3章 王都襲撃 11
「ふむ、他愛もない奴らよな」
はい。結果から言うと、なんとかなりました。
そうだよね。三人に加えてメリアちゃんとエルシーちゃんがいるんだもんね。
よく考えたら竜ぐらいじゃ全然なんでもなかったよ。
「お見事。と言っても、この程度でくたばるようでは到底私に勝てるはずもないのですが……いいでしょう。では、かかってきなさい。地獄と言うものをお見せいたしますよ」
そう言うとエニグマは両手を掲げ、なんか凄そうなことをし始めた。
「これ以上ないほどに濃厚な闇と言うものを、貴方たちは見たことがありますか? いえ、あるはずがないでしょう。私は大罪魔族の血を引いているのですからね」
「ぐっ……ここにまで振動が……」
「まるで、空気が怯えているかのようです……」
「は、はは……困ったな。ボクの魔獣でも勝てなさそうだぁ」
ちょっと、なに弱気になってるの三人共。
言っておくけど、一番先に戦おうとしたのそっちだからね?
俺は別にそう言うつもりじゃなかったからね?
ああいや、駄目か。
メリアちゃんは元々黒幕をぶちのめそうとここに来たわけだし、どう足掻いたって真正面から喧嘩を売ることになってたわ。
「さあ、食らいなさい。人族の所詮はごっこ遊びのような魔法とは違う、魔族による本物の魔法と言うものを……!!」
「来るぞ……!!」
ドルフが盾を構えて前に出る。
その、やめておいた方がいいんじゃ……。
「ぐあぁぁっ!?」
ドルフが吹っ飛んだ。
まだ魔法が放たれてすらいないのに、少し近づいただけでこれだ。
言わんこっちゃない。
少しでも離れてさ、延命しようぜ?
ほら、こうやって一歩ずつ少しずつ後ろに……クソッ、こんな時だってのにメリアちゃんは微動だにしやがらねえ!!
「ドルフさん!! 今、回復を……!」
「無駄ですよ。どうせすぐに貴方たち全員、あの世行きなのですから」
「ほう、それは面白い。で、どうやってあの世へと送るつもりなんだ?」
「それはもちろん、この魔法を……ッ!? なんですかこれは!? いつの間に……!?」
おっと、いつの間にやら金属の柱がエニグマの両手に巻き付いている。
そのせいなのか、奴が集めていた魔力の塊的なサムシングが霧散していった。
くぅ~!
流石はメリアちゃんだ!
信じてたぜ!
「貴様は相当な術師なのだろう。すぐに倒してしまうのは惜しい。惜しいのだが……貴様がこれまでにしてきたことを考えれば、到底許すことなどできんのだ」
「はっ、何を言うかと思えば……確かに貴方は実力者のようですが、所詮は人間。この私に対してそのような態度を取れるような存在では決して……」
「そう思うか?」
うおぉ、メリアちゃんの眼光がエニグマを見事に射抜いている!
これには流石の魔族も耐えられまい!
ってか実際に明らかに動揺してるっぽいぜ!
「……いいでしょう。では、やってみなさい。貴方がどれほどの力を持っているのか、この私が直々に確かめて差し上げますよ」
「そうか。では死ぬがいい」
――ドズンッ
地面から飛び出た極太の金属の柱が一瞬にしてエニグマの胴体を貫いた。
普段よりも格段に太くて鋭利な柱だ。
それだけメリアちゃん、コイツに対して怒りの感情を持ってるんだろうな……。
いやもう本当に恐ろしい。
絶対にメリアちゃんを怒らせちゃ駄目だぁ。
「がはっ……え゛っ……? い、一体……何、が……?」
「起きたことも理解できんとはな。所詮は魔族と言ってもこの程度か」
「あ、ありえません……この私が、感知すらできなかった……とでも?」
「事実、そうなっているだろう」
血を吐きながらよろめくエニグマに対して、メリアちゃんは冷静に、それでいて静かな怒りを言葉に乗せてぶつけているように見えた。
相当根に持ってるね、これ。
「ば、馬鹿な……こんなところで……! げほっ……わ、私は、この手で魔族の世界を……取り戻すのです……!」
「貴様、そのために罪無き者を利用したであろう。聞いているぞ。幼少の彼らに契約魔法を施したのだとな。それに、この国の民もまた貴様の目的のために命を危険に晒されることとなろう。オレはそれが何よりも許せんのだ」
「……まさかとは思いますが。貴方はそのためだけに……こうして、王城に攻め込んで来たと……?」
目に見えてエニグマは動揺している。
そりゃあもうはっきりと。
声も表情も、その他色々な部分からコイツがただ心の底から驚き、困惑しているのが分かった。
……でしょうね。
まあ、そうなるわ。
「無論だ。もっとも、貴様のような存在がいたことは想定外ではあったがな」
「は、ははっ……呆れましたよ。まさか国を相手にしてまで、弱者救済を行おう……とは。ですが、これだけの力を持っていれば、それもまた可能……と、そう言うことなのですね……。そして同時に、私にはそんな貴方に対抗する力が、無かった……」
「そう言う事だ。オレにはオレの大義が、貴様には貴様の大義があったのだろう。しかし、それを成せるだけの力があったのはオレの方であり、貴様にはなかった。それだけのことよ」
メリアちゃんがなんか深そうなことを言っている。
要するに、オレの方が強かったから勝ったのだ……ってこと?
