今までどこにいたんだ?」 「ここはワシの庭みたいなもんじゃ。隠れる場所などどこにでもあるわ」

ムラマサは悪びれもせずニカっと笑い、ハンマーを肩に担ぎ直した。 そして、俺たちと同じように、天井の大穴を見上げた。

「……む」

ムラマサの目が細められる。 つられて俺も空を見た。 何もない空。 硝煙が晴れ、ただ青いだけの空があるはずだった。

だが、違った。 地上の穴を塞ぐように、音もなく巨大な影が姿を現したのだ。 光を屈折させ、風景に溶け込んでいた光学迷彩が解除される。現れたのは、かつて俺たちが乗っていた『黒鳥』によく似た、しかしさらに洗練されたフォルムを持つ漆黒の機体だった。

「あれは……」

レイナが目を見開き、そして安堵の笑みを浮かべた。

「迎えが来たわ」

音もなくホバリングするステルス輸送機。 そのハッチが開くと同時に、俺たちの長く、過酷だった「天国」での戦いが、ようやく終わりを告げようとしていた。

拒絶する魂と継承される意志(完)

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