013:単独任務をエンジョイする
ゴウリキマルさんに用事で遅くなるかもしれない事を伝えた。
彼女は俺の事をよく知っていて、また何かに巻き込まれたんだろうなぁという目で俺を見ていたが。
何も聞かずに頑張れとだけ言ってくれた。
そうして、全ての準備を終えてから俺はポータルへと向かった。
ポータルとは銀色の塔になったものであり。
それを使って様々なワールドへと飛ぶ。
目的の一つへと到着し、バイクを適当な所に止めてから向かえば。
大勢の人間が資源の入った袋などを運んでいっていた。
本来であれば異空間に入れればすむ事だが。
それを使っていないのであれば、彼らはその異空間にも収まり切らない資源を運んでいる事になる……あぁアレか。
目つきの悪い奴らだった。
ワールドから帰還し、袋に入った資源を待機していた人間たちがトラックへと積み込んで。
そのまま奴らは手慣れた様子で去っていった。
後には数人がその場に残っていて、周りのプレイヤーも異様なものを見る目で見ていた。
俺がポータルへと近づけばすぐにウィンドウが展開された。
Wー012を指定すれば、すぐに転送の準備が整う。
目つきの悪い奴らが周りを警戒しながら見ているが。
もしかしたら、ハカセに雇われた俺が襲撃してこないか警戒しているのか。
だとしたら見当違いであり、俺は今からWー012に直接乗り込む。
……まぁ此処まで来るのに敵からの妨害は無かった……やっぱりアレは警告だったんだろう。
これ以上は関わるなという警告で。
俺はあそこで一度死んだことになったんだろう。
だからこそ、これ以上の妨害は必要が無いと去っていった。
助っ人を雇う事は知っていたようだが、相手が誰なのかまでは分からなかったのか。
侮ってくれているのならそれでいい。
俺はそのまま意識を溶け込ませるように白い光に身を任せて――――…………
§§§
カタカタと揺れる小型の輸送機内。
シートに座りながら、カチャカチャとジッポーライターを弄る。
ポータルエリアは最初に聞いていた通り安全圏であった。
あそこでは戦闘が行われないように設定されているからか、そこにいる人たちもあまり警戒心は無さそうだった。
だからこそ、スミスが言っていた有志たちも集まっていた。
彼らの話を聞けば、やはりかなり苦戦しているようだった。
このままでは、自分たちが建てた拠点まで侵攻されるのも時間の問題だと言っていて。
俺はそんな彼らに話しかけて、敵の領域内まで飛んでくれるパイロットはいないかと話しかける。
最初はお前は誰だというような警戒心の籠った目で見られたが。
自分が何者なのかを明かせば、すぐに仲間であると気づいてくれて……若干、引くほど信頼された。
そのまま流れるように仲間の一人を紹介してくれて。
彼の操縦する輸送機に乗って行けば、出来る限り敵の懐まで接近して見せると言ってくれた……いや、そこまではいいんだけどな。
俺はそのままパイロットに案内されるままに。
小型の輸送機に乗り込んだ。
そうして、現在は敵の領域内へと向かっており――
「マサさん! もうすぐ敵の領域内に侵入します……仲間の前では自信満々に言いましたけど……すみません。多分、奴らの懐までは入れないと思います。最近、奴らの警戒度が上がっているみたいで。ねずみ一匹も通さないくらい警備が厳重で」
「……へぇ、じゃ気づいているのかなぁ」
「もしかしたらですがね……気を付けてくださいね。アイツらきっとプロですよ!」
「あぁ、うん。ほどほどに気を付けるよ……!」
彼と話をしていれば、輸送機が揺れた。
爆発音のようなものも聞こえて、攻撃を受けている事はすぐに分かった。
「アイツら、対空ユニットまで――降下ポイントまでは絶対に!」
彼は操縦桿を握りしめる。
そうして、輸送機の出力を最大まで上げていた。
滞空ユニットからの攻撃を回避し、彼はそのまま直進する。
敵からの攻撃が一時的に止み、彼はすぐに降下準備に入るように言ってきた。
「敵に発見されました。すぐにメリウス部隊がやってきます。急いで!」
「――ありがとう。無事に帰還してくれ」
「そのつもりです! ご武運を!」
席から立ち上がりながら、機体背部のハッチを展開してもらう。
ハッチはすぐに展開されて、俺はそのまま駆けだす。
そうして、空中に身を投げ出してからそのまま地面に向かって降下していく――おぉ!
