二人をつなぐ音色
ども。ハツラツです。
ごアクセスいただき、誠にありがとうございます。
一人寂しい夜は、夢の中でもいいから、愛しい人に会いたくなるものですよね。
そんなお話です。
町娘のルナには、ソラリオという婚約者がいました。
二人は仲睦まじく、とても愛し合っていました。ですから、いつまでも一緒にいたい気持ちでいましたが、そうはいきません。
ソラリオのお仕事は国の騎士。王様の命令とあれば、山も谷も飛び越えて駆け付けなければならないのです。
「また行ってしまうのね、ソラリオ」
「ルナ。しばらく待っていてくれ。帰ってきたら話したいことがあるんだ」
彼は優しく諭します。ですが、今日のルナは納得できませんでした。
「離れたくないわ。私、心配で心配で……」
今回は三日三晩どころの話ではなくて、ふた月ほど離れる必要があったのです。
「そんなこと言わないでくれ」
困り顔のソラリオ。もちろん、ルナもそんなこと言っても仕方がないことはわかっていました。
「ごめんなさい」
「いいんだ。それなら、君にこれを預けておくよ」
彼がルナに握らせたものは、親指ほどの大きさの、ひも付きの小さな鈴でした。
「これは?」
「僕に会いたくなったら、その鈴を鳴らして眠りにつくんだ。そうすれば、夢の中で会えるからね」
「本当?」
ソラリオは深くうなずきます。
「ああ。ただし、新月の夜だけは鳴らしてはいけないよ」
「わかったわ」
「それじゃ、行ってくるよ」
ソラリオは彼女の手を取ると、そっと口づけをして踵を返しました。
「行ってらっしゃい」
それでも心配なルナは、その背中が見えなくなるまで見送りました。
それから、その晩と次の晩は寂しかったですが、まだ会えなくてもへっちゃらでした。ですが、三日目の晩、ルナはどうしても会いたくなってしまいました。
「ダメだわ、今日は新月じゃない」
空にお月様は見えません。
とても寂しかったですが、言いつけを守ってぐっと我慢します。
次の晩。
「今日なら、鳴らしてもいいかしら」
ベッドで横になりながら、鈴を鳴らしてみます。
リンリンと、小さな音ですが、何とも耳ざわりの良い音です。
「あら、キレイな、音色……」
その音を聞いて、ルナは眠りについてしまいました。
夢の中、豪華絢爛な部屋にルナは立っていました。
初めて見る景色に感動していると、
「ルナ! 会いに来てくれたんだね」
後ろから声がして、振り返れば、そこに立っていたのは愛しい人そのものでした。
「ソラリオ! 本物なの?」
「ああ、本物といえば本物だよ」
スパっと言い切る割に、何とも歯切れの悪い言い方です。
「どっちなの?」
「はは。どっちだろうね」
「もう!」
抱きしめると、懐かしい彼の匂いがしました。やっぱり、本物のような気がします。
「僕に会いに来てくれたということは、何か言いたいことがあったのかな?」
「ええ。あなたがいない間にね……」
ルナは、それまでにあったことをいろいろ話しました。
町の子供たちの話や、育てていた花が咲いたこと、新しくできたパン屋がおいしかったこと。どれも他愛のない、ですがかけがえのない話です。
「今日は話を聞いてくれてありがとう」
「こちらこそ。会えてよかった!」
充実した時間を過ごして、ルナは夢を後にしました。
それから二週間後の満月の晩にも、ルナは会いに行きました。
やはり、ソラリオとの時間はとても幸せで、充実したものでした。
「夜だけじゃなくて、お昼にも会えたりしないのかしら?」
そう思って、お昼に鳴らしてみましたが、美しい音色は鳴れど、眠りにつくことはありませんでした。
どうやら、本当に夜にしか会えないようです。
それから二週間が経ち、どうしても会いたくなりましたが、ここ数日は曇っていて、お月様の様子がわかりませんでした。
