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014:枯れた心に灯る火(side:雇われたプレイヤー)

 ……たく、暇で暇で仕様がねぇよ。


 隠居暮らしに飽き飽きしていた時に、面白い儲け話があるからと飛びついて見れば。

 仮想世界での“お遊び”で雇われる事になるなんてな。

 金払いは良いし、命の危険も無いが……退屈なんだよなぁ。


 敵は襲ってくる気配がない上に。

 この間まで続いていた攻防戦もこっちが勝利しちまったからな。

 俺たちも参戦していたけど、そこまで手応えは感じなかった。

 中には腕に覚えのある奴らもいたにはいたが、ほとんどが“強化外装”の扱いも知らないド素人だった。

 俺たちは傭兵として戦場で戦っていた。

 それも強化外装という現実世界での人型兵器に乗って戦っていたんだ。

 如何にこの世界で名の知れたプレイヤー様だろうとも。

 命を懸けて来た俺たちとは技術がまるで違うんだ。


 完全勝利では無かったが、それでも奴らは俺たちから逃げていった。

 今の奴らは勢いを衰えさせて防戦一方だ。

 ネットを使って仲間を募っているらしいが、素人が何人集まっても一緒だ。

 こっちの大将が命令を出して総攻撃でも仕掛ければ、奴らはすぐにお陀仏だろうよ。


 命令を出さないのは、大将がビビってるからじゃねぇ。

 上からの指示であり、今は必要納品分を出荷するまでは何もするなって言われたらしい。

 大量の資源を売りさばくのはビジネスマンの仕事であり。

 俺たちろくでなしは上からの命令通りに敵をぶっ殺せば良い。

 だが、傭兵だっていつまでもお利口な訳じゃない。

 来る日も来る日も、こんなところで来ない敵を警戒させられていたら。

 嫌でもフラストレーションが溜まっちまう。


 俺は手札を揃ったのを確認し。

 ゆっくりとそれをテーブルに並べた。


「ロイヤルストレート……あるか?」

「……チッ、またお前の勝ちかよ。イカさまか?」

「はっ! 自分のつきの無さを誤魔化すんじゃねぇよ……はぁ、にしても暇だねぇ」


 賭けの金を回収してから、両手を頭の後ろに置く。

 椅子を揺らしながら、誰か攻めてこないものかと願う。

 すると、仲間の二人はケラケラと笑ってから「ちげぇねぇ」と言う。


 俺たちは現実世界では本職の傭兵“だった”。

 と言っても、怪我などの理由で既に引退している。

 現実世界では手足が無い奴ばかりであり。

 俺だって愛しい左足を地雷で失った。

 だが、此処でなら自由に動ける足がある。

 医者からも、此処で体を慣らしていれば、移植手術の時に早く足が動かせるようになると言われていた。


 ……まぁ金儲けの為って訳じゃなく。単なるリハビリで俺たちは参加しているようなもんだがな。


 俺たちを雇用したのは“大丸黒曜社”であり。

 現実世界では医療関係の仕事を主に担っており、お抱えの研究者たちが新薬の開発やらをしていたらしい。

 ただ、国から任された薬の開発において問題を起こしたとか何かで。

 その影響力も地に落ちていたようだが、最近になって仮想世界でのビジネスに乗り出して。

 今では此処の資源を売りさばくことで、会社の資本を高めているようだった。

 株価も上がっているようで、金払いが良いのも納得だ……本当に儲かるんだなぁ。

 

 奴らの狙いはこのワールドで採れる豊富な資源だった。

 メリウスの装甲や武装で使われる素材らしく。

 これを加工したものは多くのプレイヤーが我先にと買っていくって仲間が言っていた。

 

