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019:改造を超えた魔改造

「……すげぇ」

「ふふ、だろ?」


 目の前に鎮座するメリウス。

 俺がWー012で強奪したNー7cであったが。

 ゴウリキマルさんの手で“改造”が施された今では。

 その形状なども少なからず変わっていた。


 バックパックを完全に排し。

 大型のメインスラスター1つに取り換えられた。

 そのスラスターは変わった形状をしている。

 噴射口が無く、丸く白い球体のようなものが背中に埋め込まれるようになっていた。

 よく見れば後ろの方に突き出しているように見えたそれ。

 どう見てもスラスターには見えなかったが、彼女の説明で納得した。


 待機状態の形態は丸い球体状だが。

 一度稼働状態になれば、あれの装甲が展開される。

 そうして、後ろだけでなく三百六十度全ての方向に対してエネルギーを圧縮し固めたそれを放出する。

 出力を自動で調整し、進みたい方向に合わせてスラスターが動くんだ。

 バーナーの火のようにエネルギーが放出され、かなりの出力を出せるようだ。

 プラズマなどのエネルギー兵器のようにエネルギー固めて放てば危険に思うが。

 実際には武器としての力は抑えられていて。

 あくまでも推進装置としてエネルギーを放出する事だけを考えていた。

 だからこそ、よっぽどの至近距離で使わない限りは僚機などに危険が及ぶ事は無い。


 このメリウスは地上戦仕様のモデルだから。

 空中戦に必要な分の推力は要らない。

 ならば、何故このような高出力のものをつけたか。

 それは地上を縦横無尽に駆けれるようにする為で。

 本来の仕様から少し変更し、地上戦に適した加速力に調整してある。

 空中戦をしない分のエネルギー消費量は抑えられていて。

 スムーズな移動と癖の無さに焦点を当てていた。

 これもゴウリキマルさんが設計したものであり、中々の代物だ。


 従来のメリウスのように幾つもスラスターをつける必要が無く。

 一個だけで全ての方向に対応し。

 尚且つ、エネルギー消費効率を限界まで突き詰めた結果。

 通常のメリウスで高機動戦闘可能時間が二時間であっても。

 これの導入によって可能時間が二倍にまで引き上げられたらしい。

 複雑な操作は必要は無く、感覚的な思考制御によって加速と減速を行える。

 初心者にも扱いやすいように補助システムにも対応していた。

 勿論、リミッター機能も標準装備で。

 パイロットの安全を第一に設計されていた。

 唯一の欠点は整備を定期的に行わないといけない点で。

 今の開発段階では、まだまだ連続使用は推奨出来ないと彼女は言う。

 目指すべきはワールド・メック・オーズの全プレイヤーが複雑なメンテナンスを要する事無く使用できるところらしい。


 スラスターの改造はそれで。

 後は機体の装甲などを少しだけ外していた。

 ゴウリキマルさん曰く。

 元々これの設計は軽量級であるのに、それを中量級にするのはいただけないらしい。

 耐久力を上げて地上戦に特化させる改造であるのなら少しは納得できるが。

 それでも、装甲の増設によって機動力が減退したのはダメなようだった。

 彼女は装甲の一部を外してから、回路などを組み替えて。

 機体内に熱が溜まりにくいように排熱機構なども強化してくれた。

 そのお陰で機体も少しだけシャープになり、センサーに関しても強化されて。

 生体認識機能がアップグレードされて、建物の中や水の中にいる敵も発見できるようになった。


 後は脚部にも改修が施されている。

 “ダッシュローダー”という特殊走行機を取り付けていた。

 脚部の裏に三つの特殊な“カウチュークボール”を接続し。

 これによって地上を高速で移動する事が可能となった。

 カウチュークはゴムであるが、これはダッシュローダー専用の特殊素材で。

 鋭利な刃物や熱にも強く。

 あらゆる悪路においても適応し、メリウスの重さにも耐えられるのだ。

 ゴムであるから摩擦があると思うが。

 このローダーからは特殊な潤滑剤が出ており、これにより摩擦を軽減している。

 ただ欠点があるとすれば、ゴムがすり減るスピードが速い上に。

