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020:灰人兄弟《アッシュ・ブラザーズ》

 燃え盛る敵の拠点内。

 メリウスの残骸がごろごろと転がっていて。

 破壊された対空ユニットや建物の残骸が散らばっていた……派手にやりすぎたな。

 

 システムを索敵に切り替えて敵がいないか探る。

 が、システムは既に全ての生体反応はロストしていると告げていた。

 敵の大部分は撃墜して、残った敵兵も“アレ”の破壊で逃げていったか。


「あっちも盛り上がっていそうだなぁ」


 センサーを遠くの空へと向ける。

 すると、遠く離れた空には黒煙が立ち昇っていた。

 派手に有志達が暴れまわっているようであり。

 彼らのお陰で陽動作戦は成功した。

 

 有志達に事前に連絡を入れて総攻撃を仕掛けてもらった。

 そのお陰で敵の大半が前線へと送られた。

 俺は手薄になった領域内を進み。

 この領域内で重要な意味を持つ中央の拠点に攻め入った。

 最初は遠くからスナイパーライフルを使っての狙撃を続けた。

 

 狙撃を行えばすぐに場所を移動し。

 また狙い撃つの繰り返しだ。

 先ずは通信設備の破壊を行い。

 それから迎撃用の装置も破壊しておいた。

 敵はすぐに此方に気づいて出撃したが。

 姿を一瞬でも見せたのなら此方のものだ。

 全ての敵を丁寧に狩り、そのまま立てこもった奴らに対しては上空からの“爆撃”を行ってもらった。


 俺が何もせずに此処まで来た筈が無い。

 敵の通信機器はセンサーの強化で判別できるようになった。

 対空ユニットも目につく範囲で潰した。

 これを中央に着くまでに流れるように行って。

 そのまま此処へと数十分の内に辿り着き、何も知らない敵へと攻撃を仕掛けた。


 有志達は前線の敵の攻撃を振り切り。

 此処までメリスウを飛ばして上空からありったけの爆弾を投下していってくれた。

 そのお陰で立てこもっていた敵たちは一掃されて。

 俺はそのままハンドキャノンに装備を変更し、敵の拠点内へと突っ込んでいった。


 此処での連絡手段は断たれて。

 もしも、他の仲間たちに状況を知らせるのであれば。

 可能であるのはWー012から一度出る方法しかない。

 それをするのであれば、ポータルを使って帰還するか。

 それとも、自前の帰還装置を使う他ない。


 中継地点に帰還装置を作っていたかは分からないが。

 恐らくは、敵に拠点が奪われた場合に備えて。

 敢えて、帰還装置は作っていないと思う。


 可能性があるとすれば、リスポーンの地点を設定している事くらいだろう。

 帰還装置のある場所に帰るように設定されていて……それを俺が“潰した”。


 帰還装置を使えば、その時に光の線が上空へと上がる。

 それも大型のものになればなるほど隠す事は困難になる。

 幾らかの隠ぺいは図っていて、光が漏れ出さないような工夫はされていたが。

 流石に部屋の中から僅かに漏れ出す光だけは隠せなかった。

 俺はそれを一瞬で見抜き、帰還装置のある施設へと飛び込んでそれらしき機械に弾丸を撃ち込んだ。

 メリウスが数機隠れ潜んでいたが。

 それらの攻撃を搔い潜り、敵の帰還装置を破壊した。

 それにより帰る手段を失った敵たちが特攻を仕掛けてきたが。

 それを躱してコックピッドに銃弾を撃ち込めば、爆発する事も無くそれは沈黙した。


 この間の時間は僅か数十分の出来事だが。

 流石に敵の司令官のような奴には情報は伝わっているだろう。

 俺はそろそろ帰った方が良い感じであり。

 上空で手を振っている有志の人たちにも連絡を入れておいた。


「はい。じゃ解散で。お疲れ様でーす」

《はい!! お疲れ様です!! またご一緒に――!!》


 瞬間、強い殺気を感じた。


 俺はその場から勢いよく跳躍する。

 すると、目の前が急に爆発した。

 いや、違う。突然では無く上空から何かを撃ち込まれたんだ。


 俺は視線を上に向けた。

 すると、爆撃を仕掛けてくれたメリウスの一機がバラバラに砕かれていた。

