男と犬
帰り道で段ボールから小さな鳴き声が聞こえてくる。
男は捨てられていた子犬を発見して、無視ことができず家に連れ帰ることにした。
初めのうちは怯えており、餌を与えても自分の見ていないところでしか食べることはなかったが、少しずつ慣れていき1年も経てば普通の飼い犬のように暮らすようになった。
懐いてきたせいか男の食べているものにも興味を示すようになり、見つめる顔のかわいさに負けて「たまになら」と分け与えてしまうことがあった。
ある日、ドッグランのある公園に出かけるとペット用のおやつを配っている人がいた。来月に発売予定の商品らしく、試供品だと言って1つ渡してきた。
家に帰ってから貰ったおやつがあることを思い出し、せっかくだからと犬に与えてみた。
どうやら気に入ったらしく、尻尾を勢いよく振りながら食べているのを微笑ましく眺めていた。
その夜、テレビを眺めているとペット用のおやつに毒を入れて配っている男がいたというニュースが目に飛び込んできた。
慌てて自分の犬を確認しに行くが、掌からいつもの温かさが無くなっていくのを感じることしかできなかった。