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錆喰いの古刀(ラスト・イーター)  作者: 赤紫


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20/21

黒鉄(くろがね)の凱旋と瓦礫の玉座

1. 呉越同舟の奪還戦

東国上空。 『黒鳥・改』は、かつてない弾幕の嵐の中にいた。 占領された首都・東京の対空砲火は熾烈を極め、漆黒の機体は右往左往していた。燃料はあるが、降りる場所がない。

「チッ! ハチの巣にする気かよ! 降りられねぇ!」 源蔵が操縦桿を叩く。このままではジリ貧だ。 その時、通信機からノイズ混じりの、しかし聞き覚えのある神経質な声が響いた。

『……こちらてん国政府、代行・蓮見ハスミ。東国の友軍へ告ぐ。……死なれては困りますよ。貴方たちは、ミコト陛下が心を痛める「火種」なのですから』

「ハスミ……!?」 ジンの驚きをよそに、南の空から白と緑の塗装が施された戦闘機部隊が飛来し、宮国軍の対空陣地にミサイルを撃ち込んだ。 リンドウを失った天国政府だが、ハスミがその狂信的な忠誠心でシステムを掌握し、ついに軍を動かしたのだ。

さらに、予想外の援軍は西からも現れた。

『よぉ、ジン君! 生きてる~?』

軽薄な声と共に、紫色のネオンを輝かせた無人戦闘機の大群が、宮国軍の背後を突いた。 きん国のCEO、銭屋キョウだ。

『落ち着けって、ビジネスライクに行こうぜ相棒。宮国の「戦闘狂」どもが勝っちまったら、俺たちの自由な経済活動シノギができなくなるんでね。それに、ここで恩を売っておかなきゃ、戦後の発言権が弱くなる。そして君たちは今、戦力が必要……ま、デカイ博打だが、乗ることにしたよ』

損得勘定だけで動く死の商人。信用などできない。だが、今はその火力が必要だった。

「……背に腹は代えられないか。源蔵、合わせろ!」

「へいよ! 悪魔とでも手を組んでやるぜ!」

天国、金国、そして黒鳥。昨日の敵同士が、共通の敵「宮国」を倒すために手を組んだ。

戦いは熾烈を極めた。 夜が明け、日が沈み、また夜が来る。絶え間ない爆撃音と閃光が、東京の空を焦がし続けた。 そして三日目の朝。 東の空から、雲を割って太陽が顔を出し始めた頃、地上の銃声はようやく散発的なものへと変わっていった。

「……ふぅ。どうやら、峠は越えたようだな」

源蔵が疲労を滲ませながらも安堵の息を吐いて戦況データを確認している。

『主要エリアの制圧を確認。宮国軍の残党は北へ敗走しています』

モニターの向こうでハスミが眼鏡の位置を直し、手元の戦況データを確認して言う。

『ヒュ~! こっちは損害軽微だ。いい宣伝プロモーションになったぜ』 銭屋も満足げな声を上げる。

ジンはコクピットから、奪還された東京の街並みを見下ろした。瓦礫の山だが、宮国の赤旗は引きずり下ろされ、代わりに東国の青旗が掲げられている。 だが、まだ終わっていない。

「……レイナは、北か」

ジンは北の空を睨んだ。 『黒鳥』は補給を済ませると、休む間もなく機首を北へと向けた。 目指すは敵の本拠地、きゅう国首都・宮城エリアにある「鉄帝テッテイ・ノヴォグラード」。


2. 凍てつく工場の列

北の大地、北海道。 宮国首都からさらに北、雪深い原野に「氷獄都市ヒョウゴク・アバシリ」と呼ばれる巨大な兵器生産拠点があった。 そこは、宮国が誇る狂人兵製造の心臓部であり、禁忌の実験場。

工場内の広場には、銃床で殴られながら、ボロボロの服を着た市民たちが長い列を作らされている。 その列の先にあるのは、立ち並ぶ不気味な円筒形の装置――『人型焼成炉ヒトガタ・キルン』。

その列の中に、神楽坂レイナの姿があった。 彼女は拘束具で両手を封じられ、泥にまみれていたが、その瞳だけは死んでいなかった。 周囲の警備兵の配置、監視カメラの死角、そしてキルンの制御盤の位置。彼女は虎視眈々と、反撃の機会をうかがっていた。

(……見てなさい。隙を見せたら、喉笛を食いちぎってやるわ)

レイナの前で、一人の青年が泣き叫びながらキルンに放り込まれる。ギャアアアアアッ!!断末魔と共にハッチが閉まり、数分後には、うつろな目をした「兵器」となって出てくる。次々に一般市民が投入され、そして変わり果てた姿で排出される。

レイナはその光景に歯噛みした。

ここは工場だ。人間を原材料とし、兵器という製品を吐き出す、地獄のプラント


3. 敗北の象徴と煽動

一方、宮国首都・鉄帝ノヴォグラードの中心部にある巨大広場。 宮国軍最高司令官・剛羅ゴウラ将軍が、演壇に立っていた。 彼の背後にある巨大スクリーンには、氷獄都市ヒョウゴク・アバシリの工場で列に並ばされているレイナの顔が、リアルタイムで大写しにされている。