上空から見える景色に見惚れる。
自然豊かな場所であり、綺麗で大きな川が流れていたり。
地面一体を覆うように自然が広がっていた。
鳥たちが羽ばたいていたり、遠くの方では山々が連なっていた。
人工物らしきものもあるが、蔦で覆われているから使われているものではないだろう。
倒壊したビルや大型のシップのようなものだったりと。
青空の下で広がるそれらを見渡してから、俺は姿勢を垂直にして速度を上げる。
そのままギリギリまで地面へと接近し――今だ。
パラシュートを展開する。
そうして、そのまま最低限速度を緩めながら。
木々の中を突っ切っていき、パラシュートを途中で切り離す。
地面が迫り体を回転させながら衝撃を殺し……よし。
ぴたりと止まり、グローブ越しに地面に触れる。
草が生えており、土は少しだけ湿っているのか柔らかい。
草木の匂いを感じながら、鳥獣の鳴き声を聞く。
ゆっくりと立ち上がってから木々の合間から空を見れば、輸送機を追い掛けるようにメリスウが飛んでいった。
俺は運んでくれた青年の無事を祈りながら、ナイフと拳銃を取り出して森の中を進んでいった。
森の中を警戒しながら進んでいく。
時折、マップの確認もしたが。
俺の存在はまだバレていないような気がした。
もしも、降下したのがバレていればすぐに捜索隊が編成されるだろう。
それが来ていないのであれば、奴らは気づいていないということで。
俺は林に隠れながら、奴らが立ち寄る鉱石の採掘ポイントに到着する。
崖の斜面にあるそれ。
鉱石の採掘ポイントは初心者でも分かりやすいようにエフェクトがある。
あぁやって緑色に発光しているのが採掘できる鉱石であり。
大きなものであれば、洞窟一体に広がるものもあるらしい。
大型の採掘ポイントは正にそれであり、本体であれば複数のプレイヤーが掘っても掘り切れない筈だが。
奴らはゲームとしてではなくビジネスとして人を大量に雇って採掘をさせている。
それもハカセから渡された情報によれば、ライバル会社から借金を課せられた人間を不正に働かせているとか。
奴隷のようにこき使い。
最低限の衣食住だけ与えて、働けなくなれば捨てる。
最早、ゲームとしては見ていない。
腐り切った根性であり、俺はそんな悪党を潰す為にやってきた。
腕時計を確認する。
スミスから貰った情報と現在の時刻を照らし合わせる。
恐らく、もう間もなく敵の一団が此処にやって来るだろう。
……俺の装備は対人戦用だから、メリウス相手では歯が立たない。
カーキ色のコンバットスーツは防弾仕様だ。
ヘルメットも銃弾を弾く素材で出来ている。
プロテクターのようになってはいるが、非常に動きやすい装備で。
敵から装備を奪っていく事を前提にしているからこそ装備も必要最低限だ。
一本のナイフとオートマチックの拳銃一丁……心もとないな。
くすりと笑う。
すると、遠くからメリウスの駆動音が聞こえて来た。
俺は林の中に身を隠しながら、生体ジャマーを起動させておく。
これにより、敵のレーダーから生体反応を発見されるリスクは減る。
少しだけ待っていれば、目当ての一団がやって来た。
木々が無い道を歩いて来ている。
物資輸送用のトラックが一つと護衛用のメリウスが二機。
そして、採掘用の装備をしたメリウスが一機か。
恐らく、奴らは異空間をほとんど使っていない。
戦闘になる事も想定して、物資は基本的にあのトラックで運搬するんだろう。
大型のトラックであるからか、物資の運搬量もかなりありそうだ。
ゆっくりと護衛のメリウスが片手を上げて停止する。
トラックはゆるやかに停止して、採掘用のメリウスが採掘ポイントに近づいていった。
護衛のメリウスたちは辺りを警戒している。
トラックの前後で停まって前方と後方を警戒していて、此方の方はそこまで見ていない……よし。
俺はナイフを持ちながら、近くの木に切れ込みを入れる。
がつがつと斬り付ければ、丁度弾丸一発が入るほどの切れ込みになる。
そこに、敵メリウスが停まっている位置を見ながら弾丸の角度を調整しセットする。
俺はポーチから予備の弾丸を一発だし、それを解体して中から火薬を出した。
それを雷管付近へと塗してから、俺は落ちていた枯葉を数枚掴んでぐしゃりと潰す。
切れ込みに入った弾丸の後ろへとその枯葉のクズを詰めてからジッポライターで火をつける。
