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2章 隠しダンジョンと魔群大陸 06

「ねえ、見てこれ!」


「これは……壁画か」



 ニーニャの後を追って辿り着いたのはとある建物の中だった。

 ここまでの道中で見かけた建物との建築様式の違いや風化具合から見て、恐らくここは遺跡かそれに近いものなんだろう。


 で、そこにある壁画が彼女が俺たちに見せたかったもののようだ。



「昔は聖域と外の世界が繋がっていて、そこから『逸脱者』って呼ばれる凄い人たちが迷い込んできたりしたらしいの! ハンターって言うのが何かはわからないけど、もしかしてこの逸脱者だったりするんじゃないかなってウチは思うんだけど! いや、絶対そうだよ! だって皆珍しい恰好をしているし、なによりあの聖域にいたんだもん!」



 ニーニャは目を輝かせながら壁画と俺たちを見比べている。

 まるでおとぎ話に出てくる英雄を実際にその目で見たかのようにキラッキラのおめめだ。


 まあでも……仮に俺たちがその逸脱者なのだとしたら、確かにおとぎ話に出てくる英雄みたいなものなのかもしれない。

 そう考えるとなんだか悪い気はしないな。 



「僕たち逸脱者だって。なんだかカッコいいね」


「そんなに大層なものだとは自分でも思えませんが……でも、あんなに嬉しそうなニーニャさんのためなら一肌脱いでもいいかもしれませんね」


「一肌……」



 あ。アイリがユイによくない視線を浴びせている気がする。

 とくに胸部に。


 まさか、さっきの抱擁で目覚めてしまったとでも言うのか?

 まあ俺としては眼福だからどんどんイケイケなんだが。

 


「……そこで、逸脱者の皆さんにお願いがあるの」



 うん?

 ニーニャの雰囲気が何か変わったような。


 さっきまでの活発元気っ娘な風味はどこへやら。

 今はしんみりシリアスなアトモスフィアを醸し出している。 



「いや待て。オレたちはまだ逸脱者と決まったわけではないぞ。無論、逸脱者と呼ばれる程の力をオレは持っているのだが」


「確かにそう……かもしれない。けど、それでもお願いしたいの。もうウチたちじゃどうにもできないことだから」


「ふむ……どうやら相当に追い詰められているようだな。よい、話してみよ」



 うーん、相変わらず上から目線でごめんなさいね。

 けど困っている人を見捨てられないメリアちゃんのそう言う所すきよ。ちゅっちゅ♥

 キモ。 



「いいの……? あ、ありがとう! えっと、それじゃあどこから話そう……さっき聖域にいた人たち、いるでしょ? あの人たち、ある時から急に現れて『自分たちが本来の聖域の守護者だ!』とか言い始めたの。それで……」


「ふむ、読めたぞ。聖域の守護者と言うのが何かはわからぬが、元々それらは其方らのことであったのだな? そして、その立ち位置を取り戻すために協力して欲しい……と、そんなところだろう」


「え? そこまでわかっちゃうの!? 凄い、流石は逸脱者だ!!」


「フハハッ、もっと褒めるがいい! そしてこのオレを称えよ! ……まあ、この程度は簡単な推理に過ぎんのだがな」


 

 よっ、あっぱれメリアちゃん!

 黄金の頭脳は……あ、伊達じゃあないぃ……!!



「そうなると、あの人たちと戦わないといけないってことですよね? どうにか穏便に済ませる方法はないんでしょうか」


「あはは、難しいんじゃないかな。あの時だってまともに話し合いができそうな状態じゃなかったしさ」


「それはエリちゃんのせいもありそうですけどね~」


「う゛っ……」



 あ、ユイの何気ない言葉が目に見えて刺さってる。

 本人に自覚がなさそうなのが余計に怖い。



「ほ、本当にごめんなさい……」


「構わん。そう気を落とすでないわ。過ぎたことであるうえ、オレたちが逸脱者であろうとなかろうと奴らはオレたちを放置することはないだろう。いずれ戦わねばならんことに変わりはないのだ」


「キヒ……ありがとう……」



 エリが優しい笑みと共にそう言ってくる。


 待って君そんな顔できたの?