「見よ! 我が同胞よ!」

剛羅の声が、スピーカーを通じて寒空に響き渡る。

「東の守り手は堕ちた! あの女こそが、軟弱な技術に頼り、偽りの平和を貪っていた東国の敗北の象徴である!」

剛羅は拳を振り上げた。

「我々は多くの英雄を失った。だが、これは敗北か? 否! 始まりなのだ! 東国や天国に比べ、我が国の国力は乏しい。にも関わらず今日まで戦い抜いてこられたのはなぜか! それは我々の戦いに『正義』があるからだ!」

「「「シュタール・ヴィレ・ゴウラ! シュタール・マハト・ミヤグニ!」」」

「「「シュタール・ヴィレ・ゴウラ! シュタール・マハト・ミヤグニ!」」」

熱狂的な兵士たちの歓声。 剛羅は満足げに頷き、スクリーンの中のレイナを指差した。

「さあ、まずはその女を『素材』とし、新たな戦力の礎としようではないか!」

兵士たちがレイナの腕を掴み、キルンへと引きずっていく。万事休すかと思われた、その時だった。

ズドォォォォン!!

演壇の真横に、黒い影が隕石のように墜落した。


4. 暴力の化身(ジン vs 剛羅将軍)

舞い上がる土煙。衝撃で演壇の旗が焼け落ち、「シュタール」と叫んでいた兵士たちが悲鳴を上げて吹き飛ぶ。 その爆心地から、一人の少年がゆらりと立ち上がった。 手には、赤黒く脈動し、飢えた獣のように唸りを上げる「ゼロ号」。

「……いい演説だ。ヘドが出るぜ」

黒鉄ジン。 『黒鳥』から単身、敵の本陣へ強襲をかけたのだ。

「貴様か、黒い悪魔……!」

剛羅は眼下の少年を見下ろした。 瓦礫と煙の向こう、その瞳は暗く燃え、全身から立ち上る闘気は、剛羅という巨魁を前にしても一歩も引いていない。 剛羅は慌てず、マントを脱ぎ捨てた。 彼が纏っていたのは、量産型とは一線を画す「特注・重重機動要塞級・強化外骨格」。ハルアキのようなスマートさや呪術はない。純粋な装甲厚と、戦艦の主砲並みの火力を搭載した、歩く要塞だ。その胸部には、かつて石動たちから奪った極大純度の「霊鋼原石」が埋め込まれ、心臓のようにドクンドクンと輝いている。

剛羅の視界には、ジンという存在が、ただの人間ではなく「純粋な脅威」として赤くアラート表示されていた。

ヤマトは死んだ! 貴様の友は無駄死にだ! 力なき正義など、鉄屑に過ぎん!」

剛羅が腕を振るうと、内蔵されたパイルバンカーが空気を引き裂く轟音と共に射出準備に入る。

「……無駄死に? あいつが守った国を……テメェの汚い足で踏み荒らすな!!」

ジンは真正面から突っ込んだ。 先ほどまで演説が行われ、熱狂に包まれていた広場は、一瞬にして戦場と化した。 逃げ惑う兵士たちを押しのけ、へし折れた国旗を踏みつけ、ジンは一直線に剛羅の懐を目指す。 小細工無用の殴り合い。剛羅の圧倒的な質量攻撃に対し、ジンはゼロ号の斬撃で対抗する。


5. 氷獄の反乱

一方、氷獄都市アバシリの工場にいるレイナたちにも異変が起きていた。 剛羅の演説会場が襲撃されたことで通信が途絶え、現場の進行が止まったのだ。

「……おい、将軍からの合図はまだか?」

「通信途絶! 映像も乱れています!」

兵士たちが動揺し、銃口が揺れる。 その一瞬の隙を、レイナが見逃すはずもなかった。

「!」

レイナは隠し持っていたヘアピンで拘束具の鍵をこじ開けると、監視していた兵士の顎を掌底で打ち抜いた。 兵士から奪ったアサルトライフルを構え、叫ぶ。

「みんな、あきらめちゃダメ! 助けが必ず来るわ! 伏せて!」

レイナは近くにあった『人型焼成炉』の制御盤に向けて発砲した。

ドカーン!

制御盤が火花を散らして爆発し、稼働中だったキルンが黒煙を噴いて停止する。 けたたましい非常ベルが鳴り響く中、死を待つだけだった市民たちの目に、小さな火が灯った。どうせ殺されるなら。家族を守るために。 彼らは落ちている瓦礫や工具を手に取り、兵士たちに殴りかかった。

「なんだ貴様ら! 戻れ!」

「うわぁぁぁ! こいつら、工具を!」

工場内は大混乱に陥った。ベルトコンベアの上で取っ組み合いが始まり、蒸気が噴き出すパイプの陰で銃撃戦が展開される。 混乱から立ち直った指揮官が、顔を真っ赤にして絶叫する。

「撃て! 反逆者は全員射殺しろー!!」

ダダダダダダッ!!

