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002:恐るべきルーキー

 高度を限界まで引き上げる。

 機体のモニターが端から凍り付いていく。

 吐く息も白くなっていき、呼吸が少しだけ苦しくなる。

 空の青みが濃くなっていき、レバーは激しく揺れて機体の計器からも音が鳴っていた。


 肺が痛い、肌がとても冷たくて。

 目に見える景色がひどく懐かしい。

 意識が消えそうになるほどの圧を全身で感じていた。

 その感覚を久しぶりに感じながら、スラスターを全て停止。

 機体がゆっくりと空の境界線で止まった。

 仮想世界の空に広がる濃い青を見つめながら静かに微笑む。

 そうして、ゆっくりと機体は落下していく。


 モニターに映るのは遥か下から俺の機体を追い掛けてくる敵の機体。

 同じような軽量級の二脚型の機体。

 あのタンク型と同じように青と白の迷彩柄で。

 片手にはチェーンブレードを持ち、片手にはショットライフル。

 近距離での戦闘は命取りであり、少しでも知恵があるのなら近づこうとしない――でも、ダメだ。


 安全圏での戦いに意味は無い。

 命を懸けない戦い何て面白くない。

 命を懸けて、全てをベッドして戦う。

 全身全霊で臨むからこそ、命は輝くんだ。


 そうだ。そうだろう。あの世界でも俺は――全力だった。


 俺はレバーをしっかりと握りしめる。

 そうして、白い吐息を吐き出してからカッと目を見開く。


「見せてくれよ。雷上動……お前の全てを!」

《――》


 システムは応えない。

 だが、俺には分かる。

 こいつが俺の期待に応えようとしているのが。

 俺はそのまま全てのスラスターを再点火し、一気に下へと降下した。


 ぐんと機体が加速し、全身に強い負荷が掛かった。

 流れる汗が一気に後ろへと飛んでいき、体がシートに押し付けられる。

 気を抜けばレバーから手が剥がれそうだ。

 ペダルを踏む足にも力が抜けそうで。

 俺はその理不尽な力を感じながら――大きく笑った。


 更に加速――周りの景色が勢いよく流れていく。


 豆粒ほどの機体の敵のシルエットが徐々に大きくなっていく。

 それを見つめながら、俺は手動ロックで敵を狙う。

 網膜に映るサイトを視線で動かしながら敵を狙い――放つ。


 チャージされたプラズマが勢いよく放たれた。

 それは真っすぐに敵へと向かい――回避。


 横へズレるように回避し、敵は連続してブーストを行う。

 背中のスラスターの弾ける音と閃光を見る。

 それを確認し合わせるように俺もブーストを行う。

 敵は此方をロックしながら、肩にマウントしたマルチミサイルを放つ。


 ポッドから放たれた小型のミサイルが俺目掛けて飛ぶ。

 俺はそれを見ながら更に機体を加速させて激しく回転する。

 追走するミサイルの猛攻を避けていく。

 そうして、避けられないものはプラズマで撃ち落とす。

 減速しミサイルを避けて、爆ぜたその煙の中を突っ切る。

 そのまま全てのミサイルを避けて、機体の姿勢を崩す。


 空中で機体の姿勢を崩し、風の流れを一身に受けた。

 その瞬間、機体は出鱈目な動きで回転し。

 敵の死角からの刺突は空を切る。

 奴は双眼センサーを点滅させて驚いていた。

 俺はそんな敵の腹に照準を合わせて――


「――チェック」

《――――…………》


 勢いよく放たれたプラズマ。

 それが敵の腹に命中し、激しくスパークし装甲をずくずくに溶かす。

 腹に大きな穴を開けたそれはひらひらと宙を舞う。

 そうして、そのまま空中分解を起こして空を無数の火で彩った。


 俺は敵の最期を確認し、そのまま地上へと戻っていく。

 敵の最初の位置はマーキングしてある。

 そこから敵は位置を移動し潜伏している。

 景色が広がっていき、山々の景色が近づいていく。

 徐々にポイントへと近づいていき、俺は視線を激しく動かして――そこだ!!


