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4 パーティーメンバー

 酒場の2階で冒険者として登録することになった俺達は、揃ってリリーの説明を聞く。


「登録簿に名前と職業を記入してね。職業はこの中から選ぶのよ。ちなみに、一度決めたら取り消せないからよく考えて」


 戦士、武闘家、僧侶に魔法使い。商人と…遊び人か。


「後戻りはできないんだな」

「っていうか、アンタ酒臭すぎるんですけど!!」


 まさかの第一声。


 初めての会話で叱られるとは思わなかった。


「すまん。悪気はないんだ。俺はタク。君は?」

「アタシはルーナ!世界最高の魔法使いになる女よ!」

「そうなのか。職業も決まってて楽だな」

「まぁね!」


 ルーナは活発な性格っぽい。あと、歯に衣着せない物言いをする雰囲気。


「そっちの彼は?」

「俺はタイガだ!気を使わなくていいぜ!戦士の家系に生まれて、今日から冒険者になろうと思って来た!」

「ということは戦士で登録だよな?」

「そりゃそうだろ!」


 タイガは豪快な性格で戦士向きっぽい。ガッチリした体格だしな。


 戦士と魔法使い…それに勇者か。


 2人が登録簿に署名して、アマルがあとに続く。


 職業欄には書く前に『勇者』って浮き上がったけれど、気に留める様子もない。自覚しているんだろう。


 日本語が通用するのは、勝手に俺の脳内で変換されてるのか?それとも、日本のゲームだから日本語なのか?


 …ずっと日本語で喋ってるし、今さらか。


「晴れて戦士になったぜ~!」

「これからの冒険が楽しみ~!」

「タクはどの職業を選ぶんだい?」

「なりたい職業はないけど、コレでいこうと思う」


 署名して、職業欄には『僧侶』と書く。


「僧侶でいいのかい?」

「パーティーのバランスを考えたらこうなる。回復役は必須だから」

「そんな理由で選んでいいのかよ」

「なりたいわけじゃないんでしょ?」

「後悔はしない。俺の性格ではベストな選択だと思う」


 敵をなぎ倒すより、人のフォローをする方が性に合ってる。現世の仕事でもそんな感じだった。


「皆、これからよろしく」

「よろしく頼むぜ!」

「足、引っ張らないでよ!」


 どうなることやら。


「タク!アンタは、しばらくお酒飲むの禁止ね!」

「なぜだ?!いきなり横暴だぞ?!」

「酔っぱらって、ちゃんと戦えるの?迷惑かけられる未来しか見えないんだけど」

「今日は無理でも、明日は大丈夫だ。俺は酒が次の日に残ったことがない」


 肝臓の強さは数少ない自慢。

 

