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偽りの黄金少女  作者: 遠野紫


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3章 王都襲撃 10

 ドルフが彼の名を叫んだんだ。

 壁の向こう側にいるあの男がエニスなのは間違いないんだろう。



「どういうつもり……と言われましても、侵入者に攻撃をしただけですが」


「だとしても、他に方法があったはずだ。バルザックを巻き込むところだったんだぞ……!」



 ドルフの覇気が凄い。

 きっと仲間想いなんだろうなぁ。

 さっき俺を……と言うかメリアちゃんを守ってくれた時もなんかこう、頼れる兄貴分って感じあったし。



「はっ、なんとも奇妙なことを。考えてもみてください。これは仕方のないことでしょう? 敵を倒すための致し方ない犠牲なのですから」


「お前……本気で言っているのか?」


「そ、そうですよ……! バルザックさんは大切な仲間でしょう……!?」



 エニスがあまりにも淡々としゃべっているからなのか、見るからに怒り状態のルミナスも加わってきた。

 そうだよね。彼女も仲間想いだもんね。


 ああ、だからあの二人は意気投合して……。



「仲間……ですか。いいですねえ、仲間との友情。お互いに尊重し、大切にしあうだなんて見事な精神です。しかし……生憎と、(わたくし)は貴方たちのことを仲間だと思ったことは一度たりともありませんよ」


「……エニスさん? 何を……言って……」



 おっと、雲行きが怪しくなってきたな。

 もしかしてカップル二組のイチャラブを延々と見せつけられて頭がおかしくなってしまったのか?


 ああ、可哀そうに。お労しやエニス。



「どうしてそのようなことを……」


「エニス……何か、悩みでもあるのか? 気付いてやれなくてすまなかったな。俺たちに遠慮なく言ってくれ。力になれるかは分からんが、いくらでも協力を……」


「いえいえ、そう言うことではありませんのでご心配なさらず。むしろ、そのような短絡的な思考しか持てない貴方たちを見ているだけで気分が良くなります。こちらこそ感謝しなければなりませんね」



 おぉ……コイツ、性格終わってんね。

 本当に人間か?

 悪魔の類だろこれもう。



「そんな……私たちは貴方のことも仲間だと思って……」


「そう思うのも無理もないでしょう。そう言う風に演じていたのですから。しかし、それも今日ここまで。ここからは本当の私をお見せしなければなりません。貴方たちがこうして攻め込んできてしまったのですから」



 エニスの視線がこっちに向けられる。


 ……え?

 俺?


 俺!!


 俺俺俺俺!!

 Ahh~真夏のJamboree〜〜〜〜!!!!



「貴方たちでしょう? 聖域から現れた逸脱者と言うのは」


「ほう、やはり知っていたか。であればどうする? 戦うのであればオレは大歓迎だが」


「じゃあ僕は向こうで見てるね」



 いやちょっと? 

 コイツただもんじゃなさそうだし、エルシーちゃんも協力してよ。



「いえいえ、私はできることなら穏便に済ませたいのですよ。ええ、穏便にね」


 

 エニスがゆっくりと近づいてくる。

 少なくとも「今は」敵意はなさそうに見えた。



「ふふっ、それにしても驚きましたよ。ええ、驚きました。まさか、たった二人で王城へと殴り込んで来るなんて……そう、まさか……ねぇ?」



 ……なんかこいつ、めちゃくちゃ動揺してないか?

 いや、するか。そうだよな。当たり前だ。

 普通に考えて王都を陥落させるのに二人で攻め込んでくる奴はいねえよ。

 


「私はてっきり、聖域の守護者共が総力戦を挑んでくるものだと思っておりまして……それがまさか二人だけだなんて、随分と舐められたものですね」


「フンッ、所詮はその程度と言うことよ。それよりも貴様、妙なことを言うではないか。少なくとも今この王国において『聖域の守護者』は貴様ら王国側が送り込んだ者たちのことであろう? 何故、権力者でもない貴様が追放された者たちのことを聖域の守護者と呼んでいる?」



 おぉ、確かに。

 そう言われればその通りだ。

 流石メリアちゃん。めざといしあざとい。


 いや、あざとくはないか。

 じゃあ、あざとくあれ。必要だろ。



「おっと、これは失礼。ついつい話し過ぎてしまいましたね。ではここらで私の本当の姿をお見せいたしましょう。その方が、話も早いでしょうし」



 そう言うとエニスは力み始めた。

 まるで精神と時の部屋で修行をしている孫悟飯が超サイヤ人に変身しようとしていたときみたいだ。



「ふん゛っ!!」



――バキッ、ズグンッ



 エニスの背中からコウモリみたいなデカい翼が生えてきた。

 と同時に頭部から角も生えている。

 更には髪や目も真っ黒に変色していった。


 これはまさか……悪魔? 

 え、マジで?

 与太話と言うか冗談だったのに当たっちゃった?



「ほう……? 中々に……いや、かなり面白くなってきたではないか」


「ふふっ、おまたせいたしました。これこそが私の本当の姿です」


「そんな……。エニスさん、貴方は……魔族だったのですか……?」



 あ、魔族らしいです。

 じゃあニアピンっすね。


 いや魔族も悪魔も、どっちも同じようなもんじゃろ。



「ええ、その通り。気付きもせずに私を仲間だと思い込んでいた貴方たちの姿は大変滑稽で、素晴らしく甘美なものでしたよ」


「嘘だろ……エニス? 嘘だと言ってくれよ……!」


「おやおや、この姿を見てもまだそんなことが言えますか。ふふっ、貴方の目は大層節穴のようですね」

 


 ねえ、魔族って皆コイツみたいに性格悪いの?