 俺は更に下へと降下。

 瞬間、頭上スレスレに砲弾が飛ぶ。

 俺はそのまま山の斜面を滑るように移動していく。


 機体が発生する風で木々が激しく揺れて。

 木の葉が目の前で舞う。

 俺はそのまま機体を回転させて逆噴射をする。

 そうして、目の前に迫った山の斜面を蹴り上げて――加速。


 加速し、方向を一気に転換。

 そのままギリギリの道に機体を挟み込み。

 土や木の葉を巻き上げながら飛ぶ。


 そうして、モニターを確認すれば敵の影が一瞬見えた。

 俺を見失い、狙撃ポイントを変えた。

 それを認識した瞬間に俺は奴の移動経路を予測。

 ランチャーの弾を装填し――放つ。


 真っすぐに進む弾。

 山の斜面をスレスレで通過し、そのまま空を飛び――奴が躍り出る。


 そのまま特殊弾は爆ぜて。

 奴はそれに巻き込まれて機体を激しくスパークさせる。

 センサーから光が消えて、奴はひらひらと落下していく。

 俺はそんな敵を見つめながら、奴の落下位置にまで機体を動かしていく。

 そうして、川の中で浮いている奴の機体にプラズマライフルを――向けない。


 俺は視線を向ける事無く、横へと銃口を向けた。

 そうして、間髪入れずに中の弾を放つ。


 フルチャージされたプラズマが放たれる。

 それは真っすぐに進み何かに当たり爆ぜた。

 バチバチとスパークを起こしながら現れたのは――同じタイプのタンク型のメリウスだった。


 ほとんど同じ位置にて待機していた。

 唯一の違いはこいつには光学迷彩が積んであったことだ。

 こいつは最初から最後まで何をするでもなく俺の死角を取っていたんだろう。

 最後の最期で油断した俺を狙い撃つ為に……アイツの考えそうなことだ。


 何故、分かったのか。

 簡単だ――こんなにあっさり勝たせる訳が無いからだ。


 注意深く観察すれば、空間の僅かな違和感には気づく。

 地面の不自然な窪みに、山の斜面の一部の木が倒れている事。

 メリスウなどの大型の機体がなぎ倒したような跡だ。

 あのタンクも、軽量級も関係ないのなら――伏兵が潜んでいるだけだろ?


 俺はそのまま機体を倒れているタンクの近くに着地。

 フルでチャージしたプラズマライフルの銃口を奴の胴体に向ける。

 そうして、薄く笑みを浮かべながら礼を伝えた。


「楽しかった――ありがとう」

《――》


 奴の頭部が僅かに動く。

 小さく点滅するそれを見つめて――ボタンを押す。


 銃口からプラズマが放たれた。

 それが目の前のタンクのコアを精確に射貫く。

 奴の機体は激しく揺れてから。がくりと腕を垂らす。

 センサーからは完全に光が消えて――頭上には“VICTORY(勝利)”の文字が浮かぶ。


 俺はそのまま転送されて――次の瞬間には会場に戻ってきていた。


「ふぅ……?」

「…………」


 会場に戻ってこれた。

 しかし、やけに静かだった。

 見れば、野次馬が増えていた。

 皆が皆、俺が戦っていた映像が出ていたモニターを見ていた。

 何をしているのかと思いつつ、同じように固まっていたイケメンのお兄さんに声を掛ける。


「すみません。合格ですか……すみませーん」

「……! す、すみません。えっと、結果は後日、発表されますので……恐らく。いえ! 確実に合格したと思います! す、凄かったです! 僕、感動しました!!」

「え、あ、あぁはい……ど、どうもぉ」


 お兄さんはきらきらとした目を俺に向けて来る。

 俺はそんな彼に頭をぺこぺこと下げてから去っていく。

 チラリとあのガラの悪そうな一団を見れば、鼻水を垂らして放心していた。

 俺はその顔が面白くてくすりと笑う。


 少しスカッとしたと思いながら帰っていく。

 お兄さんが言う言葉が本当なら、これできっと合格だろう。

 合格してからはランクを少しでも上げる為に、対戦をしたり依頼を熟したりしよう。

 

