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錆喰いの古刀(ラスト・イーター)  作者: 赤紫


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雅(みやび)なる焦土

1-1. 崩壊する仮面

場所:てん国首都 「天都テント・ネオアルカディア」上空

「遅い……! 遅い、遅い、遅いッ!! 何をしている!!」

上空数百メートル。重力制御によって浮遊する即席の「高御座たかみくら」の上で、【青龍】土御門ハルアキが絶叫した。 彼の手にあるホログラム扇子は、もはや優雅に仰ぐための道具ではなかった。彼はそれをコンソールに何度も叩きつけ、苛立ちを爆発させている。

「え……ハ、ハルアキ様?」

通信機越しに聞こえる【朱雀】狐火イズナの声が、戸惑いで震えていた。 無理もない。普段のハルアキならば、どんな殺戮の最中でも「みやび」を口にし、気取った平安貴族のロールプレイを崩さない男だ。部下たちも、その鼻持ちならないが絶対的な余裕を信頼していた。 だが、今の彼は違う。額には青筋が浮かび、整えられた長髪を振り乱し、眼球には無数の血走った血管が浮き出ている。

「あのネズミどもを見失ってから何分経ったと思っている! 御門はお待ちだぞ……! これ以上時間をかければ、我々の首が飛ぶのだぞ! 分かっているのか!!」

ハルアキの脳裏には、きょう国の御簾の向こうにいる「あの方」の冷徹な声が焼き付いていた。『失敗は許さぬ』『無能は廃棄処分』。その恐怖が、彼のエリートとしてのプライドを粉々に砕き、ただの生存本能のみを暴走させていた。

「イズナ! ベンケイ! ヨイチ! 手段を選ぶな! このふざけた白亜の街を更地に変えてでも、奴らを炙り出せ!」

「で、でもハルアキ様、これ以上やると国際問題に……」

「黙れッ!! 我々が生き残るためだ、一般市民など知ったことか! 全ての式神を自爆させろ! 燃やせ! 何もかも灰にしてしまええぇぇ!!」

ハルアキが狂ったようにコンソールを操作すると、空を埋め尽くしていた白い紙片――式神ドローンが一斉に赤く変色し、殺意の塊となって急降下を始めた。

1-2. 蹂躙される楽園

場所:天都テント市街地

地上は地獄と化していた。 自然と調和した美しいドーム型建築群、白い舗装道路、そして平和を享受していた市民たち。それら全てが、空から降り注ぐ爆撃によって蹂躙されていた。

「きゃあぁぁぁぁっ!!」 「逃げろ! ドローンが突っ込んでくるぞ!」

逃げ惑う人々の悲鳴と怒号。 母親が子供を抱きかかえて走る横で、カフェのテラス席が爆風で吹き飛ぶ。ショーウィンドウの破片が降り注ぎ、街路樹が紅蓮の炎に包まれる。

「こちら治安維持部隊アルファ! 第3ブロック、防衛ライン突破されました! 敵の数が多すぎる!」

てん国が誇る「治安維持部隊」も必死の抵抗を続けていた。 白と緑のカラーリングが施された多脚戦車や、強化外骨格を纏った陸上部隊が展開し、市民を守る壁を作ろうとする。 彼らはシールドを展開し、アサルトライフルで迎撃するが、京国の「呪装」兵器は彼らの想定を超えていた。

「くそっ、なんだこの紙切れは! 弾が当たらない!?」 「取り付かれた! 熱い、システムが……ぐああぁぁっ!!」

ハルアキの操る式神は、不規則な軌道で銃弾を回避すると、兵士や戦車にへばりつき、呪術的なナノマシンを流し込んで自爆する。 次々と爆発四散する治安維持部隊。その隙間を縫うように、【白虎】弁慶の巨体が突進し、逃げ遅れた民間人の避難車両を金棒で粉砕した。

「市民の皆さん! 地下シェルターへ急いでください! D4ゲートを開放しています!」

警備隊員が声を枯らして誘導するが、パニックに陥った群衆は我先にと押し合い、将棋倒しになっていく。 かつて「楽園」と呼ばれた街は、ハルアキの保身と狂気によって、瓦礫と死体の山へと変貌しつつあった。