おぉ、力こそパワー。
「最後に聞こう。先程、貴様は言ったな。貴様さえ倒せれば全てが丸く収まると。それは本当か?」
「今の私が、素直に答えるとでも……? と、そう言いたいところですが……いいでしょう。どうせ貴方に隠し事など、できませんから。確かに、私がいなくなれば……国王を脅す者はいなくなり、魔獣と言う戦力を失ったこの国は……戦争をやめるでしょう。しかし……」
「ふむ、既に始まった隣国の戦争を止めることまではできん……と」
「そう言う……ことです。残念ながら、魔族の世界を取り戻すことはできませんでしたが……人族もまた、多くの血を流すのです。ふ、ふふっ……ふはははっ……がはっ」
エニグマが力なく倒れ込む。
かと思えば、すぐに真っ白な灰みたいな粉になってしまった。
倒した……のか。
なんだか呆気なさ過ぎて全然実感が湧かないな。
でもこれでニーニャたちは追われることもなくなるし、もうこの世界が魔族に支配されるなんてこともないんだよな。
うん……?
と言うか、これ放っておいたら魔群大陸どころかあっちの大陸すら危なかったってこと?
うわあっぶぇ!
マジでこっちの大陸であらかじめ野望を止められてよかったわ!
あっちの科学文明と魔法がガッチャンコした殺意マシマシ超兵器で戦争しあったらそれで世界終わるっての!
「おのれ、勝ち逃げしたかのような雰囲気を出しおって。しかし厄介なことをしてくれたものだ。これではこの国の民が無意味に血を流すことに変わりはないではないか」
「それは……大丈夫です。私たちが、なんとしてでもこの国を……いえ、この大陸を守りきりますから」
「ああ、これは俺たちにしかできないことだからな……!」
「ボクはあまり乗り気じゃないんだけどぉ……皆のためにも、戦わないとね」
「……よいのか? 其方らもまた王国の被害者のようなものであろう」
うんうん。メリアちゃんの言う通り。
言ってしまえば彼らはここで飼い殺しみたいな状態だったわけで。
少しくらい自由に生きたって文句は言えないだろうよ。
「確かにそうかもしれん。だが、力を持つ者の責任を放棄はできない。それに、今までの俺たちは王国のためとは言え他の国の人間を殺してきたんだ。だから、これからは人々を守り、平和を目指していくってのが俺たちに与えられた使命なんじゃないかって……そう思うんだ」
「ふむ、そうか。其方らがそう言うのであれば否定はせん。どれ、場合によってはオレも協力してやるとしよう」
……え?
あの、できれば俺は平和に暮らしたいんですけど。
あっちの大陸でそこそこのダンジョン潜りつつ、ぬくぬくスローライフしたいんですけど。
「それは助かる! 君がいれば百人力……いや、千人すら超えて万人力だ! はっはっは!!」
ああもう、完全にそう言うことになっている。
どうしよう。
「……よかったの? あんなこと言って」
おお、エルシーちゃん!
お願い、頼む!
メリアちゃんを引き留めてくれ!!
「なに、人々を導くのもまた強者の務めよ」
「ふーん。それじゃあ僕も協力するね。大船に乗った気持ちでいてよ☆」
エルシーちゃん!?
