表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

二人をつなぐ音色

ども。ハツラツです。

ごアクセスいただき、誠にありがとうございます。

一人寂しい夜は、夢の中でもいいから、愛しい人に会いたくなるものですよね。

そんなお話です。

 町娘のルナには、ソラリオという婚約者がいました。

 二人は仲睦まじく、とても愛し合っていました。ですから、いつまでも一緒にいたい気持ちでいましたが、そうはいきません。

 ソラリオのお仕事は国の騎士。王様の命令とあれば、山も谷も飛び越えて駆け付けなければならないのです。


「また行ってしまうのね、ソラリオ」


「ルナ。しばらく待っていてくれ。帰ってきたら話したいことがあるんだ」


 彼は優しく諭します。ですが、今日のルナは納得できませんでした。


「離れたくないわ。私、心配で心配で……」


 今回は三日三晩どころの話ではなくて、ふた月ほど離れる必要があったのです。


「そんなこと言わないでくれ」


 困り顔のソラリオ。もちろん、ルナもそんなこと言っても仕方がないことはわかっていました。


「ごめんなさい」


「いいんだ。それなら、君にこれを預けておくよ」


 彼がルナに握らせたものは、親指ほどの大きさの、ひも付きの小さな鈴でした。


「これは?」


「僕に会いたくなったら、その鈴を鳴らして眠りにつくんだ。そうすれば、夢の中で会えるからね」


「本当?」


 ソラリオは深くうなずきます。


「ああ。ただし、新月の夜だけは鳴らしてはいけないよ」


「わかったわ」


「それじゃ、行ってくるよ」


 ソラリオは彼女の手を取ると、そっと口づけをして踵を返しました。


「行ってらっしゃい」


 それでも心配なルナは、その背中が見えなくなるまで見送りました。


 それから、その晩と次の晩は寂しかったですが、まだ会えなくてもへっちゃらでした。ですが、三日目の晩、ルナはどうしても会いたくなってしまいました。


「ダメだわ、今日は新月じゃない」


 空にお月様は見えません。

 とても寂しかったですが、言いつけを守ってぐっと我慢します。


 次の晩。


「今日なら、鳴らしてもいいかしら」


 ベッドで横になりながら、鈴を鳴らしてみます。

 リンリンと、小さな音ですが、何とも耳ざわりの良い音です。


「あら、キレイな、音色……」


 その音を聞いて、ルナは眠りについてしまいました。


 夢の中、豪華絢爛な部屋にルナは立っていました。

 初めて見る景色に感動していると、


「ルナ! 会いに来てくれたんだね」


 後ろから声がして、振り返れば、そこに立っていたのは愛しい人そのものでした。


「ソラリオ! 本物なの?」


「ああ、本物といえば本物だよ」


 スパっと言い切る割に、何とも歯切れの悪い言い方です。


「どっちなの?」


「はは。どっちだろうね」


「もう!」


 抱きしめると、懐かしい彼の匂いがしました。やっぱり、本物のような気がします。


「僕に会いに来てくれたということは、何か言いたいことがあったのかな?」


「ええ。あなたがいない間にね……」


 ルナは、それまでにあったことをいろいろ話しました。

 町の子供たちの話や、育てていた花が咲いたこと、新しくできたパン屋がおいしかったこと。どれも他愛のない、ですがかけがえのない話です。


「今日は話を聞いてくれてありがとう」


「こちらこそ。会えてよかった!」


 充実した時間を過ごして、ルナは夢を後にしました。


 それから二週間後の満月の晩にも、ルナは会いに行きました。

 やはり、ソラリオとの時間はとても幸せで、充実したものでした。


「夜だけじゃなくて、お昼にも会えたりしないのかしら?」


 そう思って、お昼に鳴らしてみましたが、美しい音色は鳴れど、眠りにつくことはありませんでした。

 どうやら、本当に夜にしか会えないようです。


 それから二週間が経ち、どうしても会いたくなりましたが、ここ数日は曇っていて、お月様の様子がわかりませんでした。


「どうしましょう。これでは鳴らしていいのかわかりませんわ」