1-3. 憤怒の指令室

場所:天国・中央指令センター

「第6、第7セクターにて火災発生! 被害甚大! 消火が追いつきません!」 「京国の特務部隊『四柱』、さらに攻撃を拡大中! 無差別攻撃です、奴ら正気か!?」

巨大なモニターが並ぶ指令室では、オペレーターたちの悲鳴のような報告が飛び交っていた。 天国の司令官は、拳をデスクに叩きつけた。

「おのれ、京国の野蛮人どもめ……! 我らが中立を保っているのをいいことに、土足で踏み荒らすとは!」

天国はこれまで、どの勢力とも距離を置き、独自の平和を維持してきた。京国とは不可侵条約など結んでいないが、これほどの露骨な軍事侵攻は宣戦布告に等しい暴挙だった。

「司令! 現場からの報告によれば、敵の狙いは『とう国から来た侵入者』のようです! 先ほど港で騒ぎを起こし、入国した連中です!」

モニターの一つに、逃走するジンとレイナ、そして爆発する『黒鳥』の映像が映し出された。

「あの薄汚いネズミどもか……!」

司令官が憎々しげに呻く。 東国とは、疎開されている天皇陛下のお言葉により**『不可侵条約』**が結ばれていた。だからこそ、東国の輸送機である『黒鳥』の入港を黙認し、最低限の敬意を払って受け入れたのだ。

「陛下の御心を汲んで入国させてやれば、このザマだ! 厄介ごとを持ち込み、我々の都を戦火に巻き込むとは……! これが東国のやり方か!」

信頼と条約を盾に、災厄を引き入れた東国のエージェントたち。その背信行為に対する怒りが、司令官の腹の底から湧き上がった。

「司令、どうしますか? 京国軍を迎撃しますか?」

「両方だ! 侵略者である京国を排除するのは当然だが、恩を仇で返した東国のネズミたちも許すな! 捕縛し、この落とし前をつけさせろ!」

「了解! 全治安維持部隊へ通達! 京国部隊および東国逃亡者を、国家の敵として排除せよ!」

新たな命令が下され、天国の全戦力が、地上と地下へ向けて動き出した。平和の条約は破られ、楽園は三つ巴の戦場へと沈んでいく。

1-4. 地下の共鳴と儀式

場所:天都地下・廃棄層

地上の惨劇は、地下深くの「影」の世界にも波及していた。

ズゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

「うわっ!?」

逃走中のジンは、激しい揺れに足を取られ、壁に手をついた。 頭上からパラパラとコンクリート片が落ちてくる。

「くそっ、京国の連中、街ごと俺たちを埋める気か!?」 「急いで! 天井が保たないわ!」

レイナが叫ぶ前方で、轟音と共に巨大な瓦礫が落下し、通路を塞いだ。 地上の爆撃と戦闘の衝撃が地盤を緩ませ、老朽化した地下通路を次々と崩落させているのだ。埃が舞い上がり、視界を遮る。

だが、その崩落の轟音に混じって、異様な「音」が聞こえてきた。

「……オォォォォォ……」 「……穢れた光を払いたまえ……」

「なんだ……? この声は」

ジンが埃を払って目を凝らすと、崩れた壁の向こう側、カルト教団『回帰の土』の支配領域から、低い詠唱の声が響いてきた。 信者たちは、落ちてくる瓦礫を避けることもせず、地面に額を擦り付けて祈っていた。

「見よ! 地上のおごりが崩れ落ちてくる!」 「電気に溺れた文明の末路だ! 我らの聖域オリジンを守れ!」

ハルアキによる無差別攻撃は、カルトたちにとって「邪悪なテクノロジーの暴走」という教義の証明そのものだった。 彼らは恐怖するどころか、狂信的な熱狂に包まれ、地下の最深部――ムラマサのいる鍛冶場へと集結し始めていた。

「……『星の鼓動』が、怒っている……」

群衆の中心で、教祖サヤが天を仰ぐ。 彼女の視線の先、分厚い岩盤の向こうにある地上では、ハルアキの狂気が暴れまわり、地下ではジンの腰にある「ゼロ号」が共鳴して震えている。

地上からの暴力、地下からの拒絶。 上下からの圧力が、ジンたちを逃げ場のない「鍛冶場」という一点へと押し流していった。

2. 地下の再会と真実

2-1. 鉄の墓標と異形の再会

場所:天都テント地下・最深部「鍛冶場」

「……地上が相当騒がしくなってきたな」

ムラマサの鍛冶場で、俺たちが刀の話を聞こうとした矢先だった。 通路の奥から、怒号と金属音が響いてきた。

「離せ! この狂信者どもめ!」 「私の最高傑作に触るな! 油圧がおかしくなるでしょ!」

「この声……まさか」

俺とレイナが顔を見合わせると、数人の信者たちに引きずられるようにして、見知った顔ぶれが連行されてきた。 傷だらけの源蔵、タキ、そしてミナだ。 だが、俺たちが驚いたのはその再会そのものではなく、彼らの変わり果てた姿だった。