 潤滑剤で滑りを良くしている為に急停止などが難しい事だ。

 まぁゴウリキマルさんは俺ならすぐに使いこなされると言ってくれた。


 手数の少なさについても解決済みで。

 腰部に中近接戦で使えるハンドキャノンを取り付けた。

 それは特殊弾を使用しており、多重装甲などにも高い貫通性を誇っているものを使用しているらしい。

 射程はそれほど長くは無いが、近距離などになればこれを使おう。

 スナイパーライフル方はマガジンを容量の大きいものに取り換えて。

 武器をマウントさせる為のサブアームも肩部に取り付けた。

 これにより武器を手放す必要が無く。

 状況に応じての戦闘が可能になった。


 全体的には装甲を減らして重量は減ったが。

 追加の装備であったり、機構などの変更で重量はそれほど変わっていない。

 ただ、地上戦で大きな機動力を発揮できるようにはなっている。

 これは大助かりであり、もしもランカーに襲われてもこれで戦えるだろう。


 まさか、丸一日掛けたとはいえ。

 ほとんど一人でメリウスの改造を行うなんて。

 これは最早才能云々の話ではない。

 ゴウリキマルさんのそれは魔法の域であり。

 俺はただただ恋人の技に魅せられてしまった。


「……因みに、これに名前とか付けます?」

「あぁ? そうだな……Nー7CGで、“セブン・シージ”はどうだ?」

「良いですね! それでCGの意味は?」

「cloud to ground lightningの略語で……要するに対地雷って言葉でさ。雷雲から地面への放電って意味だよ 」

「おぉ、それは良いですね! 地面を走る雷って感じですかぁ。うんうん」


 俺は両腕を組んで納得する。

 新たに手に入れた機体。

 本来であればこのWー012限りの付き合いの筈だったが。

 ゴウリキマルさんが改良を加えて名前までつけてくれたので。

 すごく愛着を感じてしまっている。

 捨てる事は絶対にしたくなく、壊したくもなかった。


 絶対に壊されないように立ち回ろう。

 そう誓いながら、俺は目の前の機体を見つめて……それにしても。

 

 俺は周りを見る。

 森の奥で建てた簡易的なキャンプだったが。

 今見れば専用の大型の機械がごろごろと置かれている上に。

 見えないバリアのようなものも展開されていた。

 これらの機材はゴウリキマルさんが運んできたもので。

 俺は知らなかったが、簡易的な帰還装置であっても。

 何かを持ってくる場合においては制限は無いらしい。

 人数は二人までと定めていても、物だけは持ってくるのが自由で。

 彼女はその穴を知っていて、機材を持ってこれるだけ持ってきた。

 その結果、簡易的なキャンプ地はメリウスの整備をする場になっていた。


「……でも、良いんですか? 無事に持って帰れる保証は出来ませんよ?」

「あぁ? 別に良いよ。こいつらは旧型で廃棄しようとしていたもんだしな。壊れても誰も文句は言わねぇよ」

「え、じゃ、じゃ旧型でメリウスの改造を一人で……す、凄いですね」

「よせよ。こんなの私じゃなくても出来る。一日掛かっちまったが、それでも形にはなった……ふふ」


 ゴウリキマルさんは油まみれの顔でメリウスを見て微笑む。

 俺は何か嬉しい事でもあったのかと聞いた。

 すると、彼女は俺を見てからメリウスを指さす。


「こいつは今はお前の機体だ。そして、改修したのは私だ……嬉しいんだよ。昔みたいに、バディを組んでいるみたいでさ」

「……そうですね。俺も嬉しいです……あの日々は大変でしたけど。俺たちは乗り越えた……何時もありがとうございます」

「はは、それを言うなら私もだよ……マサムネ、ありがとな。お前のお陰で、私は毎日が楽しくて仕方がない。お前がいてくれて良かった」

「……! ゴウリキマルさん」


 俺は彼女を見つめる。

 彼女も俺を見ていて。

 俺たちは夜空の下で見つめ合っていた。

 とてもいい雰囲気であり、俺はゆっくりと彼女の肩に手を置く。

 彼女は静かに目を閉じて俺はゆっくりと動いて――!


 音が聞こえた。

 破壊音であり、かなり近い。

 俺は様子を見てくると彼女に言うが。

 彼女はプルプルと震えるだけで何も言わない……?