 残骸が宙に降りてきて、もう一機が敵を探していたが――コックピッドが貫かれた。


 機体が後ろの方に曲がり、そのまま味方のメリウスはセンサーから光を失う。

 そうして、派手な音を立てて爆散した。


「エネルギー兵器――超高出力のプラズマライフルか」


 一瞬で敵を貫いた細い光の線。

 青白いそれはプラズマであるが、口径を絞り貫通力を上げていた。

 アレは一発喰らっただけでも危険だ。

 そして、先ほどの俺へと放たれた攻撃はバズーカの類だが。

 明らかに速度が通常のバズーカではない。

 何かの改造を施して弾速を上げているんだろう。

 別々の攻撃を同時に行うのは不可能で――敵は二人だ。


 俺はダッシュローダーを起動する。

 そうして、スラスターを噴かせながら一気に拠点を離れた。

 ハンドキャノンを腰部に戻し、マウントさせたスナイパーライフルを持つ。

 すると、殺気を放つ二機のメリウスが追って来るのが分かる。


 施設内を高速で移動する。

 ダッシュローダーの性能は破格であるが。

 旋回の時などに操作が難しい事は分かった。


 敵は背後から迫り攻撃を仕掛けて来る。

 バズーカの弾が地面に触れるまでの僅かな時間。

 その間に跳躍すれば、近くで爆発が起きる。

 プラズマによる攻撃も行われて、地面が一気に赤熱しドロドロに溶ける。


 ジグザグに動きながら、転がる残骸を避けて。

 そのまま破壊されたゲートを通って外へと出た。

 敵も施設から一瞬で飛び出して、周りの森の中へと突っ込んでいった。


 無数の破壊音が響き。

 敵が俺へと迫ろうとしていると分かる。

 気分はまるでサメ映画の主人公か。

 パニックホラーのような恐怖であり、俺は冷や汗を流す。


 俺は逃げながら敵の位置を探る。

 センサーを後方に向けながら探り――見えた!


 敵の位置を補足。

 俺は一気に跳躍する。

 そうして、敵が隠れ潜む森の森の中へとライフルの弾丸を撃ち込む。


 強いリコイルと共に放たれた弾丸。

 それが真っすぐに森の中へと迫り――何かが飛び出した。


 スローモーションに感じる中で。

 真っ赤に輝くライン状のセンサーを光らせるそれを見つめる。

 Nー7cと同じ灰色の基調としたメリウス。

 だが、あれらとはまるで違うメリウスだ。


 大きな逆関節の足に、長く太い腕。

 そして、それに見合うだけに大きく逞しい胴体。

 全長は凡そ二十メートルはある大きなメリウス。

 肩部にはガトリングガンを二門装備し、両腕にはバズーカ砲を装備していた。

 いや、装備しているというよりも腕そのものが武器と一体化していた。

 予備の弾薬の補充は不要であり、自動で装填されるというのなら隙は少ない。

 それが真っすぐに俺を狙っていて――ブーストする。


 ぐんと機体が加速し、体がシートに押し付けられた。

 瞬間、機体は一気に前へと加速する。

 そうして、先ほどまでいた上空を敵のバズーカの弾が通過していく。

 もしも反応が少しでも遅れていたら確実に吹き飛んでいた。

 俺は冷や汗を流しながら後ろを向く。

 が、敵は既に森の中に戻っていった。


 地面に着地し、そのまま滑るように移動する。

 ボルトを操作して薬莢を排莢し。

 そのまま次弾を装填する。

 時間にして2,3秒足らずだが、敵はその間も俺を狙っていた。

 

 音と振動で分かる。

 奴らは森の中を直線で跳躍しながら進んでいる。

 それも木々何てお構いなしに飛んでいた。

 あの頑丈そうな機体から想像できるが。

 障害物程度では止まる事もダメージを負う事も無いんだろう。

 接近戦も危険だ。障害物も物ともしない敵が突っ込んで来たら。

 それこそ生身でダンプカーにはねられるようなものだ。


 道の上を走行していく。

 此処からでは敵から見えてしまっているが。

 森に入ってしまえば、此方はそれらを避けていかなければならない。

 敵は障害物は関係なしにノンストップで突っ込んでくるだろう。

 そうなれば機動力が少しでも削がれた状態のセブン・シージでは不利だ。

 道の上で全力で走行しているからこそ敵も追い掛けるので必死で――敵が姿を見せた。

 