源蔵の右腕には建設機械を改造した巨大な鉄杭パイルバンカー。 タキの手にはコイル剥き出しの電磁投射ライフル。 そしてミナの両腕は、回転ノコギリとスタンユニットの塊ごとき戦闘用アームに換装されている。

「ジン! それにレイナも! ここにいたのね!」

ミナが俺たちに気づき、拘束を解こうとノコギリを空転させ、火花を散らした。信者たちが警戒してなたを構える。

「待って! サヤさん、彼らは俺たちの仲間だ!」

俺は慌てて、傍らに控える教祖サヤに向かって叫んだ。 サヤは静かな瞳で源蔵たちの武装――特にミナの機械腕を一瞥し、眉をひそめたが、すぐに穏やかな声で信者たちを制した.

「……お待ちなさい。彼らは、この『刀の主』の同胞のようです」 「し、しかしサヤ様。こやつらは穢れた電気の武器を……」 「良いのです。今は緊急時。……その鎖を解いてあげなさい」

サヤの言葉は絶対だった。信者たちは不承不承ながらも手を引き、源蔵たちを解放した。

「……ふぅ、助かったぜ。ありがとよ、聖女様」

源蔵が乱暴に肩を回しながら、俺たちに歩み寄る。

「心配して損したわ。……何よその腕、私たちより強そうじゃない」 「あはは! ここのゴミ山、最高よ! 即席で『対・四柱用決戦兵器』を作っちゃった!」

ミナが得意げに胸を張る。どうやら彼らは、はぐれている間にただ逃げ回っていたわけではなかったらしい。

2-2. 敵を知る――四柱の正体

「地上はどうなってる? ここ数分、地震みてぇな揺れが止まらねえんだが」

源蔵の問いに、レイナは表情を曇らせた。

「最悪よ。きょう国の連中、なりふり構わず街を破壊し始めたわ」 「破壊活動だと? あの『みやび』とか言ってた連中がか?」

「ええ。奴らの名は**『四柱しちゅう』。リーダーは【青龍】ハルアキ**。今は冷静さを失って暴走してる。……全員、心してかからないと全滅するわ」

レイナは短く、しかし深刻な口調で、これから戦うことになる四人の特徴を共有した。ハルアキの呪術、イズナの広範囲殲滅、弁慶の防御力、そしてヨイチの狙撃。 名前と能力が分かれば、対策の立てようもある。

「上等だ。……全員まとめて、地獄へ送り返してやる」

俺が敵意を新たにした時、炉の前から低い声が響いた。

「……無駄口は終わったか、小僧」

3. オリジンの咆哮とゼロ号の正体

3-1. 悠久の怪物

ムラマサが、つちを置いてこちらに向き直った。 その視線は、俺の腰にある古刀に釘付けになっている。

「見せてみろ」

ムラマサが手を伸ばす。すると、俺の意思とは無関係に、刀が鞘から飛び出し、老人の手へと吸い込まれた。 彼が赤黒く脈動する刀身を掲げると、地下空洞全体が共鳴音ハウリングに包まれた。

ドクン! ドクン! ドクン!

「な、なんだ!? 地面が……生き物みたいに脈打ってやがる!」

源蔵がよろめく。 ムラマサは恍惚とした表情で、刀身を指で弾いた。キィン、と澄んだ音が響く。

「やはりな。……現代の作ではない。炭素の含有量、鍛錬の層……今の科学で解析しても『製造法不明』とされるわけだ」

「どういうことだ? あんたが作ったんじゃないのか?」

俺の問いに、ムラマサは鼻で笑った。

「ワシが? まさか。こんな『デタラメな物』は、人の手では作れんよ」

ムラマサは刀身を愛おしそうに撫で、炉の炎にかざした。

「これは数百年……いや、もっと前の時代に打たれたものだ。かつてこの国に武士がいた時代、あるいは神代の昔。……当時の鍛冶師たちは、地下に眠る『星の怒り(オリジン)』の存在を知り、それを制御しようと試みた」

