表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/23

004:出会いを求めるならば

《けはははは!!最高だぁぁ!!!》


 オープン回線越しに聞こえる男の高笑い。

 それを聞きながら、俺たちは更に加速した。

 荒野を疾走するバイクのような形状の敵メリウス。

 砂を巻き上げながら障害物を躱し、弾幕を展開し俺を寄せ付けない。

 俺は奴の放つ弾丸を雨を回避し、プラズマをチャージしていく。

 

「……」

 

 意識を研ぎ澄ませていく。

 奴の声も遮断し、駆けていく獲物を見つめる。

 回転によって弾丸を回避。そのままプラズマライフルの照準を敵に定めて撃つ。


《けはぁ!!》


 奴の爪が動く。

 そのまま地面を弾き、俺の放った弾が地面に触れて弾けた。

 奴は出鱈目な動きで攻撃を回避し、そのままノンストップで荒野を疾走する。


 あの爪が厄介だ。

 アレがあのバイクに無限の可能性を与えている。

 アレを破壊すれば機動力を削げるが、近づこうとすれば奴も加速する。

 一定の距離を保つように立ち回っていて、変に近づこうものなら弾幕を展開してくるのだ。

 ある程度の距離が離れているのなら回避は可能だが。

 距離を詰めれば詰める程に濃い弾幕の中を移動するのは困難となる。


 ペダルを強く踏み加速――敵の側面に出ようとした。


 奴はぐるりと武器を移動させて銃口を此方に向ける。

 一か八かの賭けであり――今だッ!!


 敵が銃弾を放とうとした瞬間。

 俺は連続してブーストを行う。

 一発二発三発と爆音が響いて――奴の頭上に出た。


「獲った――ッ!!」


 俺はチャージしたプラズマを放とうとし――距離を離す。


 瞬間、俺がいた場所に凄まじい熱量を放つ炎が舞う。

 妙な形の武器から放たれた火炎であり、ようやくあの武器が分かった。

 アレは高火力の火炎放射器であり、もしも触れていれば装甲がズクズクに溶かされていただろう。


《はっはぁ!!! 残念だったな間抜けがァァ!!!》

「初見殺しだな。アレほどの火力なら軽量級はひとたまりも無い……考えたな」


 アレほどの機動力を有した機体だ。

 追いつけるとすれば機動力に特化した軽量級で。

 俺と同じように無駄な装甲を削っているだろう。

 そんな紙装甲の機体に友好的なのは実体弾やエネルギー弾よりも――熱だ。


 単純な高火力は勿論の事。

 一定の時間浴びせるだけでもシステムに異常が発生する。

 アレはメリウス用にチューンナップされているからこそ、普通の火力だと侮ってはいけない。

 装甲を溶かされる前に、中にいる俺が蒸し殺されるのがオチだ。


 中々に凶悪な組み合わせであり、俺はにやりと笑う。

 これくらいだ。これくらいの敵の方が――燃える!!


 俺はペダルを踏みつける。

 そうして、再び奴の背中を追っていった。


 通常の手段であれば、奴に対して致命傷を与える事は不可能だ。

 どんなにブーストして接近しようとも、あの火炎放射器で仕留められる。

 遠くからの攻撃では奴が回避してしまう。

 つまり、どう足掻いても接近戦に持ち込むしかない。


 俺はそう判断し、“奥の手”を使う決断をした。

 まだランカーにもなっていないのに使うのは早いかもしれない。

 しかし、出し惜しみをして負ければゴウリキマルさんに笑われてしまう。

 だからこそ、俺はゆっくりと息を吸って――カッと目を見開く。


「リミッターオフ!!」

《音声コマンド承認――リミッター制限解除します》


 コアから鳴る音が変わる。

 甲高い音色であり、それを聞いながら俺はにやりと笑う。

 これからだ。此処から一瞬で勝負は決まる。


 男は笑っていた。

 だからこそ、俺も笑う。


 イキ狂えか。

 だったら、お前もハイにさせてやるよ。


 

「――行くぞッ!!!」


 

