5 洞窟
次の日も朝からレベル上げ。
戦闘中の連携もとれてきた。この辺りのモンスターが相手なら、4人で戦えるのはかなり楽だ。
「僕も今の戦いで呪文を覚えたよ。『火球』だね」
「やるじゃん!火力が2倍になった!」
ステータスを調べてみると、確かにレベルアップしてる。
「戦ってる最中に、急に降りてきたような不思議な感覚だったよ」
「へ~。そんな感じなんだ~。ところで、タクの呪文はまだ1つよね?」
「ちょっと前に2つ目を覚えた」
アンデッド系に有効な呪文。名前も効果も忘れてたから、天啓のように教えてもらえるのは助かる。
「ズルっ!言いなさいよ!」
「覚えたぞ」
「もう遅いっての!悔しい~!アタシも負けないからね!」
「勝負はしてないけど頑張れ」
世界最高の魔法使いを目指すなら、負けず嫌いなのはいいことだ。
「そういえば、戦士にはなにか特技があるのか?」
「ねぇ!俺の武器は、己の身体だけだぜ!少しずつ強くなってる実感はある!この筋肉を見ろっ!」
ポージングをキメるタイガ。
言われてみれば、少し筋肉がついた…気がしなくもない。造形が細かいとはいえ、ドット絵じゃ判別しづらくて。
「タイガは暑苦しいっ!」
「うるせぇ!熱く生きるのが戦士だ!」
「あははっ。提案なんだけど、今日はちょっと涼しいところに行ってみないか?」
「涼しい場所?」
アマルが指差す。
「遠くに塔が見えるだろう?あの塔に行くには、洞窟を抜ける必要があるらしいって町で聞いた。洞窟は涼しいよ」
「あの塔にはなにかあるのか?」
「わからない。でも、見てたら攻略してみたくならないか」
「冒険はそういうもんだぜ!心の赴くままに進めばいいんだよ!」
「心躍るね!行ってみようよ!」
「とりあえず、武器と防具を揃えてからな」
今の所持金で買える装備を見に行こう。
「俺は、まずタイガの防具を揃えるべきだと思う。鎧と盾か」
「そうだね。1番攻撃を受けるから、優先的に強化しておくべきだ」
「その次に、ルーナの防具がいいんじゃないか。どうしても防御力が低い」
「賛成だぜ!」
「僕もそう思う」
「アタシは最後でいいよ!滅多に攻撃されないし、鎧ってダサいじゃん!」
「ダサかろうと、命を守るタメの防具なんだ。お前が倒れると、一気に戦闘が厳しくなる」
「しょうがないなぁ~!だったらいいよ!」
まだ命中率が低いけど、当たったときは破壊力抜群。
それはそうと、ものは試しでルーナに皮製の鎧を着せてみることに。
「身体に合わないんだけど…」
「ぶはははっ!似合ってんぞ!クッソダセぇ!」
「うっさい!」
「ルーナには大きすぎたか…」
ブカブカで隙間が空きまくりだ。
店主曰く「無理にサイズを調整すると、防御力が失われる」らしい。そうなると意味がない。
「ルーナは鎧を装備できないみたいだね。こっちの服ならいいんじゃないかな?」
アマルが指差した服は、今着てる服より上質で防御力もありそうだ。デザインを気に入ったらしく、ルーナも納得してくれた。
「まだ金には余裕がある。アマルはどうする?」
「僕はいいよ。君が先に選んでくれ」
「いや。お前の武器を買うべきだと思う。攻撃力が上がれば戦闘がかなり楽になる。俺のは後回しでいい」
「そう言ってくれるなら…この剣を買おうかな」
それぞれのステータスを確認すると、全体的に底上げできてる。
元々の装備を売って、その金で薬草を買い込んでおこう。備えあれば憂いなし。
さらに、念のため宿で休憩してから洞窟に向かうことに決めた。タイガとルーナのコンビは直ぐに行きたがったけど、なんとか説き伏せた。
泊まらなくても休憩が可能だと知れたのは大きい。しかも半額で済むから良心的。
体力、魔力共に全快で冒険を再開する。
「タクってさ、冒険者になりたがらなかった割に、パーティーのこと考えてるね」
「やる気ねぇと思ってたぜ」
「組むと決めたら一蓮托生だ。嫌々冒険する奴がパーティーにいたら、誰だって腹が立つだろ」
「そんな奴は燃やしちゃうね!」
「タイガとルーナは、加入するとき即決だったのか?」
「さすがにちょっとは悩んだぜ。けど、勇者の息子に誘われて断る理由がねぇ!最高のパーティーだ!」
「出会ったのは運命だよ!酒場に行ったのがその日じゃなきゃ結成できなかったんだから!」
行動力が単純に凄い。自分を信じる心の強さを持ってる。
「おっ!ここが噂の洞窟か!初めて来るぜ!」
「漏れてる空気がひんやりしてる~」
