2章 隠しダンジョンと魔群大陸 03
さて、どうしたものか。
暗黒獣とか言うとんでもないのがいるとなると、この先に進んでいいのかも怪しくなってきた。
それこそ俺一人ならともかく、アイリとエルシーの身にどんな危険が及ぶかわかったものじゃない。
「……はっ!? えっ!? 私、斬られて……あれ、治ってる……」
おっ、ポーションを飲んだアイリが目を覚ましたようだ。
いやぁよかった。
生成したポーションの効果は専用の道具を使ったものよりも低いから少々心配だったけど、できるだけ効果の高いポーションを生成するように念じたのが功を奏した……のかもしれない。
「ムムッ!? ば、馬鹿な! その女の傷は相当深かったはずだ! ポーション程度で治せるはずがない!!」
「貴様の目は節穴か? 確かに想定よりは効きが良いが、現にこうして治っているではないか」
「それがおかしいと言っている!!」
「妙な事を言う奴よ。今起こっていることが全てだろうに」
そうだそうだ。メリアちゃんの言う通りだ。
実際ポーションの効果は出ているんだからおかしいもなにもないでしょうに。
「グヌヌゥ……あとで食べるために瀕死状態にとどめておいたのが不味かったか。それならば、多少味は落ちるが殺してしまえば良いだけのこと!!」
「ほう、そう言うことであったか」
……えっ?
メリアちゃん、アイツの攻撃方法がわかったの?
――ガキィンッ!!
突如地面から飛び出した金属の壁が暗闇から飛んできた何かを弾き返した。
うーむ、なるほどわからん。
「ッ!? 何故だ! まさか俺様の攻撃が見えているのか!? いやありえん、そんなことは……!」
――ゴギンッガチィンッバギキィンッ
「何故だァ!! 何故防がれるゥゥッ!!」
「貴様の攻撃は完全に理解した。何度攻撃したところで無駄だ」
相変わらず俺は全然まったくもってわからないものの、メリアが出した金属の壁は次々と攻撃を防いでいく。
凄い。なんかもうとにかく凄いとかしか言えない。
「それにしても、中々に面白いことをするものだな。音速をも超える斬撃を飛ばし、それを高密度の魔力で隠蔽するとは。これならば大抵の相手に対しては不可視の攻撃となろう。しかしそれだけの魔力で隠蔽したのは悪手だったな。これでは魔力を探ってくださいと言っているようなものではないか」
ふむふむ、音速の斬撃……を、魔力で隠蔽?
なるほどわからん。
けどメリアちゃんの言っている限りなら魔力を探れば斬撃は確認できるらしいな?
なら何も問題はないか。
「魔力を……探るだと? ギフフッ、何を言い出すかと思えば。そんな芸当が人間に出来るはずがないだろう」
「そ、そうですよ……ただでさえハンター連盟の計測機器でも精度には不安が残るのに……」
あっ、どうやら魔力を探ること自体がおかしなことみたいです。
じゃあやっぱりメリアちゃんがイレギュラーなだけだね。
「ふむ、そういうものか。なに、タネさえ分かれば対処が簡単であることに変わりはない。認知さえできればこんなもの、ただ速いだけの斬撃に過ぎんのだからな」
「おあぁぁッ!? ま、待て! なんなのだお前はァ! やめろ! 来るなァァッ!」
俺の足は暗黒獣の声のする方へと向かってジリジリと歩みを進める。
攻撃は全て金属の壁が弾いているし、暗黒獣も恐怖しているみたいだ。
もはや勝ちは決まったようなもんだな!
うおおぉぉ、さっすがメリアちゃんさん!
かっこいい!
好き!
抱いて!
……って、いや待て。
そもそも速いだけの斬撃が飛んできていることについてはノータッチなの?
そっちの方がヤバくない?