「星の怒りを……制御?」

「ああ。だが、オリジンのエネルギーは強大すぎる。普通の鉄では瞬時に蒸発してしまうからな。……歴史の中で数え切れないほどの刀が打たれ、溶け、消えていった」

ムラマサの言葉を聞きながら、俺はふと、あの日のことを思い出していた。 路地裏の骨董店。ガラクタの山に突き刺さっていた、錆びついた鉄塊。 そこで初めて柄を握った時に感じた、「何世紀も生き延びてきた意志」。 あれは比喩ではなかったのだ。この刀は、遥か昔から幾多の持ち主を経て、オリジンの力を受け止める「主」を待ち続けてきた、悠久の怪物だったのだ。

「ワシら特別徴刀局の研究員は、敬意と畏怖を込めて、その始祖となる刀をこう呼んでいる。……**『ゼロ号』**とな」

「ゼロ号……それが、こいつの名前か」

「そうだ。そして今、ゼロ号は本来の役割を果たそうとしている」

ムラマサは天井の岩盤を指差した。

「本体である『オリジン』との再融合リユニオンだ。……小僧、お前がその契約を受け入れれば、刀は真の姿を取り戻すだろう。国一つを焦土に変える神の力を手に入れる代わりにな」

3-2. 究極の選択

ムラマサの言葉が落ちた瞬間、鍛冶場に重苦しい沈黙が降りた。

「国一つを……焦土に……?」

ミナが青ざめた顔で呟く。 源蔵がゴクリと喉を鳴らし、タキが警戒するように、ムラマサの手にある刀へ視線を向けた。 レイナだけが、唇を噛み締めてムラマサを睨んでいる。彼女は知っていたのかもしれない。この刀が秘める、破滅的な可能性を。

「……ムラマサ、あんた正気か? そんなことをすれば、てん国どころか、日本中が……」 「黙っていろ、レイナ。これは『主』の選択だ」

ムラマサは冷徹に遮ると、俺に向き直った。

「だが、ただで力を貸すほど、オリジンは甘くはないぞ」

「……代償は?」

俺が問うと、ムラマサは淡々と、しかし決定的な事実を告げた。

「お前の『個』の消滅だ」

「消滅……死ぬってことか?」

「いや、肉体は残る。だが、神ごときエネルギーを流し込めば、人の脆弱な自我など瞬時に焼き切れる。……お前は刀の制御ユニット……単なる『肉の鞘』となり、永遠にオリジンの破壊衝動を垂れ流すだけの存在になるだろう」

ゴゴゴゴゴ……ッ!

タイミングを合わせたように、地上からの爆撃音が響き、天井から砂塵が舞い落ちる。 迫りくるハルアキたち「四柱」の殺意。 それに対抗するための、絶対的な力。 だが、その代償は「自分自身」の死。

「さあ、選べ。黒鉄ジン」

ムラマサは、赤黒く輝く『ゼロ号』を俺の目の前に突き出した。

「ここで『四柱』になぶり殺されるか。それとも、人であることを捨てて神になるか」

突きつけられた切っ先から、刀の脈動が伝わってくる。 『……一つに……なろう……』 『……全ての敵を……焼き尽くせる……』

甘美な誘惑が、脳髄を痺れさせていく。 俺の手が、震えながら柄へと伸びた。

3-3. 決別の選択

『……一つになろう……』 『……楽になれる……全ての力を……お前に……』

脳内に、甘美な声が響く。 それはいつもの「飢え」ではない。母親の胎内に戻るような、絶対的な安心感と全能感への誘惑。 このまま刀に身を委ねれば、地上のハルアキたちなど一瞬で消し飛ばせるだろう。きゅう国の軍隊も、世界の理不尽も、すべてねじ伏せることができる。

「ジン……」

レイナが不安そうに俺を見ている。 俺は震える手で、ムラマサの手から刀を受け取った。 温かい。いや、熱い。まるで生きている心臓のようだ。

「……ふざけるな」

俺は低く呟き、柄を強く握りしめた。

『……?』

「俺は、俺だ。お前の道具にも、鞘にもならねぇ。……力を貸すなら『相棒』として貸せ。主導権を奪うつもりなら……テメェなんかいらねぇよ!!」

俺は心の底からの拒絶を叩きつけた。 その瞬間。

スンッ……。

刀の脈動が、唐突に止まった。 赤黒い輝きが消え、手の中にあるのは、ただの冷たく、酷く重い、錆びついた鉄の塊に戻ってしまった。 完全に「拗ねた」のだ。エネルギーのアシストも、捕食能力もない。今のこれは、ただの鈍器だ。