違う、そうじゃない!!
はぁ……もう諦めるしかないのか。
でもまあ……このまま放っておいたらいずれ向こうの大陸にまで広がって行って世界大戦みたいなことになりかねないし……。
一応、俺にもメリットはある……のかなぁ。
「それでは私たちは今回の一件を騎士隊長さんに伝えに行きますね。彼からであれば国王様にも話が通せるでしょうし」
「そうか。ではひとまず、今は其方らに任せるとしよう」
「はい、お任せください。それと……本当に、ありがとうございました。貴方がいなければ、きっと私たちは何も知らないまま、この手で世界を滅茶苦茶にしてしまっていたでしょう」
「そうだな。どれだけ感謝しても足りんくらいだ」
「ふふ、ありがとうねぇ」
うわバルザックきゅん可愛い。
やべえよやべえよ。男の娘の笑顔って、国宝なんですよね。
「では私たちは一旦失礼しますね」
「……おっと、そうはいきませんよ」
「え……?」
ッ!?
声がした。
紛れもなく、エニグマの声だ……。
だが、奴はどこにもいない。
当たり前だ。さっきメリアちゃんが殺したはずなんだから。
その証拠に、あそこに灰が……ない!?
「ふっふっふ、大団円のハッピーエンドだなんて……そんなこと、私が許しませんよ」
「そ、そんな……嘘でしょう……? 貴方は、メリアさんの攻撃で消滅したはずでは……!!」
「ええ、消滅しましたよ。ですので今の私は実体を持たない思念体。すぐに霧散し、消えてしまう運命でしょう。ですが……魔法を使うことくらいはできます」
――ズオンッ
突如、空中にワームホール的なものが出てきた。
かと思えば、体が吸い込まれていく。
見たら分かる。
これヤバイやつだ。
「こ、これは一体……!?」
「体がぁ……吸い寄せられるぅ……!!」
「これこそ、私の魂を代償にして発動する最終兵器。魔力の消費が大きすぎるために、生身では決して使用できない禁忌の魔法……『転移魔法』にございます。実のところ、この先がどこに繋がっているのかは私自身にも分からないのですよ。もしかしたら全く別の世界かもしれません。それに転移直後に危険な魔獣に襲われることもあるかもしれませんねえ。ふふっ、皆さまは一体……どこへ転移させられてしまうのでしょう?」
「そ、そんな……こんなことが……」
「絶望なさい。そして、願うのです。どうか生き延びられますように……と。まあ、無駄でしょうがねえ!」
「その必要はない」
……あの、メリアさん?
何をするつもりで?
なしてワームホール的なものに近づいて行くんです?
「メリアさん!? 駄目です、そんな近くにまで行っては貴方が……!」
「どうやら、これはただの魔法ではないらしい。無力化するためには向こう側から閉じるしかなかろう」
「なッ!? 何を……まさか、貴方はこれすらも止められると言うのですか!?」
「当然だ。このオレを誰だと思っている」
「ッ!! 駄目だ!! そんなことをすれば君が……!」
「ドルフよ。先程、其方が言ったであろう。力を持つ者の責任を放棄はできないと。これはそう言う話なのだ。ここで止めねば、いずれこの魔法は全てを飲みこむであろう」
「それなら僕も行くよ」
エルシーちゃん!?
いや、孤独じゃないって言うのは嬉しいと言えば嬉しいんだけど……本当にいいの!?
「よいのか? もう二度とここには戻れんかもしれんのだぞ」
「別に、未練とかはあまりないからね。それよりも僕は君の方が興味あるし」
「そうか……では、共に来るがいい」
「うん」
あ、一歩踏み出しちゃった。
「なっ、なんなんですか貴方は……!! 一体どこまで私の邪魔をすれば気が済むと言うのですか……!!」
「当然、どこまでも……だ。貴様が何かをする限りな」
「ぐっ……嘘ですよこんなの。こんなはずでは無いのです……! 私の魂すらも贄としているのに、こんな仕打ち……あんまりじゃありませんか……!! あ、ぁぁ……そん、な……」
エニグマの声も気配も、完全に消えた。
今度こそ、完全なる消滅と言うことなんだろうか。
どちらにしたって、このあと何が起ころうが俺が知ることはできない。
なんせ俺とエルシーは奴の生み出した転移魔法に飲みこまれてしまったのだから。
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