永遠
うん、いい思い出ですね。今だから書ける話。
5月になると、僕は憂鬱な気分になる。憂鬱?世の中には、憂鬱な人はたくさんいる。何も僕だけではない。鳥が空を飛んでいった.....それを見て、憂鬱になる人だっているだろう。
別れ。これはいけない。ことに永遠の別れは人をどうしようもない気持ちにさせる。僕も君もこの永遠の世界に住んでいる。それを咎める人もいない。
前の世界はきっともっと壊れやすい世界だったのだろう。でも、今は違う。この話は少し脱線してしまったようだ。そう。僕の憂鬱。その理由。
理由は別れたとある人を思い出すからだ。その人は5月27日に死んだ。その人と僕は会ったり話をしたことがない。
けれどとある縁があってちょっと前に僕はその人の夢をよく見ていた。夢には色々不思議なことがある。別れた人とまた出会ったり、海の色さえ変わることがある。
その人は儚げに笑って、よく僕をK君またなのね、何て言う。
K君はダース・ベイダーのような所があるのね、と言われ落ち込んだことを思い出す。確かに僕は怒ると恐いと言うけれど、ダース・ベイダーのような奴と言われたら心外だ。
ことにも僕の好きなSさんに言われたら心外だ。
Sさんには夢で見かけた僕が声を掛けた。永年の憧れだった人だ。Sさんは昔歌を歌っていた。そうして僕はそのことに全然気づかなかった。何しろ僕はまだ十歳になる前。
美しい女の人のことなんてまるで興味がなかった。僕の関心のあったのはサッカーと漫画、それに美味しいご飯だった。
だから二十代になってSさんの歌を聞いて、関心を持つ頃にはSさんはお亡くなりになっていた。
それがひどく悲しかった。僕の初恋は小学生の頃だけれど、Sさんは僕が初めて好きになった大人の女の人だ。
どこか儚げに笑って、でも笑った顔も可愛くてメディアえの露出は極端に少なかった。
でもだから好きだった......
そうしてSさんはどこかミステリアスに見え、世界の僕が知らないような秘密を知っているように見えた。
僕はSさんを見つけてすぐに恋をした。その人は僕のことをよく子供扱いする。
その人は恋愛経験が少ないらしく、浮気とかはあんまりしたことがないらしい。
僕はよく浮気をしていた。するとその人は怒って、僕とよく大喧嘩をしたものだ.....
「Kくんは、詩が好きなのね」とある時Sさんに言われた。
「だったらわたしの為に詩を書いてよ」
そう僕は言われ書いたのが、あの「ブルーの瞳」だ。
最初は青の瞳だった。
Sさんはそれを読んで、Kくんの詩は下手ね、何て言ってた。その後は少し喧嘩になった。
Sさんとの喧嘩は多い。最後はいつも僕が謝って解決する。
ご飯のことでも喧嘩になったことがある。
ある時、Sさんに麻婆豆腐を作ってもらった。
僕は「あんまり美味しくない」と言った。そうするとSさんは烈火のごとく怒った。
僕は少し怖くなって、謝った。それでもSさんの怒りは収まらない。
それでなだめるのが大変だった。
Sさんは最高の美女だ。原節子も敵わないと言った。それでもSさんの機嫌は直らない。
それで、Sさんの為に僕は料理をした。僕の得意なお雑煮を作った。
Sさんは少し機嫌がなおったけれど、料理のことでまた喧嘩になった。僕は家を飛び出してしまった。これは僕の失敗だけれど、Sさんとは色々あった。Sさんに殺されそうになったこともある。僕は『本当に僕のこと好きだったの?』と聞いた。Sさんはうん、好きだったよ、と言ってくれた。その時は夜遅くてもう僕は寝る前だった。Sさんは僕を殺しきれなくてそのままうやむやになった。
ひまわり。ひまわりはSさんが好きだった花だ。理由は言ってくれなかった。
僕はSさんが好きだった。Sさんも僕を好いてくれたことがあるけれど、Sさんと僕は別れてしまった....
それがひどく悲しかった。その頃の僕は少しおかしくて、Sさんと付き合った経験のある男が皆許せなかった。
でも今は前より歳を取ったので、色々なことを許せるようになった。
今年の5月。僕はやはり憂鬱だった。Sさんとは二度と会えないだろう。それを思うと辛かった。時はあらゆるものを癒すと言う。けれど僕はまだ若かったのでこの傷は直らないとすこしニヒルになっていた。
僕は青空が好きだったので時々見る。そうしてSさんのことを考える。人間はどうしてこうも思い悩むのか。時々そんなことを考える。
僕はSさん以外に何もいらないと思い詰めたこともある。けれど今はもう吹っ切れてしまった。
曰く、人間の欲望には限りがなきと言われている。そんな悟りみたいなことは僕にはまだ分からないけれど、知識は欲しいので僕は色々本を読む。
Sさんの命日である27日が近づいてきた。僕は少しお参りに行く気になっていた。
あの最後の別れからも大分立つ。『もうけじめをつけるべきかな』
とうとう27日の日、僕は神奈川某所にあると言うその人のお墓に行った。
電車に乗り最寄りの駅までの道は遠かった。折からの雨で、窓ガラスにはいくつもいくつも水滴がついていた。まるで透明な血管みたいだ。
やがて最寄りの駅で降りる。
命日なので人がたくさん居るかと思ったら、献花はいくつかしてあるが、人は居なかった。「永遠」と刻まれてある。花は仏花らしく白い菊や赤や青やオレンジの大小色々な花だった。
そこでしばらく線香を立てて目をつむる。花は持ってこなかった。なぜか彼女はこんなところには居ないと思ってのことだった。
「あのう」
そう声がする。声の主は背の低い中学生くらいの女の子だ。
「何でしょう?」
自分の方が年上と分かっても居丈高な態度を取らず丁寧に言う。
「Sさんのこと好きだったんでしょうか?突然話しかけて申し訳ありませんね」
「それはそれは大好きでした。あの歌もあの表情も性格も。天真爛漫な美少女でしたからね」
「私もです。最近負けないでを聴いてファンになって.....」
「そうですか。僕もたまに聴きます。でも彼女はきっと.....」
「きっと、何でしょう?」
「きっとまだどこかで歌っている気がするんですよ。僕の印象では。僕もよく彼女の夢を見ました。憧れすぎるせいですかね、夢で何度も話しました。あくまで夢の中でですが」
「そうですか、それで今も...好きなんですね」
「いえ、もう今は、だってもう彼女はいないのですから、曲は相変わらず聴きますが、あなたも永遠を聴いたことありますか?とても美しい歌ですよ。ぜひ聴いてくださいね。では僕はこの辺で」
そう言い僕は、その場を離れた。
『まだ一緒だから』
そう心で声がした。
なんだろう、今の声は.....
いや、何でもない、空耳だろう。
この先僕はどうなるか、まずは詩でデビューしなくちゃな。その後は小説を書いて....
そう考えながら、僕は夕暮れの街をうろついた。駅で降りると何か食べたい。しかし僕は我慢して買い物に行く。『家で何か作ろう』
そう思って僕は夕暮れの街で、今夜の夕飯のことを考えながら歩きだした....
またなにかしら書きますね