殺しはしない
過去作を推敲したら、とてもスッキリしました(気分が)
☆
殺しはしない。痛めつけるだけだ。
本社からやってきたあの男を私は許さない。
平凡な人生を送ってきた私が、定年退職を目前にしてこんな大胆な計画を立てているとは、妻も子供も、誰も思わないだろう。
たとえ傷害でも、この歳で刑務所に入るのは御免だ。よくよく考えて思いついたのは、絶対に足がつかない方法だ。まずは手足の自由を奪い、心臓にガツンと一撃を加える。
やってやる。今夜決行だ。
何と・・・死んでしまった。たいへんなことになった。
こんなにかんたんに死ぬとは思ってもいなかったんだ。どうすればいい。
正直に言うべきか。それともかくし通すか。
・・・やむをえない。こうなってしまった以上、正直に話すしかない。
☆
「そこのあなた。こんな夜遅くにどうしたんですか」突然現れた警察官に、私は
「いえ、何も・・・」と口ごもるしかなかった。
なんと運が悪いのだ。まさかここで巡査と出会ってしまうとは。
隠そうとあわてるほど警官はますます不審がり、とうとう私の背後にあるものを見つけてしまった。
「あらあ、ダメだよ。こんなところに釘なんか打っちゃあ。公共物なんだからさあ。
あんた、いい歳して何やってるの」
「はあ、すみません」
「これって、わら人形でしょう。人を呪うやつ。今どき公園でこんな事をしている人がいるなんてびっくりですよ」
「本当に、すみませんでした」
「馬鹿なことやってないで、早く帰りなさい」
「は、はい・・・」
ママには正直に話すしかない。
「ごめんんさい。クワガタ死んじゃった」ぼくは上目使いにママを見て、おずおずと
「こんなにかんたんに死ぬとは思ってもいなかったんだ」と言い訳をした。
「もう、可哀想に!ちゃんと世話しないからでしょう。夏休みの観察日記に何て書くの」
「本当に、ごめんなさい。日曜日にまたいっしょに見つけに行ってくれる?」
「次はちゃんと世話するのよ」
「はい」
☆
「それで、死んじゃったみたいなのよ」妻の言葉に私は声を荒らげ、
「なんだって!いったい誰が!」と叫んでしまった。
「どうしたのよ。大きな声を出さないで」
「ま、まさかあいつじゃ・・・」
「何を訳のわからないことを言っているの。あの子が飼っているクワガタの話よ」
「クワガタ?」
「そうよ。だから日曜日はお願いね」