 背後から無数の視線を感じながら会場を後にする。

 そうして、取り敢えず仮想世界に来たのだからと端末を取り出して友達に連絡をしてみる。


 思考リンクをして端末と直接繋ぐ。

 端末はポケットに戻してから暫く待つ。

 ワンコール、ツーコールと鳴り……繋がる。


《はいはーい。“ハッピーサンド”のトロイですぅ。オーダーをどうぞぉ》

「それじゃホットサンドを一つ。マスタードはたっぷりで、肉は肉汁が滴るように」

《……うあ? ってマサムネか!? んだよもぉ驚かせんなよぉ。元気にしてたか?》

「ごめんごめん……うん、元気だよ。今は用事があって仮想世界に来てるんだ。店に寄っても良いか?」

《おうおうモチのロンだぜ! あ、因みに今日はショーコも来る予定なんだけど……浮気か?》

「ぶぅ!! ちちち違うわ!! ば、馬鹿か!?」

《じょ、冗談だろぉぉ? ま、マジになんなよぉ……何か、妙に動揺してる気が――いつぅ!!》

《にいさぁぁん? なぁぁにさぼってるんですかぁぁ? お客さんが待ってるんですよぉぉ?》

《おおおお落ち着けマルサスぅぅ!! その熱したフライを俺に向けるなぁぁ!!》


 何やら騒がしいようだ。

 俺はため息を零しながらも、変わらっていない友人を嬉しく思った。

 彼は慌てながらも「今すぐに来い! 待ってるぞ!」と言って切る。

 俺は端末を戻してから、今すぐにとは何だろうと考えた……まぁいいか。


 俺はファストトラベルを使ってトロイとマルサス君の店がある場所へ向かう。

 指で操作しながら、ファストトラベルを選択しそのまま座標を打ち込んだ。

 俺の体はそのまま粒子となって溶けていき――――…………





「へ、へへ、わ、悪いな。ちらかってて」

「……兄さんが悪いんですよ。行き成り店じまいなんて言うから、お客さんたちが暴れたんです……うちの店に来る人は皆気性が荒いって言うのに。はぁ」

「しょ、しょうがねぇだろ? 友達が二人も来るんだからな! ははは!」

「……変わらないな。お前」


 目の前でへらへらと笑う浅黒い肌の男の名はトロイ。

 この仮想世界の住人であり、前世から俺と関りのある戦友だ。

 その頭はアフロヘアになっており、立派な髭まで生やしていた。

 白いエプロンを掛けており、彼はハッピーサンドというホットサンドの店を経営していた。

 隣で呆れたような顔で首を振る美少年はマルサス君で、このトロイの実の弟だ。

 全くにていない二人であるが血の繋がりはあり。

 賢い彼の弟が店を経営方針を決めていると言っても過言ではない……さて。

 