 様子が変だった彼女はいったん置いておく。

 ヘルメットを取って装着し。

 彼女から貰った装置なども身に着ける。

 そうして、俺は森の中を駆けていった。


「……バカ」




 

 身を潜めながら駆けていく。

 すると、Nー7cが四体ほどうろついていた。

 近くには破壊されたメリウスが転がっているが。

 どうやらアレを破壊したのは奴らのようだった。

 俺は早速、ゴウリキマルさんから貰った装置をつけた。

 通信傍受用の機械であり、数秒掛けて敵の通信に接続し……。


《――がう。こいつは別の奴だ》

《だろうな。こんなあっさりとやられるようなら。 アイツらが負ける筈がねぇよ》

《……にしても、またオタク共が攻めて来るようになったのは……やっぱりそいつの影響か?》

《どうだかなぁ……ま、来るなら来いだろ。暇だったしな》

《……兎に角、上には報告するぞ。さっさと戻らないと給料が減らされちまうからな》

「……」


 奴らは雑談のようなものを始める。

 そうして、ゆっくりと踵を返して去っていった。


 どうやら、あのメリウスを始末しに来たんだろう。

 それが終わったから帰るようで。

 俺の居場所を特定して探しに来た訳じゃなさそうだった。

 俺は一先ずは安心しながら、傍受を止める。


 ……兎に角、今日は下手に動くのは止めよう。


 明日からまた動けばいい。

 ゴウリキマルさんが改修してくれた機体で早く戦いたいが。

 焦ってへまをすれば、彼女に顔向けできない。

 そんな事を思いながら、俺は急いで彼女の元へと戻っていく。


 走って走って走って――!


 強い気配を感じた。

 隠す気も無いほどに濃厚な殺気で。

 俺は思わず姿勢を低くして空を見た。

 一瞬、空から強い光を感じた。

 上空を凄まじい勢いで何かが通過していく。

 謎の機体のセンサーと一瞬視線が合ったような気がしたが。

 俺の事など気にしていないように真っすぐに何処かを目指して通り過ぎていく。

 突風が吹いて木々が揺れて、がさがさと木の葉が落ちて来る。


 アレはメリウスだった。

 それも、奴らが使っている量産機ではない。

 完全あるワンオフであり、アレはかなりの腕利きのプレイヤーだ。

 一瞬だけ見えた情報では、カラーリングは派手な赤を基調としていた。

 両肩から翼のように長い板のようになったスラスターを装備していて。

 それの装甲が展開されていて、下からとサイドからエネルギーを放出していた。

 センサーはピンク色に発光した単眼センサーで。

 特徴的なのは額の中心から前に少し突き出たブレードアンテナか。

 がっしりとした機体ではあったが、あの動きは軽量級のそれで。

 耐久性と機動力の二つを合わせもった短期決戦仕様なのか……。


 高機動戦用のチューンナップが施されているのか。

 見えたのはほんの一瞬であり、すぐにそれは何処かへと飛んで行ってしまう。

 俺はその機体を見た瞬間にすぐに理解した。


「……アレがランカーだな……中々のプレッシャーだな」


 恐らくは、仲間からの指示で敵を倒しに行ったのか。

 此処でも戦闘が起きていたのなら他の場所でも戦闘が起きているんだろう。

 時刻は夜の九時であり、陽は完全に沈んでいた。

 周りは暗く、明かりが無ければ何も見えないが。

 俺はこのヘルメットの機能で暗くても周りが見えていた。

 ゴウリキマルさんが運んできた機材の一つで。

 音や光などを遮断するフィールドを形成する装置があった。

 アレのお陰で、派手な音を立ててメリウスの改造を行っていても気づかれる事は無かった。

 アレの中にいればゴウリキマルさんも安全だろう。


 この事はゴウリキマルさんにも伝える。

 そして、ハカセにも報告しておこう。

 彼女であれば敵のランカーについての情報も持っているだろう。

 もしも、敵の情報が少しでもあれば戦った時に優位に立てる。

 卑怯ではない。戦いとは情報であり、どれだけ相手から優位に立てるかが肝心だ。

 情報が足りなくて危機に立たされた事は何度もあった。

 

