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003:卑猥なワインレッド

【YOU WIN!!】


 破壊されたメリウスが目の前で転がっている。

 もくもくと黒煙を上げながら火だるまになったそれ。

 対戦者の男はよく分からない声を上げながら消えていった。

 俺は頭上にて輝く勝利の文字を見つめて――部屋に戻って来た。

 

 ゆっくりと椅子の背もたれに背を預けながら。

 俺は静かに息を吐く。

 

「ふぅ……次だな」


 フリー対戦を行う事――三十戦。


 あの動画を見た人間が大半だったか中々に戦えていた。

 今のところは負けなしであり、目立つ損害も無い……いや、全く被弾はしていない。


 途中から段々と気持ちが昂ってきて。

 少し荒っぽい戦いになっていた気がするが……まぁいいか。


 対戦を受け付けてから、一時間以上は経つけど。

 未だに対戦の申し込みが続いていた。

 募集を掛けた瞬間に、一気に十件以上も来た時は驚いたが。

 中々に強い人たちばかりでワクワクした。


 中でも、認定試験を合格した人たちもいて。

 その人たちは自分のランクや戦績も丁寧に書いてくれていた。

 俺としては強い人たちと戦えるのは大歓迎であり。

 そういう人とは優先的に戦っていた。


 そうして、重量級の多脚型メリウスとの戦闘を終えて今は適当に借りた仮想世界のホテルの一室でくつろいでいた。

 前の世界でなら、対戦をする時も一々現地に行ったりしていたが。

 この世界での仮想世界では対戦の募集をしてからマッチングが完了すれば自動的に対戦が出来るフィールドに転送される。

 機体などのカスタムをする時間も勿論あるが。

 メカニックではないので細部までは弄れない。

 出来る事と言えば、あらかじめメカニックに調整してもらった機体に武装を取り換えたり弾やエネルギーを補充する事くらいだろう。

 現在の俺はゴウリキマルさんの会社と契約のようなものを結んでいる。

 だからこそ、俺の新たな機体である雷上動は彼女の会社が保有するバンカーに格納されていた。


 ……何度も何度も機体が転送されるから驚いているだろうなぁ。


 メンテナンスの途中だったら申し訳ないが。

 会社の宣伝をしているから我慢して欲しい。

 まぁパーツが破損したり、機体が破壊されたら出撃は出来なくなるが。

 小さな傷だったりなどは、運営側が自動で修復してくれるから問題ない。

 目に見える破損に関しては専用の会社であったりメカニックの出番だが……まだいけるだろう。


 適度にバッテリーの補充やランチャーの弾を補充してもらっている。

 念の為に装備してある肩のガトリングガンはまだ使っていない。

 こいつは実体弾であるから、弾代だって馬鹿にならない。

 だからこそ、ここぞという時以外には使わないようにしている。

 俺のポケットマネーで補填できるのならそれでもいいが……正直、この世界のメリウスの値段とかは詳しくないしな。


 メリウス一機作るだけでも高いだろう。

 まぁ車を買う程ではないにしろ、それなりの値段だ。

 おまけに破損したり破壊されてしまえば修理も必要になる。

 マザーはそういうところだけは今も変わらずシビアにしていた。

 だからこそ、ランカーのようにならなければワールド・メック・オーズは金の掛かるゲームなんだ。

 勿論、ある程度であれば依頼などを達成した時に貰える報酬でどうにかなる。

 ワールド・メック・オーズ限定の通貨であり、これで弾代やエネルギー代などを賄うのが一般的だ。

 そうでもしなければ、百万人以上ものプレイヤーは集まらないからな。


 椅子を傾けながら天井を見つめる。


「ま、腕次第だよねぇ……センスが無かったら、長続きしないだろうさ」


 センスが悪ければ勝つことも出来ない。

 いや、勝つどころか生き残る事も出来ないだろう。


 このゲームは勝つことが全てだ。

 引き分けでもダメであり、勝って初めて地位や名声が手に入る。

 欲望渦巻く環境で。だからこそ、誰もがランカーを夢見るんだろう。


 そんな事を考えていれば端末がぴろんと鳴る。

 俺はハッとして椅子を戻して端末を取る。

 

「……っと、募集はまだ続けてたんだった……ん?」


 新しく届いた挑戦状。

 その中には中々に変わった書き方をした人がいた。


 認定試験を合格したプレイヤーでアカウント名は“レッドアイ”か。

 ランクはCであり、今まで対戦してきた中ではかなり上だ。

 戦績も五十三戦三十六勝十五敗二分けか……中々だな。


 かなり上積みの部類なんじゃないかと分析する。

 そして、何よりも面白いと思ったのがこのメッセージ欄だ。


《かかってこいやァァ!! ぶち殺したらァァァ!!!》

「……やる気満々じゃん……気に入った!」


 俺は彼か彼女か分からない人の対戦を受けた。

 俺の体はすぐに転送を開始して――――…………




 …………――――目を開ける。


 フィールドを確認すれば、今回は荒野の戦闘らしい。

 ただっ広い荒れ地であり、からからとダンブルウィードが転がっている。

 サボテンもちらほらあり、遠くの方にはオアシスもあった。

 砂地であり、地面はカラカラに乾燥していた。

 今立っている場所はしっかりとした足場であるものの、場所によっては足元を取られかねない。

 システムを再調整してもいいが……いや、このままでいこう。


 こういうフィールドでの戦闘も慣れておきたい。

 その為にも、出来るだけシステムは弄らないでおこう。

 負けるつもりはないけど、次の為にも経験を積んでおきたいからな。

 