「どうしましょう。これでは鳴らしていいのかわかりませんわ」
でも、今日は少し嫌なことがあったので、どうしても会いたくなっていました。
「えい!」
新月ではないことを祈って、鈴を鳴らします。
ですが、いつものような音は鳴りませんでした。
「どう、して……」
不思議に思いながらも、眠りに落ちてしまいました。
ルナが目を覚ますと、そこはいつもの絢爛な部屋ではなく、暗くて、静かな森の中でした。
「どこなの、ここ……」
あたりを見渡しますが、明かりもなく、虫や鳥の声すらしない、なんとも不気味な森ということしかわかりませんでした。
「そ、ソラリオ! どこなの、ソラリオ!」
大きな声で呼びかけますが、今日はどこにもいません。
「どうしましょう。今日は新月だったんだわ」
「その通り」
ルナの呼びかけに現れたのは、愛しの彼ではなく、数頭の真っ黒なオオカミでした。
「我らは鈴に封印された一族」
「憎きあの男の大事なものを奪ってやる」
あっという間に、オオカミに囲まれてしまいました。
オオカミの体はルナよりもずっと大きく、すぐに逃げられそうもありません。
「これは悪い夢だわ!」
「そう、これは悪夢」
「悪夢で食べられてしまえば、もう二度と覚めない」
「覚めなければ、愛しい男にも会えない」
それはとても恐ろしいことでした。
「ソラリオ……助けて!」
鈴を強く握りしめて祈りました。
すると、
「ルナ!」
ずっと聞きたかった声がしました。
「ソラリオ!」
突如隣に現れたソラリオを抱きしめます。
「本物なのよね?」
「ああ。本物さ」
ソラリオが優しく引きはがすと、腰に携えた大きな剣を抜き取って、オオカミの方へ向けました。
「すまないが、帰らさせてもらうよ」
「ふん! やれるものならやってみろ!」
「その鈴ごとかみ砕いて、ここから逃げ出してやる!」
オオカミたちは、負けじと唸ります。
「それなら、僕も容赦はしない」
ソラリオは剣を振りまわすと、軽々とオオカミたちを吹き飛ばしてしまいました。
「さ、行くよ!」
「ええ!」
ソラリオに手を引かれ、ルナも一生懸命に走ります。
「さぁ、夢の出口だ」
森の中にできた裂け目の中に、二人で飛び込むと、まばゆい光に包まれました。
ルナが目を開けると、まだ夜は明けていませんでした。
ですが、寝る前と違っていたのは、ソラリオが手を握ってくれていたのです。
「ありがとう、ソラリオ」
「僕もつい、心配で帰ってきちゃったんだ」
「言いつけを破ってごめんなさい」
謝るルナに、ソラリオは首を横に振りました。
「いいんだ。寂しい思いをさせたのは僕の方だし、危険なものを渡してしまった」
そう言って、ソラリオは鈴を真っ二つに切り捨てました。
「いいの?」
「いいんだ。だって、僕らにはもう必要のないものだから」
ソラリオはルナの手を取ってこう言いました。
「結婚しよう、ルナ」
「ええ、喜んで!」
それから二人は末永く幸せに暮らしました。
ソラリオは町とルナのための騎士となり、ルナはソラリオを支え続けたのです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
鈴に封印されていたのは、なんと夢を食らう魔物でした。
寂しくないようにと、人の夢に繋がる能力を利用したソラリオでしたが、あまりに傍を離れすぎましたね。
彼にも彼女にも、悪意はなかったことだけはご理解ください。
二人とも、ただ会いたかっただけなのです。
ソラリオにとって、本当に大切なのは何なのか考えた時、一番守りたいものを守るためにしたのが結末での選択でした。
私も、覚悟が決まらなくて失敗したこと腐るほどありますが、常に大事なものは何なのか考えていきたいものです。
よろしければ、他の作品も読んでいってくださいな。
では、また。