軽く火がついたのを確認し、俺は姿勢を低くしながら移動した。
さきほどまでいた位置から大きく距離を取る。
姿勢を低くしながら、茂みに紛れるように移動して。
トラックの後方付近から少し離れた位置の茂みの中で止まる。
すると、遅れて仕掛けは作動して――乾いた音と共に金属同士がぶつかる音が小さく響いた。
護衛のメリウスに弾丸が当たった。
奴はびくりと反応し、手にしていたライフルを仕掛けた場所に向ける。
何も聞こえないが通信機でやり取りをしているんだろう。
ずしずしと音を立てながら二機のメリウスが動いてトラックから離れる。
俺が先ほどまでいた位置へと集まっており、索敵を開始していた。
火で熱せられて発射された弾丸。
火のついた葉っぱの屑は弾丸の発射と同時にばらける。
木の切れ込みに関しても小さいものであり、メリウスに搭乗したままでは発見は難しい。
拳銃の弾丸一発だけならば、当たっても小さな音しかならない。
警戒はするものの、人影が無いのならすぐに気のせいだと考えるだろう。
俺はメリウスの死角を突くように動き、そのままトラックの下へと体を滑り込ませた。
両手で下の部品に掴まり、足を引っかけて置く。
メリウスたちは周囲にセンサーを向けながら、暫くそのあたりでうろついていたが。
暫くすれば、警戒していた奴らもトラックへと戻って来た。
気づかれずにトラックの下に潜り込む事が出来た。
後はこのまま拠点へと向かってくれればいいが……まぁそう簡単にはいかないよなぁ。
採掘ポイントを全て回ったのか。
トラックは舗装された道へと戻っていった。
そうして、暫くの間待っていれば、トラックはゆっくりと停車した。
話し声が聞こえている事から、中継地点にでも着いたのか。
「今回はどうだった?」
「まぁまぁだな。“サイナス”さんにはどやされずに済みそうだよ」
「はは、前はへまをして大事な商品を傷つけちまったからな。安全運転で頼むぜ?」
「分かってるよ……検査はしないのか?」
検査はしないのかという言葉が聞こえた。
俺はすぐに移動を始める。
兵士の一人は面倒そうな声を発しながら、トラックの検査を始めた。
先ずは荷台のチェックのようであり、横の梯子を使って昇っていったのが見えた。
俺はトラックの側面に出てから、周囲を見る……やっぱりな。
此処は拠点ではない。
何処かの中継地点であり、他にもトラックが中で停まっていた。
恐らく、此処で物資の運搬の方法を変えるのか。
ワールドで採掘した物資を持ち帰る方法は幾つかある。
一つはポータルから帰還する方法で、これが一番確実な方法だ。
しかし、それ以外にも帰還する方法はあり。
その一つが拠点を建てる事で設営できる帰還装置らしい。
誰であろうとも拠点を建てる事は出来るが。
大規模なものは金も人でも必要になる。
そういったものはチームを作らなければ本来は作れないが。
奴らは金の力で大きな拠点を作って、中継地点まで設営していた。
奴らの帰還装置が何処にあるのかの見当はついている。
スミスからの情報によれば、奴らが所有する帰還装置の数は三つであるようだ。
それ以上は維持費が高くつくからと断念したようだった。
……まぁ帰還装置自体は、作ろうと思えば個人でも作れるけど。あれほどの量の物資を持ち帰るのなら普通のものじゃないよな。
かなり大規模な装置に違いない。
最終的な目標としては奴らの帰還装置全ての破壊になる。
拠点を全て潰していけば、おのずと帰還装置へと行きつく。
それら全ての目標の破壊さえ出来れば、奴らはそれ以上のコストを掛けてこない。
帰還装置三つが奴らの限界であり、小規模なものではビジネスとして意味がない。
……帰還装置のラグは、奴らの規模で考えるのなら……恐らくは一時間ほどか。
アレだけの量の資源を持ち帰るのでれば、最低でも一時間のラグがある。
一時間おきに、運ばれてきた資源を持ち帰っている筈だ。
恐らくは、資源を転送する人間やポータル前で待機している人間は休みもほとんど無いだろう……ブラックだなぁ。
そんな事を考えつつも、俺は奴が梯子を伝って降りて来たのを音で確認した。
トラックの後ろを確認すれば、メリウスたちは背中を向けて外からの攻撃を警戒していた。
採掘用のメリウスも俺とは反対の方向で待機している。
俺は今なら抜け出せると確信し、すぐに行動に移した。
