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007:裏切りは突然に

 この世界で初の協力戦。

 その相手は酒場で知り合ったばかりの男で。

 プレイヤー名はローであり、人の良さそうな笑みが特徴だった。

 彼は新人を見たらお節介を焼きたくなるタイプのようで。

 俺なんかとも率先して協力プレイがしたいと申し出てくれた。


 彼は出撃前に色々と敵について教えてくれた。

 有効な武器はエネルギー系であり、レーザーなどが最も有効だと教えてくれた。

 折角教えてくれたからと使ってみようかと思った。

 丁度、何かあるかもしれないと思ってメリウスのショップで武器を買っていた。

 ゴウリキマルさんたちに話せば怒られるかもしれないが。

 一般のプレイヤー向けに販売されている武器がどの程度なのか知る必要があると思ったから。

 今後、会社の宣伝をするのであれば自分が使っている武器との違いは知っておかないとな。


 そうして、買っておいた武器の中で。

 エネルギー兵器のものがあったのでそれを装備しておいた。

 左右にプラズマライフルと両肩部にプラズマランチャーだ。

 初心者らしい偏った感じにしておけば、ロー君にも気取られないだろう。

 あくまで俺は初心者であり、彼の顔に泥を塗ってはいけない。

 

 カスタムを終えて出撃しようとすれば、廃工場の周辺にある瓦礫の山からスタートとなった。

 彼は俺の機体を褒めてくれた。

 しかし、見覚えがあるような事を言っていたので俺はよくあるカラーリングであると伝える。

 何とか誤魔化せたからいいものの、やはりこの色味は目立つと感じていた。

 

 そうして、彼のおすすめの任務の詳細を彼の口からもう一度確認する。

 準備は整ったからと、彼の背中を追ってそのまま戦場へと向かった。


 廃工場エリア内に入れば、敵はそれなりに配置されていた。

 しかし、強いという訳では全くない。

 彼のおすすめした依頼は確かにチュートリアル的なものだった。

 廃工場は広いものの、出て来る敵はドローンであったり固定の砲台程度だ。

 それらの攻撃を避ける事は簡単であり、当たったとしてもそんなにダメージは無いと彼は教えてくれた。

 彼の指示は的確であり、何度もプレイしているからか敵のいないルートを見つけるのが上手かった。


 彼の背中を追い掛けながら、敢えてでしゃばるような真似は控えた。

 それなりの技量で、適度に弾を外しつつも危なそうな時は敵を撃ち落とす。

 そんな事を繰り返して、地下へと続く昇降機を発見した。

 そのまま乗り込んで下へと向かいながら、俺たちはセーフゾーンで少しだけ会話をする。


《いやぁ、マスターさんは初心者とは思えないほど操縦が上手ですね! 驚きましたよ》

「え? そうですか? てっきりこれくらいは普通なのかと」

《ははは、そんな事ないですよ。初心者の人はアシストがあっても、ぎこちない動きですからね。壁に当たる事もあるし、敵に体当たりする人も多いんですよ? それなのに、マスターさんは一度も障害物にぶつかっていませんから!》

「へ、へぇ……ははは」


 そこまで操縦がひどかったのか。

 俺は自分の中の初心者像が崩れているのを感じていた。

 本当に初心者を装うのであれば、壁にぶつかったりしろと……嫌だなぁ。


 自分で自分の機体を傷つけるのは嫌な感じがする。

 子供とかが無意識に玩具を乱暴に扱うようなものじゃない。

 自らの意志でお気に入りの玩具であったり、大切なものに傷を入れるようなものだ。

 誰だって嫌であり、俺だってそんな事したくない。


 ……仕方ないな。初心者のフリは止めて、ちょっとだけ操縦の経験がある事にしておこう。


 後でフレンドになるかも分からないんだ。

 此処でネタ晴らしをするのは早計だろう。

 そう考えて、実は少しだけ勉強していたと伝えた。

 すると彼は何かを考えるように黙り込んでしまう……?