 奇妙な形の大きな砂の丘が無数にある。

 ごろごろとした岩も転がっており、障害物になるのはそれらだろう。

 民家は何一つなく、動物の気配もしなかった。

 

 砂嵐が徐々に止んでいけば遠くの方に立っている対戦相手の機体も見えて来た。


「……あれは……へぇ、“地上用”だな。武装も直接つけているなぁ」


 センサーをズームして敵の機体を見つめる。

 太く長い脚部は爪のようなものが前に三本と後ろに一本だが。

 よく見れば脚部の半ばあたりにタイヤのようなものがついていた。

 スラスターのようなものは取り付けられておらず。

 代わりにZのように折れ曲がったパイプのようなブースターがある……でも、あのサイズのメリウスは飛ばせられないな。


 腕部が無いが、武装は機体に直接取り付けてある。

 箱のようになった頭と胴体が一体化した部分に突き出すように出た二つの銃口。

 長く太いそれはかなりの射程があり、威力も高そうに見える。

 まるで、戦艦が取りつける対空砲にも見えるが……まさかね。

 

 そして、箱の上の角につけられた奇妙な銃。

 先端が膨らんでいて間の部分が長細いくなっていて……いや、銃なのか?


 よく見えないものの、その変わった銃の後ろには何かがつけられていた。

 まるで、タンクのような何かであり……アレは何だろう?


 全体的にワインレッドのカラーリングの機体。

 今まで生きた中であまり見た事の無いタイプのメリウスだったが。

 中々に興味のそそられる機体であり、俺は彼を対戦相手に選んで良かったと――


《へはぁ!! 来やがったなぁ!! チン〇ス野郎ォォ!!》

「……ん?」


 オープン回線で声が聞こえた。

 俺は周りを見る。しかし、周りには誰もいない。

 すると、オープン回線の主はケタケタと下品な声で笑う。


《その目は節穴か? それともケツ〇ナかァァ!! だったら、俺がフ〇ックしてやるよォォ!! へはぁぁ!!》

「……やべぇ」


 ぺらぺらと喋っているが。

 何故か、声の節々でピー音が聞こえる。

 恐らくはシステムが自動的に卑猥な単語を防いでくれているんだろう。

 そういえば、ゴウリキマルさんが言ってたなぁ。


《いいか? 今のあっちではエンタメって感じなんだよ。だからこそ、頭がぱっぱらぱーの奴も沢山いやがる》

《うん》

《だから、念の為に変な事を言う奴対策で私がフィルターを掛けといてやる……取り敢えず、下品なのはダメだな!》

「……ありがとう。ゴウリキマルさん」


 俺はピー音混じりの男の声を聞き流しながら。

 此処にはいないゴウリキマルさんにお礼を言う。

 すると、ようやくカウントダウンが始まって……おぉ、いっぱい見てるなぁ。


 モニターの端に映るのは現在の観戦者数だ。

 対戦をする時に他の人が観戦してもいいかどうかを設定できるようになっているが。

 もしも、観戦可能にすれば時間がある人がこうやって見に来るのだ。

 勿論、この戦場にはいないけど別の空間で端末やらモニターを使って見ているんだ。


 現在の観戦者数は……六百人か。結構いるなぁ。


 中々に興味をそそられた人がいたものだ。

 俺は会社の宣伝の為にと、誰にでも見られるプロフィールにはゴウリキマルさんの会社の名前を載せていた。

 これによって少しでも、ゴウリキマルさんの新事業の宣伝になればいいけど……と、もう始まるな。


 カウントダウンが五秒を切り――対戦相手が笑う。


《けはけはけは。分かるぜぇ、今てめぇは調子にのってやがる……そして、俺様を侮っていやがる》

「いや、全然」

《へはぁ!! いいぜいいぜ! そのままでいろ。今からテメェに最高の絶望をプレゼントしてやるぁぁ》

「……何言ってんだろ?」

《そしてぇぇ!! てめぇは泣きながらこう言うんだろう……×××××××××となぁぁ!! んへはぁ!!》

「聞こえねぇよ。逆に気になるんだけど……」


 一体、最後は何と言ったのか。

 俺は少しだけ気にしながらも――開始のブザーが鳴る。


 俺はスラスターを噴かせて一気に飛ぶ。

 砂が勢いよく舞い、俺は空を翔けながらプラズマライフルを――!