 俺は強くペダルを踏む。

 瞬間、スラスターから爆発音のようなものが鳴る。

 一瞬にして奴との距離が縮まり、奴が驚いたのが分かった。

 それを感じながら、俺は奴の頭上からプラズマライフルを構える。

 照準を定めて放てば、奴は爪で地面を弾いて回避――その先に翔ける。


《――ッ! この野郎ォォ!!》


 奴は弾幕を展開する。

 ガラガラと音を立てて実体弾がばらまかれた。

 スローモーションに感じる世界で、弾丸一発一発が目に映る。

 その軌跡が俺には手に取るように分かり――連続ブーストする。


 爆発音が連続して響き、機体を回転させる。

 弾丸の雨を縫うように回避。

 数発の弾丸が薄く装甲を撫でていくのが分かった。

 それを感じながら、俺は目を細めて笑う。


 奴は呆気に取られている。

 そんな奴のコックピッド付近に一気に接近し――横に回避。


 火炎放射がさっきまでいた場所に放たれる。

 紅蓮の炎を見ながら、俺は奴の移動先に向かってプラズマ弾を放った。

 回避しきれないギリギリの距離。

 至近距離から放ったそれが、まさかの見当違いの方向で。

 すでに回避の為に地面を爪で弾いていた奴は驚く。

 読み違えが奴にとっての――敗因となる。


《うああぁぁぁ!!!?》


 俺が放った弾で地面が大きく抉れていた。

 どろどろに溶けた砂でタイヤが取られる。

 奴はそのまま空中を錐もみ回転していた。

 慌てて姿勢を制御し、搭載されていたブースターで何とか着地しようとして――俺は奴の影に潜り込む。


 俺を探そうとしていた。

 その気配を感じながら、俺はバンカーショットを奴の側面から――放つ。


《なぁぁにぃぃぃぃ!!!?》

「ははは!」


 爆薬が中で弾けて、仕込まれた杭が勢いよく撃ち込まれる。

 甲高い音が響き渡り、奴のコックピッドに“大きく罅が走る”。

 奴の機体が破壊音を上げながら大きく横に吹き飛ぶ――やっぱりだ!


 コックピッドを狙って放ったバンカーショット。

 しかし、奴のそれは大きくひび割れているだけで形を維持していた。

 衝撃を極限まで殺すタイプのコーティング。

 バンカーショットの為のものであり、奴は俺対策でアレを装備したんだ。

 卑猥な奴だが中々に勤勉な奴で、俺はそんな奴に向かってランチャーを放つ。


 ブースターを使って回避した敵。

 が、避ける事は分かっていた。

 目的は奴のレーダーを一時的に不能にする事だ。


 完全にジャマーの効果範囲から逃れられなかった。

 奴の機体は僅かにスパークしていた。

 それを見ながら、俺は地面スレスレを飛行する。


 砂を大きく巻き上げて、奴を追い抜き周りを砂嵐のようにする。

 プラズマライフルや残ったグレネードも撃ち込んでいく。

 破壊音と共に砂が巻き上がって、突風も発生し砂が大きく広がっていった。

 奴はイラつきを露にして卑猥な言葉を吐いていた。

 俺はそれを無視して互いのセンサーを潰す。

 頼りになるのはレーダーだけだが、奴のレーダーは不調だろう。

 