「ギハハッ! 馬鹿が!」
――ヒュンッ
十数歩ほど進み、暗闇の中にいる暗黒獣の猛牛を禍々しくしたようなその姿が見えた瞬間だった。
何かが、空を切るような音が聞こえた。
かと思えば――
――ドゴオォォン
数秒と経たずに、俺の体をとてつもない衝撃が襲った。
見れば周りには崩れた瓦礫。
そうか、吹き飛ばされたんだ俺は。そして勢いよく壁に打ち付けられた。
体が丈夫すぎて痛みがないせいで一瞬気付けなかったよ。
「ギッヒッヒ……不用意に近づきおって。俺様の得意技、不可視の斬撃を見抜かれた時はヒヤッとしたが、所詮はただの人間。これで終わりだ」
「ほう、良い一撃ではないか」
「ムッ!? 馬鹿な! 何故生きている!?」
「そう驚くな。このオレがこれだけ吹き飛ばされたんだ。誇るがいい。……もっとも、この体が非常に軽いと言うのはあるかもしれんがな」
ああそっか。なるほど、だからあの鎧ってクソ重いのか。
メリアちゃん自身の体重が軽すぎて簡単に吹き飛んじゃうから黄金鎧装で重量を増やしているわけだ。
こうして自分自身がメリアになることで色々と分かって来ることもあるんだなぁ。
でも痛みがないとは言え吹っ飛ばされるのはすげえ怖いから、こういうのは今回限りにしてほしい。
「な、なんなのだお前は!! この俺様の攻撃を受けて、どうして無傷なのだ!!」
「たわけめ。決して難しい話ではなかろう? 貴様とオレでは天と地ほどの力の差がある……それだけのことよ」
「それが理解できんのだ!! 人間ごときにこの俺様が負けるはずないのだからなァァッ!!」
メリアちゃんの煽りが効いたのか、再び斬撃が飛んでくる。
その全てが金属の壁によって弾き返されていった。
「どうした? 先の一撃は使わんのか? ……いや、使えんのだろう。このオレを吹き飛ばしたあの攻撃は貴様自らが肉薄して放たねばならんのだからな。さぞ怖かろうて」
「グッ、グヌゥゥッ……! おのれ人間風情が! 言わせておけばベラベラと喋りおって!! 俺様は闇の眷属たる暗黒獣だ! 人間ごときに恐怖心など抱くはずが……!」
「ほう。では、その足はどう説明するつもりだ?」
「グヌゥッ!?」
メリアちゃんの言う通り、暗黒獣は丸太みたいに極太な脚をプルプルと震わせている。
この状況じゃ武者震いなんて言い訳もできないだろうなぁ。
「貴様は恐怖しているのだ。このオレと言う人間に」
「黙れェッ! この俺様が人間に恐怖など、するはずがないのだァァッ!!」
暗黒獣が飛び込んで来る。
さっきの攻撃をもう一度使おうって魂胆だろう。
けど、一度見た攻撃にメリアちゃんが対応できないはずがない。
そんな確証があった。
と言うわけで、やっちゃってくださいメリアちゃんさん!!
「ギーハッハッハァッ!! そこまで言うのなら受けて見ろ! これが俺様の正真正銘、本気の一撃だァァ!!」
暗黒獣との距離が縮まっていく。
これくらいの距離だったらもうメリアちゃんの射程距離内だ。
ほら、今にも金属による攻撃がアイツの体を……。
か、体を……。
あの、メリアさん……?
どうして反撃をなさらないので?
お、おああぁ……!!
もうすぐそこに暗黒獣が!!
嘘だろ!?
もしかしてメリアちゃん、まだ何か隠し玉があるんじゃないかと思って好きに攻撃させようとしてる!?
うわああぁぁ!
こんな時にまで戦闘狂な部分出さないでよ!
助けて!!
怖い!!
お願いだから攻撃して!!
――ズドンッ
「ウ゛ガァ゛ァッ……」
……出た。
ギリギリのところで地面から無数の金属の柱が飛び出した。
そして暗黒獣の巨体を貫いた。
よ、よかったぁ。
死ぬかと思ったぁ……。
「今のは……? まあよいか。それにしてもつまらんな。所詮は獣よ。まだ何かあると期待してみればこれだ」
「ば、馬鹿……な……。この俺様が……負けるな……ど……ガフッ」
暗黒獣は消滅した。
相当強い魔獣だったみたいだけど、流石に体の大部分を貫かれたらどうしようもないようだ。
はぁ……やっと終わったよもう。凄い疲れた。
これさぁ、この後もこんなのがゴロゴロいたり……しないよな?
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