3章 王都襲撃 04
「この一撃に、全てを賭ける……!!」
カインの持つ大斧がバチバチと電撃を帯び始めた。
多分、あれこそが雷撃の効果なんだろう。
これまで使ってこなかったことから察するに、恐らくは何か代償が必要なタイプ。
となると必然的にその威力は凄まじいはず。
制約が強いほど、効果が強くなるのは当然だからね。
と言うかそうでないと流石に使い勝手が悪すぎるでしょ。
威力はそこそこ止まりだけど発動も重いって、それはもう産廃なので……。
「ふむ、このオレの錬成による包囲網を突破できると言うのであればやってみせよ」
「当然……できるに決まってる!! うおおぉぉぉッッ!!」
一歩、カインが踏み出した。
その瞬間、彼女の周りに小さな電撃が飛ぶ。
それは瞬く間に小規模のインパクトを無数に発生させ、なんとメリアちゃんの生み出した金属の柱を吹き飛ばしたのだった。
「ほう……!! フッ……フハハッ!! やるではないか!! 面白い……その一撃、受けてみせようぞ!」
「減らず口を! どうなってもしらないからな!!」
カインがすぐそばにまで近づいてくる。
その手にはこれでもかってくらいに電撃を帯びた大斧が……。
うん……?
待ってくれ。今、メリアちゃん……受けて見せるって言ったか?
あのクソデカびりびり大斧を、その身で受けるって……?
な、何を言ってるんだ!?
考え直せメリアちゃん!!
どう考えてもまともじゃないぞあの大斧!!
「はぁぁぁぁぁッッ!!」
うわぁぁ!!
もう振りかぶってる!!
駄目だ、もう避けられないって!!
ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!
待って!助けて!待って下さい!お願いします!アアアアアアアア!
――ドグンッ
おぁぁ……。
視界が……ぐるぐるとしている。
わりい、俺死んだ。
――ドシャッ
ぐええぇぇ死んだンゴ。
……いやまあ、実際は死んでないけどさぁ。
正直……めちゃくちゃ怖かった。
大丈夫?
俺の手足ちゃんとくっついてる?
内臓まろび出ちゃってない?
ただでさえ転生してるのにまた転生とか洒落にならないからね?
「どう……? 私の最高の一撃……うぐっ」
「カイン!!」
「ご、ごめんリリア……ちょっと力を使い過ぎちゃった、か……も」
「待ってて……今回復するから……!」
「その必要はない」
「ッ!? う、嘘……でしょ……」
リリアの顔が曇っていく。
恐怖、あるいは極限まで煮詰めた驚愕とも言うべきだろうか。
どちらにせよ、メリアがたいしてダメージも負わずに立っていることが信じられないと言った、そんな表情であることに変わりは無かった。
……でしょうね。
俺だって同じ立場だったらそうなる。
メリアちゃん、流石に無法過ぎるよ。
「どうして……カインの本気の一撃を受けたのに……」
「無論、無傷とはいかん。確かに先の一撃はオレに傷を付けた。しかし、それまでだ。オレの再生能力の前にあの程度の攻撃は無力」
「そんな……」
まさに絶望と言った表情のまま、リリアはうつむいてしまう。
どうしよう……この空気。
あ、でもメリアちゃんが何かしようとしている。
「……だが、あの一撃が見事だったことに間違いはない。あれだけの物を見せられたのだ。これは其方らへ送る、オレからの敬意。その証だ」
「えっ?」
メリアちゃんはそう言うと、ポーションを錬成してリリアへと投げ渡した。
「い、いいの……? 私たち、敵同士なのよ?」
「構わん。あれだけの実力を持つ者がこんな所で失われるのはオレとしても本望ではないのだ。更なる鍛錬を続ければ、其方らはまだまだ高みを目指せるであろうからな」
「分かった……一応、感謝しておくわね」
そう言うとリリアは渡されたポーションをカインへと飲ませた。
雷撃がどんな代償なのかは分からないけど、ひとまずメリアちゃん特製ポーションを飲んでおけば命の心配はないだろう。
「勝負あり……と言ってもよさそうですね」
「ユイか。確かにそうかもしれんな。カインとやらも、あの体ではもう戦えまい。リリアもとっくに戦意を失っているようだ」
「では、ここからは私の出番ですね♥」
え……?
待て、待て待て!
もしかして、この子たちにもあれをやるのか……?
騎士隊を壊滅させた時にやっていた「倫理観ガン無視お話タイム♥」を!?
ま、不味いだろうそれは流石に!
こう……倫理的にさぁ!!
「なによ……。言っておくけど、私たちは何もしゃべらないわよ。……ううん、しゃべれないって言った方がいいのかもしれないわね」
「あらあら、何か訳ありなのですか?」
「私たちは契約魔法をかけられているの。王国の内部情報をしゃべると頭が吹き飛ぶわ」
……なんてこった。
いくらなんでも酷すぎやしないか?
いや、ユイがやろうとしている事の方がよっぽど酷いけどさ。
けど騎士隊にはそう言うのがなかったよな。
ってことは、逸脱者の子孫と言うものを王国は完全に信用してはいないってことか。
それこそ寝返る可能性を考慮したうえでの運用をしているってことになる。
なら、彼女たち自身は別に王国に忠誠を誓っているわけではない……?
「王国は酷いことをするのですね」
「別に、当然のことよ。私たち皆、この大陸では常識外れの力を持っているんだもの。敵になればあっという間に国が滅ぼされてしまうほどにね。だから、王国は私たちが小さい頃から根回しをしていた。あらゆる物事を優遇し、国家ぐるみで囲い込んだの。そして、物心つかない内に契約魔法を契約させた」
うーん、何と言うか……吐き気をもよおす『邪悪』?
将来的に国の脅威となるような彼女たちを、何も知らない幼少の内に契約魔法で縛ったってわけじゃん。
いくら国を守るためとはいえ、流石に一方的な契約は不味いだろうよ。
なんなら戦争に使ってる時点でかなり黒に近いグレーでしょこれ。
もろに「なにも知らぬ無知なる者を利用する事」だし、どこぞのギャングさんもぶちぎれ案件じゃないの。
「まあでも、力を持つ者を優遇すると言う点については私たちの国も同じですね~。脅威となる魔獣を相手にできるのはハンター……こちらで言う逸脱者だけですから。ですが……」
「ああ……その判断がまともにできぬ年齢で半ば無理やりに契約を進めるなど、絶対にあってはならんことだ」
あっ……。
これ、メリアちゃんの地雷を踏んだかもしれない。
メリアちゃん、多くの孤児院に多額の寄付をしたり、貧民街で炊き出しとかしていたくらいだからね……。
こういう胸糞案件はまさに絶許なやつだよ。
「気が変わった。ニーニャのこともあり、ある程度は穏便に済ませようと思っていたが……やめだ。王国の中枢はオレが必ず叩き潰す。弱者を食い物にするような輩は生かしてはおかん」
やっぱりそうなりますよねー。
はぁ……俺の精神、ぶちぎれメリアちゃんの行動に耐えられるかな……。
もっとグロ耐性とか付けておけばよかったかもしれない。
今から憂鬱だぁ。
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