 俺は奴の反応を追う。

 そうして、そのままそれを――追い掛けない。


 真っすぐに進んでいる敵。

 一定の速度であり砂煙から出ようとしているのか――否、違う。


 アレは囮だ。

 デコイであり、俺が何度か敵の目を潰していたのを知っていたんだ。

 だからこそ、デコイまで用意して対策してきた。

 俺はそう判断し、それならば敵は何処なのかと考えて――見つけた。


 デコイの動きから放たれた場所を予測。

 そして、コアの稼働を極限まで落としている状態であるのならあのバイクの形状は維持できないだろう。

 二足歩行へと戻ってから、ゆっくりと進んで砂煙から出ようとしているのか――いや、違う。


 奴は逃げの戦法であり、この状況を好ましく思っている。

 それならば、どういう立ち回りをするのか。

 逆に煙の濃い方向へと向かい、丁度いい遮蔽物に隠れる。

 あの一瞬、奴のセンサーはある一点を見ていた。

 それは奴の機体を隠せるほどの大岩であり、その位置は記憶している。


 俺はスラスターを噴かせて加速。

 そうして、そのまま大岩の方向へと向かい――スラスターを全て停止。


 エネルギーの消費量を抑える為に動きもしない。

 機体はゆっくりと慣性の法則で動いていく。

 地面が近づいているのが分かりながらも俺はジッとする。

 すると、俺の前の方で火炎放射器の音が聞こえた――今だな。


 俺はスラスターを再点火。

 そうして、噴射口を吹かせて姿勢を一気に整える。

 地面を滑るように移動しながら、砂煙の先で火炎放射を上に噴かせる敵の機体を捉えた。

 俺は真っすぐに奴の機体に向かってフルチャージのプラズマライフルを向ける。


《はぁぁ!!? 何でそこにぃぃぃ!!!!?》

「さぁ何でかなァ!!」


 

 ゆっくりと進む時間。


 奴は銃口を此方に向けようとした。

 

 が、その動きでは間に合わない。


 俺は既に奴へと銃口を向けている。

 

 奴は逃れる事は出来ない。

 

 防ぐ事も出来ない。

 

 これで終わりであり――決着だ。


 

 

「楽しかったぜ」

《ちくしょぉぉぉぉ!!!!!》


 

 

 奴に向けてプラズマライフルを放つ。

 バチバチとスパークする青白い光の弾が奴の機体に触れて。

 そのまま機体をズクズクに溶かして吹き飛ばす。

 ごろごろと地面を転がりながら停止したそれは、ぷすぷすと黒い煙を上げて止まった。

 俺はそのまま地面を滑りながら機体を停止させた。

 そうして、頭上に浮かぶ勝利の文字を見つめて小さく笑う。


 レバーを操作して、機体の片手を上げる。

 すると、観戦者たちからの声が聞こえて来た。

 喜んでおり、ひどく熱狂していた。

 その声を聞きながら、俺は彼らに声を繋げて会社の宣伝をする。


《え、あの会社の……て、ことは剛力覇王の!?》

《え!? 御姉様の設計された機体なの!?》

《道理ですごい性能な訳だ……俺も頼もうかな?》

「……ふふ、よし」


 上々な反応に気分を良くする。

 そうして、俺はそのまま体を転送して戻る事にした。


 

 §§§


 

 仮想世界から現実世界へと戻って来た。

 あの後に続けて対戦をしようかとも思ったが。

 これ以上は機体に負担が掛かると思って止めた。

 どんなにダメージが無くとも、連続しての仕様は危険だからな。

 可能な限り、一回の戦闘につきメンテナンスもきちんとしないといけない。


「……まぁゲームだけど……でも、やっぱり楽しいなぁ」


 前世での戦いでも最初はゲーム感覚だったが。

 実際は本当に人の命を懸けた戦いだった。

 そこからは真剣に命と向き合って戦っていたが。

 今は単なるゲームとして楽しむ事が出来る。

 あの人たちはプレイヤーで、間違ってもあそこに住む住人ではない。

 

 それに、痛覚なども制限しているようで。

 俺のように全ての感覚をフィードバックしていないからこそゲームとして成り立っている。

 血は出たりするけど、見た目ほど痛みは無いと聞いていた。

 場合によってはエフェクトを変更したりも出来るようで。

 子供にとっても悪影響は無い。

 勿論、前世のように向こうに完全に移住する人だっている。


 ベッドに横になりながら、俺は天井を見つめる。


「まさか、仮想世界が認められて。一つの世界として成り立つなんてなぁ」


 あそこの世界の住人達も人間だ。

 一つの生命として認められていて、あっちで悪さをすれば捕まる。

 仮想世界にも国があり、密に連絡を取りながら此方と彼方で交流が行われている。


 もうこの世界には戦争は無い。

 あっちも平和であり、メリウスだって戦争の道具ではなくなったが。

 人型兵器という呼称自体は消えていない。


 兵器は兵器だが。

 ゲーム的な呼び方で定着している。


「本当にいい世界だよ……ん?」


 机に置いていた端末が震える。

 思考により誰からの電話かと見れば……ゴウリキマルさん?


