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018:クソ生意気なランカー様(side:サイナス)

「ふぅん。それでぇ?」

「そ、それでって……だから! 敵は一人で攻めてきて俺たちは――うぁ!?」


 くるくると愛用のリボルバーを回す。

 そうして、片手でグリップを握って流れるように撃鉄を起こす。

 間髪入れずに目の前で呆ける老いぼれに弾を撃ち込んだ。

 すると、老いぼれにしては良い動きで弾を避ける。


 腐っても元傭兵だ。

 並みの人間の反射神経じゃない。

 それも、現実では強化外装を乗り回していた腕利きだ。

 そんな腕利きが四対一の戦闘で惨敗した。

 俺は夢でも見ているのかと思ったね。

 けど、実際はこの夢みたいな世界での真実の話だった。


「敵はぁたった一人で乗り込んでぇたった一人で通信機器を破壊しぃメリウスを一機奪ってぇ逃走しぃ次の狩場でも兵士をぶっ殺して設備を破壊したとぉ……耄碌(もうろく)するには早いぞぉ君たちぃ」

「……チッ」

「はいはーい。舌打ちはうやめましょねぇ。お兄さん傷ついちゃうからね。君たちの事も傷物にしちゃいそうだよぉ」


 俺は拳銃の銃口を阿保共に向ける。

 部下の一人が「アンタも俺たちと歳変わらねぇだろ」とツッコむ。

 間髪入れずに銃弾を放てば油断した間抜けは眉間を貫かれる。

 そうして、さらさらと体を光の粒のようにして消えていった。

 残った三人は俺を強張った表情で見つめていた……さて。


 こんなお遊びでマジになるのはこっぱずかしいと思ったが。

 相手側も遂にマジのソルジャーを送り込んできたようだ。

 それもかなりの腕利きであり、捜索隊を編成して送ってみたが成果はまるでない。

 報告によれば破壊されたオブジェクトを確認したそうだが。

 恐らくはただ破壊した訳じゃない。

 そのオブジェクトを使って痕跡を消して、川にでも入って流れるように消えたんだろうさ。

 ただ、問題なのは何処まで進んだかだった。


 Nー7cのエネルギー容量から考えてそれほど遠くにはいけない。

 行けたとしても機体を止めてエネルギーの補給をしなければならないだろう。

 短時間でエネルギー補給用の設備を整えて、エネルギーを補給するのは難しい。

 そもそも、それだけの為にエネルギー用の設備を建てるのはただの馬鹿だろうさ。

 

 ルートを幾つかに絞れば発見は簡単だと思われたが。

 エネルギーの消費を抑えながら移動した可能性が出て来た。

 慣れていないメリウスを操縦したのならば、そこまでの知恵は回らない筈だが。

 相手は相当な腕のようであり、メリウスだけでなく現実世界の強化外装も熟知しているかもしれない。

 もしもだ。奴が本当のプロであるのなら、此方が容易に特定できないような工夫をするだろう。


 エネルギーの消費量を抑えて距離を稼ぎ。

 最も安全な旧市街地や山岳付近の洞窟エリアを目指す筈だ。

 相手は確実にプロであると考えたからこそ、真っ先に部隊をそこへと派遣したが。

 結局、犬一匹もそこにはいなかった。


 可能性とすれば、森林エリアもあるにはある。

 しかし、もしもそこで機体を隠そうとするのであればだ。

 明らかにメリウスは発見されるリスクが高い。

 発見されるリスクを抑えるのであれば、カモフラージュを施し機体内の温度を下げる工夫がいる。

 川に機体を沈めて移動したのなら、機体内の熱を下げる事は出来るだろうが。

 肝心のカモフラージュをするのであれば、人間一人では容易には出来ない。

 出来たとしても時間も力も圧倒的に足りていない。

 それに、踏破領域内だけでも森林エリアは広大だ。

 川も至る所で流れており、的を絞らなければ発見は困難だ。


 もしも、本当に森林エリアで隠れているのなら……いや、無理だね。

 