 奴の機体が一気に跳ねる。

 そうして、オープン回線越しに奴の叫び声が響いた。


《イッツァショォォォタァァァイム!!!》

「――え!?」


 奴の機体がばかりと割れた。

 そうして、奴の機体の脚部が変形する。


 ガチャガチャと動きながら、格納されていたタイヤが露出する。

 脚部が前後に別れて爪がタイヤを保護していた。

 そして、別れた胴体部分はまるで一つの武器のようになる。

 その中心には透明の球体が浮いていて。

 その中にはパイロットスーツを着た対戦相手の男が乗っていた。


《へはぁぁあん!! これが俺の機体“ロマンス・オブ・ルージュ”だぁぁぁ!! さぁ踊り狂おうぜぇぇ!!!》

「はは、いかすねぇ!!」


 俺は笑みを深める。

 奴はバイクのような形状に機体を変形させて、そのまま砂地の荒野を疾走する。

 凄まじい速度であり、地上走行型であれほどの速さは中々見れないだろう。

 直線での移動では距離を詰めるのは難しいかもしれない。

 だが、あの形状であれば旋回は難しいだろう。


 俺はそんな事を考えながら、逃走する敵を追う。

 すると、奴は後ろに目でもあるかのように胴体部分に取り付けた武装が動き出す。

 箱と一体化したそれがガシャリと回転し一気に内部が展開された。

 三つに分かれたそれらの隙間から別の銃口が伸びてきて。

 それらには弾がぎっしりと詰められた弾帯が巻かれている。

 合計で六つの銃口が此方に向いていて――


《へあぁぁああ!! いっちまいなあぁぁぁ!!》

「くぅ!!」


 奴が叫んだと同時に奴の銃口が火を噴いた。

 ガガガがと音を放ちながら連続して閃光が発生する。

 銃口から勢いよく弾が飛び、一瞬にして迫って来る。

 それを機体を回転させながら避けていくがかなり濃い弾幕を展開していた。

 六つの対空砲であり、嫌でも距離を取らざるを得ない。

 

 これでは迂闊に近づけないな。

 安易に距離を詰めれば蜂の巣にされるだろう。


 俺は弾丸の雨を躱していく。

 そうして、奴の目の前に障害物となる大きな岩が迫っているのを確認した。


 あの一瞬だ。

 あの一瞬、奴は旋回する為に速度を落とす筈だ。

 その瞬間が好機であり、俺はスラスターにエネルギーを集中させていく。


 

 まだだ、まだ、まだ、まだまだ――今だッ!!


 奴がブレーキを――かけない。


 

《へあぁおはぁ!!!》

「――は!?」


 奴が奇妙な声を出した。

 瞬間、奴のタイヤを保護していた爪が動く。

 持ち上がったそれが地面に突き刺さり、そのまま一気に土を跳ね飛ばした。

 奴の機体は強制的に横に飛ばされて回転していた。

 奴の機体はそのまま宙を凄まじい勢いで回転し、意味不明な機動で地面に着地し流れるような動きで方向を転換した。

 奴は何事も無かったかのように地面を疾走していく。

 そう、一切速度を落とすことなく疾走していた……イカれているな。


「何だよあれ、出鱈目じゃないか……ふ、ふふふ、ふふふ!!」

《イケイケイケぇぇぇ!!! イキグルえぇぇ!!!!》


 奴は叫ぶ。

 そうして、残弾などお構いなしで奴を追う俺に弾丸を放ち続けて来た。

 俺はその弾丸を丁寧に避けながら、奴の隙を伺った。


 まだ始まったばかりだが。

 世界にはこんなにも面白い奴がいる。

 それを知れただけでも満足だが――どうせなら、勝ってやりたい。


 このまま奴が逃げ続ければ、エネルギーの燃費からして俺の負けだ。

 奴は地上走行型であり、弾に関しても実体弾だ。

 エネルギーの消費は抑えられていて、消費量の心配をする必要はない。

 恐らく、奴の戦法はエネルギーの消費を抑えた高機動力を活かした逃げの戦法だろう。

 じっくりと粘って相手を翻弄し、相手のエネルギーの残量が減って機動力が落ちたところを一気に狩る。

 だからこそ、奴の戦績の中には引き分けが存在したのだ。


 卑怯、姑息……違う。上手い戦法だ。


 どんな勝ちであろうとも、勝ちは勝ちだ。

 生き残った人間が正義であり、俺は奴を否定しない。

 この戦法は奴が長い間に編み出した戦法であり。

 奴が勝てると自信を持っている戦法だ。


 口が悪いのも相手を挑発する為だ。

 心をかき乱し態と追って来るように仕向けている。

 全てが作戦の内であり、アイツは本物のパイロットだ。


 相手にとって不足は無い。

 俺が奴に追いつき奴を狩るか。

 俺のエネルギーが尽きて奴が俺を狩るか――勝負と行こうか。

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