 周りに視線を向ける。

 普段は綺麗な筈の店内はボロボロであった。

 椅子も机も無造作に転がっていて、壁に掛けてあったタペストリーも剥がれ落ちていた。

 食器の残骸や小物の残骸が散らばっていて。

 トロイも客と殴り合いをしたんだろうか。

 痣が出来た顔でこいつは笑っていた。

 こういう単純なところも変わっていなかったようだ。


 俺は何とも言えない気持ちで奴を見つめる。

 奴は頭を掻きながら「照れるなぁ」と笑う……褒めてねぇよ。


「ま、いいからいいから! 取り敢えず、食ってけよ! うまいぞぉ!」

「僕からも是非、新しく作ったドリンクなんです。気持ちが安らぐような味わいです」

「ありがとう。それじゃ、頂くよ」


 俺は目の前に置かれた半分に切られたホットサンドと青色のドリンクを見つめる。

 そうして、熱々のホットサンドを両手で掴んで頬張った。


 噛めばシャキシャキとしたレタスの感触が口内を楽しませる。

 とても瑞々しくて本当に焼いているのかと思ってしまうほどだ。

 そして何よりも、この分厚い肉が最高だ。

 塩とコショウだけで調理されたものなんだろうが。

 すごく味にインパクトがあって、濃厚な旨味を感じる。

 そして、俺のトッピングであるたっぷりのマスタード。

 これがつんときて食欲を刺激するんだ。

 肉は噛めば肉汁が溢れ出しててらてらと輝く。

 ふわふわモチモチのパンはこんがりと焼かれていて表面はパリッとして――


「美味い」

「だろぉぉ!! ほらほらドリンクも飲めよ!」


 俺は促されるままにドリンクを飲む。

 ストローに口をつけて啜れば……おぉ。


 今まで味わった事のないような味だ。

 柑橘系の味もするが、確かな甘みも存在する。

 まるで、蜂蜜をさらさらにしたかのようだ。

 それでいてくどさは全くなく後味もすっきりしていた。

 飲めば不思議と気持ちが落ちよくようであり、さわやかでいて味もほどよく濃厚で――


「美味い」

「だぁぁろぉぉぉ!! 俺の弟が作ったんだからなぁぁ世界一よぉぉ!!」

「も、もぉ!! 兄さんったらぁ! それを言ったら兄さんも世界一ですよぉぉ!!」

「いやいやいや、お前こそがナンバーワンだぜ!!」

「いや、兄さんだって――」

「いやいや、マルサスも――」

「……何やってんだよ」


 俺の前で似ていない風貌の兄弟がいちゃつき始めた。

 マルサス君の風貌は儚げな美少年であり、白い肌と青い瞳。黒髪までもが綺麗だった。

 対してトロイの奴は浅黒い肌に男らしい髭も生やしていてまるで野獣だ。

 美女と野獣ではなく、美少年と野獣だ。

 俺はそんな二人の兄弟愛を強制的に見させられながら、ショーコさんが来てくれないかと願った。


 瞬間、店の扉が勢いよく開かれた。

 三人で視線を向ければ、そこには美女が立っていた。


 桃色の髪はサイドテールにしている。

 ぱっちりとした青い瞳は可愛らしく。

 凹凸のある体はギャルのような明るい服装で隠れていた。

 大人びているような少女らしいというか。

 彼女はゴウリキマルさんと同じ23歳である。

 彼女とも前世の事を含めれば長い付き合いだ。

 しかし、彼女はゴウリキマルさんの親友だ。

 いや、そうでなくても絶対に手を出してはいけない。

 彼女の事は好きだが、あくまで友達としてで……いや、友達じゃなくても何もしないけど!


 一人でそんな事を考えていれば、彼女はコツコツとブーツを鳴らしながら歩いてい来る。

 そうして、バンと机を叩きつけてトロイに質問していた。


「ちょっとどういうことよ!! 説明して!!」

「え、え、は? な、何が? 逆に説明してくれよ!」

「……しらを切るんだ。なら、見せてあげる……これは何よ!!」


 ショーコさんは持っていた端末を流れるように操作する。

 そうして、映像らしきものを空中に投影していた。

 俺たちは何が映っているのかと見て……え、俺?


 そこに映っているのは新たなメリウスに乗って戦っている俺の姿だった。

 完全にこの機体は雷上動であり、認定試験での映像だ。

 これがどうしたのかと三人を見れば、何やら怖い目つきで見ていた。


「この動きは、マサムネの……どういう事だ?」

「どういう事って……え、トロイがそそのかしたんじゃないの?」

「いや、俺は何もしてねぇよ……なぁ、マサムネ?」

「え、マサムネ、って……!!!?」


 ショーコさんがゆっくりと俺に視線を向ける。

 俺は笑みを浮かべながら片手を上げた。

 すると、ショーコさんは顔を真っ赤にしてトロイの背中に隠れる……ん?


「ななな、何でこんなところに」

「こんなところじゃねぇよ」

「め、メイクは……いける。よし……んん! やっほぉ! マサムネ君!」

「うん、こんにちは。元気そうだね」

「もち! マサムネ君に会えて元気百倍だよ!」

「嘘つけ。ランク落ちたって喚いて――おごぉ!!」


 トロイが何かを言おうとした。

 瞬間、奴の腹にショーコさんの拳が当たる。

 目に見えない速度の攻撃であり、流石はランカーだと思った。

 ショーコさんはニコニコと笑いながら、映像について聞いて来る。


「いや、説明するほどでもないけど……ゴウリキマルさんの会社の宣伝の為にね」

「宣伝? それって……新事業の?」

「え、知ってるの?」

「うん、結構噂になってたからね。あの企業がメリウスの開発にも関わるって。新機体のお披露目も近いって聞いてたし……まさか、アンドロイドの次はメリウスなんてねぇ……まぁリッキーの腕なら楽勝でしょ!」