 どんな手を使えば、これらのものが金になるのかは分からないが。

 奴らは独自のルートで、これらの資源を加工してから他のプレイヤーへと売りさばくらしい。

 一手間加える事で付加価値がつき、現実世界での金で取引が出来るという訳だ。

 ゲームくらいでマジになるなんてとは思うが。

 今の時代では、ゲームで本気になった方が美味い飯をたらふく食えるんだ。

 会社であっても、仮想世界での経験やスキルが重要視されて。

 俺たちのようなオールドタイプもうかうかしていたら時代に取り残されちまう。

 二十代や三十代の時は血の気が多く、より多くの戦果を求めて戦っていたが……今じゃただのくたびれた中年だ。


 強化外装の操縦技術の腕は衰えていないと思うが。

 それでも戦場から離れていたブランクは感じる。

 視力も落ちており、止まった的に当てるのだって神経を使うんだ。

 敵と戦う時はほぼ勘で動いており、長年の経験が俺を生かしていると言っても過言じゃない。

 こんな事をこいつらに言えば笑われるのか……いや、何となく納得しそうだな。


 もう同じ傭兵仲間たちは四十五十の奴らばかりだ。

 “反機械派”の起こすいざこざで重宝されていた奴らばかりで。

 今となっては過去の出来事であり、戦争自体が歴史の教科書で語られるものだ。


 ……俺の爺さんは“大戦”を経験していたが。もうとっくにあの世に逝っちまったしなぁ。


 まさか、機械たちが人類に反旗を翻すなんてな。

 今の十代には理解できないだろうさ。

 俺だってにわかには信じられないが、100年以上も前には実際にデカい戦争があったんだ。

 それこそ、世界中の人間たちを一つに纏めちまうくらいの戦争だったらしい。

 もしも、俺たち傭兵がその時代で生きていたのなら。

 俺も爺さんみたいに英雄になれたんだろうか……ま、無理だな。


「……今となっちゃ興味もねぇし」

「あ? 何だって?」

「……別にぃ」

 

 ボケっと空を見つめる。

 まだ周りは明るいが。

 そろそろ陽も沈む頃だろう。

 今日も今日とて平和であり、欠伸が出そうだった。

 

 今や、現実世界で傭兵を必要としている奴らは少ない。

 使われるとすれば裏社会の人間の護衛であったり、レジスタンスを名乗る反社の手伝いであったり。

 碌でもない仕事ばかりだった。

 稼ぎはそれなりでも、命を落とすリスクはどんな仕事よりも高い。

 俺たちは刺激に飢えていたからこそ、傭兵になったが。

 今では戦争ですらもゲームとして成立しちまう。


 現実世界でド派手な花火を上げようとする奴はもういない。

 仮想世界で白黒決めるのが普通であり。

 無駄な血が流れない分、スマートな決闘であるというのが全人類の共通認識だ。

 そもそも、あの大戦以降は国々も密に連絡を取り合っていて。

 目に見えるところでは平和であり、対立が生まれるような事も無い。

 それぞれの国が他の国を助けており、助けられた国も他の国を支援する。

 全くもって良い社会が出来上がっちまっていて、俺たちの老後だって何の心配も無い。


 傭兵は過去の存在であり、ゲームの世界での職業だ。

 現実世界でそれになって飯を食っていく事なんて現実的じゃない上に。

 必要としている奴らもろくでなしばかりで未来なんてありゃしねぇ。

 仲間たちは早々に引退し、新しい傭兵だって生まれていないそうだ。

 全員がそんなもんになるよりも、ゲームでランカーを目指す為だけに強化外装の扱いを学んだりしていた。

 今では、強化外装はメリウスの操縦を学ぶ為の教材の一つで……全く、素敵な時代だよ。


 兵器が教材で、傭兵はゲームの職業。

 傭兵になったばかりの俺が聞けば泡を吹いて倒れているだろうさ。


 そんな時代だからこそ、人同士で殺し合う戦争は無いんだ。

 態々、凝り固まった思考で戦争を起こそうとする奴らが異端なんだよ。

 だからこそ、レジスタンスなんか名乗っている奴らはハッキリ言って時代遅れなんだ。

 進みゆく時代に乗り遅れた敗北者であり、戦う事でしか自らの存在をアピール出来ない。


 ……ま、足を失って引退したのは、ある意味で正解だったんだろうさ。どの道、傭兵家業に未来は無かったしな。


 今まで雇われていたレジスタンスは全てが潰されたか国に懐柔されていた。

 金払いが悪くなった時が縁の切れ目で。

 俺たちは下手を打つ前にとんずらしていたから無事だったが。

 懐柔された奴らは国の奴隷になり下がり、潰された奴らは家族までもが犯罪者になっちまう。

 正しい社会であるからこそ、一度歯向かっちまった奴らには救いは無い。

 引き際が肝心であり、俺たちはその点だけなら利口だと言える。

 

