8 新大陸
謎の祭壇に登ると、ぐにゃりと空間が歪む。派手なノイズみたいな感じで、時空を超えるような感覚はちょっとしたホラーだ。
大きく歪んだ視界は少しずつ復元され、明らかに違う祠の祭壇に俺達は立っていた。爆破されてないから直ぐにわかる。
「成功ってことでいいんか?」
「外に出てみよう。それでわかるんじゃないかな」
祠を出ると、見たこともない景色。明らかにルビニアンじゃない半島のような場所にいる。
「やったぜ!転移成功したろ!」
「お城が見えてる!行ってみよ~!」
親切に目的地が見えてて助かる…と思ったのも束の間、直ぐにモンスターとエンカウント。
「くっ…!強ぇなっ!」
「見たことないし、強敵かもっ!」
ルビニアンで出現したモンスターと一味違うのは確かでも、冷静に戦えば倒せなくはない。パーティー結成当時に戻ったかのようで、直ぐ調子に乗るタイガやルーナにはいい刺激だろう。
敵の脅威が増した分、貰える報酬も多い。経験値も積めていい感じだ。
「はい。守銭奴の大好きなお金あげるね」
「誰が守銭奴だ」
持ち運ぶのが辛いのに、好んで布袋貯金する奴がいるわけない。これからの旅を考えると、丈夫な布袋が欲しいと思っていることは内緒にしておこう。
俺が行きたい場所は、常に酒場と…。
「そういえば、銀行は無いのか?」
「銀行ってなんだよ?聞いたこともねぇ」
「金を預かってくれる場所だ」
「僕は知らないなぁ。少なくともルビニアンには無かったはずだよ」
「私も知らな~い」
残念だが存在することを期待しよう。どこかの町にあったような気がしてる。預けさえすれば、アマルの魔法でいつでも引き出しに行けて便利だ。
まだ体力に余裕がある内に目標の街に辿り着いた。立派な城下町。
「ロマーニョへようこそ」
そんな南米のサッカー選手みたいな名前の町があったか?…と思いながらも、まずは門番から情報を仕入れる。
「酒場はどこにある?」
「アンタはそればっかり!他に聞くことないわけ?」
「唯一の楽しみなんだからしょうがない」
冒険のモチベーションの1つになってる。断言できないが、ゲーム内で酒を飲むイベントは無かった気がするから嬉しい誤算だ。
「宿の横にあるぞ。夜しか開いてないけどな」
「あと、武器屋は?」
「この先を右に曲がると看板が出てる」
「ありがとう。行ってみる」
出現するモンスターも強くなってる。装備の新調は必須だ。
「タク、まずは王様に会いに行ってみないか?」
「謁見ってヤツか?簡単にできそうにないが」
「そんな堅苦しいモノじゃないよ。挨拶がてら世間話をするだけで」
…とても一国一城の主に会う感覚じゃなく、親戚のおっさんに会いに行くと勘違いしてるんじゃなかろうか?
現世なら、社長室に「ど~も!」とふざけた態度で入室するような暴挙に思える…が、勇者なら特権階級として認められてる可能性もあるか。
「怒られたり追い出されたら仕方ないさ」
「そんな適当でいいのか」
とは言ったものの、ゲームじゃ他人の家や城に断りなく入っていく。郷に入っては郷に従え。