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1章 転生 07

 あれだけ力の差を見せられてもなお、彼は戦うつもりのようだ。

 根性があると言うべきか、諦めが悪いと言うべきか。



「俺はまだ、負けていない……!!」



 再び大斧が彼の周りを漂い始める。

 その数もさっきまでに比べて格段に増えていた。


 うーむ、あれだけの数を扱いきれている辺り頭の回転も速そうだ。 

 なのに負けを認められないのはやっぱりもう、後には退けないってことなのかね。



「不味い、流石の君もあの数は……!」


「たわけが。この程度の攻撃でオレがどうにかなるとでも?」


「そ、そうなのか……それなら良いんだが……」



 うわぁ! 

 違うんですすみません!

 俺の事を思っての言葉なのはちゃんと分かってますので!



「ウガァァッ! どこまでも俺をコケにしやがって!! 見せてやる、この俺の本気を……!!」


「来るぞ!!」


「ほう、先程よりも多少はマシになったか。だが無意味だ。……オレの黄金鎧装の前ではな」



 大斧が飛んできた瞬間、俺の体を金属が覆っていった。

 そして瞬く間に見覚えのある金ぴかの鎧が俺の身を包む。


 黄金鎧装。

 メリアの卓越した錬金術と高度な魔力操作が生み出した、彼女の傑作の内の一つだ。



「……は?」



 ガキィンッと言う甲高い音とともに大斧が弾き飛ばされる。

 そう、この黄金鎧装はとてつもなく硬いのだ。


 それに加えて高い魔法耐性と状態異常への耐性を持つ。

 まさしく最強の鎧。それがメリアの黄金鎧装だった。


 しかし、そんなつよつよ鎧にも弱点はある。



――ガシャン、ズズ……ガシャンッ



 移動する度に発生するこの重々しい音からもわかるだろう。

 そう、重いのだ。とにかく滅茶苦茶に重い。


 その影響もあり、この状態だとメリア自身の特性と相まって驚異の逃走成功率九割カットだ。

 なので黄金英雄記のRTAにおいてはメリアは基本的に使われなかったりする。


 悲しい。



「なんだそいつは……!? 嘘だろ、俺よりも高位の召喚魔法なのか……!? く、来るんじゃねえ!!」


「フハハッ、来るなと言われて来ない奴があるか」



 メリアの楽し気な声が響く。

 サディスティックなところあるもんねメリアちゃん。


 もっとも、その移動速度はハチャメチャに遅い。

 それがかえって彼に威圧感を与えているみたいだが。



「ふざけるな……ふざけるなよ!!」


「フッ、無意味だと言ったはずだが? しかし、攻撃を続ければいつかは届くかもしれんなぁ」



 うわぁ……そりゃないってもんだよメリアちゃん。

 多分この攻撃だと数千回ぶつけられてもヒビすら入らないんじゃないの。

 変に希望を与えた方が残酷でしょうに。



「さあ、射程距離に入ったぞ。どうする? まだやるのか? 隠し玉の一つや二つ、まだあるのだろう?」


「あ、あぁぁ……」


 メリアのあまりの威圧感に、流石の彼も心が折れてしまったらしい。

 あれだけあった大斧も奇麗さっぱり消えてしまった。


 紛れもなく、戦意喪失……だな。



「ふむ、つまらん。戦いはまだまだこれからではないか。まあよい。戦意を失った者をいたぶるほど、オレは異常者ではないのでな。無論、敵ならばその限りではないが」



 ……メリアちゃん怖い。

 ま、まあなんやかんやで丸く収まったわけだし、一件落着……で、良いんだよな?

 

 頼むからそうであってくれ。




 ――――――




 あの後、少年は拘束され、遠征はそこで強制的に終了となった。

 俺の初めてのダンジョン遠征は波乱の幕引きとなったわけである。


 そうは言っても、ああいった事はこの世界でならよくあることなんだろう。

 と、俺は思っていた。しかし、別にそうでもないようだ。


 こっちでもあのレベルの事件は前代未聞だったらしく、しばらくの間ニュースはあの一件で持ち切りとなっていた。

 そしてあれだけの力を見せてしまった俺と言う存在もまた、瞬く間に注目の的となってしまった。


 元々異界の放浪者(ワンダラー)は優れた能力を持つみたいだが、その中でも俺は規格外らしい。

 それこそAランクのハンターにも匹敵するとかなんとか噂されている。


 まあAランクがどれくらいのものなのかを知らないから何とも言えないんだけども。


 どちらにしろ、俺と言う存在がこの都市……いや、この国にとって無視できない存在になったことは確かだろう。

 今後どんな扱いを受けることになるのか。今から不安でしかない。



 ――と、そう思っていたのも束の間。

 Aランク相当の実力を持つと言うことがどういうことなのか。その洗礼を浴びることとなった。



「キハハハァッ!! 逃げてばかりじゃ死ぬぜェ!?」



 まさに死神と言った恐ろしい少女の笑い声と共に信じられない量の魔法が飛んでくる。

 どうやら俺は厄介なのに目を付けられてしまったらしい。



「たわけめ!! ここで本気でやりあえば街がもたぬだろうが!!」


「アァん? 街がどうなろうがどうだってイイだろうがよォ」



 ……??

 いや、いいわけ無いだろ!!


 何だコイツ!?

 倫理観とかぶっとんでる感じか!?



「チッ、埒があかねェな。こうなりゃデケエの一発……」


「はいはい、そこまでですよ」


「ウガッ!?」



 ……どこからともなく現れた女性が少女の肩を掴んだ。

 すると今にも魔法を放とうとしていた彼女が落ち着きを取り戻していく。


 恐らくあの女性は隠密系のハンターだろう。

 それも相当な実力を持っている。ほぼ間違いない。


 でないとあんな状態の少女を抑え込めないし、メリアの探知をかいくぐることだってできないはずだ。



「すみません。彼女、強い方がいるとなりふり構わず戦いたがってしまうの」


「ほう、そう言う事であったか。その心意気は嫌いではないが、ここでは人の営みを危険に晒すだろう。くれぐれも気を付けるんだな」


「うふふ。私もそう思うんですけど、言っても聞かなくて困ってるんです。もう少し穏やかでいてくれると嬉しいんですけど……でも案外そういうところが可愛いのかもしれませんね」



 嘘だろ……?

 普通に会話が……成り立っている? 


 メリアの高圧的な口調や性格でも会話が成り立つって……やっぱりあの少女と言い、Aランクハンターと言うのは曲者揃いなのか。


 これ、むしろメリア語が出て来ちゃう方が馴染める説も出てきたな。

 一周回ってありがとう。



「いけません、もうこんな時間。私たち、このあと遠征に行かなきゃいけないので失礼しますね」


「うむ、健闘を祈ろう。もっとも、其方らの実力であればその必要もないのかもしれないがな」


「うふふ、そんなことはありませんよ。そのお気持ち、ありがたく頂戴しておきます。それでは」


「ぁ゛ぅ゛っ」



 女性は少女を抱えると一瞬にして消え去ってしまった。

 去り際、少女の断末魔的なものが聞こえたけどきっと気のせいだろう。


 にしても……やっぱり全くと言って良いほど気配を感じ取れない。

 高位の隠密系ってこれほどまでに気配を消せるのか。


 うーん。ただ一言、恐ろしい。


 だってAランクにはこんなのがゴロゴロいるってことだろ? 

 それがあの少女みたいに喧嘩を売って来るかもしれないって?


 はは……俺、本当にこの世界でやっていけるのか?

本作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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