 こりゃ自害もさせられるわ。



「更に言えば、エニスと言う名もまた偽の名前。私の真の名はエニグマ。そう、かつて栄華を極めた魔族の中の魔族。大罪魔族の直系の子孫なのです!」


「大罪……魔族……!」



 バルザックきゅんが反応を示している。

 知っているのかバルザックきゅん?



「バルザック、何か知っているのか!?」


「うん……ボクも話に聞いただけなんだけどねぇ。この世界はかつて魔族が支配していた時代があったって言うのはぁ、皆も知っているでしょ」


「ああ、危うく人類が全滅しかけたって奴だろ」


「その時、魔族を束ねていたのが魔王ルーンアルファとぉ、その配下の大罪魔族だった……らしいんだよぉ」



 ……なんてことだ。

 だとしたら今俺たちの目の前にいる魔族はとんでもない存在ってことなんじゃないのか?


 あの、今からでも入れる保険ってあります?



「ふっふっふ、その通りです。勤勉なのは良いことですよ。もっとも、それもすぐに無意味となるのですがね」


「なんだと?」


「私がどうして逸脱者の子孫なんかのフリをして王国に入り込んだか分かりますか? 憎き人間などを演じてきたかが、貴方たちに分かりますか?」



 うわ、憎悪が凄い。

 同時に殺気も。


 さっきまでは意図的に隠していたんだろうなきっと。

 殺気だけに。



「それはですね……この私が王国を裏から操り、人間同士の戦争を誘発させて再び魔族の世界を取り戻すためなのですよ!!」


「なッ!? そ、そんなことが……」


「できるはずがない……と、お思いですね? 確かに、魔族の王たる魔王ルーンアルファ様はかつてエルフの魔術師に破れ、今や生物とも無機物とも言えない状態で魔獣とダンジョンなる存在をただひたすら生み出すだけの物言わぬ骸となってしまっております。非常に遺憾ですが、我々と共に戦うことは叶わないでしょう」



 ……うん?

 なんか今すんごい大事な情報出てこなかった?

 気のせいか。



「しかし、だとしてもですよ。現実はどうでしょう。現に隣国は戦争を始めていますし、この王国だって既に何度も攻め込まれているはずですよ」


「ですがそれは……」


「……私が裏で操っているから。ええ、そうです。確かにそうですとも。言ってしまえば、私さえどうにかすれば全てが丸く収まるわけです。ですが、それが可能だとでも? 私が魔族であることに気付きもしなかった貴方たちが、私に勝てると本気で思っているのですか?」


「ぐっ……」


 

 エニグマが一歩前に進む度に、ドルフたちは一歩後ろに下がる。

 あれだけの威圧感を放っているんだ。

 きっと、無意識にそうしてしまっているんだろう。


 そのせいで、微動だにしない俺とエルシーちゃんが滅茶苦茶に目立っているんだけど。

 ねえ、頼むから三人とも戻って来て。

 これじゃあどう考えても喧嘩売ってるって思われるからさぁ。

 


「ふっ、口ではああ言いつつも分かっているのでしょう? 私ならば実現できてしまうのだと。人類の世界は、魔族によって終焉を迎えるのだと……!」


「だとしても、俺たちは……!」



 おぉ、ドルフが盾を構え直しながら一歩踏み出した。

 良いぞ。その調子でヘイトを分散させてくれ。



「貴方のような存在を、野放しにはできません!」


「この大陸を……いや、この世界を好きにはさせないよぉ。ボクたちがぁ、お前を止めてみせるからね……!」



 更にルミナスとバルザックきゅんも戦うつもりだ。


 うおおぉ! 

 いいぞぉ、もはやメリアちゃんの助力など必要はない!

 今の君たちのパワーで魔族をこの世から消し去ってしまえぇ!!



「無謀。ええ、無謀としか言えません。何故なら人と魔族の能力差は圧倒的。それでも戦うと言うのであれば……まずは彼らを倒してみたらどうです?」


「彼ら……だと?」


「ねえドルフ、あれぇ……見える?」


 

 バルザックきゅんがそう言うのでその視線の先を見てみる。

 すると、上空で大量の竜が飛んでいるのが見えた。


 それもさっきバルザックきゅんが召喚と増殖で展開した魔獣の数を優に超えている。

 まるでこの世の終わりみたいな光景だ。



「魔獣と言うのは扱いやすくていいですね。我が王から生み出されるのですから、当然ではあるのですが」


「待て、あれは騎士隊の竜か……? ではまさか、騎士隊の竜と言うのは……」


「ええ。彼らは私が強化し、使役しているものです。まさか人族ごときがあのレベルの龍を従えられると本気で思っていたのですか? なんともまあ、滑稽なことで」



 あぁ、なるほどそう言う事ね。

 王国の騎士隊の竜があんだけ速かったのは、そこに魔族が関わっていたからと……。


 確かに魔獣が魔王の遺産的サムシングなんだとしたら、魔族が強化したり使役できるのもまた当然と言うわけだ。

 召喚魔法で召喚された魔獣がダンジョン内の魔獣よりも遥かに弱い理由も多分そこにある。


 こいつは……想像以上に厄介な状況かもしれないな?

本作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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