近くて遠い天国
眼鏡をかけていると見える人が増える。それが幽霊であることに気づいたのは、見える人の中に友人の顔を見つけたからだった。彼は一年前に死んでしまったはずで、だから。しばらくは生者と死者の見分けがつかず困っていたが、ある時死者は足がないことに気づく。見える人の多い視界は辛いものがあったが、私は死んだ友人の顔を見ていたくて、眼鏡をかけ続けた。するとやがてレンズ越しに見える世界が家や街や学校ではなく、美しい花畑になっていって、それが天国だということを私はなぜか知っている。今までは生者と死者の双方が見えていたのに、花畑には死者しかいないから(天国なのだから当たり前だ)、見える人が減って視界がすっきりして良かった。けれども花畑を見ながら街を歩けるほど私は器用ではなくて、一度車に轢かれかけてから、私は外に出るのをやめた。ただ家の中で、花畑の中にいる友人を見つめる日々。するとある日突然友人が歩き出して、慌てて後を追うと、いきなり足が冷たくなった。足元を見るといつの間にか家の外に出ていたらしく、水溜りにはまってしまっていて、靴下に水が滲んで色が変わっている。その様子を見ていると、唐突に自分に足があることに気づいた。そうだ、私は生者なのだ。一度それを思い出すとだんだんと冷静になって、私は眼鏡を外してポケットに入れた。そしてぼやけた現実の世界をゆっくりと歩き始めた。