 おおう、なんというギャップだ。

 惚れてまうやろ!



「えっ? 本当に戦ってくれるの……? 自分で言うのもあれだけど、ウチのこと信じてくれるの……?」


「フッ、その目を見れば其方が嘘をついていないことくらい容易く分かるわ」


「やった……! ありがとう……!」



 こっちはこっちで天真爛漫な笑顔でピョンピョンしている。

 ヤバイ、とんでもなく可愛い。


 メリアちゃんさん助けて!

 俺この娘たち好きになっちまう!



「えっと……それじゃあ詳しい話をするためにも、まずは移動しないとだね!」



 そう言うとニーニャは遺跡の外へと走って行った。

 ここに来た時よりも更にルンルンな足取りだ。


 ……それだけ彼女は逸脱者と聖域の守護者と言うものに対して強い感情を抱いているんだろう。


 となると、これからどうしたもんか。

 メリアちゃんはかなり大口叩いちゃってるけど、実際のところ未知の土地で大規模な戦争なんて起こしたくないんだよな俺は。


 まあ彼女の口ぶりからするとまだ話していないことも多そうだし、一旦全ての情報を得てから考えてみてもよさそうか?

 おそらく皆もその時に最終的な判断を下すだろうし。


 だからひとまず、今は成り行きに任せるとしよう。




 ◇◇◇◇




「ようこそ、交易旅団群ハルバニアへ!」



 ニーニャと一緒にドラブロに揺られ数十分ほど。

 俺たちはそれなりの規模の都市へと辿り着いたのだった。


 いや、都市と言うには少し奇妙か?

 見る限り建物らしき建物が見当たらない。

 どれもテントだったり馬車らしきものに併設されたキャンピングカー的サムシングだ。


 それに交易旅団群と言うのも気になるな。

 交易都市ではなくわざわざ旅団群と呼ぶあたり何か意味があるはず。



「ふふっ、なんだか不思議そうな顔してるね。もしかしてこういうのを見るのは初めて?」


「ああ。見たところ街と呼ぶにはいささか珍妙な光景に思えるが」


「それもそのはずだよ。ここハルバニアは移動式の街だからね」



 移動式の……街?

 そんなことがありえるのか?



「正確にはたくさんの旅団が集まって街のようなものを構築している……って言った方がいいのかもしれないけど。ウチたち、訳あって常に移動し続けないといけないし」


「ふむ、遊牧民のようなものか。しかし、そうであっても仮説の住居程度はあってもよいのではないか?」


「あー……それができればよかったんだけどね。なんせウチたち、ほぼ全員指名手配犯だからさ。国家反逆罪でね」



 ……うん?

 なんか今、とんでもないことを言っていたような。

  

 いやぁ気のせいだよね?

 流石にね……?



「……ほう。聞き間違いだと思いたいが……一応、問うぞ。先の話は(まこと)か?」


「残念だけど本当。アイツらは聖域を乗っ取ったあと、ウチら本来の聖域の守護者を国家への反逆者として追放したの。その時に反抗した仲間もたくさんいたんだけど、ほとんど投獄されて……多分もう死んじゃってると思う」



 Oh……想像以上に重い話が出てきたな?

 

 まったく、なんちゅう話を聞かせてくれたんや。

 これと比べたらこの世界に来て最初の方に出会ったあの少年のBSS話はカスや。



「そんな……酷いです……」


「そう、酷いんだよアイツら……! 勝手にやってきて聖域を乗っ取っただけじゃなく、ウチらを全滅させるつもりなんだ……!!」


「あらあら、それは許せませんね。さぞお辛かったでしょう?」


「わぷっ!?」



 あ、またユイの母性たっぷり抱擁アタックが出た。



「もう大丈夫ですよ。私たちが必ず、あなた方をお救いいたしますから」


「あ、そのっ、えっと……あり、がとう……?」



 流石だ。

 さっきまで怒りに満ちていたニーニャが今やとんでもなく安らかな顔をしている。


 まさに聖母。最強のママパワーを持っている。

 彼女は俺の母になってくれるかもしれなかった女性だ。



「と、とにかく……皆さんが戦ってくれるなら百人力、いや万人力だよ! きっと聖域にいるアイツらにも……ううん、もっと根本的な解決も見込めるはず」


「根本的とな?」


「うん。アイツらが現れたのと同じくらいから、どういう訳か王様も正反対の考えをするようになっちゃったの。これまでは平和を愛する優しい人だったはずなのに、急に隣国との戦争を始めるようになって……しかも、その戦力として逸脱者の子孫って呼ばれている人たちを使おうとしてる!」