俺はトラックから離れて腰を屈めて駆けていく。
そのままゲート付近のコンクリートの壁の内側に沿うように移動する。
監視カメラの類は無い。
トラックの交換用のタイヤが積み重なっていたり。
エネルギーになる精製液らしきものが入ったタンクが幾つか置かれているくらいだ。
ただの中継地点であるからか、そこまで厳重な警備でもなさそうだ。
監視台が一つで、兵士が上から周囲を警戒している。
ゲートにはやる気の無い兵士が一人。
中に停まっているトラックの周辺には武装した兵士が二人。
コンテナを改造した施設内にも人の気配がする。
他にもテントのようなものも張っているが、あれらは適当にものを保管してく場所だろう。
大事なものは入れて無さそうであり、通信機器もなさそうだ。
あるとすれば、あの改造されたコンテナの中だろうな。
休憩中なのかカードゲームに興じる兵士が三人。
ざっと計算して十人かそれより少し上の人数が此処に集まっている。
その内メリウスの数は……六機か。
今来たばかりのメリウスが三機と。
奥の方で停止しているメリウスが三機。
アレは今停まっているトラックの護衛と採掘用だろう。
採掘用の装備は外していて、ライフルと盾へと換装されている事から。
恐らくは、中継地点から別の場所までの護衛をあれらがするのか……いや、違うかもしれない。
ただの予想であるが。
あれらはもしかしたら、此処での警備兵なのか。
だからこそ、採掘用の装備はしていないのかもしれない。
見れば、メリウスの武装なども置かれている。
ライフルであったり、マシンガンであったり。
敵が来たら、あれらで応戦するのだろう。
監視台にも対メリウス用の機関砲が設置されてあるからな。
他にも大型の対空ユニットも設置されてあり。
アレは恐らくは自動で敵を補足し攻撃するものだろう。
……まぁ重要なのはそこじゃない……さて、俺の記憶が正しければ、メリウスにロックはつけていない筈だ。
ほとんどのプレイヤーがメリウスへのロック機能をつけていない。
何故ならば、盗まれるような事は基本的に無いからだ。
対戦だけに集中すれば盗まれる危険はゼロで。
ワールドであろうとも、態々、機体外に降りない限りは誰も盗もうとしない。
だからこそ、どんなメリウスであろうともキーのようなものは基本的に無い。
俺の雷上動には生体認証機能が組み込まれているが。
あれらのメリウスはどう見ても量産機だろう。
市販のものではないだろうが。
基本ベースは市販のものであり。
そこに少し手を加えたものというのがパッと見の印象だ。
グレーを基調としたカラーリングで。
センサーは青いライン状になっている。
中量級の二脚型であり、背中には四角い形状のバックパックを積んでいる。
いかつい顔をしている上に、装甲も厚みがある。
基本武装として片手に四角く長い盾を装備し、もう片方にはライフルを装備している。
バランスの良い見た目であり、突出した機体性能は無さそうだが。
癖なく操縦できそうなメリウスだと感じた。
カタログで似たような機体を見た事がある。
恐らくは、アンブラ社が販売している“ノートス・セブン”が基本ベースだ。
元々は軽量級であった筈だが。
アレには追加装甲を加えた上に、背中に謎のバックパックを背負わせている。
機動力という強みを失ったが、空中戦を捨てて地上での行動に仕様を変えたのか。
それにしても、気になるのはあのバックパックだ。
スラスターは両脇にあるが、明らかにスラスターには関係しているようには見えない。
あれ自体が何かの装置のように感じる。
アンテナが短いのと長いので左右に二本生えているが……あの中には何が入っているのか。
恐らくは武装の類では無く、レーダー系の何かだろう。
対空ユニットを自分たちの領域内に配置していたのであれば、外付けのレーダーユニットか。
明らかに索敵を目的とした装備であり、それほどまで部外者を招きたくないのか。
機動力はそこまで無さそうであり。
アレは地上の敵と戦う為の仕様に違いない。
そう確信し、それならばやりようはあると考えた。
先ずは外部との“通信機器を破壊”して。
それから“メリウスを強奪”して……あぁワクワクする!
まるで、潜入ミッションのようだ。
気分はスパイであり、俺は笑みを浮かべながらいそいそと行動を始めた。