後日談(完)
そこは自然豊かな森だった。
一瞬、ただ別の場所に転移しただけなんじゃないか。
なんて、そんな希望的観測をしたりもしたけど……空がね、違うのよもう。
太陽は二つあるし、月っぽいのが七つある。
明らかさっきまでとは違う世界やんって言うね。
「エルシーよ。すぐにでもこの転移魔法を閉じねばならんのだが……本当によいのだな?」
「うん、いいよ。もう決めたことだからさ」
「そうか……では」
――ピシッ、バリイィィンッ
メリアちゃんが手をかざしてなんかこう解除魔法的な何かを使うと、ワームホール的なサムシングはものの見事に砕け散った。
あぁ、もう戻れない。
グッバイ、俺の悠々自適なBランクハンター生活。
「よし、あちらの世界もこれでもう大丈夫であろう」
「あははっ。こうして思い返してみると、色々と大変だったね。急に別の大陸に来ちゃったかと思えばこんなことになっちゃってさ」
「なぁに、退屈するよりはマシであろう。少なくとも、オレにとって中々に面白い旅路ではあった。それに、ここでもまた面白いものが見られるかもしれんのだ。悲観的になる必要もあるまい」
「えへへっ、そうだね。僕も君となら退屈しなさそうだよ。だって……君、面白い魂をしてるから♥ 他の人に先越されちゃったらどうしようって思ってたんだよ?」
……うん?
え、なに今の。
なんか色気と言うか、凄い湿度高くなかった?
うわ、待って……なんでジワジワ近づいてくるの怖いよ。
「君に出会ってからずっと気になってたんだ。どうして君、体と魂の形が違うの?」
「なに? 体と魂の形だと? そんなこと、オレが知るはずもなかろう」
魂の形……。
も、もしかして……「俺」?
メリアちゃんじゃなくて、佐藤巧としての俺ってこと……?
なんてことだ、思考が読めるのか……?
まずい……!
「まあいっか。どうせこれからも一緒にいるんだし、少しずつ知って行けばいいよね。メリアのこともそうだし……もちろん『君』もね♥」
あぁ、えっと……うん。
そうだね。ははっ……。
……もしや俺は、とんでもないのを連れて来てしまったのではないだろうか?
「それじゃあ早速、森を出よっか。暗くなる前に人里には着いておきたいし」
「フッ、人里があれば……の話ではあるがな」
「確かに。もしかしたら人がいない世界の可能性もあるもんね。でもそうなったら世界に二人きりってことだし、一から文明……始めちゃおっか☆」
「ふむ、それも悪くはないのかもしれんな」
いやいや、困るよそれ。
俺は空調の効いた快適な部屋のふかふかベッドで寝たいよ?
……ああでも、多分できるか。
メリアちゃんならそれくらいはできそう。
なんせメリアちゃんは稀代の天才錬金術師。
正直、不安はたっぷりある。けど、それでもなんとかなるはずだ。
最強で最高な彼女ならきっと……全部なんとかしてくれるはずだから。
「って、ここまできて他力本願なのかよ!! ……は? え?」
喋れた……!?
今、メリア語になってなかったよな……?
嘘だろ、俺……ついに自分の意思で喋れたのか!?
「ふーん、それが君の……。ふふっ、それじゃあ改めて……これからもよろしく♥」
おおう、エルシーちゃんのしっとりボイスが耳元をくすぐる。
……じゃないよ、今どうやって喋ったんだ俺?
うわ全然わからない!
もう感覚を忘れた!
くそぅ、頭の中エルシーちゃんの吐息しか残ってない。
けど……可能性、感じるんでしたよね。
そうだよ。一度できたんだから、きっとその内……俺が俺でいられるようになるはず。
そう考えると希望が出てきたぞ。
よし……待っててくれ、エルシーちゃん!
いつか、俺自身の言葉で君と会話ができるその日まで……!!
【偽りの黄金少女 完】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
精霊歴812年
メリア、エルシーの両名が精霊界アヴァロンヘイムの精霊王国へと転移。
同年、同国内にて冒険者として活動を開始。
精霊歴813年
精霊王国内にてメリア、エルシーの両名共に冒険者の最高等級である『アダマンタイト』へと昇格。
僅か一年足らずでのこの出来事は国中の注目を集める結果となった。
精霊歴815年
冒険者活動で手に入れた莫大な資金を元に、メリアは王都内に錬金術用の大規模な拠点を作成。
そこで彼女によって生み出された数々の物品は王国の文明レベルを飛躍的に上昇させることとなった。
精霊歴818年
メリアの作り出した魔道具が王国だけにとどまらず、アヴァロンヘイム全体へと広まる。
その結果、世界全体の文明レベルもまた格段に上昇することとなった。
精霊歴822年
メリアの持つ錬成技術を奪い独占しようとする帝国の侵攻により戦争が勃発。
多くの死傷者を出したものの、メリアが生産した魔導兵器とアダマンタイト等級の冒険者であるエルシーの活躍により年内に終戦を迎える。
精霊歴828年
彼女のメリア・ゴルドランとしての自我が徐々に消え始める。
精霊歴833年
完全にメリア・ゴルドランとしての自我が消滅したことをきっかけに、彼は冒険者及び錬金術師を引退。
エルシーと共に人気のない王国の辺境で暮らし始める。
精霊歴835年
佐藤巧、エルシーと結婚。誰を招くこともなく、辺境の教会でひっそりと挙式を行う。
精霊歴841年
各国の発展速度の違いにより、大陸全体のパワーバランスが崩壊。
他種族をも巻き込んだ第三次人魔大戦が勃発。
精霊歴843年
大戦を止めるため、エルシーの制止を振り切り佐藤巧は再び錬金術師として戦うことを決意。
同年の夏、彼とエルシーの活躍により第三次人魔大戦は終戦。しかし限界を超えた錬成による影響か、佐藤巧は惜しまれつつもこの世を去ることとなってしまう。
精霊歴844年
佐藤巧の後を追うかのように、エルシーが行方を晦ます。
精霊歴845年
終戦を記念すると共に、王国のために戦った二人の英雄を祀るための石像が王都に建てられる。
人々は決して彼らを忘れることはないだろう。
くぅ~疲れましたw これにて完結です!
以下、いつものをどぞ。
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