 でも、今日は少し嫌なことがあったので、どうしても会いたくなっていました。


「えい!」


 新月ではないことを祈って、鈴を鳴らします。

 ですが、いつものような音は鳴りませんでした。


「どう、して……」


 不思議に思いながらも、眠りに落ちてしまいました。


 ルナが目を覚ますと、そこはいつもの絢爛な部屋ではなく、暗くて、静かな森の中でした。


「どこなの、ここ……」


 あたりを見渡しますが、明かりもなく、虫や鳥の声すらしない、なんとも不気味な森ということしかわかりませんでした。


「そ、ソラリオ! どこなの、ソラリオ!」


 大きな声で呼びかけますが、今日はどこにもいません。


「どうしましょう。今日は新月だったんだわ」


「その通り」


 ルナの呼びかけに現れたのは、愛しの彼ではなく、数頭の真っ黒なオオカミでした。


「我らは鈴に封印された一族」


「憎きあの男の大事なものを奪ってやる」


 あっという間に、オオカミに囲まれてしまいました。

 オオカミの体はルナよりもずっと大きく、すぐに逃げられそうもありません。


「これは悪い夢だわ!」


「そう、これは悪夢」


「悪夢で食べられてしまえば、もう二度と覚めない」


「覚めなければ、愛しい男にも会えない」


 それはとても恐ろしいことでした。


「ソラリオ……助けて!」


 鈴を強く握りしめて祈りました。

 すると、


「ルナ!」


 ずっと聞きたかった声がしました。


「ソラリオ!」


 突如隣に現れたソラリオを抱きしめます。


「本物なのよね?」


「ああ。本物さ」


 ソラリオが優しく引きはがすと、腰に携えた大きな剣を抜き取って、オオカミの方へ向けました。


「すまないが、帰らさせてもらうよ」


「ふん! やれるものならやってみろ!」


「その鈴ごとかみ砕いて、ここから逃げ出してやる!」


 オオカミたちは、負けじと唸ります。


「それなら、僕も容赦はしない」


 ソラリオは剣を振りまわすと、軽々とオオカミたちを吹き飛ばしてしまいました。


「さ、行くよ!」


「ええ!」


 ソラリオに手を引かれ、ルナも一生懸命に走ります。


「さぁ、夢の出口だ」


 森の中にできた裂け目の中に、二人で飛び込むと、まばゆい光に包まれました。


 ルナが目を開けると、まだ夜は明けていませんでした。

 ですが、寝る前と違っていたのは、ソラリオが手を握ってくれていたのです。


「ありがとう、ソラリオ」


「僕もつい、心配で帰ってきちゃったんだ」


「言いつけを破ってごめんなさい」


 謝るルナに、ソラリオは首を横に振りました。


「いいんだ。寂しい思いをさせたのは僕の方だし、危険なものを渡してしまった」


 そう言って、ソラリオは鈴を真っ二つに切り捨てました。


「いいの?」


「いいんだ。だって、僕らにはもう必要のないものだから」


 ソラリオはルナの手を取ってこう言いました。


「結婚しよう、ルナ」


「ええ、喜んで!」


 それから二人は末永く幸せに暮らしました。

 ソラリオは町とルナのための騎士となり、ルナはソラリオを支え続けたのです。


最後までお読みいただきありがとうございました。


鈴に封印されていたのは、なんと夢を食らう魔物でした。

寂しくないようにと、人の夢に繋がる能力を利用したソラリオでしたが、あまりに傍を離れすぎましたね。

彼にも彼女にも、悪意はなかったことだけはご理解ください。

二人とも、ただ会いたかっただけなのです。

ソラリオにとって、本当に大切なのは何なのか考えた時、一番守りたいものを守るためにしたのが結末での選択でした。


私も、覚悟が決まらなくて失敗したこと腐るほどありますが、常に大事なものは何なのか考えていきたいものです。


よろしければ、他の作品も読んでいってくださいな。

では、また。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 怖い結果にならなくて良かった! 結婚おめでとう^_^
2024/01/21 08:04 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