 経験上、メリウス一機のカモフラージュに掛かる時間はおおよそ、三時間程度だ。

 休む事なく体を動かしていたのならばもっと短縮は出来るが。

 そんな超人のような奴はゲームでいうチートでも無ければ無理だろう。

 いや、チートなんてのはこの世界には存在しないがな。

 あのマザーとやらは優秀であり、一切のチート行為を禁じている。

 ゲームの運営者でも対応できない事を、アレは己だけで解決しているそうじゃないか。

 人間よりもよっぽど優秀で。だからこそ、魔法でもない限りは休みなく動く事なんて無理なんだ。


 ……まぁ、このゲームという枠組みだけでなら、見逃されているかもしれないがねぇ。


 話しには聞いているし、実際に見た事もある。

 チートを使っていなくては出来ないような動きをする輩や。

 そもそもが人間の限界を超えているだろうというプレイヤーが存在している事だ。

 それらが何の裁きも受けずにのうのうとゲームに興じているのなら……いや、いい。


「チーターになんかには興味ないしなぁ。やっぱ生身で戦う奴をぶっ殺してなんぼでしょう。ねぇ?」

「……何言ってんすか?」

「んー? いやぁ? イカさまは許せないって事だよぉ。その敵とやらがイカさまで戦っているのなら……許せないよねぇ」

「……まぁそうですけど……でも、そうは思ってないでしょ?」

「お、分かる? 多分だけど、そいつはチーターじゃない。チーターだったら、そもそもがそんな動きはしないからねぇ」


 敵の事は確認している。

 機体の残骸から記録を抜き取って。

 それを見て戦闘の一部始終を見ていたが。

 アレはとても美しい戦い方で。

 効率よく相手を殺しながらも、自らが全力で楽しんでいる男の戦い方だった。

 だからこそ、チーターのような心も魂も無い腑抜けではないと断言出来た。

 

 相手はチーターではない。

 それならば、相手は生身もパイロットだ。

 機械でも無ければ、ずっと動いている事なんて出来ないだろうが。

 機械がゲームをするなんて聞いた事は無い。

 どんなに利口なアンドロイドであろうとも。

 魂が無いのであれば、ワールド・メック・オーズに参加する事は出来ないからねぇ。

 

 ……だとすればだよ。本当に敵は何処に行ったんだぁ?

 

 最後に敵が襲撃した中継拠点から最短で川へと向かうルートを進んだのなら。

 痕跡を消しながらそこまでの道のりを進めば数十分は掛かる。

 最初の襲撃時間から、約十五分後には敵の襲撃が確認された。

 奴が次の拠点を襲ったのはその直後であり、そこから奴は十分足らずで拠点を制圧し。

 すぐに移動を開始して、此方は隊を編成するのに十五分の時間を要した。


 近場の兵士に指示を出して救援に向かえば。

 既にそこでは部隊が全滅していた。

 隊には次の指示を与えて敵の痕跡を捜索させたが。

 痕跡は途中で消されていて、分析をしようにも痕跡は綺麗に消されて発見はできなかった。

 痕跡を消しながら移動したのであれば相当な時間を要している筈で。

 痕跡の分析を早々に断念し、部隊長は周辺の捜索に当たった。

 が、敵は付近にはいなかった。


 捜索開始から三十分後に部隊長からの報告で大規模な捜索隊を編成した。

 地上部隊と飛行部隊を編成し。

 そこから真っ先に川から捜索をしたが発見できなかった。

 

 それならば、何処かで息を潜めていたのか?

 もしくは、カモフラージュを既に済ませて移動をしていたのか?


 事前にマップデータを手に入れていたんだろう。

 隠れ潜むのに適した場所で身を潜めながらカモフラージュを施し。

 そこから川へと入り、息を殺して進んで……恐ろしい敵だ。


 熟練の兵士でも此処まで手際よくは出来ない。

 いや、兵士どころか人間が此処までの動きを出来るのか。

 俺ならばハッキリと無理だと断言するだろう……こいつは何者だ?

 

 超人のような人間なのか。

 それとも、人間の姿をした化け物なのか。

 

「……ふふふ」

「さ、サイナスさんが笑ってる……やべぇな」

 

 ……何方にせよ、敵は敵だな。

 

