2章 隠しダンジョンと魔群大陸 01
この世界に来てから早いもので、もう数週間が経っていた。
とっくに元の世界では俺の葬式を終えた頃だろうか。
最後に挨拶くらいはしたかったものの……今更何を考えても無駄か。
せめてこっちから連絡できればな。
別世界で生きているってことを伝えるだけでも意味はある。
……いや、仮にこっちから連絡ができてもワイバーンに轢かれて死んだなんて言えるか。
司法解剖の人もびっくりだよ。
それに今はそれどころじゃないし。
あの一件での俺の戦いが認められて、正式にBランクになっちゃったんだから。
それも、準Aランク級と言う特別な扱いで。
と言うのも、俺の持つメリアの力は本来ならAランクになってもおかしくはない能力らしい。
しかし新人であり経験不足であることを考慮された結果、俺のランクはBランクと言う事になった。
要は事実上はAランクだけど制度上はBランクになっていると言う特殊な状態と言うわけだ。
そうなったらどうなると思う?
正解は遠征への参加要請が増える……だ。
ハンター連盟としてはさっさと経験を積ませて正式にAランクにしたいってことなんだろう。
そうすればより危険度の高いダンジョンにも送り込めるわけだし。
正直、俺は困る。
だって戦うの怖いし。魔獣怖いし。
ゴブリンとかならともかく、Bランクが挑むダンジョンってかなり危険度の高い魔獣がいるぜ?
死ぬぜあんなの。
とは言え、困ったことにランクが高いと悪いことだけでもない。
国からの特別な報酬や優待なんかも多いし、ぶっちゃけマジで良い生活させてもらっている。
それこそ新米一年分の交換券とかもらったときはビビったね。
身分が証明されたことでできることも増えたし。
まあ、そこまでされないと危険を冒してまで高危険度ダンジョンに潜るなんて、あまりにも割に合わな過ぎるってことなんだろうけど。
そんな危険度爆盛りダンジョンに今日も俺は潜ることになっていた。
更に言えば今回はBランク部隊複数で潜る合同遠征だ。
Aランクを使う程ではないが、Bランク部隊一つでは少々危険が伴い過ぎる。
そう言ったダンジョンに潜る際はこうして複数の部隊が合同で遠征を行うのだ。
素直にAランクの人たちを使えばいいじゃんとは思うものの、そうもいかない程にどうやら人類は限界状態らしい。
今にも魔獣が溢れ出そうな高危険度ダンジョンも多く、新人育成も間に合っていないのだとか。
うーん、改めて考えてもとんでもねえ世界だな。
せっかく転生したのに下手すりゃあっという間にあの世行きなんじゃねえの?
……そりゃないか。
なんてったってメリアちゃんの力はこの世界でも通用するどころか、群を抜いて別格なことがわかったからな。
少なくとも俺の命に関しては心配いらない。
それだけは確か……で、あってほしい。
そうであれ。
◇◇◇◇
うーむ、流石は高危険度のダンジョン。
出てくる魔獣のレベルもあの時とは段違いだ。
「フシュルルル……」
「気を付けろ、奴の溶解液は装備を溶かす! 生身のまま攻撃を受ければただではすまないぞ!」
とのことで、目の前の巨大な蛇型の魔獣は相当いやらしい攻撃手段を持っているらしい。
いくらハンターの身体能力が高かろうが、防御力は或る程度防具を前提にしているところがあるからな。
当然、無防備の状態で魔獣の攻撃を受ければ大ダメージは免れないし、それだけ回復薬の消費は増えるし治療系ハンターの負担にもなってしまう。
「グパッ!」
「おっと」
……にもかかわらず、俺は奴の溶解液を頭から浴びてしまった。
あの、何してるんですかメリアちゃんさん?
「厄介なものよな。金属を溶かすとなればオレの錬金術も本領を発揮できん」
なるほど、いつもの金属錬成で壁を作らないと思ったらそう言う……。
なら避けてくれません?
無理か。
敵に背を向けることも、敵の攻撃を避けることも、メリアちゃんは良しとしない。
脅威の回避率強制ゼロパーセントは伊達じゃないってわけだ。
「メリアちゃん……! ふ、服……!!」
なにやら女性ハンターの慌てた声が聞こえてくる。
服……?
オーノー!