「……クックック。愚かだな、小僧」

ムラマサが愉快そうに喉を鳴らした。

「神ごとき力を捨てて、己の自我を選んだか。……だが、嫌いではないぞ。そういう無駄な足掻きこそが、人間が鉄に勝る唯一の点だ」

3-4. 継承される意志

「……では、交渉は決裂ですね」

その時、鍛冶場の奥の暗がりから、凛とした声が響いた。 現れたのは、俺と同じくらいの年齢の少年だった。 ボロボロの作業着を着ているが、その立ち居振る舞いには隠しきれない気品がある。彼はカルト教祖のサヤに対し、静かに一礼した。

「サヤ殿。……やはり、彼は『器』ではなかったようです」 「お待ちください! まさか、ご自身で……!?」

サヤが悲鳴のような声を上げる。少年は微笑み、炉の前に置かれていたもう一振りの刀へと歩み寄った。 それは、俺の「ゼロ号」とは対照的に、白銀の輝きを放つ美しい長剣だった。

「初めまして、とう国の方々。……そして、ムラマサ殿、素晴らしい刀を打っていただき、感謝します」

少年は、その白銀の刀を手に取った。 瞬間、地下空間全体が震え、天井の岩盤から白い霧のような光が溢れ出し、少年の周囲に集まっていく。

「なっ……オリジンが、共鳴している!? 黒い『捕食』ではなく、白い『循環』だと!?」

ミナが驚愕の声を上げる。 少年は光の渦の中で、静かに語った。

「私の兄は、天国で『象徴』としての天皇家を背負っています。私たちは日本分断の際に疎開という名目でこの地に逃れた……ならば私は、このてん国で、汚れ役を背負いましょう」

彼は刀を掲げた。その刃は、地下の闇を払うように眩く輝いている。

「この分断された日本を覆う厚い雲を払い、再び一つの国へと繋ぐために。……我が名は、この剣と共にありましょう」

「その剣の名は……**『天叢雲アメノムラクモ』**といいます」

ムラマサが厳かに告げる。 俺の「虚無」と対になる、王権と統合の象徴。皇太子の手の中で、伝説の神器が新生した瞬間だった。

3-5. 四柱の侵入

ドガァァァァァァン!!

感動的な空気を切り裂くように、聖域の天井が崩落した。 瓦礫と共に降り注ぐ、無数の白い紙片。そして、緑色の不気味な光。

「見ぃ~つけたぁ! ここね、ネズミの巣穴は!」

イズナの甲高い声が響く。 崩れた天井から、【白虎】弁慶の巨体が着地し、地面を揺らした。その衝撃で積み上げられた電子機器の山が雪崩を起こす。 その背後から、白いコートを翻してハルアキが降りてきた。彼はもはや扇子で顔を隠そうともせず、血走った目で俺たち――いや、俺たちの持つ「刀」を睨め回した。

「……随分と深い穴に潜っていたな。だが、これでもう逃げ場はない」

ハルアキの声には、かつての余裕など微塵もない。あるのは、任務失敗の恐怖に裏打ちされた、凍てつくような殺意だけだ。

「さあ、年貢の納め時だ。その首と刀……そしてそこの『新しい刀』も。すべて御門への手土産みつぎものにさせてもらう!」

ハルアキが叫ぶと同時に、周囲に展開した式神たちが赤く変色し、殺戮モードへと移行する。 自分たちが生き残るため(廃棄処分を免れるため)に、俺たちを確実に殺して奪う。そのなりふり構わぬ必死さが、空間を圧迫した。

「来るぞ! 総員、戦闘用意!」

レイナが叫び、鋼の刀を抜く。 源蔵がパイルバンカーを構え、タキがレールガンの照準を合わせる。ミナの回転ノコギリが唸りを上げる。 皇太子もまた、白銀に輝く『天叢雲アメノムラクモ』を構え、静かに前に出た。

だが、肝心の俺の手にあるのは、ただの重い鉄塊だ。 「ゼロ号」は沈黙したまま。エネルギーのアシストも、捕食能力もない。

「……へっ、上等だ」

俺は動かない相棒を無理やり構えた。 「呪い」も「奇跡」もない。あるのは、頼れる仲間たちの「技術」と、俺自身の足掻きだけ。 俺は、眼前の憎き指揮官を睨みつけ、腹の底から吠えた。

「行くぞ、ハルアキ! テメェの気取った『みやび』も、ここまでだ!!」

地下の聖域を舞台に、生存を賭けた最後の決戦が幕を開けた。

(第6章 完)

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