無慈悲な銃弾が、逃げ惑う市民たちを襲う。

「きゃあぁぁっ!」

「うぐっ……!」 次々と倒れていく市民たち。レイナは歯噛みし、必死に応戦するが、多勢に無勢だ。

「くっ……! ジン、急いで……!」


6. ゼロ号の解放

広場のジンは、剛羅の猛攻に晒されていた。 パイルバンカーがジンの肩を砕く。激痛。だが、止まらない。 演壇の奥の巨大スクリーンに、工場で追い詰められるレイナと市民たちの惨状が見えているからだ。

『……喰わせろ……』

ゼロ号が、かつてないほどの飢餓を訴えている。 それは目の前にある、剛羅の胸で輝く極上のエサ――「霊鋼原石」への渇望。

『……その極大のエネルギーを……!!……喰わせろ……』

「……ああ、全部食っていい。遠慮すんな!!」

手の中の「ゼロ号」に視線を落とした。 その瞳は、相棒への信頼と、敵への慈悲なき殺意で昏く濁り、獰猛な獣のように口角を吊り上げて笑っていた。 「共犯者」同士だけが共有する、狂気じみた愉悦の笑みだった。

ジンは防御を捨てた。 剛羅の放つミサイルの雨を、身をよじって回避し、あるいは肉体で受け止めながら肉薄する。

「馬鹿め! 自殺行為だ!」 剛羅がトドメのパイルバンカーを構える。

「全て、奪い尽くせぇぇぇぇ!!」

ジンは剛羅の懐に飛び込み、ゼロ号をその胸部装甲――動力炉の直上へと突き立てた。

ズブッ!!


7. 終焉と夜明け

ギュオオオオオオオォォッ!!

ゼロ号が咆哮を上げた。 「大暴食」。 剛羅のスーツから、そして広場中の兵器を繋ぐ霊鋼ネットワークから、莫大なエネルギーが奔流となってゼロ号へと吸い込まれていく。

「な、なんだこの力は!? 私の霊鋼(命)が……根こそぎ毟り取られていく!?」」

剛羅が絶叫する。しだいに霊鋼原石の輝きが失われ、ただの石ころへと変わっていく。エネルギーを失った剛羅の要塞スーツが、自重を支えきれずに軋みを上げ、崩壊を始めた。

だが、剛羅は往生際が悪かった。スーツが軋みを上げる中、背部の装甲が展開し、第三のサブアームが蛇のように伸びてジンの喉元へナイフを突き出す。

「まだだ! オレこそが正義! 貴様ごときに屈してたまるかぁぁぁ!!」

しかし、エネルギーを吸い尽くされたスーツは、その動作を完遂できなかった。 ナイフはジンの首の皮一枚手前で停止し、剛羅の要塞スーツが自重を支えきれずに崩壊した。

ガシャァァァン……!

システムダウンし、瓦礫の中で仰向けになる剛羅。 彼は生身の体で空を見上げ、血泡を吹きながら笑った。

「……見事だ……だが……力なき世界に……未来など……」

剛羅の瞳から光が消えた。 同時に、氷獄都市アバシリの工場でレイナたちを襲っていた兵士たちのスーツや、狂人兵たちの動きもピタリと止まった。 彼らを遠隔制御していた霊鋼ネットワークの親機(剛羅のスーツ)が破壊され、エネルギー供給と指令系統が完全に断たれたのだ。

「……助かった、のか?」

静寂が戻った工場で、生き残った市民たちが呆然と立ち尽くす。 兵士たちは武器を捨て、戦意を喪失していた。

広場のジンは、傷ついた体を引きずり、剛羅が背にしていた演壇へ向かった。 そこにある巨大スクリーン。先ほどまでレイナが処刑対象として映し出されていた画面に、今はすすだらけになりながらも、無事に市民を守り抜いた彼女の姿が映っていた。

「……遅くなって、悪かった」

ジンがスクリーンを見上げて呟く。 画面越しのレイナは、安堵で泣きそうな顔を一瞬見せたが、すぐにいつもの強気な表情を作って叫んだ。

「……バカ! グズ! 急いで私を迎えに来なさいよッ!!」

その声は、広場のスピーカーを通じて宮国の空に響き渡った。 ジンは力が抜けたように笑い、「了解」と短く答えた。

ジンは『黒鳥』に戻り、レイナと市民たちを救出するために氷獄都市アバシリへと急行した。 西の空に夕日が沈もうとしていた。 茜色に染まる空を背に、『黒鳥』は傷ついた翼を休めることなく飛び立って行く。

大戦は終結した。 しかし、多くのものが失われた。 だが、その夕焼けは、終わりの色などではない。 明日へと続く、確かな希望の色だった。


(第20章 完)

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