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二百年前の恋文

彼の手元を見て、あ、と思った。それが口に出ていたようで、彼は本をめくる手を止めて僕を見る。なに、と聞かれてなんでもないよと笑って誤魔化した。


彼はふうんとだけ言って、(納得はいっていないだろうが追及もしない性格であるので)読書に戻った。僕は誤魔化すように手元を動かして、けれども集中できなくて、またちらりと彼の手元、彼が今読んでいる本に視線をやる。


それは二百年ほど前に書かれた恋愛小説だった。僕はその小説を知っていて、けれども読んだことはない。海外の、しかも当時もそれほど売れっ子とは言えなかったような無名の作家の小説だったので、日本語訳されていたことも今知った。


ああもう、視線がうるさいな、と彼が再びこちらを見る。先ほどよりも視線は鋭くて、僕はごめんと謝った。


「なに?この本読みたいの?貸してあげるよ」


本を差し出した彼に僕は首を横に振って、いや、あのさ、と少し言い淀んだ。けれども誰かに聞いてほしい気持ちが勝って、そうっと口を開く。


「その小説を書いた人、僕の恋人だったんだ」


そしてその小説は、僕を主人公のモデルに書かれたものだった。けれども彼はそれを書き終えてすぐに死んでしまって、そして僕はそれを恥ずかしくて読めないまま、二百年が経ったのだ。


それを聞いた彼はまた冷静にふうんとだけ言ったので、恐る恐る秘密を打ち明けた僕は馬鹿らしくなって、どんな内容?と聞いた。今まで知ろうとしなかったのに。そんな僕に彼は少し考えたあと、答える。


「なんか……君のこと好きだって気持ちが伝わってくるよ」


それを聞いて、僕は驚きに目を見開き、二百年ぶりに胸を高鳴らせた後、やっぱり借りても良い?と手を伸ばした。

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