《……あ、いえいえ。いいんですよ! 勉強は大事ですから……因みにその勉強では、どれくらいの敵と》

「あ、そろそろ着きそうですよ」

《……それじゃ、先を急ぎましょうか! この先にはこの依頼でのボスが待ち構えていますから! 絶対に奴の言葉に惑わされないように!》

「……? 分かりました」


 ローさんは機体の腰を屈める。

 一気にスラスターを噴かせて行くようだ。

 俺も彼と同じように腰を屈めて何時でも出られるようにする。


 此処まではなんて事は無い敵たちだった。

 所謂、雑魚敵ばかりであり……そんなに達成感は無い。


 この先で待つボス敵もそんなに強くないんだろうけど。

 今回は別に達成感の為に挑戦したわけじゃない。

 これから先で多くのプレイヤーと共闘する場面も増えるだろうから。

 その為の練習であり、これはコミュニケーションを学ぶ為の予行練習だ。


 自分にそう言い聞かせていれば、昇降機はがたりと止まる。

 そうして、目の前を塞ぐ重厚な扉が音を立てて開かれて行った。


《さぁ行きましょう!》

「あ、はい!」


 彼は勢いのままに飛び出す。

 そうして、俺も彼の後に続いて飛び出した。


 長い通路であり、敵がいるかと思ったが何も無い。

 ただ薄暗く長いだけの廊下であり、俺は大きな違和感を抱いた。


 明らかな違和感であり、誰だっておかしいと思う。

 だって、この先に待つのは十中八九が破壊目標である大型兵器だろう。

 子供だって分かるほどにあからさまな敵だ。

 普通であれば、如何にその大型兵器が優れたものであろうとも。

 それを守る為にセキュリティーは厳重にする筈だ。

 それなのに、此処まで来るまでにあった敵たちの何と貧弱な事か。

 そして、極めつけはこの長いだけの廊下に全くトラップを設置していない事で……聞いてみるか。


「あの、すごく静かですけど……こんなものなんですか?」

《ん? あぁ! 多分ですけど、このルートが一番安全だからですね。他にも侵入ルートはあるんですけど。此処が一番敵がいないんです。所謂、隠しルートってやつですね!》

「へぇ、そうなんですか」


 彼の説明に納得する。

 隠しルートがあるのは分かった。

 しかし、何故、大切な兵器を保管しているエリアに繋がるルートが複数あるのか。


 ゲームだからと片付けるのは簡単だが。

 明らかに別の狙いを感じる。

 例えるのなら、“俺たちとは別のルート”を確保しているようで……もう着くな。


 長い廊下の終わりが見えて来た。

 俺たちはそのまま薄暗い廊下を突っ切っていく。

 そうして、地面を滑るように移動しながら機体を停止させた。


 広いエリアであり、メリウスで自由に飛び回って戦闘が出来そうだ。

 障害物も何も無い広いだけのエリア。

 だが、異様な空間だとハッキリわかる。

 天井も床も壁も淡い白の輝きを放っていて、明らかに普通の素材では無いと分かる。

 機体で軽く足元を蹴ってみたが、硬さはあり欠けるような柔さは無い。

 よく目を凝らせば、それらが波打つように凹凸がある気がする……それよりもアレだな。

 

 周囲の異様さも気になるが。

 あからさまなオブジェクトがある。

 部屋の中心にはこれでもかと目を惹くものがあった。


 まるで、大型の戦車のような何か。

 機体が全て鋼のような金属で覆われている。

 てかてかと光沢を発しているメタリックなデザインで。

 戦車のようだと言ったのは履帯があったり、車体が似ているからというだけで。

 戦車の特徴ともいえるような砲塔は一切ない。

 ただ突き出すような突起物が中心から生えていて、それも分厚い装甲で覆われていた。


「……アレが破壊目標ですか?」

《……》

「……? ローさん? どうかしましたか?」


 返事が帰ってこない。

 通信機能の不調かと思っていれば、レーダーが敵の接近を知らせて来る。

 明らかにメリウスであり、そいつらは別のルートからそれぞれ出て来た。


 大型兵器の近くに浮遊する敵らしきメリウス。

 筒のような見た目に腕部も脚部も見当たらない。

 そいつらも光沢を放つシルバーのメタリックカラーで。

 この空間では視認する事も難しいほどに空間に溶け込んでいた。

 下半身はブースターと一体化していて、機体の各部からはサブブースターが展開されていた。

 反応からメリスウだと思ったが、見てくれは完全にミサイルだろう。


 よく分からない奴らだと思っていれば強制的に通信が繋がされた。


《くくく、よくぞここまでたどり着いた。金で動く傭兵にしては良い腕だ》

「マジで言ってる?」


 この程度で褒める程の腕と認識したのか。

 流石に熟練のパイロットへの解像度が低いのではないかと思ってしまう。

 そんな間にも、敵の親玉らしき奴はぺらぺらと聞いてもいない事を話していた。


《お前たちの目の前にいる兵器。それは我々が開発した新兵器“サン・ルーン”だ。そして、その二機の特殊メリウスを駆るのは我らのナンバー2とナンバー3だ。実力で伸し上がった奴らだ。侮らない方がいいぞ? くくく》

「めっちゃ情報いうじゃんこの人」


 そんなにべらべら話してもいいのかと恐れおののく。

 すると、ロー君は一歩前に出て奴らと話し始めた。


「お前たちの狙いは何だ! 態々通信を繋ぐなんてどういう事だ!」

「それはそうだよな」


 至極まっとうな質問するロー君……て、あれ?