「へぇ~。ホントかなぁ?」

「任せとけ」

「じゃあ、僕らがパーティーを結成した記念すべき日に乾杯しないか」

「賛成だぜ!たらふく飲むぞ!」


 冒険の前に、この若者達がどこまで飲めるか見極めるとするか。今後は晩酌に付き合ってもらうかもしれない。



 ★



 翌朝。


 宿屋にて。


「だから言ったじゃん!バァ~カ!」

「ルーナ…。静かにしてくれ…。頭に響く…」


 初めて二日酔いに襲われた。頭がガンガンする。


「私より飲んでなかったのにね!酒臭い奴は、大抵お酒弱いって決まってるんだから!」

「そんな見分け方があるのか…」

「がははっ!俺達の中で1番弱いのはタクで決まりだぜ!懲りたら飲み過ぎんなよ!」

「大丈夫かい?水汲んでくるよ?」

「すまない…」


 おっさんの威厳を見せつけるつもりが、逆に介抱されるとは…。


 この世界の酒は、飲みやすいのにアルコールが強いか、若しくは俺の身体が酒に弱くなってる。そのどちらかだ。


「二日酔いが辛すぎて…。もう二度と酒は飲まない…」と言ってた同僚の言葉が今になって身に沁みる。


 身体は辛い…が。


「…よし。行くか」

「無理しなくていいんだ。回復するまで…」

「大丈夫だ。完全な自業自得で、いい経験になった。動けないわけでもない。しばらくすれば回復する」

「そうだよ!自爆なんだから!」


 後輩が、「身体を動かさないと二日酔いは治らないんですよ」と言ってた。実践してみるとしよう。


「アマル。旅に出るのはいいけど、当面の目標は?」

「そうだね…。まずは装備を整えたいかな。こん棒で戦えるのは、この周辺だけだと思ってる」

「俺もまず装備が欲しいぜ!戦士といえば、剣と盾ってな!みすぼらしい装備じゃ戦えねぇよ!」

「アタシも杖が欲しい!」

「そうなると、まずは金を稼ぐことが最優先だ。最高の装備を整えよう」


 集団で動くときは、目的とそれぞれの意志を確認してから意識を統一する。向かう方向がバラバラじゃゴールに辿り着けない。



 町を出て、4人で初めての戦闘を終える。


 動くと気持ち悪くても、気をしっかり持てばイケるもんだな。


「二日酔いなのに、タクは動けるてるなぁ」

「僧侶なのに、こん棒が馴染んで見えるぜ!」

「昨日、ちょっとだけ戦って扱いに慣れてる。レベルも上がった」

「ズル~い!1人で先に行くなんて!」

「宿に泊まる金も無かったんだから仕方ないだろ。それより、この陣形はなんとかならないか?」


 パーティーで移動するとき、縦一列で蛇みたいに移動している。


「なにかおかしいかな?」

「縦だと会話しづらいのは俺だけなのか」


 俺は3番手に位置してるけど、動きにくくて仕方ない。


「前にいる奴がモンスターの攻撃を受けやすいんだぜ。だから、戦士の俺が先頭に立ってんだ。常識だろ?」

「僧侶や魔法使いは、防御力が低い職業だからね。後ろに控えてもらうのがいいと思うんだ」

「そうよ!前衛が頑張るから、安心して私達は呪文を使えるの!」

「言ってることはわかるし、ずっと縦に並んでるなら納得できる。けど、戦闘になると横一列になるだろ。意味あるのか?」


 3人は揃って首を傾げた。困惑した顔してる。


「…いや。その通りだ。変なこと言って悪かった」

「だよね~!タクは細かいことを気にしすぎ!」

 

 正論であっても、この世界の常識を崩すようなことを言っては混乱させてしまうだけ。必要最低限で、あまりにおかしいと感じた時だけ指摘しよう。



 戦闘をこなしていると、身体の調子も回復してすっかり元通り。


 夕方の概念が無い分だけ時間の経過が現世より早いから、回復も早いと予想してた。


 ステータスを確認すると、皆のHPがかなり減ってる。ここが出番だ。


回復(リカバー)


 コマンドを使って呪文を唱える。


「全回復したぜ!」

「私も!やるじゃん!」


 ちゃんと回復できたけど…ふと疑問が浮かんだ。


「皆に訊きたい。もし…冒険で死んでも生き返れるのか?」


 重要なことだから確認しておきたい。ゲームなら教会で金を払えば生き返れたはず。


「…ぷっ!なに言ってんの?!無理に決まってるじゃん!」

「ルーナの言う通りで、さすがに死んだら生き返れないぜ。ゾンビになっちまう」

「教会で祈ってもダメか?」

「あのさぁ~、祈って人が生き返るなら、死ぬ人なんていないでしょ。すっとぼけてる~」

「教会でできるのは、解毒とか呪いを解くくらいなんだ。神や精霊の力でも蘇生は無理だよ」

「勉強になった」


 ゲームとの相違点を発見したけれど、喜べることじゃないな。


 戦闘は、かなりシビアに考える必要がある。


 ゲームと同様なら全滅してもやり直しがきく。けれど、生き返れないなら慎重に冒険しなくちゃならない。


 回復役の僧侶は、かなり責任が重い職業ってことだ。


 …やり甲斐があるな。


「父さんから聞いたんだけど、世界のどこかに人を蘇生させるアイテムも存在するらしい。でも、かなりレアだろうね」


 あったな。確か、イルミ……なんとか。


「あれぇ~?難しい顔して、ビビってんの~?」

「正直ビビってるから、今後は酒の量も減らす」

「それはいい心掛けだね!」

「がははっ!命は預けたぜ、酔っ払い大僧侶殿!」

「君は真面目だなぁ。頼れる男だ」

「いざとなったら俺だけ生き残るつもりだ」

「最悪の僧侶がいる!追放しよう!」


 コイツらと話してると、新入社員だった頃を思い出す。


 性格も年齢も違う同期が集まって、酒を飲みながら上司の口を言ったり、夢を語って騒いでた時代を。


「話はこれくらいにして、まだMPにも余裕はあるから頑張って稼ぐか。ところで、ルーナはなんで呪文を唱えないんだ?」

「へ…?なに言ってんの?まだ覚えてないけど」

「『火球(ボウ)』を詠唱できるはずだ」

「なんでわかるの?」

「なんでって…」


 ルーナのステータス表に、使える呪文として表示されてる。だから間違いない。


「ちょっと待て…。呪文ってどうやって覚えるんだ?」

「知らないの?経験を積んだら、感覚でわかるんだよ」

「『あっ。覚えた』って?」

「そんな感じじゃない?知らんけど」

「とにかく使えるんだよ。多分、魔法使いになったときに授かったんだ」

「ホントに~?」

「次は唱えてみてくれ」

「しょうがない!騙されたと思ってやってみよう!」

「騙してないけどな」


 次の戦闘で、ルーナは呪文を唱えた。


 火球は見事に明後日の方向に飛んでいったけど。


「ホントに使えた!びっくり!」

「威力はありそうだったね。当たっていれば」

「がははっ!かすりもしねぇな!命中率上げろよ!ノーコン魔法使い!」

「うっさいな!初めてなんだからしょうがない!あと何発打てるのか試してみたい!」


 ルーナのMPが尽きるまで経験値と金を稼いで、宿に泊まることになった。


 4人まとめて1部屋で寝る。


「今日はお疲れさま。明日も朝から頑張ろう。」

「よっしゃ!寝るぜ!」

「明日は火球を命中させてやるぞ~!」


 さてと…。


「皆は先に寝ててくれ」

「どこに行くんだい?」

「酒場で飲んでくる」

「1杯でやめなよ!」

「心配するなって。金を使い込むつもりはない」

 

 1人でモンスターを倒して金も稼いできた。酒が安価で助かる。


 寝る前の1杯で睡眠の導入がスムーズになるから、パーティーにとっても悪いことじゃない。ゲームの世界に来たストレスも緩和できる。


 …なんて、最もらしい理由は完全に詭弁で、単にパーティーで1番酒が弱いのが自分だということが納得いかない。


 早くこの世界の酒に慣れて、汚名返上しないと気が済まない。

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