ダメージがないから気付かなかったが、服が溶けている。
これではメリアちゃんのあられもない姿が丸見えじゃないか!
「なっ……!? は、はやく替えの装備を着るんだ!!」
そうしたいのはやまやまなんですけどね!?
メリアちゃん、敵に背を向けないんですよ!
と言うか今アンタ、メリアちゃんの裸を見たでしょ……!
俺だってこの世界にくるまで渋の二次創作R18イラストでしか見たことなかったのに!
もちもちすべすべの柔らかお肌をたかだか一周目の人生でその目に収めてるんじゃないよ!
ずるい!!
「なに、問題はない。この程度の魔獣が相手であれば装備など無用」
「それなら……いや、そう言うことでもないんだが」
「それに何を恥ずかしがる必要がある。オレこそが美。芸術品のようなこの姿を見られても、誇りこそすれど恥じることなどないであろう?」
……そうだった。
メリアちゃんはそう言うキャラだったね。
でも俺は嫌だよ。メリアちゃんの裸をどこぞの馬の骨ともわからん奴に見られるのは。
血涙を流します。
あとシンプルに俺が恥ずかしい。
くそぅ、こうなったら一刻も早くあの魔獣を倒すのみ。
幸いこの体は錬金術以外にも最低限の魔法が使えるんだ。
食らいやがれ、超必殺フレイムバレット!!
――ボゥッ
手の平から放たれた火炎弾が魔獣へと向かって飛んで行く。
「ャ゛ア゛ァァッッ!?」
そして炎に飲みこまれた魔獣は耳をつんざくような悲鳴をあげながらバタバタと地面をのたうちまわった。
あっという間に焼き蛇の完成と言う訳だ。
しかし、奴の悲鳴が別の魔獣を呼んでしまったらしい。
「ゴギャズバシャァァン!!」
大型のゴーレムのような魔獣が通路の先から出てきた。
だけにはとどまらず、盛大に暴れ出してしまった。
――ズゴガゴォォンッ!!
その暴れっぷりが凄まじいのなんの。
堅牢そうなダンジョンの壁はいとも容易く砕かれ、瞬く間に天井すら落ちてくる始末。
結果、ダンジョンの崩落により俺たちは完全に分断されてしまったのだった。
「そちらは無事ですか!? 怪我人はいませんか!?」
岩を叩く音とともに声が聞こえてくる。
今回の遠征におけるリーダーのもので間違いない。
とは言え、返答はひとまず他の人に任せよう。
正直、俺がメリア語で話してもまともに意思疎通ができるか怪しい。
「はい、問題はありません! けれど……物資や替えの装備が全部そちらに……」
「なんと言う事だ……別れて脱出するにも、これでは戦力や物資が偏り過ぎている……!」
リーダーの言う通り、分断されたメンバーはお世辞にもバランスが良いとは言い難かった。
こっちは俺と女性が一人に加え、異界の放浪者の少女が一人の計三人だ。
さらに言えば女性は治療系。完全にサポート特化の能力だった。
こうなると俺も魔法系であることを考慮して少女には前線を張れる戦士系であって欲しいところだろうが、そう上手くもいかない。
少女もまた、魔法系なのだ。それも元素魔法の使い手である。
召喚系かつ召喚獣を呼び出すタイプならソイツに前を任せられたろうに。
これでは全員が後方部隊要員。まともに戦えたものじゃない。
と、皆は思っていることだろう。
だが安心して欲しい。メリアは前衛も行けるタイプのキャラだ。
そうでなければわざわざ黄金鎧装なんてものは必要ないだろうし。
物資に関しても錬成である程度はなんとかなる。
少なくともダンジョンから脱出するまでであればまず問題はないだろう。
なので俺はすぐに向こう側にいるリーダーとこっちの二人にその旨を伝えた。
メリア語なので妙な言い回しにはなってしまったものの、ひとまず安心させることはできたと思う。
その後も話し合った結果、向こうは向こうで脱出することとなった。
完全な別行動になったわけである。
まあ向こうには遠征メンバーの大部分とほぼすべての物資があるんだ。
心配することなんて何一つないだろう。
だから気にするべきはこっちだけ。
この場で一番強い者として、俺は二人を守りきり、ここから無事に脱出させる義務がある。
そのためにもまずは……服を、着てもいいですか?
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