 何かがおかしい。

 それは彼がこの依頼を何度も受けていたいう話を聞いていたからだ。

 知っていて聞くなんておかしいだろう。

 もしかして、役になりきるタイプなのか?


 そんな事を考えていれば、ボスらしき男は静かに言葉を発する。


《それは簡単だ。お前たちの腕を見込んで提案がある――我らの仲間になれ。そうすれば望む報酬を与えよう》

「……! これがゴウリキマルさんの言っていた“世界の半分をやろう”ってやつか……感動的だなぁ」


 俺はボスのセリフに感動していた。

 すると、ロー君からメッセージが入って来た。


【ここは断る一択ですよ! 提案を受け入れてはいけません!】

「あぁそりゃそうだよなぁ……よし、俺も役になりきろう!」


 初めてのロールプレイングであり、ちょっと緊張する。

 俺は咳ばらいをしてから、俺たちの返事を待つボスに決め台詞を言う。


 

「断る。俺たちは傭兵だ。一度受けた依頼は絶対に果たす……絶対にな」


 

 ――き、決まったぁ!


 

 少し顔が熱いような気もするが。

 噛まずに言えた事を嬉しく思った。

 ボスはくつくつと笑って「そうか。それが貴様の答えか」と言う。

 後はロー君もばしりと決めるだけであり、俺は彼の機体に視線を向けて頑張れという思いを込めた。

 すると、彼は一歩前に出て――



 

《分かった! 僕は貴方たちの仲間になります!》

「…………ん?」

 


 

 時が止まったように感じた。

 しかし、ボスの笑い声は確かに聞こえていた。


 ロー君は敵の方に歩いていく。

 そうして、傍らに立てば不思議な液体が床から噴き出してきて。

 彼の機体をコーティングしていった。

 あっという間に彼の機体もメタリックカラーとなり……笑い声が聞こえて来た。


《ぷ、ふふふ……馬鹿だなぁ。お前……格好つけてセリフまで言ったのによぉ……此処で終わりなんだぜぇ?》

「えっと、ロー君ってもしかして……新人潰しって奴なの?」

《はははは! 今更かよ! そうだぜ。僕は新人潰しのローさ!! お前のような馬鹿を餌にして報酬を得るのが楽しみの男さ!》

「あぁ……そういう感じかぁ……やっぱり、そういうのもあるのかぁ」

《くくく、悲しみに暮れているところに悪いがなぁ。お前がこれから晒される醜態は生配信で全世界に届けるからなぁ? 僕の稼ぎに貢献する為にも、みっともない動きで観客を楽しませろよ!! ぎゃはははは!》


 絵に描いたようなクソ野郎だった。

 まぁ初見の時に違和感は抱いていたが。

 まさか、此処までのクズ野郎とは思いもしなかった……てか、勝手に生配信するとか良いのか?


 俺の許可も取らずにそんな事をしたら。

 下手をすれば訴えられても文句は言えない筈だ。

 それでもするって事は、よっぽどの炎上配信者に違いない。


 とんだ男の罠に掛かってしまったとため息を吐く……でも、まぁいいか。


《くくく、話はすんだか? 哀れな傭兵よ。せめてもの手向けだ。全力で貴様を屠ってやろう。精々、足掻くがいい》

《そうだ、足掻けばワンチャンあるかもしれないぜぇ? ま、こいつらのレベルはざっと六十以上で対人慣れした僕もいるけどな!!》

「あぁ、はい……頑張ります」


 もうどうでもいい。

 これ以上、初心者のフリをする必要も無いんだ。

 俺はグローブを嵌め直し、レバーをギュッと握りしめる。

 そうして、静かに呼吸をしてから目を開く。


 敵となったのなら、女でも子供でも容赦はしない。

 戦う意思があるのなら全力で叩き潰す。

 それが俺のモットーであり、傭兵としてのポリシーだった。


 けらけらと笑う馬鹿の声を聞きながら。

 俺は奴らが行動を開始した瞬間に自らも動き始めた。


 ミサイルのような形状のメリウスが二機。

 そして、裏切った炎上配信者の中量級二脚型のメリウスが一機。

 メインは謎の大型兵器であり、中々にそそられる展開ではあった。


 レベル六十以上を信じていいかは分からない。

 しかし、退屈は感じないだろう。

 俺はにやりと笑みを浮かべながら武器を構える。


「楽しめるんだったら――何でもいいさ」


 俺の呟きは誰も聞いていない。

 しかし、生配信であるからか無数の視線を感じる気がする。

 俺はその視線に晒されながらも、闘争心を燃やして敵との戦いに集中力を高めていった。

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