 此方の捜索を振り切ったのは事実だ。

 老いぼればかりの軍隊であるが。

 それでも歴としたプロであり、素人如きに逃げられるへまはしない。

 相手をプロであると仮定した上で此方も動かなければならない。


 俺は腕時計を確認する……五分遅刻ぅ。


 そんな事を考えていれば扉がノックされる。

 俺はゆっくりと銃を構えてから入室を許可した。

 部屋の扉が開かれた瞬間に俺は銃を弾いて――避けられた。


「おいおい。あぶねぇじゃねぇかよぉ。サイナスのおっさぁん」

「ははは、お兄さんだろぉ。クソガキ」


 部屋に入って来たもは活きの良いクソガキだった。

 社会を舐め腐ったような態度で、いかにも相手を見下すような目つき。

 髪はくすんだ金色に染めていて、耳にはじゃらじゃらと金のリングをつけていた。

 兵士としての装いなんてしていない。

 パイロットスーツすら来ておらず。

 白いだぼだぼのシャツに、黒いズボンとサンダルだった……おまけにガムとは、役満だねぇ。


 生粋の日本人でありながら、西洋に憧れでもあるのか。

 髪を染めるなんてのは到底理解できない。

 まだカラーコンタクトなるものを入れていないだけマシだろうが……嫌だねぇ。


「……なぁんか。すげぇムカつく視線を感じるけど……で? 何で俺を呼んだんだよ。もしかして仕事?」

「そうだよぉ。仕事仕事。ぶっ殺して欲しい奴が出来た訳よぉ」

「へぇ俺を呼ぶくらいだからそれなりの敵なんだろうなぁ? えぇ?」

「ふぅん、そりゃもうモチのロンよ……ただ、一つだけ問題があってねぇ。そいつがまだ見つかっていないのよぉ」

「見つかってないって……え? まんまと逃げられた訳? マジで? だっさ」


 クソガキはにやりと笑い俺たちを嘲る。

 すると、黙っていた兵士たちが殺気立つ。

 クソガキはそれに気づいていながらへらへらと笑ってガムを膨らませる。


 ムカつくほどのクソな態度だ。

 しかし、このクソガキはこうなってしまうほどの才能を持っていた。


 メリウスの操縦技術だけならば、他の兵士たちよりも上だろう。

 何せ、こいつはたった千人しかいないランカーの一人だからだ。

 雲の上の存在とも呼べるランカー様であり、例え下位の順位だろうとも実力は本物だ。


 ランカーの中で弱いから下位じゃない。

 こいつに向上心が無いからこそ、低い位置でいるだけだ。

 もしも、このガキが本気を出せばもっと上も目指せるだろう……勿体ないねぇ。


 モデルか何かをしているとは聞いている。

 本業はそれであり、これはお遊びなんだろう。

 自分という存在をアピールする為の舞台で。

 ランカーになる事が目的であったから、それ以上は求めない。

 

 俺たちの誘いを受けたのも、大手の企業とコネクションを築けるからだ。

 もしも、このビジネスが成功すれば大丸黒曜社は更に勢力を拡大するだろう。

 そうすれば、こいつはそんな企業のコネを使ってもっと自分を売り出す筈だ。


 こんな生意気な面のどこが良いのかは俺にはさっぱりだが。

 よく女を囲っているのは知っていた。

 今まで苦労という苦労もせず。

 挫折や失敗だって経験しなかったんだろう。

 だからこそ、こんな舐め腐った態度になってしまったんだ。

 もしも、俺がこいつのパパだったのなら張り手の上に簀巻きにして引きずり回している。


 俺は目の前のクソガキに命拾いしたなと視線で訴えかける。

 すると、奴は退屈そうに「敵が見つかってないのに呼ぶなよなぁ」と呟く。


「はは、そりゃそうだ……ただ、探すのもお前の仕事だぜ? ナルシスト君」

「……は? 何で俺が? そういう雑務はアンタらの仕事だろ。俺は敵を始末するだけ……てか。そのムカつく呼び方やめろ。うぜぇから」

「ふふん。どうしようかなぁ。ちゃんと仕事してくれないと、お兄さんもっといいあだ名を考えちゃうぞぉ」

「……はぁ、これだからジジイの相手は嫌なんだよ……だったら、そいつがまた現れたら、すぐに知らせろよ。俺の機体だったらすぐに向かってやるから……これで満足かぁ?」

「……ま、いいよ! じゃすぐに連絡するから……次からは正装で来い」

「……へいへーい」


 少しだけ殺気を放ち低い声で脅してやる。

 奴はそんな脅しもどこ吹く風で、手をひらひらとさせながら去っていった。

 ばたりと扉が閉じられて、そこにいた兵士たちが勢いよく俺に詰め寄る。


「あんなんで大丈夫なんですか!? 絶対に無理ですよ!」

「アイツくそ生意気なんですよ! 俺の息子だってまだ可愛げがありましたよ!?」

「あの野郎ムカつくんですよ! 正直、敵にコテンパンにされた方がアイツの身になるんじゃないですか!?」

「……あぁ、そうだねぇ、うんうん……いや、大人でしょ? 我慢だよぉ。仕事仕事! ね?」


 パンパンと手を叩きながら、目の前の大人たちを宥める。

 そう、これは仕事なんだ。

 俺たちは腐っても傭兵で、金と条件さえ合えばどんな場所にでも行ってしまう。

 不利な状況であれば裏切るし、金払いが悪くなれば縁も切っちまうさ。

 だけども、まだまだ利用できるのであればどれだけ時間が掛かろうとも戦う。

 例え相手が親兄弟であろうとも、利になるのであればやってやるさ。

 大人であり傭兵であり、戦いの大好きな人間だからねぇ!