「……なぁ、トーマスは何で来ねぇんだよ? まだ、“右手が忙しい”のか?」

「アイツは中毒だ。右手を休ませている暇はねぇんだよ。殺し以外の時は、決まって息子を可愛がってやがる。いかくせぇったらありゃしねぇよ」

「はぁ、たくよ。何時まで“元気”でいるつもりだぁ……おい、サム。お前、ちょっと呼んで来い」

「はぁ? 何で俺なんだよ。お前が行けよ」

「俺は行かねぇよ。前の時は俺が呼んできたからな。あ、因みにヨシオはその前だったな」

「……はぁぁぁ、やだやだ……」


 サムは頭を掻いてから立ち上がる。

 そうして、コンテナの中で運動中の馬鹿を呼びに行く。

 アイツにずっと運動をさせていたら、寝る所を変える必要がある。

 一日中野郎がしごいていた部屋で寝るなんてのは悪夢でしかねぇからな。

 またメリウスの中で仮眠をとるなんてのは絶対に嫌だ。

 強化外装の中で寝るよりかはマシだが……まぁいいさ。


 馬鹿を起こして換気して。

 定時連絡を取ってから、食事にしよう。

 こうも暇であると、飯時くらいしか楽しみがない。

 飯だけは最高であり、冷え切ったレーションであったりレンガみたいな物を喰わされないのは最高だ。

 ご飯は温かく、スープも湯気が出ているんだ。

 豆のスープ何て食えたもんじゃないと思っていたが。

 此処で配給される豆のスープは最高であり。

 もしも、時間があれば何処で買えるのか会計係に聞きに行きたいくらいだった。


「はぁ、これで酒も飲めたら最高なんだがなぁ」

「……ふふ」

「……おい、お前。今の笑いは何だ……まさか」

「……内緒だぜ?」


 奴はポケットから使い古されたスキットルを出す。

 軽く振れば液体の音がして、俺はそれをひったくるように奪う。

 奴の静止も無視して蓋を開けて軽く呷れば……おぉ!


 上等なものではない。

 安いラムであるが、慣れ親しんだ味だった。

 一気に体の芯からほのかな熱を感じる。

 俺はもっと飲もうとしたが、奴がそれを俺から奪い取っていった。

 そうして、自分で飲んでから俺を睨んでくる。


「んだよ。ちょとくらいいいだろ?」

「お前の場合はちょっとで済まさねぇだろ……ま、後で少し分けてやっから。今は我慢して」

「――た、大変だ!」

「「……?」」


 コンテナの方からサムの声が聞こえた。

 俺たちはすぐにライフルを取って立ち上がる。

 何が起きたのかとサムに声を掛ければ、奴がコンテナの扉を開けて外に出て――瞬間、コンテナの中が爆発した。


「「――!?」」


 一瞬の強い閃光。

 それと同時に、コンテナの中から爆炎が噴き出す。

 近くに立っていたサムは勢いのままに吹き飛ばされる。

 俺たちは思わず体をよろけさせて。

 何とか倒れないように踏ん張ってから、サムに声を掛けた。


 視線を吹き飛んだ奴に向ければ、その体は粒子となって消えた……来やがったかぁ!


 敵襲であり、監視台に立っていた奴がすぐに警報を鳴らす。

 俺たちはすぐにメリウスへと行こうと――!