「よっしゃ!行こうぜ!」
洞窟に入ると、薄暗くて涼しい。松明もないのに、不思議と視界は確保できてる。皆の反応から察するに、普通のことなんだろう。
歩いていると直ぐにエンカウントした。
「見たことないモンスターもいるぜ!」
「油断せずに戦おう」
「いっくよ~!」
外のモンスターより強いけれど、時間をかければ問題なく倒せる。報酬も多く手に入って、今のところいい感じだ。
ただ…。
「お前ら、ちょっと待て」
「なんだよ?」
「どうしたんだい?」
「なによ?」
「金を拾って…なんで俺に渡すんだ?分散して保管する方が安心なのに」
もし1人が落としても被害が4分の1で済むのに、さも当然といった風に全員が手渡してくる。
「金の管理はお前に任せるぜ。俺が持ってると、気になって動くのに邪魔だしよ」
「僕も君が適任だと思う。計算も早いし、貯める計画まで立ててくれる」
「預けるだけだからね!酒に使っちゃダメだよ!」
「そう思うなら、ルーナに頼みたい」
「や~だっ!面倒くさ~い!」
本音が出やがった。
俺だって面倒くさい。この歳になると、金で揉める人間を何人も見てきて、信頼関係なんて直ぐに崩れることを知ってる。
揉め事の火種になるのは勘弁だ。
「ある日突然持ち逃げするかもしれないぞ」
「お前はそんな奴じゃねぇ」
「君はやらないな」
「持ち逃げしたら、捕まえて呪文で燃やすから!」
いろいろ言ってるけど、各人がやりたくない空気を醸し出してる。
「はぁ…。別にいいけど、落としたり失くしても文句言うなよ」
「「「言わない」」」
仕方ない。責任持って預かるとしよう。
慎重に洞窟を進むと、初めて見るモノが目に入った。
「おっ!宝箱だぜ!」
「初めて見るっ!なにが入ってるのかなぁ~!」
駆け出す元気者が2名。
…待てよ。
「ちょっと待てっ!」
「なんだよ?」
「その宝箱……罠ってことはないか…?」
宝箱に擬態した凶悪なモンスターがいたはず。強さが理不尽で、相当ムカついたことだけ覚えてる。
「心配性だな!そんなことねぇって!おりゃ!」
タイガが勢いよく宝箱を開けた。
「なんだ…。金かよ…。しかもショボい…」
「ちょっと拍子抜けだ~。でも嬉しいかも」
ゲームならまだ序盤。出てくるには早いか。
隣のアマルが微笑む。
「タクは本当に慎重だよね」
「油断は命取りになりかねない。防げる危険要素は、できる限り排除したい」
「やっぱり君を誘ってよかった。僕らは勢いで突き進みそうになる」
「こう見えて、高揚する気持ちもわかるし、邪魔はしたくないんだぞ」
「だよね。目の前に宝箱があったら誰だって開けるよ」
縮こまらずに、のびのび冒険してもらいたい。
おっさんが失ってしまった活気と勢いは、見ているだけで楽しい。向こう見ずで、目標に向かって突き進むような若さはいい。
元気を分けてもらってる気がする。
「おい、タク。金だぜ。好きだろ」
「守銭奴と書いて、タクと読む!」
「ふざけんな。地味に重いんだぞ」
「だっはっは!もっと鍛えろよ!」
その後も順調に洞窟を攻略する。道中をくまなく探索して、ルーナに買った服と同じモノを宝箱から入手できた。
おかげで、俺のボロい服も新調。アマルが防御力を心配して譲ってくれた形。
「お揃いは嫌だ!」と騒ぐルーナに、「俺だって嫌だ」と言ったら激怒された。金を貯めて先に鎧を買わなきゃならない。
洞窟を抜けると、塔が眼前にそびえる。
「立派な塔だぜ。攻略しがいがありそうだ」
「もちろん中に入るでしょ~!」
「タクはどう思う?」
「そうだな…」
ステータスを確認すると、体力的には全員問題なさそう。MPも節約できてるし、回復アイテムにもまだ余裕はある。
「どんなモンスターがいるかわからない。通用しそうなら進むけど、無理だと判断したら直ぐに退くのはどうだ?」
「弱気すぎねぇか?俺らならイケるだろ」
「帰路を考えてる。行きだけの一方通行なら突き進んでいいけど、帰り道でヘロヘロじゃマズい」
「そう言われりゃそうか…。よっしゃ!それで行こうぜ!ダメならまた来りゃいい!」
「町に帰るまでが冒険!今回はタクの案を採用ってことで!」
「じゃあ決まりだね」
つまらない提案だろうに、素直に耳を傾けてくれる。さっぱりした性格の仲間達。
俺は、この塔にどんなモンスターが出現して、なにがあるのか覚えてない。
ただ、薄らと塔には強敵が出現するイメージがあるんだ。
用心しながら進もう。