「ふむ、なるほど。となると聖域の守護者を乗っ取った輩とこの国の王……或いはその周辺が裏で繋がっている可能性は無視できんな。子孫だけでは戦力が足りないと考え、聖域を乗っ取り逸脱者本人を捕らえたかったのやもしれん」


「ウチもそうだと思う! でもまさか、本当に来るだなんて思わなかったんだろうね。長いこと聖域から逸脱者が来ることはなかったもん。でなきゃあんな杜撰な対応にはならないよ」



 確かに、こっちの大陸に繋がる道は隠し扉で塞がっていたしな。


 いや、そもそも道中に暗黒獣を始めとした凶悪な魔獣が蔓延っていたんだ。

 あれでは通れる者自体が限られている。



「そ、それじゃあ数十年前までハンターが度々ダンジョン内で行方不明になっていたと言うのは……」


「恐らくはコレ……だと思いますよ。当時はAランクハンターの数も今より遥かに少なく、救助部隊も気軽には出すことができなかったそうなので」



 ああそうか、こっちの世界の人たちにとっては思い当たる節があるのか。

 

 けどまあ、ダンジョン内で遭難したら基本的には死んだと思うよな。

 無理に捜索すれば次の犠牲者が出かねないし。

 

 でもまさか別の大陸に渡っているだなんて、そんなの想定すらできないでしょうよ。

 図書館で読んだ本によれば海には陸上とは別格の危険度と凶悪さを持つ魔獣がいるらしいし、なおのこと別の大陸なんて探せるはずがない。

 

 空から行こうにも、飛行する魔獣がいる世界じゃ航空機なんて狙いやすい良い的だろうし。

 無人探査機なんてもってのほかだ。


 まさに一切の情報がない未知の大陸。

 それがここ魔群大陸なんだろう。



『警告! 警告! 王都から騎士隊が向かってきているとのこと!! ただちに移動されたし!!』



 うぉっと!?

 

 ……なんだ?

 警報みたいなのがいきなり……。



「そんな!? どうして今!?」


「あはは、なんだかヤバそうだね?」


「そりゃそうだよ! 騎士隊って言えば逸脱者関係を除けば王都の最高戦力だもん!」 


「ニ、ニーニャさん……それ、とても不味い状況なんじゃないですか……?」


「ヤバイよ! すっごいヤバイ! でもどうして今なの……!? 訓練も定期遠征もまだ先のはずなのに!」



 警報を聞いたニーニャの慌てふためき方がなんかもう、とにかくもの凄い。

 人ってこんなにテンパれるんだって言うね。


 まあでも、だからこそ事の重大さが俺たちにも分かるってもんだ。

 なんせここに居る人たち全員指名手配犯らしいからな。

 王都の騎士隊ともなれば、まず間違いなく戦闘は免れないだろう。


 ましてや最高戦力とか言うとんでもない奴らが相手なんだ。

 わざわざ俺たちに頼るあたり、ニーニャたちだけだと勝ち目が薄いのはほぼ確実。

 なんならさっきまでのニーニャの話通りだと、捕まったらめちゃくちゃエグイ拷問とかしてくるぜそいつら。

 

 とは言え、ニーニャの話を聞く限りだとそいつら今は来るはずないんじゃねえの……?

 戦況をひっくり返しかねないほどの何かが関係でもしない限りはさ。


 それこそ逸脱者関連の緊急事態でも起こらないとね。

 ……いや、それでは? 



「ニーニャよ。オレたちが聖域から逃げたことが王都にまで伝わっているのではないか?」


「……それだよ!!」



 はい、それでした。 

 ……どうしようね。

本作品をお読みいただき、ありがとうございます。

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