 ゲームであろうとも情報は大事だ。

 だからこそ、俺はどんな手を使ってでも情報を手に入れたい。

 戦いに真剣で、全力で相手とやり合いたいからな。


 俺は立ちあがりまた駆けていく。

 そうして、ヘルメットの下で笑みを深めた。


 やっぱり退屈しない。

 この世界にも間違いなく強い人間が沢山いるんだ。

 そんな奴らと戦って、トップランカーを目指すんだ。

 中途半端ではいけない。

 本気で全力で俺はこのゲームを楽しむ。

 その為ならば、どんなに時間を費やそうとも惜しいとは思わない。


「……ランカーか……楽しみだなぁ。ふふふ」


 一体敵はどんな動きをするのか。

 そして、どんな方法で俺を殺そうとするのか。


 イメージする。

 一瞬見えた機体の情報から相手の攻撃パターンを予想する。

 イメージの中で戦いながら、俺はあの機体で何処まで舞えるかを考える。

 相手がこう動けばこうで、相手が回避するのならここに弾を撃ち込む。

 逃走を図るのか。それとも、死ぬまで戦うのか……あぁダメだな。


 こんな事を考え始めたらキリがない。

 無限に考えて、無限に戦ってしまう。

 例え死んでももう一度であり、殺してもまた殺す。

 何方かが死ぬまでじゃない。

 何方かが満足するまでの戦いだ。


 それがゲームであり。

 それがワールド・メック・オーズだろう。

 俺はそうであると考えながら笑う。

 形成されたフィールドを通れば周りが明るくなる。

 ゴウリキマルさんの姿を探せば、布を持ってメリウスの脚部を拭いていた。


「ゴウリキマルさん! さっきランカーらしき敵の機体を見つけましたよ!」

「……ふーん」

「多分、高機動戦を想定したチューンナップが施されていて。装甲の厚みからして耐久性も高そうでした!」

「……あ、そ」

「……えっと、すごく強そうで……ゴウリキマルさん?」

「……何だ」


 彼女は俺に視線を向けない。

 どうやら拗ねている様子で。

 俺はくすりと笑いながら、彼女の背後に近寄る。

 そうして、そっと彼女の体を抱きしめた。


 彼女はとても温かく。

 良い匂いがしていた。

 柔らかくて優しくて、とても心が満たされる。


「すみません……今日はもう帰りましょうか。一緒に映画でも見ませんか?」

「……ポッポコーンは?」

「ありますよ。キャラメル味です」

「……じゃ帰ろう。此処の夜は冷えるからよ……その、ごめんな」

「ふふ、良いですよ。ゴウリキマルさんのそういう所も……俺は好きですから」

「――! ば、バカぁ!!」

「ぶあぁ!!?」


 彼女は顔を真っ赤にしてグーで俺の頬を殴る。

 俺はスローモーションに感じる世界で頬に走る鋭い痛みを感じていた。

 そうして、そのまま錐もみ回転しながら茂みの中に突っ込む。

 彼女は真っすぐに俺に指さしながら叫んでいた。


「そうやって! 耳元で! さ、囁くのは――あぁもぅ! 先に帰るからな!」

「ま、待ってくださいよぉ」


 彼女はぷんすかと怒って先に帰ってしまう。

 俺はよろよろと立ち上がりながら彼女の後を追う。


 怒っているような雰囲気だったが。

 ずっと一緒にいたから自然と分かる。

 アレは本気で怒っている訳じゃない。

 照れくささや恥ずかしさを感じながら。

 喜びを隠している時の声だった。


 さっき言った言葉は本当であり。

 そういうところがギャップのようなものがあって俺は好きなんだ。

 この事をお義母さんに話したら、すごくニコニコしていたのを今でも覚えている。


 機体の準備は整った。

 此処から先は時間との勝負だ。

 中継拠点への攻撃は敢えて敵の警戒度を上げる為だ。

 そうする事によって敵は嫌でも部隊を展開し俺を探す事になる。

 しかし、時間は掛けずにある程度がすればすぐに捜索を打ち切るだろう。

 だが、有志の人たちも敵の動きに変化があったと分かった筈だ。

 これから暫くは攻撃を行う筈であり、敵はそれの対応でも部隊を送る事になる。


 つまりだ。

 逆に言えば外へと兵士を送るからこそ。

 内の警備が手薄になる。

 奴らは必ず、また俺が中継拠点を攻撃すると考えるだろう。

 しかし、それは相手に俺の動きを誤認させる為だ。


 俺の狙いは敵への妨害工作だが。

 時間を掛けて中継拠点を攻撃する事じゃない。

 あくまでも敵の重要な拠点への攻撃が主任務だ。


 時間との勝負。

 どれだけ手際よく攻められるかが鍵だ。


 今日はゆっくりと休もう。

 明日からが忙しくなるからな。


「……ゴウリキマルさんってホラーはいけるのかなぁ?」


 彼女が怖がって抱き着いてくれる姿を想像する。

 ちょっと意地悪かもしれないが。

 その光景は中々に良い感じであり。

 俺はぐっと拳を握りながら、一番怖い日本のホラー映画で勝負に挑む事にした。

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