「“Nー7c”……奪ったのか!」


 俺たちの機体が勝手に動いている。

 青いセンサーが発光して機体が持ち上がっていた。

 強奪された機体は一機であり、それがゆっくりと別の待機していたメリウスに銃口を向ける。

 そうして、遠慮なしに至近距離で銃弾を浴びせていた。


 空薬莢が待って地面に落ちる。

 マズルフラッシュと共に、銃弾がNー7cの装甲に当たり貫通した。

 そうして、パーツをバラバラとバラまきながら黒煙を上げて――爆散する。


「あぁ俺の機体がぁ!?」

「うるせぇ! まだ俺のがあるだろ!?」


 俺は情けない悲鳴を上げる馬鹿を叱る。

 すると、奴は俺の機体も破壊しようとして――奴が後方に飛ぶ。


 奴がいた場所に仲間のメリスウが攻撃を仕掛けていた。

 奴は通信機器を破壊して機体を奪ったつもりだろうが。

 此処には外に出ていたメリウスが三機も帰還している。

 その内の二機は武装した状態であり、もう一機を見ればすぐにドリルを外し。

 バックパックを外して中身を展開し、ライフルを取ろうとしていた。


 採掘用のメリウスだけはレーダーユニットをつけていない。

 他のメリウスの支援も出来るように武装や弾薬を積んでいる。

 大将の指示通りに装備して正解であり、奴はすぐに一対三の戦闘を強いられるだろう。


 奴は他のメリウスを見ながら動き出す。

 ライフルを装備したメリウスに狙われないように射線を障害物で遮ったり。

 味方のメリウスなどで射線を塞ぐように動く。

 味方たちは動き回る奴に狙いをつけようとしていたが。

 奴はそんな敵の攻撃の挙動を見抜いて、弾を意図的に外させていた……上手いな。

 

 手慣れた動きであり、中々の腕利きだと一瞬で分かった。

 メリウス同士が銃口を向け合い撃ち合いを始める。

 空薬莢が待って地面に落ちる音に、重厚な金属の塊が動く音が響き。

 地面が激しく振動している中で、俺は愛機に向かって走り出す。


 今は一対三であるが、俺が加われば一対四であり。

 奴は更に分が悪くなる。

 奴を生かしたまま捕らえるのが一番だが。

 あの腕であるのなら、逃げる選択を取る可能性が高い。

 機体をみすみす奪われて逃げられでもしたら、大将に何を言われるか分かったもんじゃねぇ。


 俺は地面が揺れる中で、機体へと近づく。

 すると、爆発音のようなものが聞こえた。

 足を動かしながら見れば、監視台が破壊されていた。

 奴は仲間のメリウスの攻撃を回避しながら、流れるように対空ユニットにも攻撃を仕掛ける。

 対空ユニットは何も出来ずに銃弾を浴びて、そのまま派手な音を上げながら爆散した。


「くそ、やりやがったなッ!!」

 

 俺は舌を鳴らしそうになる。

 が、それを堪えて必死に走る。

 

 トラックの方に目を向けた。

 しかし、味方の気配は既にない。

 

 メリウスに接近し機体を奪えたのなら、油断していた奴らが悲鳴を上げる間もなく始末したということだ。

 奴らは引退した老兵であったが、素人に負けるような腑抜けでは無かった。

 そんな奴らが殺されたという事は、敵は対人戦の経験もある事になる。

 中々に厄介な奴を招いたのだと認識し、俺は気を気を引き締める。


 俺の愛機の前に立てば、コックピッドへと繋がるロープが垂れ下がっていた。

 俺はそのロープの金具に足を掛けてすぐに引きあげさせた。

 コックピッドハッチは展開されていて、俺はその中に体を入れる。

 ハッチが閉じられて、モニターには戦闘を行っている敵と味方が映る。

 奴は攻撃を回避しながら、回り込もうとしている仲間に攻撃を放っている。

 味方は身動きが出来ずに、盾で攻撃を防ぐしかなかった。

 俺はその状況を一瞥し戦闘システムをすぐに起動させようと手を動かして――よし。


 システムに異常はない。

 奴は機体を奪うので精いっぱいだったんだろう。

 確実に俺たちの手段を奪うのであればシステムを破壊するのが一番だからだ。

 それをせずに機体に乗り込んでメリウスを直接破壊していたんだ。

 余裕が無い証拠であり、俺は戦闘システムを起動させた。

 システムの音声を聞きながら、コックピッド内が明るくなっていくのを感じる。

 補助システムを使わない本場仕込みの基本操縦だ。


「さぁ俺を楽しませてくれよぉ!」


 戦闘システムを起動させて、武装を手にする。

 目の前で戦っている奴らへと視線を向けた。

 久々の戦闘であり、敵は中々の強者だ。

 枯れたと思っていた闘争心に小さな火が灯ったように感じた。

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