 上へと跳躍し、バズーカ砲を二つ此方に向けていた。

 そして、そのまま勢いのままに弾を放つ。

 俺は一瞬で機体を横へとブーストさせた。

 瞬間、俺が進もうとしていた道の先に弾が接触し爆ぜた。

 爆炎が辺りに広がって、俺は強制的に奴が出て来た反対の森へと突っ込む。


 木々を縫うように移動し避けながら、敵の位置を探る。

 先ほどの跳躍から察して、恐らくは俺が今いる森の中に飛び込んできた。

 すぐに、道に戻りたいが――悪寒が走る。


 俺は一瞬にして機体を横にブーストさせる。

 瞬間、凄まじい勢いで砲弾と化した敵が突っ込んできた。

 バキバキと木々を弾き飛ばし、そのまま俺の真横を進んで――ガトリングガンの銃口が此方に向く。


「――ッ!」


 俺は考えるよりも先に機体を動かす。

 間髪入れずに放たれた敵の弾丸。

 それが勢いのままに木々を木っ端みじんにしていった。


 俺は木々の合間をジグザグに動いて敵の射線を乱す。

 数発だけなら木々が盾になって防いでくれる。

 無数の赤熱する弾丸が目の前でバチバチと弾けるように見えていた。

 木々の残骸が周囲に飛び散り、軽く煙が発生していた。

 一直線に進むのは危険で――また悪寒を感じた。


「――上ッ!!」


 上から殺気を感じた。

 その瞬間に俺は更に機体の速度を上げた。

 ギリギリで木々を回避していけば、すぐ近くにプラズマ弾が降って来る。

 まるで流星であり、それが一瞬にして地面を赤く燃え盛らせていた。

 木も草も土もドロドロに溶けていた。

 とんでもない火力であり、姿は一瞬しか見えなかったが。

 やはり敵は二体存在していた。


 あのバズーカの敵が俺の意識を乱し。

 隙が出来たところにあのプラズマの敵が仕留めに来る。

 完璧な布陣であり、敵ながら見事だと思ってしまう。

 だからこそ、俺は敢えてオープン回線を繋ぎ敵に語り掛けた。


「良い腕ですね! 相当にやり込んでます?」

《当たり前だ。傭兵として金を稼ぎ、この世界でも傭兵として活動している》

《我らはこの世界では古株と言っても過言ではない。敬うべき存在である》

《我ら“灰人兄弟(アッシュ・ブラザーズ)”なり!! 貴様を灰にする者たちの名だ!! 冥途の土産に覚えておけ!!》

「あ、はい」


 ご丁寧に名乗ってくれた。

 通り名があるのであれば相当のプレイヤーだろうが。

 まさか、現実世界でも傭兵をしているプロだったとはな。

 やはり、ハカセの情報通りであり、俺は再び突っ込んできた敵の体当たりを避ける。


 それにしてもやり辛い。

 障害物を避けながら動いて。

 敵の体当たりを警戒し、少しでも気を抜けば上から即死級の攻撃が飛んでくる。

 中々に危険な戦いであり、今にも意識が消えそうだ……まぁ冗談だけど。


 俺はまたしても戦い甲斐のある敵を見つけて歓喜した。

 やはり戦いはこうでなくてはならない。

 自分が追い込まれれば追い込まれるほどに俺の中が熱くなっていく。

 情熱の炎か。それとも、闘争心の炎か。

 何方でも構わない。素敵な敵と戦えるのならば。


 俺はレバーを操作し、ペダルもギリギリまで踏む。

 速度を緩めないように注意しながら木々を避けて――此処ッ!


 敵が体当たりを仕掛けて来る。

 その機動を読み、此方が僅かに先に動く。


 

《――!》


 

 敵が息を飲むのが分かる。

 だが、気づいたところで遅い。

 俺はそのまま後ろを向きスナイパーを敵に向けて――弾丸を放つ。


 

 マズルフラッシュと共に放たれた弾丸。

 それが敵へと進み。

 “肩に命中”し装甲の一部がはじけ飛ぶ。


 

 一瞬だ。

 ほんの一瞬で敵が機体の位置を変えた。

 全てのスラスター動かして機体の位置を変えたんだ。

 慣れていなければ出来ない芸当であり。

 そのお陰でコックピッドを狙った攻撃は肩の装甲を僅かに砕くだけに留まった。


 流れるようにボルトを操作しながら、俺は敵に賞賛の言葉を贈る。


「流石!」

《ふん! ちょこぞいなァ!!》

《兄者ッ!! 呑まれてはならんッ!!》

「……あぁ、上が弟なのか。なるほど」

《ぬわぁ!? 我から情報を引き出すとは……さては策略家だな!?》

「……?」


 勝手に動揺する弟。

 そして、怒りと殺気を全身から放ちながらも。

 丁寧な動きで俺へと迫る兄。

 中々に濃い面々ではあるが。

 俺としては好きな部類の人たちで。


 俺は森の中を駆けながら、もっともっと楽しめるように全力を出そうとした。

 Wー012で出会った通り名を持つ兄弟――“灰人兄弟(アッシュ・ブラザーズ)”。


 さぁこいつらとは何処まで燃える事ができるのか。

 俺は胸をワクワクさせながら、笑みを深めて敵へと振り返り銃口を向けて――

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