 俺は勢いよく立ち上がる。

 そうして、ジャケットを羽織ってから彼らを押しのけて歩いていく。

 何処に行くのかと部下たちが叫ぶ。

 俺は手をひらひらとさせながら「仕事だよぉ」と声を発する……さてさてぇ!


「盛り上がって来たねぇ。仕事は仕事でも、楽しいイベントが発生したら……堪らなく興奮しちゃうよぉ!」


 あんなクソガキじゃなくてもいい。

 もしも、自分が出られるのなら戦いたい。

 だけど、上はそれを望んではいない。

 あくまで俺の仕事は全体の指揮だからだ。

 豪華な食事を前に待てと言われた犬の気持ちだが……まぁいいさ。


 例え直接戦えなくとも、楽しむ事は出来る。

 経験豊富な大人だからこそ、別の楽しみ方も知っていた。

 腕だけのある生意気なクソガキと、謎の手練れのパイロット。

 これほどまでに面白い手札は現状では存在しない。

 最高のショーを楽しむのであれば特等席を用意する必要がある。


「誘導、トラップ。そしてそして……最高の餌だなぁ!」


 手をパンと叩きこすり合わせる。

 敵が欲しているものが分かれば最高だが。

 現状では敵の情報は何一つとしてない。

 何処の誰で、何と繋がっていて、どういう戦闘スタイルを好むのか。

 俺はそんな事を考えながら端末を取り出す。

 流れるように操作して耳に当ててコール音を聞き……繋がった。


「あぁオレオレ。俺でーす。調べて欲しい事がありまーす。情報はほとんどありませーん」

《……何?》

「何って冷たいなぁ。調べて欲しいんだって! Wー012でうちを襲っている謎のソルジャーについて! もうそれくらいは知ってるんだろぉ? そいつの素性とかよく使っている機体の特徴とか教えてくれたらぁ……それ相応の金を払うよ?」

《……分かった。一日待て。また連絡する。じゃ》

「はいはーい……て、もう切れてるし。はぁいけずだねぇ。若者ってのはどうしてこうも冷たいのか……ま、いいさ! ふふふ」


 頼れる情報屋には依頼を出した。

 態度は冷たいがその腕は本物だ。

 依頼を出せばすぐに情報を仕入れるだろう。

 問題なのはどれだけ吹っ掛けられるかだが……経費でどうにかしよう!


 上との交渉は得意な方だ。

 必要経費だと言えばすぐに払ってくれるだろう。

 何せ、ビジネスの危機であり、可及的速やかにこの問題を解決しないといけないからだ。


 このまま敵さんは中継拠点を破壊するだけでは飽き足らず。

 大規模な採掘地点の襲撃に加えて、最悪の場合は帰還装置のある拠点も襲うかもしれない。

 上の人間には既に報告しているが、奴らは素人で判断が遅い。

 たった一人ならばどうとでも思うだろうがそうじゃない。

 たった一人に“中継拠点が二つも”破壊されたんだ。


 ……このまま放置していれば統制が乱れて。敵もまた攻撃を仕掛けてくるんだよねぇ。


 勝てる見込みが無いから大人しいだけで。

 風向きが変われば奴さんはすぐにまた攻撃を仕掛けて来る。

 その風向きを変えるのは間違いなく襲撃してきたそいつだ。

 厄介来回りなく。まるで癌細胞のような存在だ。

 小さいからこそ発見が難しく。

 時が経てばどんどん被害が拡大し……だからこそ、面白い。


 俺は廊下を歩いていく。

 部下たちが気づいて道を開ける。

 それを無視してニタニタと俺は笑う。


「さぁさぁ始まるぞぉ。楽しい楽しい争いがぁ。ふ、ふふ、ふふふ!」


 俺を見る部下たちは怯えていた。

 俺は恋する乙女のように敵の事だけを考える。

 そう、これは恋だ。愛して愛されて――心臓(ハート)を貰うんだよぉ。

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