 恋人からの電話であるが、こんな時間にどうしたのか。

 俺は少し心配しながらも電話を繋ぐ。


「どうし」

《――マサムネか!? お前、凄い事になってるぞ!》

「え、なに」

《――うちの会社に電話が殺到しているんだよ!! あの機体を作ったのは私かって! それとお前の事を知りたがっている奴もわんさかいてな! これじゃ、うちのメリウスの発表日まで待ってくれないかもしれねぇぞ!》

「あぁ、そうなんですね。それは良かったです。ははは」


 興奮した様子のゴウリキマルさん。

 お義父さんから任されたアンドロイドの事業に加えて。

 今回のメリスウの製造に関する事も彼女が指揮を執っている。

 お義父さんの期待に応える為に、彼女はずっと頑張っていた。

 だからこそ、彼女が喜んでいると分かって俺も嬉しかった。


「あ、メンテナンスは」

《おぅ! 任せろ! 今、スタッフたちから連絡が来てな。整備を進めているってさ。明日からも暇があれば頑張ってくれよ……と、それとだな。ちょっときな臭い話も出てるんだよ》

「きな臭い話ですか?」

《あぁ何でも、ちょっとやばげな連中もお前に目をつけたって聞いてな……まぁお前の事だから心配はいらねぇけどよ。あんまり夜の時間は向こうで出歩かない方がいいかもな》

「あぁなるほど……分かりました。気を付けますね」

《おぅそうしてくれ……それじゃ、私は仕事があるから。今日もちょっと遅くなるけど心配すんなよ》

「はい、分かりました。それじゃ……ふぅ」


 ゴウリキマルさんとの連絡を切る。

 思っていたよりも宣伝効果はあったらしい。

 彼女の新事業もこれで安心だろうか……いや、まだだ。


 まだ俺はちょっと注目されている程度だ。

 そして、ゴウリキマルさんは趣味でメリウスの製造もしていたからこそ向こうでも名は通っている。

 謂わば、彼女の知名度があったからこそ皆の関心が向いただけだ。

 俺の実力は砂粒程度であり……やっぱり、ランカーと戦いたいな。


 もしも、一番下のランカーであったとしても。

 百万人中の千位であり、今よりも注目されるのは想像に難い。

 勝てたとしたら、それこそ彼女の会社が開発するメリウスにも期待が寄せられるだろう。

 

 彼女が作るメリウスの質は心配ない。

 何時だって彼女の仕事を近くで見て来たんだ。

 彼女が他の人間の機体を裏切った事は一度だって無いんだ。

 俺はゴウリキマルさんの会社が作る新機体のお披露目を盛り上げる事だけを考えれば良い。


 瞼を閉じて眠りにつこうとする。

 体の機能をスリープモードに……ん?


 またしても、端末が震えた。

 思考をリンクして確認すれば、今度は仮想世界からのメッセージだった。

 確認してみれば送り主は……“ハカセ”って誰だ?


 見知らぬプレイヤーネームだった。

 何を送って来たのかと確認すれば……え?


《君の対戦を見た。素晴らしい。是非とも会って話がしたい。都合がいい日を教えてくれないだろうか?》

「……これは……出会い厨ってやつか? うへぇ、ゴウリキマルさんの言った通りだな……無視しよ」


 俺はメッセージに返信をしないでおいた。

 すると、またしてもメッセージが入り。

 嫌々確認すればハカセで……うへぇ。


《どうしたのかな? 都合の良い日が無いのかな? それならばまずは通話何てどうかな?》

《いや、通話がダメなら私から会いに行こう。うん、それがいい! 是非、君の位置をだね》

《まさか、会いたくないのかな? それはダメだ! 私たちの出会いは運命。私は何が何でも君に会わなければならないんだよ!》

「……ブロック」


 これ以上は危険だと俺は判断した。

 だからこそ、彼女からのメッセージを遮断する。

 通知音が消えた事によってこれで安心して眠れる。

 俺は手を胸の前で交差し、静かに瞼を閉じた――――…………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