「だろうなぁ。何せ、あの世界でもアイツは」

「ちょっと! ダメだよ!!」

「……ぁ、す、すまん……お前がいるってのに、遂」

「……? まぁ別にいいけど……でも、やっぱり映像撮られてたかぁ」


 隠し撮りはされていたのは分かっていたが。

 ショーコさんにまで知られているとは思わなかった。

 何せ、俺は新人でありアレはただの認定試験だからだ。

 そんな事なんてランカーの人は気にしないと思っていたけど。

 そんな事をぽつりと零せば「全然分かってない!」とショーコさんが言う。


「マサムネ君は今、すっっっっっっっごく注目されてるよ!!」

「え、何で?」

「何でって……いい? 素人は騙されても私たちランカーはすぐに分かる。マサムネ君が戦った敵のレベルは七十くらいだって!」

「れ、れべる……? なにそれ」

「レベルってのは敵とか依頼の難易度をざっと計算する時に使うもの! マックスが大体百二十くらい! この凄さ分かる!?」

「……え、でも、百二十がマックスなら七十何てそんな――うぉ!?」


 彼女はずいっと顔を近づけてくる。

 すごく怒っている顔だけど顔が整い過ぎていて心がどきどきとする。

 俺は必死にはなれるように伝える。

 ショーコさんは離れながら小さくため息を零す。


「……確かにマックスは百二十……でも、百二十の依頼も敵も今まであったのは両手の指で数えられるくらい……良い所、最高難度は九十とかくらいだよ。だから、七十ってのはランカーの中でもかなり上澄みが挑戦するようなもの……分かった?」

「う、うん……でも、注目って?」

「これ、見て!」


 ショーコさんは映像を切って端末を操作する。

 そうして、またずいっと何かを見せて来た。

 それはよくある掲示板サイトの書き込みのようで……え?


【何だこいつ? すげぇ動きしてるけど】

【マサって言うらしいけど……誰か知らね?】

【俺は知らん。何処かの引退した元ランカーか?】

【いや、それにしてはアカウントが古すぎるだろ……え、待って。アカウントを作ったの五十年以上前じゃね? 下手したらレジェンド?】

【ジジイでワロタ……え、マジ?】

【いやいや、あり得ないから。多分、前の持ち主のを譲り受けたとかじゃね?】

【エアプ乙。それならマザーに弾かれるだろう。アカの譲渡は基本的に出来ないし】

「……盛り上がってるね」

「でしょ! すごいよ!」


 盛り上がっているようだが……ゴウリキマルさんに相談した方がいいかな?


 俺は少し考える。

 まぁ報告はするけど……会社としては嬉しい事かな。

 

 話題になればなるほどに企業は注目される。

 そうすれば、新事業も安泰だろう。

 俺はそんな事を思いながら、立ち上がる。

 三人が何処に行くのかと聞いて来る。

 俺は扉に手を掛けてから振り返る。


「決まってるよ……宣伝!」

「宣伝って……マジかぁ」

「マサムネ君……素敵!」

「……まぁそれでいいのなら……大丈夫でしょうか?」


 俺は話題に上がっている内にもっと活躍してやろうと考えた。

 まだ認定は受けていないから、依頼も受けられないし碌な対戦も出来ないが。

 俺には“フリー対戦”という選択肢が残っている。

 運営が管理しているフリー対戦ならば認定試験を突破していなくとも対戦が許されている。

 勿論、ランキングを上げる為の成績には全く影響はしないがそれでもいい。

 兎に角、話題に上がっている内に活躍して機体と会社の宣伝をしなければ勿体ない。

 今すぐに戦ってくれそうな腕利きと対戦すれば、きっと彼らも俺の機体を作った会社に興味を持つ筈だ。

 プロフィール欄にもばっちりと社名を記載しておいたからな。


 ……それに、まだ戦いの熱が冷めていないしな。


 この気持ちを抑えきれない。

 まるで恋のようであり、俺はくすりと笑う。


「それじゃ、またな」

「おぅ、またな!」

「また来てください!」

「ま、マサムネくぅぅぅん! 私はまだそんなに話してないのにぃぃ!」

「また話せるよー!」


 俺は扉を開けて出ていく。

 さぁやるぞ。目指すはトップランカーだが。

 その前にもっともっと会社を宣伝するんだ!

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